そして彼と彼女は――(終)
一年中雪で覆われていて、魔王領と一番近い場所にあるが故に七国の中でも最も田舎と言われている雪の国。
その雪の国の辺境中の辺境にあるカイナの村にサリファは生を受けた。
カイナの村は雪山の奥深くに孤立するようにあり、隣の村に行くには徒歩だと四日はかかるぐらい辺境の地にある。
それ故に人の出入りは滅多に、というか殆どなく村人達は自給自足の生活を送っていた。
サリファは自分が生まれ育った村が好きだった。
雪山の奥深くにあり人の出入りがないという環境故か、村人達は互いを家族のように思い互いのことを大切にしあっている。
村人の間に子供が生まれれば村全体で子育てを行い、村人が病気になれば村人全員が見舞いに来てその人のことを助けようとする。
都会に比べればカイナの村は何もない。あるのは農地と村民の家だけ。自給自足で生活しているので何かを買うための店だってないし、遊ぶための店なんていう概念すら存在しない。
それでもサリファはこの村が大好きだ。人口わずか80人ばかりの村で、村人達が互いを思いあう心こそが村の宝だとサリファは胸を張って言うことが出来る。彼女はこの村を愛していた。
その日もサリファはいつも通りの日常を過ごしていた。
サリファは祖父の代から代々受け継いできた農地で、雪の中でも育つモルッタと呼ばれるブロッコリーに似た農作物を育てている。
もうすぐ村で行われる収穫祭でサリファはモルッタを出すつもりなので今年は特に気合を入れてモルッタの世話をした。
その甲斐もあって今回の収穫では例年の1.2倍のモルッタが取れてサリファは大喜びだった。おすそ分けをした近所の人たちからもモルッタのお返しにと沢山の野菜をもらえて、病気で寝込んでいる両親にも栄養たっぷりの野菜スープを飲ますことも出来た。
さて今回取れたモルッタの中からどれを収穫祭に出そうとサリファが悩んでいる時にいつもの日常に変化が起きた。
何と人の出入りがないカイナの村に来客がやってきたのだ。
歳の頃は十代後半か二十代前半、黒目黒髪と珍しい容姿をしているがその顔立ちは非常に整っていてカイナの村の村民には一生持つことが出来ないだろう気品をその男から感じられた。
突然の来客に驚く村民達をよそに、その男は自分は旅人で雪山を数日さ迷った末にこの村にたどり着いたと言った。
迷った末に取り敢えずは村長の家で男の詳しい事情を聞くことになり、男の第一発見者であるサリファもその席に同行することを許された。
聞けば男は魔王軍との戦争で雇われた傭兵の一人だという。魔王軍との戦闘が終わった後、男は貰った報酬を元手に世界を見るために各地を旅をしているのだという。
魔王軍の話はサリファも聞いたことがあった。強大な力を持つ魔族を率いる魔族の王。そんな存在を勇者と呼ばれる者が討伐したいう噂は辺境にあるこのカイナの村にも入っていた。
とはいってもサリファはその噂を聞いても特に思うことはない。というのもカイナの村は魔物すら寄り付かない雪山の地にあり、村民も滅多に村の外に出ないので魔物や魔族の被害にあうことがなかったのだ。
男は村長に暫くこの村に滞在したいという意を申し出た。村長は男の申し出を快く受け入れて男は暫く村に滞在することが許された。そして村長の命令で男はサリファの家に泊まることになった。
何故村長が男にサリファの家に泊まるようにいったのか。村長の胸の内がサリファには手に取るようにわかった。
というのもカイナの村は超高齢化社会。人口の半分は老人世代で、新しい子供は年に三人生まれれば良い方というぐらい。
サリファは先日二十を迎えたばかりの年頃の娘。容姿も絶世の美女という程ではないがそれなりに整っていて周囲に安心感を与える顔立ちだ。村の独身男性にもサリファは人気があって、若い男達の間では誰が彼女に結婚を申し込むか度々争いが起こるほど彼女は魅力的な女性なのだ。
そんな彼女の家に若い男を泊めるということはつまりそういうこと。サリファの家には両親もいるとはいえ、病気で寝込んでいる二人は滅多に自分たちの部屋からは出ない。
