変化
意識がなくなる事は日常なのだろうか?
ふと疑問が浮かぶが、それに不自由さはない。
仮に意識が戻らないとしたら、そういう定めだっただけのこと。
ベンチ以前のものを取り戻したいとは思わない。
記憶も人や物事への関わりも消えていれば、どうとも思い様がないのだ。
そんなものに思索を傾けても、無から積み上げれるものはない。
ゆっくりとまぶたを開けると、ランタンが揺れていた。
黒い骨組みがしっかりと三本中央に伸びている。
野営は悪くない。別家があればベストだが、野晒しより良い。
食事の匂いが隙間から流れ混んでいる。
誘われるように外へ出るとそこはカオスだった。
動植物の串焼きが焼かれていた。
リンとシンが無心に食べている。
山盛りの肉と野菜を交互に、あるいは別々に手早く木串に刺し焼く。
合間に食べてもいる。途切れることない工程は、驚くべき管制力と言える。
食事とは、こんなにもスキルを要求されるものなのか。
感心してる間にコウも無心に串焼きを食べていた。
肉汁と苦味に口内が溢れた頃合いに、さっぱりと味がリセットされる。
見事なバランスて絶え間なく、目前の串焼きが食べ頃になる。
この連鎖を途切れさせる事は誰にも出来ないだろう。
腹が満ちた頃に串焼きは一本たりとも残らなかった。
「ごちそうさま」
「うまかった!」
「ありがとう。凄まじい技量だな!」
みな口々に称えた。
視線をわずかに下げ、黙礼を返す調理人。
瞬く間に姿が消え、串一本残らなかった。
そういう仕組みなのだろう。
「家屋は修理可能なのか?」
じろりとシンに一瞥をくれながら、リンに聞く。
「不可。別の場所を購入。明日から居住可能」
シンにかかと落としをくれて、リンは答えた。
見事な一撃に地面に頭をめりこませるシン。
自業自得だ、バカ者。
「そんな事より、変化はないか?」
憂い顔の青き瞳の奥に、真摯な心配が見える。
手足を軽くにぎりひらきし、数歩ステップ。
「すこぶる快調のようだ」
にこやかに返答。食事の影響もあり心身は充実していた。
リンは華やかに微笑んだ。心が緩み伸びやかとなった。
「よかったなーっ! いやぁ、心配したんだよ。うんうん、良かった良かった!!」
シンが飛び出た。
その勢いに乗せるように尻を蹴り上げると、シンは斜め45度の美しい角度で空へ飛び立っていった。
「コウが起きるまで、涙目」
リンのつぶやきを確かに耳に留めながら、飛び立つシンにサムズアップを決めた。
自身の心境が変化していくことが心地よい。
とはいえ変化も悪くないといった程度だ。
どうあろうともそれは定めにしか過ぎない。
きらりと空に光が走った。
「災難だが、思わぬ収穫を得たかな?」
コウは指をまっすぐ正面に伸ばした。
夜空一面に流星が降り注いだ。
あまりの美しさと量に息をのむ。
視界の端のリンも同様。
「キレイだなーっ!! こんな空初めて見たぞ!」
感動を全面に出し、何故かドヤ顔で胸をそらすシンが正面に現れた。
膝裏に足先をめり込ませるて、膝カックンさせる。
地に膝を落としてなお、シンの視線は空に縫い止められていた。
コウの中に確かな充足が生まれていた。
ベンチより今の方が良い。
そう断言できる。
リンと目が合うと、どちらからとなく微笑み合った。