(1-13)バトントワリング
◇バトントワリング
春休み中に、この先の事等、少し考えている事もあって。父に相談した。
「格闘技を教えて欲しいだと?」
「うん、教えて欲しい。別に父さんみたいに達人になりたい訳じゃないけど、身体も鍛えたいし、母さんには剣道を教えて貰いたいかな?」
「母さんに剣を習いたいのか? 死ぬ気かお前?」
「なんで死ぬんだよ、剣じゃなくて剣道だよ。剣道って竹刀でしょ。そりゃ当たりどころ悪けりゃそうかも知んないけどさ……」
「母さんのは、剣道じゃない殺人剣だ。たとえ竹刀でも俺はマシンガンが無ければ勝てる気がしない」
「何言ってんの? 馬鹿な冗談言わなくて良いよ。母さんに相談してくる」
「おい樹! 嘘じゃ無いぞ」
父の静止を聞かず、母に剣道を教えてくれと頼んだ。
「母さん、僕に剣道教えて。身体も鍛えたいし、父さんには、格闘技教えて貰うから」
「殺人剣を教えるのは良いわよ。でも父さんに格闘技習いたいの? 貴方死ぬ気なの? 父さんのは殺人拳よ、私も本物の得物が無ければ勝てる気がしないわ。木刀だと未だ負けるから真剣じゃないと……無手では絶対勝てないわね、せめて包丁があれば互角に持ち込めるかも知れないけど」
えっと、もう良いです。僕が間違ってた様です。両親は何処かオカシイみたい。有るはずのネジが無いのかもしれない。と、まあ判らない会話でしたが、先ず走れって言われたので、毎朝走るようにしました。拳も剣も先ずは体力だそうです。
母には、コレで素振りしていなさいって、真剣を渡された。
「銃刀法違反じゃないの?」
「気にしなくて良いわ、銃刀法所持許可はちゃんと取って有から」
いや、お母様、僕が持つ時点でダメでしょ。その許可って?
「私は、殺人許可証、殺しのライセンスも持ってるわよ」
「そんなの無いよ」
「冗談よ。まあ樹の手足が取れちゃっても、水芽さんの所に行けば三秒で繋げてくれるから心配しなくて良いわ。たしかアロソアノレファって瞬間接着剤があるから。首はどうかしら? 試してないから判らないけど、水芽さんなら大丈夫かもね」
やめて下さい。って言うかアロソアノレファって人体に使えるの? 冗談はさておき真弓の母親ってそんな凄い医者だったの? でもさすがに三秒で切断されたのを繋ぐのは無理でしょ!
母からは、基本の動作だけを教えて貰い、毎日振りなさいと言われた。真剣は流石にイヤなので、鉄心が入った木刀にしてもらった。素振りは沢山するのでは無く、今の形が崩れない様にして、徐々に回数を増やしなさいって。
父の方は、週末偶に休みの時に僕の相手をしてくれる。まあ、取り敢えず避けろって。手加減してるんだろうけど、避けれないです。殴られてる訳ではないけど、ちょこんと拳を身体に当ててきてその都度よく見ろ! って。それをずっと繰り返して続けています。
五月になって、TD社から頼んでおいたバトンと衣装が届いた。バトントワリングについては、僕も知識が無かったので事前にネットで調べていた。Sキューブ用の大会が有る訳でも無い(ローカルでは有るかも)ので、競技に準拠はしない。あくまでも、山車さんを驚かせたいんだ。それと、自分のSキューブ制御をもっと精密正確にしたい。何て言ったって、僕の側には、真弓という精密正確、さらに高速って言う悪魔クラスが居るんだから負けていられない。さあ、真弓に挑戦だ。
そう思っていた時期が僕にも有りました……甘かったようです。ハァ……。庭で動作確認していて、エーリアルと言う技で風でバトンが落ちて来るポイントがズレて、ちゃんと取れません。諦めて視覚認識使いましたよ。
もう一つ、人間と同じ位の高さ迄、投げ揚げないとダメなんですね。投げ揚げる高さが三分の一位で良いかなって思ってたら、落ちて来る時間が速くて回転技とかやってられません。ネットで調べたら、重力加速度? 何それ? 勉強しましたよ、もうホントに。でもこれで、エミュレーターにバトンデータ入れる事出来た。
六月中旬。一ヶ月掛けて完成したバトントワリングの演技を、山車さんに披露する為、頂いている名刺のアドレスにメールを送信した。学校も有るので、日曜日にお願いした。Sキューブを二体とヘッドセットを用意して欲しいと事前に依頼しておいた。自分のを持って行くのが大変だからね。バッテリーのフルチャージもお願いしている。今日のデモ演技を行うと、だいたい五割位の電池が減るからだ。それ位、Sキューブにとってもエネルギー消費が激しい演技だ。