村長は恐らく自分にこの男を落とせといいたいのだろう。この男との間に子供を作り男を村から出て行かないようにしろと。
傭兵をやっていたというだけあって男は逞しくて力もありそうだ。それにいざ村に盗賊がやってきた時は傭兵をやっていたこの男は大きな戦力になるだろう。
いわば男は村に突然やってきた超優良物件。若くて力があって戦力にもなって、各地を旅しているのだから色々な情報を知っているはずだ。村を預かる村長としては絶対に逃したくない物件だった。
サリファとしてはそんな村長の企みに少し呆れてしまったが、実はいうと吝かではなかった。
サリファに好きな人はいないし、この突然やってきた若く美しい旅人に彼女は一目惚れに近い感情を抱いていた。
サリファは村長の企みに乗っかって積極的に彼と一夜を共にするつもりはない。だけど男から誘われたらサリファは迷わず男と一夜を共にするだろう。それぐらい彼女は彼のことを魅力的に思っていた。
その日から男とサリファの同棲生活は始まった。
男は泊めて貰ったお礼にと積極的にサリファのことを手伝ってくれた。
農作業から始まり料理に雑事から両親の世話まで。サリファより力が強くて知識がある彼の存在は彼女にとって大きな助けになった。
仕事が終わった後は二人で村中に挨拶に回った。
一軒一軒家を訪ねて、男は挨拶がてら住人のことを気遣った。
そしてサリファと男は沢山の話をした。
男はサリファに旅の途中の出来事を面白おかしく話してくれて、サリファもまた村のことを男に話した。
男が村に滞在して四日目になるが、その間男は一切サリファを求めることはなかった。
その態度にもサリファは好意を抱き、いつしか男に対する一目惚れという刹那的だった感情が完全な好意に成長した。
今日の夜にでも自分から男を寝室に誘って初めてを彼に捧げようとサリファが決意した時それは起こった。
突然の魔族の襲撃。今まで外敵とは無縁だったカイナの村故に突然の襲撃者に対応することは出来なかった。
お隣の夫婦も村長も幼馴染の親友達も皆魔族に捕らえられてしまった。
サリファは魔族の突然の襲撃を命からがら逃げ出した。そして彼女は目的地目指して全速力で走り抜ける。
目指す場所は自分の家。より具体的に言うならたった一人の男の元へ。
傭兵をやっていたという彼ならば魔族達にも負けないはずだ。何よりも大好きな彼ならば私達を救ってくれるはず。彼さえいれば宝物のように思っているカイナの村に日常を取り戻してくれるはず。
そんな無数の『はず』だけを頼りに彼女は彼の元にたどり着く。彼の姿を目に入れた時、サリファは安心のあまり腰が抜けてしまった。
慌てたようにこちらに駆け寄り、どうしたのですかと尋ねる彼にサリファは助けを求めた。
「た、助けて!今魔族がこの村に!!皆魔族に捕まってしまったの!どうかお願い!皆を助けて……」
涙ながらに助けを求めるサリファに男を笑顔を向ける。サリファを安心させるように、彼女が大好きになった太陽のように暖かい笑みを浮かべて男は口を開く。
「ああ、そのこと。知っているよ。だって俺があいつらを呼んだんだから」
「え?」
その言葉を最後にサリファは意識を失った。
大きな悲鳴の声でサリファは目を覚ます。寝起きで上手に働かない頭で何かあったのかしらと意識を覚醒させながら寝る前のことを思い出す。
魔族の襲撃、大好きな村の人が捕まり、そして最愛の人に助けを求めたところで自分は意識を失って……
そこでサリファは自分に何が起こったか完全に思い出す。慌てたように辺りを見渡すと周囲には十代前半から三〇代前半までの全裸の男女。
サリファはぱっと自分の体を見ると皆と同じ全裸だった。サリファは咄嗟に手で胸と股間を隠す。若い独身男性の視線が自分に集まるのがわかり、羞恥のあまり動けなくなりそうになったが今はそんな場合ではないと思い直しサリファは体を隠しながら周囲の人達に何が起きたのか質問した。
「あの、何が起きたんですか?というか何で私達は裸で……」
「わからねえ。魔族に捕まって気がついたらここに裸でいた。多分ここは村長の家だ。俺を含めて若い奴らはここに集められて、年寄りと子供はどこか別の場所に俺達と同じように捕らえられているんだと思う。ここから出ようにも何故か扉が開かねえ。多分魔法で閉じ込められていると思うんだが……」
