味がわからない
真央さんの言うことが理解出来なかった。思わず聞き返す。
「僕が弥生さんにフラれる?」
真央さんは小さくうなずく。
「たぶん。元カレの話を出した時の姉の態度は異常でした。子供のようにはしゃいじゃて。『どうしよ。どうしよ』と悩む始末で。まるで斉藤さんのことを無かったことにしているように見えて」
僕のことなかったことにする?
「えーと。それはいつのことかな?」
「昨日の日中です。文が家に戻って来てから、私は姉のマンションへ部屋の片付を手伝いに行きました。その時です。つい余計なことを。すいません」
その夜は僕と体力の続く限り合体。元カレの影も片鱗も無かったよ。何かの間違いないでしょ?
「真央さんの思い過ごしです。僕ら今日の朝まで愛し合ってましたよ」
「愛し合ってた。な、なら、よ良いですけど。」
真央さんの顔が真っ赤になる。刺激が強かったか?プイっとそっぽ向かれてしまった。彼女はそこから一言も話さない。
「そもそも元カレと何で別れたの?」
「......」
質問も無視だ。仕方がない。
「ご注文の品をお持ちしました」
店員がやって来、注文の品が置かれ始める。彼女はウォンゴレ。僕はペぺロンチーノ。それぞれのお好みのピザを一切れづつ。デザートは後からアイスクリームが来る予定だ。
パスタをくるくるしながら、目線を下のまま真央さんは突然話し出す。
「私も知らないんです。学生時代に付き合っていた。という話だけ聞かされて、見栄を張っているだけで、実在しないと思い込んでいましたから」
学生時代か。6年前ぐらい。大学卒業と同時に就職して別れたか?
「そっか」
「Hなことしてるなら問題ないのでは?」
「気にはなる」
「余計なこと言ってすみません。これでも応援しているんですよ」
「ありがとう」
話は一段落し、真央さんはくるくるを辞めパスタを味わう。それを見届けてから僕も食べる。
やっべ。味わかんないや。僕の中に恐怖が沸き上がっていた。弥生さんが元カレを選んだら僕はどうなる?僕と弥生さんはお見合いだ。恋愛をしていたわけでもない。元カレと再会したら向こうについて行きそうな気がする。
そもそも元カレ。何故このタイミングで現れる。立花家に現れた目的?当然、弥生さんに会うことだろう。復縁目的以外何かあるのか?くそ。くそ。くそ。
「さ、斉藤さん。ペペロンチーノにタバスコは合わないと思いすよ」
「あ。あはは」
僕の右手にはタバスコがもたれていた。そして何度もパスタに振りかけていた。
「大丈夫です。姉は斉藤さんのこと間違いなく好きですよ。ですから何か起こる前に囲ってしまいましょう」
「囲うって」
「すぐ結婚しましょう」
「それはプロポーズしてからね」
プロポーズして断れたらどうしよう。『すいません元カレと復縁しました』とか言われてたら。くそ。
「あ、タバスコ」
「あ」
また、タバスコを手にとっていた。カッコ悪い所ばかり見せて情けない。冷静に。冷静に。スマートに。スマートに。落ち着こう。
「どうも僕は小心者のようです」
「姉を思っていてくれて嬉しいです」
こんな気持ち弥生を連れ去られて以来だ。また弥生を名乗る人物は僕から遠ざかるのか?そう思うと居ても立っても居られない。でも何が出来る?結婚?プロポーズ?出来るかな?出来るかなじゃない。するんだ。僕は弥生さんを手に入れるんだ。
「真央さん。背中を押してくれて、ありがとう。早めにプロポーズするよ」
「お願いします」
僕は元カレが弥生さんを奪いに来ると前に奪う。覚悟を決める。明日の決行しよう。夜勤を終えた朝。僕はリハビリに病院に向かう丁度良いではないか。やろう。
真央さんと食事を終え別れる。プロポーズの準備だ。指輪。あー。こないだ買ったばかりだ。結婚指輪を贈るタイミング?店員に聞こう。
先日、指輪を買った店に向かう。結婚指輪を今日欲しいと言ったら店員に止められた。
「今日の明日はお勧めしません。前もって準備して買う物ですから。準備期間を最低1ヶ月は欲しいです。あとサプライズでもない限り無理に購入しなくても良いと思います。結婚が決定的になってからで良いと思いますよ」
そんなに掛かるのか。指輪は諦めよう。1ヶ月後のプロポーズなど遅い。指輪の購入は控えた。あとプロポーズには必要なものはなんだ?ストレートに気持ちをぶつけれは問題ないはず。
次の日の朝、正装し、花束を持ち病院の前で待ち構える。日勤で出社する人にじろじろ見られる。
「えーと、斉藤さん?おはようございます。弥生先輩待ちですか?」
「えーと」
「ヒド。忘れたんですか?花ですよ。三浦花ですよ」
「あぁ。三浦さん。その節はお世話になりました」
「いえいえ。少し移動した方がいいですよ。不審者に見えますから」
「え?」
「私、これからなんで失礼します」
三浦さんにアドバイスをもらい。場所を移動する。出勤の列が終わり、30分程度たつと仕事終わりの人々が流れ出す。その何名かににクスクス笑われてしまう。弥生さんまだかな?覚悟して来たけど恥ずかしいや。やがて弥生さんが病院より出て来た。
「先生、何しているんですか?不審者がいるって情報が流れてますよ」
弥生さんは多少戸惑ってはいたがいつもの彼女だった。
「不審者じゃないよ。弥生を待っていたんだ。弥生。結婚しよう」
僕は膝を付き弥生さんの前で花束を出す。
「お断りします」
まさかの玉砕。僕は目の前が真っ暗になる。