今迄と同じで、泡吹さんが、朝八時に迎えに来てくれた。昨年と違って、時間に追われての作業では無かったが、結局真弓のレベルには至れていないと感じた。
TD社のエクササイズルームに着くと、休みなのに、沢山の社員さん達が揃っていた。今日は日曜日だよ? 凄く忙しいのかな? なんか場所使って悪いことしちゃったかも。
「おはようございます。お久しぶりです。日曜日で休日出勤でお忙しい所、場所を割り込んで使わせてもらって申し訳ありません」
皆さん揃っていたので先ずは挨拶。日本人として礼儀は大切ですよね。
「久しぶりだな、玩具ショー依頼だから二ヶ月ちょっとと言う所か」
「ええ、そうですね」
「こいつらは、休日出勤じゃ無いから気にしなくて良い。全員、自己啓発で来てるだけだ」
犬槇さんが、集まってる理由を教えてくれた。そうか社会人も自己啓発って必要なんだね仕事で手一杯なのかと思ってたよ。大人も大変だ。
「自己啓発ですか? 皆さん真面目ですね」
「そうだな、君の演技を見て自分達の開発能力を上げて行くようだな。まあ俺もだがな」
「普通にSキューブ動かしてるだけですよ」
「ホントか? 山車さんを驚かせるんだろう?」
「ちょっとだけ悩みましたけど今回は凄く勉強に成りましたよ。まあ見てください。皆さんも驚いてくれると嬉しいですね」
「楽しみにしてるよ。昨年と同じで、そこのデスク使ってくれ」
「はい、では準備始めますね」
「木蔦! Sキューブ用意しろ」
「はい! 判りました」
木蔦さんが、新しいSキューブを持って来てくれた。
「新モデルの、林檎と檸檬です。性能は変わりません。開発部のIDが既に入っていますのでソフトを入れれば動作します」
丁度衣装の色に有った名前なんだな。
「ボイスデータは有りますか? 結局唄わせることにしたので、唄うのに必要ですので」
「はい、こちらに」
「有り難う御座います。ではボイスデータの入れ替えと演技プログラムのインストールしますので少し待ってください」
これが、新しいボディーか。身長は変わって無いみたいけど、花梨達と比べると幼い感じだな。
胸も小さくなってるのに動作が変わらないのは、シリコンの密度とか変えてバランス取ってるんだろうな。本体をチェックした後、花梨、胡桃で作成していた、プログラムの中の名前登録とボイスデータ入れ替えを行う。
一応念の為、反応するか確認した。
「林檎!」
「はい」
「檸檬!」
「はい」
うん大丈夫だね、良い声してるね声優さん誰なのかな? アニメ化するってのは無いと思うけど。
「犬槇さん、僕の方は準備出来ました」
「もう少し待ってくれ、今、山車さん呼びに行かせるから」
山車さんが来るまで、林檎と檸檬は女性社員に呼ばれて行った。なんか以前よりロリなので余計に可愛がられているようだ。あんまり遊ばれると電池が心配。
桜さんが、山車さん、立柳さんを連れて来た。僕も、立ち上がって出迎えをした。流石に黄門様は怖い感じがする。優しいのは判ってるけどね。身体が反応してしまう。
「お久しぶりです。山車さん」
「おう、久しぶりじゃな。一年は経っとらんが、そん位かの」
「ハイ。そうですね一〇ヶ月ちょいでしょうか…」
「お互い、元気そうで何よりじゃな」
「はい」
「今日は、驚かせて来れるんじゃろ。準備は良いのか?」
「はい、準備出来てます。驚いて貰えると思ってますが……」
「まあ結果は、どうでも良いじゃろ、感動がもう少ない爺じゃからな。本気で驚いたら心臓も止まるかもしれんしな、お手柔らかにの。その方がちょうど良い」
「はい、では始めさせて頂きます」
林檎と檸檬をスタンバイさせる。PCから音楽を流し始める。林檎と檸檬のテーマが判らないので、花梨達のアニメのセカンドシーズンのエンディングで演技を行う。
曲に合わせ、コンタクトから合わせてダンスを踊る。お互いにシンクロした状態で。ここまでは、まだ入り口。ここからSキューブとして難易度が上がってくる。背中の方でバトンを回すように持ち手を変える。
『今、どうやって持ち替えた? 早すぎて見えねえ』
