年の瀬ラプソディー 後編
* * *
そしてその翌日。
「……」
出勤前の猫の足跡亭で、コウヤは歯磨きをしながら考え込んでいた。
「…」
ーー冒険者の捜索。
今日も見つからなかった場合、これ以上の捜索は有志を集めて続行される、との事だった。
「………」
ーーコウヤもそれに志願しようか、と思っている。
「ほはよー、コウヤぁ」
「ん?」
…アリシアだった。
「珍しいなー、冬休みに入ってこっち三年寝太郎だったのに」
「今日の寒さは酷くてねーえ?…起こされちゃったよ」
「そっかあ」
んー、とやりながらのアリシアの言葉に返すコウヤだったが、
「…むー」
「なに」
急にアリシアは、こちらをのぞき込むようにして、
「…なーんかね、ちょーっと変」
「なにが」
「あなたのことだよ。昨日から心此処に有らずーって感じなの」
「そうかあ?」
「そうだよー? …何かある前に相談だよ? 忘れないでねー」
「ありがとさんっ、と、がらがらがら…」
そしてぺっ、と吐き出して、
「…鉱山の事で立て込んでてさ」
「そうなんだ」
「……んでまあ、今日解決したら良いなあー、と」
「うんうん。…私も祈ってあげよう!」
「いいから」
「めーがーみーさーまーのごーかーごーをー」
「いいからって…」
窓の向こうでは、雪が降り始めていた。
* * *
これまでの捜索で見つからなかった事から、その範囲は未踏の奥地へと広げられる事となった。
…それとは、北洞窟である。
場所は大洞窟の、さらに奥。
真新しい岩の瓦礫が線を引くように際を作る、その向こう側。
…洞窟風が吹き込む音が聞こえる中、その手前に集まったコウヤ達ヴァリアントの一隊は、洞窟の、底なしの奥を見ていた。
「こんな場所があるのか…」
《今年の地震の時に今までの洞窟の壁が崩れて、その奥がある事を発見したんだ。全くベルデは底なしだよ》
ヴァリアント乗りの一人がそう教えてくれた。
《ようし、ヴァリアント前進!》
『おう!』
号令とともに十二機のヴァリアント達は機動を開始。コウヤも〈シロガネ〉を進ませる。
《ここから先は満足に調査が出来てないからな、万が一、が無い様に気をつけるんだぞ》
『了解っ』
二重の意味を持つ班長の言葉に、全員分の復唱が返る。
そして僚機に同乗する魔導士の光魔法が打ち上がり、それに行く先を照らされながらの前進…
《どうだ、見つかったか?》
「こちらは見つからず、そっちは?」
《こっちもダメだ…手がかりだけでも見つかれば良いんだが》
「ふうむむ…」
思わず唸ってしまうコウヤだった。
《ポイント転換、次行くぞ》
「了解ーっと」
そうして一行は進んでいき…
「…、」
見渡せる洞窟は鍾乳洞の様になっていて、複雑な形がどこまでも続いている。
闇の奥は果てしなく、まるでこの洞窟の終わりは無い様だった。
「どこまで広がってるのかね」
《さあな。一次調査だとベルデの市街地よりも広かったらしいが》
「そんなにかよ…」
言いながら歩が進められた、…その時。
…………ーーー…………
「ん?」
ふと、そんな予感がしたのだ。
「教えてくれるのか? シロガネ」
《どうした!》
「なんでもありませーん!」
口ではそう返しながらも、コウヤには直感めいた物が閃いていた。
「うむむ…」
勘のままに、気になったところへと望遠で目一杯ズーム。
…すると、
「うん?」
やはりだ。なにかいる。
「班長、あそこに向かわせてください!」
《やっぱり何かあるんじゃないか。早く言え!》
そして隊列が転進し、しばらくそこへと進んでいくと…
「! おーい!!」
《!! おおっ!》
気付いたらしい相手達が、こちらに向かい駆け寄ってきたのだ。
「やった!」
「ちゃんとしたご飯食べられるね…ぐすっ」
「日の光が浴びられる…」
「冒険者辞めてやるぞーっ!」
年若い冒険者が四人、感極まって様々に叫んでいた。
「班長、この人たちで間違いないですかね?」
《ああ、こいつらで良い!》
…発生から二日近く経過しかけたこの日の昼、事件は無事解決したのだ。
早速着座した僚機のヴァリアント達から同伴の冒険者が走っていって、彼らに救護を始めた様だった。
そして喜ぶのはこれだけではなく…
「おお、トカゲ!」
「俺達ゃこいつに助けられたんだよ。エサまで寄越してくれてさ、食えないから燃料にしたが」
なんと、あのトカゲが冒険者達を助けた様だったのだ。
「おまえ、有り難うな」
「…」
物言わぬトカゲだが、瞬きを三回。
「…」
ーーしかし、である。
「とにかくまあ、年越しを穴蔵の中で過ごさずに済みそうだ。礼を言う」
「こちらこそ、何より無事で良かった」
パーティのリーダーである男性とこちらの班長が握手をした。
「女神に救われた気分だよ。ヴァリアントがあれば、奴と遭遇しても何とかなりそうだからな」
「奴?」
「ああ。奴に襲われたおかげで、俺たちはここまで逃げてくるしか無かったんだ」
「ふうむ…」
そう言えば、先ほどの自分の勘が見つけたモノはどうもこの人達とは違う様な気が、とコウヤは思ったのだが。
「なんでもいいさ、さっさと引き上げ…」
言い掛けた、…その時、
…………ーーー………
「!?」
「なんだ!」
突然、狼の遠吠えのような物が聞こえたと思うと、巨大な闇色の魔法弾が二発、飛んできたのである!!