サリファの質問に答えてくれたのはこの場にいる者の中で一番の年上で、若手一番の狩人でもあるトマスという男だ。
気は優しくて力持ちを地でいく男で奥さんと子供がいる紳士的な男だ。
今も周りにいる若い女性の裸をできるだけ見ないように、扉に視線を固定していて此方を見ようとしていない。
見ればトマスの子供はいなかったが、トマスに寄り添うように隣にいる彼の奥さんが心配そうに扉の方を見つめている。
多分彼女達は別の場所に捕らえられたであろう自分達の子供が心配でたまらないのだろう。
その心配はサリファにもよくわかった。カイナの村では子育てを村全体で行う。だから彼らの子供をサリファも世話をしたことがある。
子供は宝とよくいうが、人口が少ないカイナの村ではこの言葉の通りに子供は宝物のように大事にされてる。
サリファには彼らにかける言葉が見つからなかった。
「そういやサリファの嬢ちゃん。嬢ちゃんの家には旅人の兄ちゃんがいたんだろう?あいつはどこにいるんだ?あいつは若いから捕らえられているとしたここに来ることになると思うんだが……」
トマスの言葉でサリファは彼との最後の時を思い出す。
彼は自分が魔族をこの村に呼んだと言っていた。
それは本当?もしかしたら自分の聞き違いだったかもしれない。でももし本当だったら今この場にいる皆に話したせば村が助かるのではないか……
大好きな村と最愛の人への板挟みにあい、彼の言葉を皆に話すべきかサリファが悩んでいると急に扉が開いた。
家の中に入ってきたのは七匹ばかりのゴブリン達と美しい容姿に扇情的な格好をしている多数のサキュバスという魔族。村を襲撃した魔族だ。そして最も最後に入ってきたのはサリファの最愛の彼。
彼はどう見ても魔族に捕らえられているようには見えない。自分達と違って服もきちんと着ているし、どちらかというと魔族達を従えているようにすら見える。
驚くサリファ達をよそに彼は淡々とその口を開く。
「君達にはこれからとある仕事をしてもらう。仕事と言っても難しいことではない。誰にでも出来る簡単な仕事だ。老人や子供には出来ないだろうが、ここにいる若い諸君らには必ず出来る仕事だ。その仕事さえ完遂してくれれば君達の命は保証される。どうか安心してほしい」
ふざけるなと周囲から怒号が飛び交う。男達を中心に今にも彼に襲いかからんばかりの勢いだ。
その態度に魔族達も応戦しようと戦意をみせるが、彼が手で制しただけで魔族達はあっさりと戦意を収める。
自分のことを睨みつけてくる村人達のことを彼は煩わしそうに一瞥する。
「先程も言った通り仕事さえしてくれれば君達の命は保証する。だけど俺達には仕事が出来ない人間は必要ないんだ。だから命が惜しかったら俺達に協力しろ。俺達に協力しない人間の命は保証しない。俺達に反抗する奴は殺す。それが理解できたなら、さっきと同じように俺を怒鳴りつけるか黙って口を閉じるか選べ。俺はお前たちの選択を尊重しよう」
その言葉で怒号は一瞬で止まった。誰もが口を開かない。皆が理解したのだ。目の前の男は言ったことを本気でやると。
皆狂人を見るかのように彼のことを恐怖に染まった目でみる。それは勿論サリファもそうだ。もう彼に抱いていたはずの恋心など綺麗サッパリになくなり、今では彼に対して恐怖しか感じない。
誰もが口を閉じる中、トマスが恐る恐る手を上げて質問をする。
「その、仕事をしろというのなら俺達はやろう。だがその前に教えてくれ。ここにいない奴らはどうなったんだ?俺達の子供はどこに……」
トマスの言葉に彼はつまらなそうに返事を返す。
「俺は言ったはずだぞ?俺達には仕事が出来ない人間は必要ないと」
彼がいう仕事がどんなものかはわからないが老人や子供には出来ない仕事だと言っていた。仕事が出来ない人間は必要ないということはつまり――
自分の子供がどうなったか理解したトマスは怒りのままに彼に襲いかかる。
薪すらも砕くことができるトマスの全力の一撃。いかに元傭兵とはいえただではすまないはずだ。
