月明り
「リン、次の家は見つかるか?」
「コウがいるとこが家」
決断を支持すると柔らかな笑み。
コウの姿がかきかえて、シンがあらゆる方向からボコられていく。
全方向から知覚不能の攻撃を受けながら、シンはにこやかに笑った。
「兄ちゃんの能力は空間移動かーっ?」
「そうだ。これだけではしょぼいがな」
シンの鳩尾をヒジで打ち抜き、アゴを頭でかちあげ、股間を蹴り上げ、アームロックで首を固定し、頭からバスターする。
シンはかわさず全てを受け切った。
しゅぱっと立ち上がると、全く無傷でへらへらしている。
ただ早く動けるだけでは限界がある。
コウの体はあくまで一般人。
コウの体を壊さない範囲での攻撃は威力が低すぎる。
「行くぞーっ??」
シンが消えた。
後方2mに空間移動。頚椎に振り下ろす鎌蹴りをしたシンの頚椎をぶん殴る。すぐさま右に空間移動。
シンと目が合う。シンのいた場所に移動。爆音が背後に轟く。地面が爆ぜ、土煙があがる。
空間移動は体力や魔力的なモノも消費しない。
だがシンの動きと移動先の予測の連発は精神をけずる。
汗がしたたり、落ちる前に移動、攻撃、移動、移動、攻撃。
日がかげる。
シンはコウとの戦いに集中している。そろそろかな。
リンはとっくに近くにはいない。コウは口角を釣り上げた。
コウは足を滑らせた。慌てて手をつき、シンをにらむ。
逃さず追撃にくるシン。真っ向からのジャンピングキック。
回避がなんとか間に合い、地面に突き刺さるシン。
コウはどこにもいなくなった。
日が暗くなり、衝撃が辺りを貫いた。
新居がいっぺんも残らず砕け散った。
そのあまりにも強すぎる暴力に耐えきれず、シンは意識を失った。
コウが悠然と空に現れる。
どこから持ち出したのか、ガソリンをぶちまけ、燃える丸木を放り投げ消えた。
新居の残骸が爆ぜて、地を焼いた。
丘は丸焦げとなり、残骸が消えた後も、しばらく燃えた。
その火が消えた頃、リンをお姫様抱っこしたコウが現れる。
どこから持ってきたのか、イスに腰掛けている。
「ここまでやれば、流石に耐えきれないよな」
汗が滴る。
リンが拭いてくれる。心地よい。
「ありがとう。落ち着いた」
ほほをなでる。
リンはニマニマしている。2人だけの世界。2人の距離が近づき。
「もしもしーっ、また2人の世界作ってんなーっ?!」
「「誰?」」
全身を黒光りさせた怪しい物体がいた。
コウは即座に空間移動し、物体の頭上に大量のお湯をぶっかけた。
色んなモノが流れていったその後は、美しく頭部を光らせたシン? が現れた。
「ありがとうなーっ!! いやぁ、さっぱりしたよ!!」
まつげまでなくしたシンは顔を全力で近づけてくる。
思いっきり頭をタオルで磨きたおしてやる。
摩擦熱にもだえてうずくまるシン。
「衝撃吸収……ってのはすごい能力だな」
「あの世が見えた気がしたぞーっ!! 勝手に発動できればラクなんだけどなぁーっ!」
ゴキブリを見るようにジト目を送るコウに、シンはあくまでもほがらかにこたえる。
元気いっぱいでどうしても憎めないやつだ。
「試練のつもりだったんだろ?お節介さん」
「どんなやつか試したかったしなーっ! 余計なお世話だったみたいだなー!!」
「ありがとう、シン」
男2人でじゃれあっていると、リンが率直に感謝した。
コウは嬉しくて、頭をなでなでしてしまう。
「コウの事は私の事と同じ」
ほほを染めて、両手で温かく包んでくれるリン。
コウは抱きしめる事で返す。同じ気持ちだと。
「おーいっ! 話は山ほどあるだろーっ!! 帰ってこいよーっ!!」
響き渡るシンの声に応える者はいなかった。
月が静かに辺りを照らし、黒焦げの丘すら優しく輝かせていた。




