第47話 黒翼と月影の先に
いつも読んでいただきありがとうございます。
最終話になります。
最後に3人のエンディング付いています、多少長くなっています。よろしくお願い致します。
風が、優しく吹いている。
もう。血の匂いは、薄れていた。
森は、静かだった。
戦いの音は消え。
代わりに。
葉が揺れる音だけが残っている。
そこに。
3つの影があった。
アルビス。
ノワール。
ノクス。
動かない。
ただ、そこにいる。
その少し先。
横たわる1人。
ケンジ。
ノワールが近づく。
ゆっくりと。
迷いなく。
鼻先で触れる。
冷たい。動かない。
それでも。
離れない。
ノクスも来る。
ただ、隣に立つ。
アルビスは、少し離れていた。
見ている。静かに。
ずっと。
風が吹く。
髪が揺れる。
黒い影が、わずかに揺れる。
あの“翼”は、もう出ていない。
「……終わった」
小さく。
独り言のように。
誰も答えない。
だが。
それでいい。
ノワールが、低く鳴く。
悲しみではない。
呼ぶような声。
ノクスが、静かに目を閉じる。
そして――
空を見上げる。
アルビスが歩き出す。
ゆっくりと。
ケンジの元へ。
しゃがむ。手を伸ばす。
その頬に触れる。
冷たい。確かに。
もう戻らない温もり。
それでも。
手を離さない。
「……守ったな」
小さく。本当に小さく。
「ちゃんと」
ノワールが顔を上げる。
ノクスも視線を向ける。
アルビスは、少しだけ笑う。
ほんの僅かに。
「見てた」
「全部」
風が吹く。優しく。
包むように。
森の奥から。気配が戻る。
狼たち。仲間たち。
遠くから。
静かに。
見守るように集まる。
吠えない。騒がない。
ただ、そこにいる。
1つの終わりを。
受け入れるように。
ノワールが、そっと横たわる。
ケンジの隣に。
体を寄せる。
ノクスも座る。
少し離れて。
だが、視線は逸らさない。
アルビスは立ち上がる。
空を見上げる。月の光。
静かに。変わらず。
「……行くか」
振り返る。
ノワールを見る。
ノクスを見る。
2頭が立ち上がる。
ゆっくりと。
だが、迷いはない。
最後に。
アルビスがもう1度だけ。
ケンジを見る。
何も言わない。
ただ――
その目に、全てがある。
背を向ける。
歩き出す。
ノワールが続く。
ノクスも続く。
3つの影が、森の奥へ消えていく。
風が吹く。葉が揺れる。
月の光が、静かに差し込む。
そこに。
1人、残される。
だが。
孤独ではない。
その存在は。
確かに、残っている。
この森に。
この牙に。
すべてに。
風が、また吹く。
それはまるで。
遠くからの――
小さな、笑い声のようだった。
――完――
ノワール視点エンディング
匂いが、残っている。
風に乗って。
まだ、消えていない。
土の匂い。血の匂い。
そして――
あの匂い。
顔を上げる。
夜。月。
静かだ。
隣に、影。
ノクス。
何も言わない。
だが、同じ方向を見ている。
少し離れて。
もう1つの影。
アルビス。
動かない。
風だけが揺らしている。
目を閉じる。
思い出す。
音。
声。
手。
頭を撫でる感触。
少し乱暴で。
でも、嫌じゃなかった。
「――こっち」
呼ばれる。
振り向く。
そこにいる。
いつも通り。
……いない。
目を開ける。
夜だけがある。
喉の奥が、鳴る。
低く。小さく。
隣で、ノクスがわずかに動く。
気づいている。
地面に鼻を近づける。
匂いを探す。
辿る。
ある。
まだ、ある。
ここに。
確かに。
体を伏せる。
その場所に。
重ねるように。
温もりは、ない。
もう……
戻らない。
それでも。
離れない、風が吹く。
毛を揺らす。
耳を撫でる。
顔を上げる。
月を見る。
遠い。届かない。
それでも。
目を逸らさない。
守れたか。
分からない。
だが。
戦った。
あの時。
あの瞬間。
確かに。
並んでいた。
アルビス。
ノクス。
そして――
あいつ。
牙を、軽く鳴らす。
音が、夜に溶ける。
立ち上がる。ゆっくりと。
振り返る。
森の奥。
進むべき場所。
足を踏み出す。
1歩。
止まらない。
もう、振り返らない。
それでも。
消えない。
匂いも。音も。
あの存在も。
全部。
ここにある。
月が、静かに照らす。
その下を。
1頭の狼が、歩いていく。
強く。
静かに。
もう、迷わない。
――終――
ノクス視点エンディング
静かだ。
音はある。
風。葉。
遠くの気配。
だが――静かだ。
世界は、何も変わらない。
1つ欠けても。
流れは止まらない。
目を開ける。
