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ロスト  作者: 林 晄史
始まり
4/25

変化

 意識がなくなる事は日常なのだろうか?

ふと疑問が浮かぶが、それに不自由さはない。


 仮に意識が戻らないとしたら、そういう定めだっただけのこと。


 ベンチ以前のものを取り戻したいとは思わない。

記憶も人や物事への関わりも消えていれば、どうとも思い様がないのだ。


 そんなものに思索を傾けても、無から積み上げれるものはない。


 ゆっくりとまぶたを開けると、ランタンが揺れていた。

黒い骨組みがしっかりと三本中央に伸びている。


 野営は悪くない。別家があればベストだが、野晒しより良い。

食事の匂いが隙間から流れ混んでいる。


 誘われるように外へ出るとそこはカオスだった。


 動植物の串焼きが焼かれていた。

リンとシンが無心に食べている。


 山盛りの肉と野菜を交互に、あるいは別々に手早く木串に刺し焼く。

合間に食べてもいる。途切れることない工程は、驚くべき管制力と言える。


 食事とは、こんなにもスキルを要求されるものなのか。

感心してる間にコウも無心に串焼きを食べていた。


 肉汁と苦味に口内が溢れた頃合いに、さっぱりと味がリセットされる。

見事なバランスて絶え間なく、目前の串焼きが食べ頃になる。


 この連鎖を途切れさせる事は誰にも出来ないだろう。

腹が満ちた頃に串焼きは一本たりとも残らなかった。


「ごちそうさま」


「うまかった!」


「ありがとう。凄まじい技量だな!」


 みな口々に称えた。

視線をわずかに下げ、黙礼を返す調理人。


 瞬く間に姿が消え、串一本残らなかった。

そういう仕組みなのだろう。


「家屋は修理可能なのか?」


 じろりとシンに一瞥をくれながら、リンに聞く。


「不可。別の場所を購入。明日から居住可能」


 シンにかかと落としをくれて、リンは答えた。

見事な一撃に地面に頭をめりこませるシン。


 自業自得だ、バカ者。


「そんな事より、変化はないか?」


 憂い顔の青き瞳の奥に、真摯な心配が見える。

手足を軽くにぎりひらきし、数歩ステップ。


「すこぶる快調のようだ」


 にこやかに返答。食事の影響もあり心身は充実していた。

リンは華やかに微笑んだ。心が緩み伸びやかとなった。


「よかったなーっ! いやぁ、心配したんだよ。うんうん、良かった良かった!!」


 シンが飛び出た。

その勢いに乗せるように尻を蹴り上げると、シンは斜め45度の美しい角度で空へ飛び立っていった。


「コウが起きるまで、涙目」


 リンのつぶやきを確かに耳に留めながら、飛び立つシンにサムズアップを決めた。


 自身の心境が変化していくことが心地よい。

とはいえ変化も悪くないといった程度だ。


 どうあろうともそれは定めにしか過ぎない。


 きらりと空に光が走った。


「災難だが、思わぬ収穫を得たかな?」


 コウは指をまっすぐ正面に伸ばした。

夜空一面に流星が降り注いだ。


 あまりの美しさと量に息をのむ。

視界の端のリンも同様。


「キレイだなーっ!! こんな空初めて見たぞ!」


 感動を全面に出し、何故かドヤ顔で胸をそらすシンが正面に現れた。

膝裏に足先をめり込ませるて、膝カックンさせる。


 地に膝を落としてなお、シンの視線は空に縫い止められていた。


 コウの中に確かな充足が生まれていた。

ベンチより今の方が良い。


 そう断言できる。

リンと目が合うと、どちらからとなく微笑み合った。

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