(1-31)喋らないなあ
◇喋らないなあ
二学期になって、学校や塾が結構忙しくてSキューブの方は少し触る頻度が少なくなっている。代わりに小説をハイペースで読む様になった。異世界の本を読んでいて、また疑問が出てきたので、今度、苦木さんに会った時にでも聞く事にしようと思う。
九月になってCC社からSキューブの雷紅が届いた。
うーん結構デカイ。花梨に比べると一〇センチ位大きい感じだ、肉体も分厚いので重量も重い。すごいパワーが有るように見える。
たしかにこれで、バトルに参加したら面白いだろうなと思える。当初は花梨で来年のバトルに参加しようと思っていたけど、バトルの戦いでジャーマン・スープレックスをきめられると、花梨だと壊れるような感じがする。もう少し検討した方が良いかなと思って来た。
新しいSキューブが届くとやっぱり触りたくなってくる。少し雷紅を動かしてかなり良い感じだなと思った。翌週には、今度はPO社からアプリリスが届いた。少し時間が掛かったのはソフトの修正でもしていたのかもしれない。
この届いたアプリリスで半年先のおもちゃショーでカラオケに出る事を考えている。取り敢えず声を出して見ようとマニュアルを見ていたけど、良く判らない。たしか大会の時は未だまともに声が出せないって言っていたなと言う事を思い出した。
マニュアルだけでは良く判らないので、開発ソフトをインストールして起動してみた。
ん、ん、ん? あれっ喋るのに必要なAPIモジュールが提供されていない……という事は、未だ喋れないのか? 無償提供するとPO社は言ってるが、このままでは出場する事も出来ない。少し自分で喋らせる方法でも考えて見るかと思い始めてきた。こう言う事を考えるのが結構好きなので、またSキューブにハマり始めた。
PO社の為じゃ無いけど、思い立つと早速やって見ようという気になってきた。先ずは、情報集めとしてPO社のSキューブのコミュニティーにアクセスしてFAQを覗いたが、結構荒れていた。
残念ながら誰も有用な情報が無い。と言うか喋らせるにはどうすればと言う質問ばかり。中には〝ぁ゛〟が出たと言うだけでヒーロー扱いになっている。
このままでは、このアプリリスも日の目を見ない駄目駄目Sキューブになってしまいそうだ。本当にユーザーの方が先に喋らせるんじゃないだろうか? そうなるとPO社としては不味そうだ。開発能力が無いと思われてしまうだろう。
段々と、やる気が沸々と湧いてきた、やってみようじゃん! って気になって来た。〝悪魔の樹〟と言われて早幾月、出来る筈と思ってましたよ、ホントなんとかなるってね。でも、無理。
喉(声帯)、口、舌、肺まで制御するのか……どうすれば声になるんだ? マジでわかんねぇ……。はっきり言ってお手上げです。これ本当に声出せるのかなぁ? 笛位は吹けそうだけど肺活量ないから曲の演奏は難しいだろうな。肺活量があまり必要ないオーボエなら行けるか? あっ無理だな、舌が濡れてないしね。
取り敢えず出来る事から。肺は喋る時に空気を吐き出す様に、本当に喋れる様に慣れば細かい制御が必要だけど先ずはこれ位で。口の開け方は録画した自分のを見て、五〇音を見た目の形だけ作り込み。読心術が判る人ならば何喋ってるか判るでしょう。
舌の動きも自分のを見て作り込み。これだけでもかなりの日数がかかった。だってAPIが無いんだもん。此処から先が判らない。PO社に問い合わせするか? そもそも問い合わせして回答が得られるかも怪しい。相当数のユーザーから質問が飛んでる筈だから。
ふっと、PO社の営業の海棠さんの言葉を思い出した。『医療チーム巻き込んで作った』って言ってた。と言う事は人体の事を調べれば判るのか? 解体新書見れば良いのか?
そう思って調べました。うんさっぱりだ。僕は医者じゃ無いんだから人体の事は調べても判んねえよ……これはギブアップかなぁ。ん? そう言えば真弓ちゃんのお母様って医者だよね。腕が切断されても三秒でくっつけてくれる凄腕らしいから。でもSキューブはどうかな……聞いてみるか?
学校で真弓に頼んで週末に遊びに行く約束をした。真弓は良く僕の所に遊びに来るけど、僕から行くのは殆ど無い。一応、真弓の母の水芽さんに話しを聞きたいので家にいて貰ってる。
日曜日、真弓の家に遊びに行った。
「こんにちわ」
「樹くん、いらっしゃい凄い久しぶりね、もっと遊びに来れば良いのに」
「はい、そうします」
「どうしたの? 私に用が有るんだって、何処か取れちゃった? 男の子が取れちゃいそうなのは……」
何処見てるんですか水芽さん……ソコが取れたら最悪です。
「くっつけてあげるわよ少し痛いかも知れないけど。性能もアップしてあげるわよ」
えっと性能アップってなんですか、僕まだ子供だから意味判んないです。
「何処も取れてませんよ」
「そうなの残念ね」
なんで残念なんだ? くっつけるのが趣味なの?
「ママ何言ってるか判んないよ? なんで性能アップなの?」
「真弓がもう少し大きくなったら判るわ」
「ふーん、まあ良いっか」
「それで、私に用が有るんでしょ?」
専用ケースに入れて持って来たアプリリスを取り出した。
「このSキューブ何ですけど、喋れないんです。どうも医療関係の技術が投入されているんですけど、診察して貰えませんか?」
「へぇ……このサイズに人間用の医療技術が使われたんだ……メーカーはなんて言ってるの」
スペックシートをPCに表示させて、水芽さんに見てもらう。これくらいしか手元には情報が無い。水芽さんが、その電子書類を真剣に見て行く。多分これだけ見ても全く判らないと思う。そもそも人体でも無いんだしね。
「ふーん、見ただけでは全然判んないわね。私Sキューブの事は全然判んないんだけど、まあ診察してみましょうか……」
水芽さんにアプリリスを小型のカメラを使って喉の奥を見て貰い、普通の病院の診察の様に調べて貰った。
「ふむ……このSキューブはPO社だったわね」
「はい、そうです」
「今日は良く判らないからお終いね。PO社にはツテがあるから聞いてみるわ、まあそれでアプリリスが喋る事が出来るかは判らないけど……何か情報が得られたら、真弓に伝えるからその時にアプリリス持って遊びにきなさいな」
「はい、判りましたお願いします」
やっぱりそう簡単に判る訳ないよね。でもPO社にツテが有るってのはやっぱり医者だからなんだろうな……。
「樹くん、用事終わった?」
水芽さんに出して貰ったコーヒーを飲んで居ると、暫く自分の部屋に行ってた真弓がリビングに戻って来た。
「……うん、真弓ちゃんその格好は何?」
「似合う? ママとお医者さんごっこしてた見たいだから。私も着替えたんだ」
似合うけど……なんでナースなの? それにお医者さんごっこって何?
「あらっ真弓ちゃん着替えて来たの?」
「うん。これからお医者さんごっこで、樹くんを解剖しようと思って」
「まぁ、それは楽しそうね。ママも参加したいけど今日は我慢するわ」
逆でしょ普通は、男の子が女の子を診察するのがお医者さんごっこの基本だよね? それに水芽さん今日はってどう言う意味?
よろしくお願いします。




