↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
未来の自分から能力を前借りする俺は、どっちも諦めない  作者: 綴木 灯
同じ場所へ帰れるから、別の道へ

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
30/30

鍵を持って

朝。


食堂でパンを半分食べたところで、リオの両脚から力が抜けた。


「あ」


椅子に座っていたので、そのまま止まる。


二秒。


ロア町の練習場。


ヴァンの新しい槍の間合いを抜こうとして借りた脚。


一。


二。


戻る。


ヴァンが向かいでスープを飲んでいる。


「終わり?」


「終わり」


「全部?」


「全部」


未返済はゼロ。


十秒。


今日は、たぶん使わない。


リオはパンの続きを食べた。


*


部屋へ戻る。


荷物は少ない。


東の湿原。


一週間くらい。


短剣。


縄。


鉤。


雨具。


厚い靴下。


着替え。


乾燥肉。


水袋。


「靴下」


扉のところでヴァンが言う。


「ある」


「替え」


「二つ」


「シアに借りるなよ」


「借りないよ」


「前科ある」


「ない」


ヴァンは新しい槍を肩へ立てている。


古い槍は、宿へ預けるらしい。


「そっちは?」


リオが聞く。


「何」


「六週間分」


「下にある」


「多い?」


「お前よりは」


「槍二本?」


「新しいほうだけ」


「古いの置いてく?」


「置いてく」


リオは少し笑った。


「置いていけるね」


「宿に預けるだけ」


「それでも」


ヴァンは答えなかった。


*


リオは机を見る。


安い杯。


家賃の受領書。


いくつかの手紙。


町歩きの靴。


全部置いていく。


引き出しを閉める。


窓を見る。


閉まっている。


寝台。


毛布。


棚。


別に片づけすぎる必要はない。



リオは荷袋を背負った。


最後に、扉の外へ出る。


鍵を掛ける。


真鍮の鍵。


腰袋へ。


帳場まで降りても、主人は何も言わなかった。


「何日」


それだけ聞かれる。


「一週間くらい」


「くらい?」


「シアがそう書いてた」


「家賃は払ってる」


「知ってる」


「手紙来たら」


「置いとく」


「ヴァンのも?」


主人がヴァンを見る。


「北だろ」


「六週間」


「長いな」


「うん」


「手紙来たら?」


ヴァンが少し考える。


「リオの部屋宛てなら預かって」


リオを見る。


「いい?」


「いいよ」


主人は頷く。


「じゃあ行ってこい」


二人で宿を出た。


*


朝の町。


まだ店は半分しか開いていない。


空気が冷たい。


初霜。


石畳の端が白い。


「東、今日きれいそう」


リオが言う。


「霜硝子?」


「うん」


「仕事忘れるなよ」


「覚えてる」


「標識島」


「覚えてるって」


ヴァンは北門のほうを見る。


「そっちは?」


リオが聞く。


「荷車十四台」


「多い」


「知ってる」


「六週間」


「知ってる」


「寒い」


「たぶん」


少し歩く。


中央市場。


そこから道が分かれる。


北門へ行く広い通り。


東門へ行く細い坂道。



ヴァンが止まる。


「ここだな」


「うん」


リオは北の道を見る。


ネラたちの商隊。


たぶんもう荷車を並べている。


新しい槍。


六週間。


次に東を見る。


シア。


湿原。


朝日に光る葦。


一週間くらい。


どちらも見たい。


少しだけ。


本当に。


「北、途中で面白いものあったら」


リオが言う。


「手紙?」


「送って」


「お前、東にいるだろ」


「部屋に」


「帰ってから読むの?」


「うん」


ヴァンが笑った。


「じゃあそっちも」


「霜硝子?」


「それ以外も」


「分かった」


少し間。


「じゃあ」


ヴァンが言う。


「うん」


「また」


「また」


それだけ。


ヴァンは北へ歩き出す。


新しい槍が背中で揺れる。


リオは少し見送った。


自分も東へ向く。


坂道。


朝日。


白い霜。


歩き出す。


腰袋の中で、真鍮の鍵が装備に当たって、一度だけ鳴った。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。