だけどそんな彼の拳はあっさりと彼に受け止められる。
「ちょうどいい。男なら一人ぐらい減っても問題ないだろう。よく見たまえ、諸君。俺達に反抗する人間がどうなるか教えてやろう」
その後の光景はサリファの瞳に焼きついていた。四肢をもぎ取られ出来損ないの玩具のようになったトマス。周囲に飛び散る赤い血しぶき。唯一胴体に残った彼の顔には苦痛と絶望の表情が刻まれていた。
もはやこの場に集められた人間の心は折れた。反抗の意思など欠片もない。
そんな村人達のことを彼は満足そうに眺める。
「よろしい。君達にこれから仕事内容を発表する。まず男性諸君。君達にはここにいるサキュバス達の食事になってもらう。ノルマは一日十射精。腰をふるだけの簡単な仕事だ。ノルマをこなせなかった者にはペナルティがあるので一日十回きちんと射精をして欲しい。次に女性諸君。君達にはこれからゴブリンの子供を産んでもらう。生殖能力が無くなるまでずっと君たちには子供を産んでもらうことになるので覚悟をしておいて欲しい。さて、俺の説明は終わった。これから仕事を始めてくれたまえ」
その言葉と同時に瞳に情欲を浮かべたゴブリンが女達に襲いかかる。次に妖艶な表情を浮かべるサキュバス達が男に。中にはインキュバス状態のまま男に襲いかかるものもいるがまあその辺は許容範囲だろう。
ゴブリンとサキュバス達に襲われる村人達の悲鳴を背に彼は家を出ていく。その中には勿論サリファの悲鳴もある。だけど彼の瞳には何の感情も浮かんでいなかった。
×××
「潜入お疲れ様でした、とでも言った方がいいのかしら?まあ取り敢えず第一歩目を踏み出せたわね」
アレクトが声の方に視線を向けるとそこにいたのはイリーナ。その斜め後ろには従者のようにルルが控えていた。
「ああ、イリーナか。まあ取り敢えずはな。この村は雪山にあるからか外敵に対する警戒心がなくて助かったよ。おかげで楽に村を占領できた」
「あなたのプレイボーイぷっりも楽に村を占拠できた要因の一つじゃないかしら?あの娘は完全にあなたに恋愛感情を抱いていたわね」
イリーナのからかいが多分に含んだ言葉にアレクトは鬱陶しそうに返事をする。
「田舎娘が都会の男に騙された。よくある話だ。そう珍しいことじゃない。それよりこの村から逃げた奴はいなかったんだろうな?」
「ご心配なく。あなたの潜入のおかげで知ることができた村の逃げ道は私達で完全に塞ぎました。逃げたものは誰もおりませんわ。我らサキュバスも新鮮な食事を確保できて大変満足しております。一族を代表してお礼を述べておきますわ」
「別に礼をする必要はないよ。俺達は共犯者でもあるし、サキュバス達にはこれからどんどん働いてもらうつもりだ。報酬の前払いだと思ってくれていい」
「それでもお礼を述べさせて下さい。人間の男は本当に久しぶりですから。皆ご馳走を前に大はしゃぎしているぐらいですわ。皆があんな笑顔を浮かべるのは本当に久しぶりで……」
ルルの心からの感謝の言葉をアレクトは照れくさそうに受け取った。
「さて、これから俺達の行動指針を示そうか。まずおおまかに言えばやることは三つ。一つ目は戦力増強。ゴブリンの繁殖は勿論、魔族・人間含めて多くの者を仲間にしたい。二つ目は拠点作成。まあこれはこの村のようにゴブリンの繁殖場や俺達の拠点を作るためだ。そして最後は魔道具や強力な武器の収集。この3つが俺達の最優先事項だ。何か質問や異論はあるか?」
そこでイリーナは手をあげる。
「異論や質問は特にないんだけどさ、一つ目の戦力増強について提案があるんだけど……」
「何だ?良案があるなら聞かせてくれ」
「うん。戦争で魔族の強力な個体は殆ど殺されちゃったじゃない?中には生き残っているのもいるんだろうけど、もう殆どそんな存在はいないと思うの。だからさ、いなくなったら作ればいいと思うのよ」
「作るって?」
「父様は上位魔族を眷属として作ることが出来たわ。だから父様を取り込んだあなたにも眷属は作れると思うの」
そう言われてもアレクトは困ってしまう。確かに魔王を食べたが眷属作成などこれっぽっちも出来る気がしない。