「ぐわああああっ!!?」
「ぎゃあっ!」
ーー着弾していく魔法。
全くの奇襲にこちらは為す術もなく、まともにそれを受けるしか無かったのだ。
「魔導士、光魔法だ!」
班長が怒鳴り、直後にはやけくそ気味のそれが目一杯放たれた。
そして…
「奴はっ!?」
ーーそれは闇の向こうに。
《アーリーデーモン!》
空中に浮かび上がった真っ黒なそれは、狼の顔に筋肉質の男の身体という奇妙な外見だった。
「なんだよあれっ」
「高位の強力なモンスターだ! 奴は手強いぞ!!」
パーティのリーダーが叫び、
「ひっ」
「まだ居たのかよチクショウっ!?」
年若い冒険者達は慄いた。
《冒険者後退、ヴァリアントが正面に出るっ!!》
放たれる号令。
そして次の連射が放たれるまでには、こちらのヴァリアントは全て起動していた。
《こちらは十二機のヴァリアントだぞ!》
不敵に笑う班長。
《野郎ども、掛かっちまえ!》
《おお!!》
その叫びが上がると同時に、ヴァリアント達は相手に向かい格闘戦を行うべく接近したのだ…しかし、
…………ーーーーーー!……………
それを見るや否や、相手のアーリーデーモンは自分の足下に魔法撃を打ち込むと、
《ぐわああっ!?》
その衝撃でこちらを吹き飛ばした!
……………ーーーーーー!!!………
ーー衝撃波に揺れる洞窟。
そして、まるで高笑いを上げるように吼え上げながら、次の刹那には連撃を放ってきた。
《クソッタレ、確かに手強い!》
「ヴァリアント相手にこんなやれるのか!?」
戦慄するコウヤである。
ーーだが、だ。
「援護します!!」
こちらの冒険者の魔導士が、魔法弾による援護を仕掛けてきてくれた。
…………ーーーー!!!!…………
その猛烈な弾火に、一瞬アーリーデーモンが怯んだ。そして…
「怯んでられるかあっ」
コウヤは一気に肉薄し、
「打つべしっ!」
パンチを打ち込む、が、
………ーーー!!………
「んなっ」
強力な防御魔法によって防がれてしまう。
「まだまだぁっ!!」
しかし尚も一撃を打ち込むコウヤ。
………ーーーー!!!…………
再びそれも防がれる…だが、
「チェストーっ!!!」
『!』
次の瞬間には蹴りの一撃を浴びせて、
………ーーー!?………
見事直撃に成功した!
「やりぃ♪」
ーー一撃を食らったアーリーデーモンは、洞窟の天井と地面を何度もバウンドしながら、そのままの勢いで吹き飛ばされていったのだ。
そして最後に洞窟の岩の柱へと直撃し…崩れたそれの下敷きとなってようやく静止した。
《やったのか!?》
思わず快哉する班長だったが、
「いや…」
しかし次の瞬間には、彼を押しつぶした筈の岩塊は魔力の衝撃によって弾き飛ばされて、そしてーー
………ーーー………
アーリーデーモンは、ゆらあり、と浮き上がったのだ。
《なっ…》
「…だろうと思ったぜ」
そして次の瞬間、
………ーー!!!!………
怒る様に雄叫びを上げると、アーリーデーモンは滅茶苦茶に魔法を連発し始めた!!
《こ、後退!》
「これじゃあ洞窟が… !」
…あまりの事に下がるしか無かった。
ーーそして、遂に、
「いわんこっちゃ無い!」
魔法の威力に耐えきれず、とうとう洞窟が一部崩壊し始めたのだ。
「あっ!」
そしてコウヤ。アーリーデーモンの頭上の天井に、大きくひびが入ったのを見てしまった。
「ーーうおおっ!!」
…何を思ったか、次の刹那には機体を走らせていた。
《! コウヤっ!!》
そして…
《…! あっ》
天井が大きく落ちて、
ーー二人はその下敷きになった!
