立花家の弥生
誤字報告ありがとうございます。
これからも宜しくお願いします。
「姉のことですか?」
「そ、弥生さんのこと」
真央さんは手を頬に当て考えている。その間、僕は鍋に野菜を入れ炒める。30分時間を貰っていたため下準備はバッチリだ。炒めたあとは煮込むだけ。
「郁也さん。凄い。下準備いつやったの?これカレー?シチュー?」
ニコニコしながら文ちゃんがこちらに顔出す。小学生が下準備の状態を知っている方が驚きなんだが。
「これから作るのはビーフシチュー。文ちゃんわかるの?」
「うん。私も真央姉と同じ時期から料理してるもん」
先ほどの話の内容だと真央さんが料理し始めたのは大学入ってから。文ちゃんも同じ時期ということは小学校二年生。早すぎでしょう。
「料理始めるの早くない?」
「えへへ。凄いでしょ」
「私達の母は5年前に他界しまして。始めは姉が頑張って母の代わりをしてましたが、無理がたたって倒れてしまって」
「え?弥生さん、倒れたの?」
「はい。文が泣いて『私が全部やる!』って言うこと聞かなくて、その日から私と文の特訓が始まりました。今は文が立花家の主婦です」
文ちゃんの言葉を真央さんがフォローしてくれた。弥生さんから母親が亡くなっているのは聞いていたが、真央さんの話の内容はかなり重い話だった。
「文ちゃん頑張ったんだね」
自然と文ちゃんの頭を撫でていた。
「えへへ。撫でられるの好きー」
文ちゃんは僕の足に抱きついてくる。痛ッ!そっちは怪我した足。でも我慢。悪気はないのだ。
「文ちゃん。今、火を使っているから離れてね」
「はーい」
文ちゃんは僕の足を解放してくれた。彼女ら直ぐ側で調理の様子を見学する。
「真央さんと文ちゃんは誰に手ほどき受けたの?」
「もちろん姉です。姉は母の料理をほぼ継承していますから。料理は得意ですよ」
「うん。和食の達人だよね」
「いいえ、全て調理において完璧です!斉藤さん、姉は大当たりですよ」
真央さんは弥生さんの腕を絶賛する。昨日の和食は最高だった。だとすると、その前のカレーに違和感を感じた。あんなルーが少ない初歩的なミスをする?突然の訪問で部屋の片付けで頭がいっぱいだった?理由としては弱い気がする。わざと?そんなばかな。
具材を炒め終わったので水と赤ワインを投入する。
「わ!ワイン。酔っぱらっちゃう」
「大丈夫。アルコールは飛ぶから」
見学中の文ちゃんにちょっと説明。
「文も良いお嫁さんになれそうだね」
「真央姉もなれるよ」
「私はダメ。二人と違ってがさつだからさ」
姉妹の会話。この感じは真央さんは料理があまり得意ではないのだな。
「そんな事ないよ」
「文。慰めてくれるな。私はカレーすら失敗する女なのだ」
「ちゃんと、お姉ちゃんが教えてくれたじゃん。出来るようになるよ」
「毎回、父さんに言われるんだよ『真央のカレーは味がない』」
「だからルーが少ないか、水が多いの。ちょっと練習すれば直ぐに身に付くよ」
姉妹揃って同じ味無しカレーを作るのか。一つ聞いて見みよう。
「もしかしたら弥生さんだって味無しカレー作るのかもよ」
「無いです。お姉ちゃんは必ず味見しますから。真央姉はサボるもんね」
「味見。めんどくさいもん」
真央さんが味見を全否定。笑いを取りに行ったがようだが笑えなかった。弥生さんが、わざと味無しカレーを作りった可能性が出てきた。何のために?
「味見はしようね。最期に味を整えるって作業もあるから」
「はい。姉にも良く言われます」
調理が煮込み工程になり、作業が落ち着いたので休憩をとる。二人にもお茶を出すことにする。
「お茶入れるけど何を飲む?」
「何があります?」
「コーヒーに紅茶。緑茶にジュースかな。もちろんアイスコーヒーにも出来るから」
「アイスコーヒーでお願いします」
「文はココア。アイスココア」
「文!」
ココアなんて一言も言ってないんだけどな。真央さんが文ちゃんを一括する、
「残念。ココアはないよ」
「ですよね。知ってました。私もアイスコーヒーで」
「飲めるの?」
「飲んで見る」
姉妹の会話。文ちゃんはコーヒー初体験ぽい。大丈夫かな?
三人分のアイスコーヒーを持ちリビングへ移動する。
「ありがとうございます。頂きます」
「どうぞ。ガムシロとミルクは好みで」
やっと一息付けつける。コーヒーを一口飲み二人の様子を伺う。二人ともコーヒーを口にしなかった。はて?喉が渇いていない?文ちゃんは初体験で躊躇するのはわかるが真央さんは?
「斉藤さんにお聞きしたいことが一つありまして」
「何?」
「どうやって姉を惚れさせたのですか?」
抽象的な質問が飛んで来た。弥生さんが僕に惚れた理由?僕が知りたいわ。
「うん?僕も良くわからない。でも初めから好感度マックスだった?一目惚れかな?」
「うーん。その顔で?」
「酷!」
「すいません。でも俳優さんほどの顔ではないでしょ?」
「ま、まあ」
くそ。言い返せない。
「今回の姉の行動。全て理解不能なんです。お見合いも叔母の薦めでしぶしぶ受けて、乗り気はなかったハズなのに」
「私はお姉ちゃんの気持ちわかるよ。郁也さんお父さんみたいで安心するもん」
僕と真央さんの話を聞いていた文ちゃんが割って入る。だが目線は目の前にある黒い飲み物。勢いをつけコーヒーを口をにする。
「にがーい!ダメだ。大人はわかんない」
「ガムシロとミルクを入れると飲みやすくなるよ」
僕のアドバイスを聞き、文ちゃんはガムシロ、ミルクそれぞれ3つ入れた。入れすぎ。
「甘くて美味しい」
それほぼ砂糖水だから。ま、いいか。
「警戒する方が馬鹿か」
真央さんもコーヒーを口にする。何を警戒したのか良くわからなかった。
「うん。美味しい」
「絶対嘘だー」
文ちゃんが真央さんに食ってかかる。仲が良い姉妹だ。
「斉藤さん姉のこと宜しくお願いします」
真央さん真面目な顔して僕に頭を下げて来た。真剣そのものだ。
「頑張ります」
もっと違う言い方があったかも知れないが僕には思いつかなかった。