「いや、悪いけどやり方が全くわからん。魔力を眷属に変えるのが眷属作成だよな?いくら魔王の肉体を食べたとはいえそんなことが俺に可能なのか?」
「あなた一人では無理でしょうね。いくら父様の肉体を内に取り込んだとはいえ、人間に眷属を作ることが出来ない。だから私が協力してあげる」
アレクトにはイリーナが何をするのかさっぱりわからない。だけどルルにはそれだけで理解できたらしく、顔を必死の形相に変えて大慌てでイリーナのことを諌める。
「いけません!姫様、それだけはいけませんよ。こんな人間相手に姫様がそんなことする必要はありません!」
「いいじゃない。どっちみち私達はジリヒンなんだし。この方法なら確実に強力な戦力を手に入れることが出来るわ」
それでもまだ大慌ててイリーナを諌めるルルを無視して、イリーナはアレクトに選択を迫る。
「それで?あなたはどうする?眷属を作る?作らない?どっち?」
「そんなこといきなり言われてもなあ。えっと俺は何をすればいいんだ?どうもルルの反応を見るととんでもないことをしなきゃいけない感じなんだが」
少しだけ腰が引けているアレクトにイリーナはあっけらかんと言い放つ。
「あなたがやることは簡単よ。私と寝ればいいだけ。まあはっきり言えば私と子作りしましょうってこと」
「は?……え、えーーー!?お、お前、何言って、え?お前、俺のこと好きだったの!?」
腰が抜けそうなほど驚いているアレクトのことをイリーナは鼻で笑う。
「まさか。気持ち悪いことをいわないでよ。いい?あなたは父様を食べたことで眷属作成が出来るようになった。だけど人間の身で眷属を作ることは出来ない。あなたの体液――あなたの精子や血液は眷属を作るための原料になるわ。だから私がそれを取り込んで、私の子宮で眷属を作ってあげようっていってるの。この方法なら生殖と違って最初から強大な力を持つ魔族が産み出せる」
「え、えっと、それはありがたいが、その、お前はいいのか?」
いくら眷属作成とはいえ、実質は自らの子供をつくるようなものだ。復讐を決意したとはいえ、現代日本の感覚を持つアレクトとしては少しだけ躊躇してしまう話だ。
まだ若いアレクトとしてはこの歳で父親になるのはちょっと、と少しだけ復讐を忘れそうになる。
「あなたが言ったんでしょう?復讐のために全てを利用すると。この程度のことで躊躇するなんて……あなたの人間に対する復讐心はその程度のものだったの?」
その言葉でアレクトは思い出す。あの時の憎しみ、恨み、全てに対する呪い。
彼女のいう通りだ。自分は復讐に全てを捧げると決意した。だったら利用できるものは全て利用しよう。
「そうだな。俺が悪かった。よし、イリーナ。俺と眷属を作ろう。お前と寝れば眷属を作ることが出来るんだろう?だったらよろしく頼む。それで戦力が増えるんなら望むところだ」
「ええ、強力な眷属を作ることが出来ると思うわ。ただし先にいっておくけど、純粋な魔族ではないあなたではせいぜい三体の眷属を作ることがやっとだと思うわ」
「それは構わないよ。……その、じゃあ子作りするか?」
「ええ。じゃあ子作りしましょうか」
ゴブリンとサキュバスの喘ぎ声をBGMに二人は暗がりに消えていく。
一人取り残されたルルはいたたまれないようにぶつぶつと独り言を漏らす。
「姫様ともあろうかたが人間と生殖行為をするなんて。今は亡きサキュバスクイーン様に私は何てお詫びをすればいいのか。全くあの人間め。目的を達成したらすぐにでも殺してやるんだから」
今まで話していた二人がいなくなると周りの音がよく聴こえてくる。同族が心底楽しんでいるのがよくわかる盛大な喘ぎ声。その声を聞くだけで子宮の奥が熱くなってくる。
「はあ。今更姫様を止めることは出来ないし、せっかだからワタクシも楽しんでこよーっと」
ルルもサキュバス達の食事に加わり、この日カイナの村はアレクト達に占領されることになった。
×××
人間領に第一歩を踏み出したアレクト達。拠点を作ることによって彼らは数を揃えることにひとまず成功した。
次に彼らの悪意が向かう場所はどこか。人類は彼らの存在にまだ気づいていない。