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香夢異~夢見る紅茶専門店~  作者: 朝川 椛
第五章 一寸の虫の抵抗
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「なんだ、なんだ!」

「きゃー! 刃物を持ってるわ!」


 待合室にいた人々が木製の長椅子の上に立って、口々にわめきだす。


「困ったわね! こんな時に」


 奥歯を噛みしめていると、朱雄が背中を向けて前に立った。


「僕がでます」


 短く告げるなり、朱雄は飛んできたきんつばをたたき落とす。


「朱雄君! 危ないわよ!」


 扉の前に立ちはだかり三人の猛攻を防ぐ朱雄に結衣は叫ぶが、

こちらの声が聞こえていないのか、彼は三人の相手をし続けていた。

迫りくる刃物を避けて流し入口へ押しだすと、外で乱闘を繰り広げはじめる。


「このままじゃ警官がくるのも時間の問題だわ!」


 だが、どうしたらいいのかわからない。結衣は唇を噛みしめる。


「紅茶さえあれば!」


 紅茶さえあれば、康次郎青年以外の二人を正気に戻すことができる。

けれど、今ここにそんなものがあるわけがない。それでもどうにかしなければ。

康次郎青年はともかく、ほかの三人にもしものことがあったら、

現実の世界でも彼らの存在が消えてしまう。

拳を握りしめ考えを巡らせていると、ためらいがちに袖を引かれた。

振り返ると、康次郎少年がおずおずとした表情でこちらを見あげている。


「紅茶って、さっきの飲み物でしょう? ぼく知ってるよ」

「え?」


 驚いて目を剥くと、

康次郎少年がびくりと肩をすくませた後、口を開いた。


「ぼく、よねと一緒にここへきたときに、よねがもってきてたの見たよ。

あとで看護師さんからもらって飲んだから。だから、知ってる」

「それ、今どこにあるかわかる?」


 勢いよく康次郎少年の両腕を掴むと、驚いたように目を見開き少年が頷いた。


「うん、たぶん」

「案内して!」


 結衣の声に康次郎少年は頷き踵を返すと、まっすぐ給湯室へ向かいだす。

結衣は康次郎少年の後を追って駆けだした。

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