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「なんだ、なんだ!」
「きゃー! 刃物を持ってるわ!」
待合室にいた人々が木製の長椅子の上に立って、口々にわめきだす。
「困ったわね! こんな時に」
奥歯を噛みしめていると、朱雄が背中を向けて前に立った。
「僕がでます」
短く告げるなり、朱雄は飛んできたきんつばをたたき落とす。
「朱雄君! 危ないわよ!」
扉の前に立ちはだかり三人の猛攻を防ぐ朱雄に結衣は叫ぶが、
こちらの声が聞こえていないのか、彼は三人の相手をし続けていた。
迫りくる刃物を避けて流し入口へ押しだすと、外で乱闘を繰り広げはじめる。
「このままじゃ警官がくるのも時間の問題だわ!」
だが、どうしたらいいのかわからない。結衣は唇を噛みしめる。
「紅茶さえあれば!」
紅茶さえあれば、康次郎青年以外の二人を正気に戻すことができる。
けれど、今ここにそんなものがあるわけがない。それでもどうにかしなければ。
康次郎青年はともかく、ほかの三人にもしものことがあったら、
現実の世界でも彼らの存在が消えてしまう。
拳を握りしめ考えを巡らせていると、ためらいがちに袖を引かれた。
振り返ると、康次郎少年がおずおずとした表情でこちらを見あげている。
「紅茶って、さっきの飲み物でしょう? ぼく知ってるよ」
「え?」
驚いて目を剥くと、
康次郎少年がびくりと肩をすくませた後、口を開いた。
「ぼく、よねと一緒にここへきたときに、よねがもってきてたの見たよ。
あとで看護師さんからもらって飲んだから。だから、知ってる」
「それ、今どこにあるかわかる?」
勢いよく康次郎少年の両腕を掴むと、驚いたように目を見開き少年が頷いた。
「うん、たぶん」
「案内して!」
結衣の声に康次郎少年は頷き踵を返すと、まっすぐ給湯室へ向かいだす。
結衣は康次郎少年の後を追って駆けだした。