《コウヤーっ!!》
……
………
ーー崩落はそれで止まり、後には静寂だけが残った。
《そ、そんな…》
班長始め、残された者は只呆然と見るしかない。
しかし、
「えいっ」
次の瞬間にはそれが持ち上げられると、
「そえりゃああっと!」
大きく亀裂が入って、崩れたそこから〈シロガネ〉が姿を出した!!
《おっ、おお!》
崩壊した岩盤が粉々に崩れて、砂煙が立ち上る中…
「はあああ…」
・・・・・・・・・・
彼を握った機体の手の、立てた人差し指でぺし、と頭を叩き、
「全く、お前って危ねーやつだな」
『…』
これでコウヤは一安心だった。
《! あっ、お前っ!! 敵を助けてどうするんだ!!!》
「どうするも何も…ねえ」
そして握った手を離して、コウヤはアーリーデーモンを逃がしてやった。
『……』
すると、
『………、』
何を思ったかアーリーデーモン。ごろりと寝ころぶと腹をこちらに向けて、顔はだらしなく舌を出しながら、へっ、へっ、へっ、…と、
「ど、どうしたんだ?」
《やったなコウヤ、お前は調伏したんだ》
「へ、へえ…」
…どうやら服従のサイン、という事らしい。
「うーん」
機外に出て、暫し悩むこと数秒、
「……よし決めたぞ、お前の名前は“ポチ”だ!」
命名、決定であった。が…
「ガウガウガウッ!!!」
「うわあっ!?」
コウヤは吼えられてしまった。
《〈シロガネ〉を主人だと思ってるみたいだな》
「そんなのってありかよーっ!?」
叫ぶコウヤだったが…
とにもかく、これで一件落着。
一行は無事引き上げる事が出来、
『…』
「なんだ? この変な置物」
「触るとおっかない事になるぞ…」
“ポチ”はヴァリアントハンガーの軒先で番犬になった。
* * *
「もうすぐかな?」
「まだ、まだだよ」
「…」
「…」
「そろそろかな?」
「まーだだぞ」
「……」
「……」
「もういいかなっ?」
「…気が早い」
「………」
「………」
「…今何時何ふ「ああっ、一秒過ぎちまったっ!」ええーっ?!」
「あーあ」
「…うー」
「あはは…」
「しょ、しょんなー」
…ーー大晦日改め、元日のこと。
場所は猫の足跡亭のホール。
持ってきた時計を囲んでそのような事をしていた皆だったが、
「もーアリシアちゃんのせいだよーっ?」
「ほにゃーっ!?」
斯くして“年明けぴったりにハッピーニューイヤーを言う”作戦は失敗したのであった。
「やあれやれ、まあこうなるとは思ってたぜ」
「…アリシアが言い出したのに」
「むー! 私のせいじゃないもーんー!!」
「いーやお前だ」
「むーうーっ!!!」
「あ、あはは…」
爆発したアリシアだが気に止める様な物では無い。
「…、」
コウヤはフォークをぺしぺしとやりながら、少し考え事。
「……」
……色々ありすぎた一年だった。この世界に現れた事に始まって、目まぐるしい出来事の連続。
「………」
しかし、こうして無事に年越しを迎える事が出来…
「「コウヤ!」」
「んおっ!?」
「レイチェルさんがお料理持ってきてくれたよ!」
「早く食べないと冷めちゃうーっ!!」
「あ、ああ」
…立ち直りが早いアリシアであった。
「…みんなは予定とかどうしてんだ?」
「それはねえ…」
「むふふ、年末年始は特別メニューだよー? 遊んで遊んで、遊びまくっちゃうんだから!」
「うん!」
「へー、まあ好きに楽しんで「「あなた〈コウヤ〉も一緒だよ!」」…ん?」
振り向くと、コウヤ。
「「「………」」」
にこにこ顔の二人に、物言わぬが意志はある、と言った表情のリリス。
「…」
「…」
「…はは」
「「…にへへ」」…ん」
…笑い合う皆。
「それじゃあ、行きますか?」
「「おーうっ!!」」…んっ!」
それでは祝おうじゃないか。
切り分けたケーキの載る皿を手に、…まずは景気付けに、シャンメリーを開けて。
「「「「はっぴぃにゅーいやーっ!!!!」」」」
…こうして、この世界での年越しを皆と迎える事が出来た。
アリシア、ノエル、リリス、そしてたくさんのみんなに…
……コウヤは感謝しているのである。
〈了〉
これにて拙作「機甲見聞録」の“第一部”は終了です。
続きに関しては現在作成中ですが、その代わりに改稿版を開始しました。
別投稿の改稿版もよろしくお願いします→『機甲見聞録R』http://ncode.syosetu.com/n7511cd/




