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ロスト  作者: 林 晄史
始まり

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9/25

月明り

「リン、次の家は見つかるか?」


「コウがいるとこが家」


 決断を支持すると柔らかな笑み。


 コウの姿がかきかえて、シンがあらゆる方向からボコられていく。

全方向から知覚不能の攻撃を受けながら、シンはにこやかに笑った。


「兄ちゃんの能力は空間移動かーっ?」


「そうだ。これだけではしょぼいがな」


 シンの鳩尾をヒジで打ち抜き、アゴを頭でかちあげ、股間を蹴り上げ、アームロックで首を固定し、頭からバスターする。


 シンはかわさず全てを受け切った。

しゅぱっと立ち上がると、全く無傷でへらへらしている。


 ただ早く動けるだけでは限界がある。

コウの体はあくまで一般人。


 コウの体を壊さない範囲での攻撃は威力が低すぎる。


「行くぞーっ??」


 シンが消えた。


 後方2mに空間移動。頚椎に振り下ろす鎌蹴りをしたシンの頚椎をぶん殴る。すぐさま右に空間移動。


 シンと目が合う。シンのいた場所に移動。爆音が背後に轟く。地面が爆ぜ、土煙があがる。


 空間移動は体力や魔力的なモノも消費しない。

だがシンの動きと移動先の予測の連発は精神をけずる。


 汗がしたたり、落ちる前に移動、攻撃、移動、移動、攻撃。


 日がかげる。

シンはコウとの戦いに集中している。そろそろかな。


 リンはとっくに近くにはいない。コウは口角を釣り上げた。


 コウは足を滑らせた。慌てて手をつき、シンをにらむ。


 逃さず追撃にくるシン。真っ向からのジャンピングキック。

回避がなんとか間に合い、地面に突き刺さるシン。


 コウはどこにもいなくなった。


 日が暗くなり、衝撃が辺りを貫いた。

新居がいっぺんも残らず砕け散った。


 そのあまりにも強すぎる暴力に耐えきれず、シンは意識を失った。


 コウが悠然と空に現れる。

どこから持ち出したのか、ガソリンをぶちまけ、燃える丸木を放り投げ消えた。


 新居の残骸が爆ぜて、地を焼いた。

丘は丸焦げとなり、残骸が消えた後も、しばらく燃えた。


 その火が消えた頃、リンをお姫様抱っこしたコウが現れる。

どこから持ってきたのか、イスに腰掛けている。


「ここまでやれば、流石に耐えきれないよな」


 汗が滴る。

リンが拭いてくれる。心地よい。


「ありがとう。落ち着いた」


 ほほをなでる。

リンはニマニマしている。2人だけの世界。2人の距離が近づき。


「もしもしーっ、また2人の世界作ってんなーっ?!」


「「誰?」」


 全身を黒光りさせた怪しい物体がいた。

コウは即座に空間移動し、物体の頭上に大量のお湯をぶっかけた。


 色んなモノが流れていったその後は、美しく頭部を光らせたシン? が現れた。


「ありがとうなーっ!! いやぁ、さっぱりしたよ!!」


 まつげまでなくしたシンは顔を全力で近づけてくる。

思いっきり頭をタオルで磨きたおしてやる。


 摩擦熱にもだえてうずくまるシン。


「衝撃吸収……ってのはすごい能力だな」


「あの世が見えた気がしたぞーっ!! 勝手に発動できればラクなんだけどなぁーっ!」


 ゴキブリを見るようにジト目を送るコウに、シンはあくまでもほがらかにこたえる。

元気いっぱいでどうしても憎めないやつだ。


「試練のつもりだったんだろ?お節介さん」


「どんなやつか試したかったしなーっ! 余計なお世話だったみたいだなー!!」


「ありがとう、シン」


 男2人でじゃれあっていると、リンが率直に感謝した。

コウは嬉しくて、頭をなでなでしてしまう。


「コウの事は私の事と同じ」


 ほほを染めて、両手で温かく包んでくれるリン。

コウは抱きしめる事で返す。同じ気持ちだと。


「おーいっ! 話は山ほどあるだろーっ!! 帰ってこいよーっ!!」


 響き渡るシンの声に応える者はいなかった。

月が静かに辺りを照らし、黒焦げの丘すら優しく輝かせていた。

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