夜。月。
同じ位置にある。
隣に気配。
ノワール。
伏せている。
動かない。
少し離れて。
もう1つ。アルビス。
立っている。
視線は遠い。
それぞれが。
それぞれの形で。
止まっている。
鼻先に残る。
微かな匂い。
消えかけている。
だが、完全にではない。
記憶は、匂いに似ている。
時間と共に薄れる。
だが。
完全には消えない。
あの人間。
弱かった。脆かった。
すぐに倒れそうだった。
だが。
最後まで、退かなかった。
理由は分からない。
理解する必要もない。
ただ1つ。
事実だけが残る。
“そこにいた”
それで十分だ。
ノワールが、わずかに動く。
顔を上げる。
月を見る。
鳴かない。
ただ、見ている。
変わった。
少しだけ。
以前なら。迷っていた。
揺れていた。
今は違う。
揺れていない。
アルビスも同じ。
外からは分かりにくい。
だが。
確実に変わっている。
変化は、避けられない。
失うことでしか得られないものもある。
それを。
否定するつもりはない。
立ち上がる。音は立てない。
影のまま。
地面を踏む。確かな感触。
生きている。
それだけでいい。
振り返る。
何もない場所。
だが。
確かにあった場所。
「……」
必要ない。
言葉は、曖昧だ。
残らない。
だが。感覚は残る。
匂いは残る。
記憶は残る。
それでいい。
前を見る。
進むべき方向。
すでに決まっている。
ノワールが立つ。
アルビスが動く。
3つの影。
再び並ぶ。
欠けたまま。
だが――不完全ではない。
それもまた、形だ。
歩き出す。
1歩。
音は小さい。
だが、確かだ。
止まらない。
振り返らない。
月が照らす。
影が伸びる。
その中に。
もう1つの影はない。
それでも。
完全に消えたわけではない。
内側にある。
深く。静かに。
それでいい。
影は、選ばない。
ただ、在る。
――終――
アルビスエンディング
風が、頬を撫でる。
冷たい。
けれど、不快ではない。
森は静かだ。
戦いの跡は残っている。
折れた枝。
えぐれた地面。
乾ききらない血。
終わったのだと。
視界が、何度も告げてくる。
足を止める。
振り返る。
何もない。
もう、そこにはいない。
分かっている。
理解している。
何度も、確認した。
それでも。
体は、覚えている。
そこにいたことを。
「……」
声にはならない。
出す必要もない。
歩き出す。ゆっくりと。
止まらないように。
後ろに気配。
ノワール。
静かに付いてくる。
さらに後ろ。
ノクス。
音もなく。
影のまま。
3つの影。
変わらない形。
ただ1つだけ、足りない。
胸の奥が、重い。
鈍く。確かに。
痛いのかと問われれば。
違う。
もっと曖昧で。
もっと、消えないもの。
「……守った」
小さく、呟く。
自分に言い聞かせるように。
あの瞬間。
確かに守った。
届かなかったものに、届いた。
それは事実だ。
誰にも否定させない。
それでも。
全部ではない。
救えなかった。
間に合わなかった。
選べなかった。
その全てが、残っている。
立ち止まる。
拳を握る。
力が入る。
視界の端に、黒が揺れる。
あの力。黒翼。
あれが、もっと早く。
もっと強く。
完全だったなら。
「……違う」
首を振る。
否定する。
意味がない。
“もし”に価値はない。
あの時の自分が、全てだ。
それで届いた。
それで勝った。
それ以上も、それ以下もない。
息を吐く。ゆっくりと。
深く。
ノワールが横に並ぶ。
顔を上げる。
ただ、見る。
ノクスも止まる。
少し後ろで。
だが、視線は同じ。
2つの視線。
まっすぐ。
揺れない。
「……行くぞ」
短く言う。
ノワールが頷くように動く。
ノクスも、静かに1歩踏み出す。
また歩き出す。
今度は、止まらない。
森の奥へ。
まだ見えない場所へ。
背に、何もない。
だが。
確かにある。
重さ。記憶。
残されたもの。
全部、背負う。
捨てない。
忘れない。
それでいい。
月が、見える。
高く。
変わらず。
「……見てろ」
小さく。
誰にも聞こえない声。
それでも。
届くと信じている。
「ちゃんと進む」
風が吹く。
黒い影が、わずかに揺れる。
翼は、まだ完全じゃない。
それでもいい。
これからだ。
歩く。止まらず。
振り返らず。
3つの影が、夜に溶けていく。
その先に。
何があっても。
黒翼は――越えていく。
――終――
最後まで読んでいただきありがとうございました。
初めて書いた小説、最後まで書きました。
本当にありがとうございました。




