花火 教え子 伊藤
図書館で閉館まで読書をしてしまう。すでにほぼ残っている人はいない。川田達の姿もない。彼女達は興味本位でこちらの様子をチラチラ見に来ていた。来週あたりの課外授業の話題になりそうだ。川田だけは様子見にはこなかった。
「あー良かった。まだいた。見捨てられたかと思った」
児童書コーナーに今までいたであろう、文ちゃんが閲覧室に顔を出す。
「ごめん。ごめん。ちょっと集中しちゃて」
即座に姉が謝る。
「早く帰ろう。花火、始まっちゃうよ」
図書館デートを終え館内を後にした。夕方とはいえまだ夕陽は落ちず、まだ明るかった。
このあとは今日が誕生日という弥生さんの妹、文ちやんの要望により彼女は花火大会を見に行くことなっている。僕とは、これでお開きになる予定だ。
「先生、今日はすいませんでした」
「え?先生?郁也さんじゃ無いの?」
姉の言葉に妹が噛みつく。僕も初めこそ違和感を感じたが元々教師だ。慣れてしまっている。『郁也さん』と呼ばれる方が気持ち良くないかも。
「んー。なんとなくかな?」
文ちゃんを説得するには弱い理由だ。だが、僕も便乗する。
「そ、何となく。仕事が教師だし」
文ちゃんは納得いかないようだが、追及はして来なかった。忘れさせるように違う話題を振る。
「僕も花火行こうか?」
なんとなく勢いで聞いて見た。
「一緒に行く!」
文ちゃんからOKをもらった。
「文!ダメだよ。先生のその足だと人混みは厳しいと思いますので今日はここで」
弥生さんにはやんわり断られてしまう。冷静に考えればその通りだ。僕は怪我が完治しているわけではない。花火会場のように人だかりは避けるべきであろう。これ以上弥生さんに迷惑はかけたくない。
「文ちゃん。ごめんね。また今度ね」
断りながら少女の頭を撫でる。
「ダメだよ。このまま行ったら、お姉ちゃんナンパされて私も恥ずかしい被害に会うんだから!だから守って!」
凄い妄想が飛んで来た。ナンパね。弥生さんの方を見る。美人だ。ナンパされるね。うん。ダメだね。
「虫除けに僕のこと使いませんか?」
弥生さんに向け話を振った。
「ま、まあ。ナンパ避けは必要....かな?」
自信無さそうな、中途半端な解答が戻って来た。弥生さんは自分がナンパされるとは思ってないらしい。可能性は0ではない。充分美人だ。
文ちゃんと一緒だと....姉と妹だが保護者役だね。余程のチャレンジャーじゃなければ声はかけないのでは?
....弥生さんには失礼かもしれないが下手すると親子にも見えてしまう。色々思うことはあるのだが、ここは。
「僕の足では迷惑かも知れないけど是非、ナンパ避けに使ってください」
「すいません。お願いします」
弥生さんも折れ、僕も同行することになった。文ちゃんは僕に飛び付き喜ぶ。弥生さんは申し訳なさそうな態度だったが笑顔だ。
花火大会は河川敷で行われる。屋台が沢山並び賑わっている。子供達を連れ歩く保護者。恋人同士で見に来た者。学生の仲間受ちで来た者などが集まっていた。
僕はそれらにぶつからないように慎重に歩く。松葉杖のおっさんはさぞかし邪魔であろう。弥生さんにサポートしてもらう。文ちゃんはすでに屋台の虜となっていた。
「私、郁也さんからも誕生日のお祝い欲しいです」
「文!初対面の人に失礼だよ!すいません」
「いいよ。いいよ。何が欲しいの?」
「あの、指輪が欲しいです」
一瞬ドキッとしたが文ちゃんの指差す物を見て納得する。屋台のオモチャの指輪セットだ。こういうのが女の子何だなぁ~と思いながら買ってあげる。
「これ下さい」
「嬢ちゃん良かったな。はい。これ」
「ありがとう」
文ちゃんはもうニコニコだ。メチャクチャカワイイ。娘に甘い父親の気分だ。
文ちゃんに付き合い、屋台の散策が続く。回っていると屋台の行列にぶつかった。
「お姉ちゃん。郁也さん。私、この行列に並ぶから少し二人きりでお店見て回っていいよ」
文ちゃんは即座に行列に並んだ。
「お言葉に甘えて行きますか」
「ええ」
文ちゃんの位置を確認してから、弥生さんと肩を並べて歩く。こういう場所の二人きりもなかなかの良いものだ。そこで不思議なカップルを見つけてしまった。補導かな?
「村山先生。お疲れ様です。伊藤、何かしましたか?」
「え!さ、斉藤先生。あの、そのこれには、えっと」
何故だかパニックに陥る村山先生。
「ナンパして歩いていたら美香に捕まった」
「そ、そうなんですよ。なので注意をしてました」
「伊藤、村山先生だ。美香なんて名前を呼び捨てにしない」
伊藤はどうも先生を蔑ろにする傾向がある。僕は厳しく指導出来るが、新米先生には難しいだろう。
「へーい。先生の横の人は?」
伊藤の興味は弥生さんへ向けられた。
「今、お付き合いしている人だよ。個人情報になるから詳しくは紹介しない。」
「?看護師さん、ですよね?」
そこに村山先生より暴露情報が入る。この二人面識あったか。
「はい。立花弥生です」
いや、弥生さん。挨拶いらないからね。
「先生、入院中に看護師さんに手を出したのか。俺のナンパよりヒドくね?」
「お前と一緒にするな。お見合いの相手だから」
「えっと。お見合いした後に入院したら彼女の勤め先だった」
「そうだな」
「もう、運命じゃん。早く結婚してしまえ!」
運命の人か。そうかも。だがな伊藤。
「伊藤、もう少し人との付き合い方について話し合おうか」
「先生達じゃあね~」
伊藤は説教が始まるのを察知したらしく逃亡した。
「斉藤先生。私、追います。失礼します」
村山先生も伊藤を追い走りだした。村山先生別に伊藤をほっといても良いんだけどな。真面目に見回りしないで、ほどほどで良いんだけど。
「楽しそうな生徒さんですね」
「なかなかの問題児ですよ」
「図書館の時の生徒といい、先生人気者ですね」
「人気ないですね。どちらかと言うと不人気ですよ」
人気のあるのは村山先生のように若い先生だ。中年ぐらいのベテランになってくると生徒はほぼ寄り付かない。自ら寄って来るのは川田ぐらいだ。