手の平でクルクルと回したり、腕で回すカットバックスを行う、お互いのバトンを投げて交換する技も披露していく。
最初の難易度の高い技(自分的には難易度が高かった。技の名前は判らない)、バトンが背中の方に行くように、あまり高くバトンを投げ上げないようにして、落ちて来たバトンを、ブーツの裏で蹴りあげる。落ちてきたのをもう一度蹴って相手の方向に、それを受け取りまた演技を続ける。首の後ろで回したり、太腿でバトンを上げたりと、激しく動いて動画で観た凄い技を全て組み込んだ。そして、最後に二回の大技、多分Sキューブにしか出来ない技。
林檎と檸檬がお互いに離れる。バトンを投げ上げ、ロンダートからバク転、スワン宙返り(伸身一回)を行う。スワン宙で身体が逆さまになった所でバトンをキャッチする。最後の大技、もう一度今度はお互いに向けてバトンを投げ上げる。
投げた方向に向かって回転技で近づき、投げたバトン同士が衝突する。ぶつかって落ちてきたバトンを受け取りポーズを付けて演技を終わる。演技時間四分一二秒。たったこれだけの時間で電池が五割も減るんだもんな。演算負荷と全身の細かい制御がものすごかったからだけど。Sキューブもかなり熱を持っている。
最後のバトンを衝突させるのも、難しかった、運動エネルギーだとか、反発力だとか勉強しました(床とは違うんだもん)。
演技が終わると、何故かシーンとしている。椅子に座って観ていた、山車さんが、立ち上がって拍手してくれた。それがきっかけになって、盛大な拍手が起こった。
山車さんが、僕の側に来て、褒めてくれた。
「樹くん、凄い演技だの。Sキューブはここ迄細かい演技が出来るんだな、いやいや驚いたわ」
「有難う御座います」
「ワシも今な、青木と一緒に、そこの木蔦くんに習ってSキューブ動かしてるんじゃが、難しいのう。昔、ワシもソフトウェア開発しとったんじゃが、どうにもいかんわ。だがこの年になって結構楽しいもんじゃな、ちょっと動くだけでも面白いわ。青木は筋肉バカだから、ワシより下手だぞ。脳みそまで筋肉だからのあいつは」
「僕も最初はそうでした」
えっと、社長さんを呼び捨てって、黄門様って凄いね。っていうかなんで今頃Sキューブ? まあ楽しいと思うけど。
「また何か、出来たら観せてくれるかの?」
「はい、また驚く様なのを作ります」
「よろしく頼むな」
山車さんが、立柳さんと一緒に戻って行った。ふぅ。まあ、本当に驚いてくれたは判らないけど、凄いって言ってくれたし作って良かったな。
残っていた犬槇さんに僕の方から先に誤っておくことにした。
「すみません、このデモ、渡すのは構わないのですが、プリインストールは止めた方が良いと思います」
「ああ、そうだな。これは凄いが自宅では動作させられないな」
「一応、投技が殆ど無いのも作って有りますので、そちらなら大丈夫だと思います。念の為、子供が近付いたら、まあネコとかにも反応しますが……停止する様にしましたので」
「有難う、俺の方も演技見て、それをお願いしようと思っていたんだが先に出来上がってるとは思わなかった。流石だな」
「いえ、子供を怪我させるのはダメですからね」
「感謝する。今日は、この後の予定は?」
「えっと、帰るだけですけど」
「そうか、では昼食を摂って行ってくれ、休日なので何時もの弁当では無いが、なかなか高級なのが用意出来ているらしいから」
「えーっと、はい、ご馳走になります」
何時もの第一応接室で、今日はお寿司だった。四人前位入ってる桶が出てきたクルクルじゃないお寿司ですよ皆さん。好きなだけ食べて良いと言われた。ホントに良いの? 僕はクルクルだと一五皿食べるんですよ! よく食べるサーモンが無い! だけど鮪が三種。多分、大トロ、中トロ、赤みが有る。ウニ、イクラ、ヒラメ、穴子、ホタテ、巻物のネギトロ、穴きゅう。僕の大好きなイワシ、アジも有る。このエビは若しかしてボタン海老か初めて見るぞ? マジうま。デモ演技作るだけでこんなの食べさせてくれるなんてTD社様神対応ですよ。
食事後は、泡吹さんに送って貰いました。
翌週には、昨年と同じTD社メンバーが家に来てデモ演技の契約に来ました。契約内容は去年と同じ。ついでに父に物凄く睨まれた。でも僕は悪く無いよね。多分。
よろしくお願いします。




