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プロローグ ー言わばこれは緞帳であるー



ページを捲る、スワイプをする。

ここに物語が始まる。




『目を覚ましてくれよ!なあ!!』


主人公の少年は、静かに息を引き取った妹を抱えて、叫んだ。




必死の思いでここまで辿り着いたのだ。

あともう少しで仇を討ち、ただ幸せを勝ち取って暮らしていく筈だった2人は、残酷な運命に流されていく。今の今迄刈り取って、いずれ帰ってくるだろう運の尽きがこの際の際で訪れるなど、この哀れなる兄妹は思ってもいなかった。



瓦礫と強風の最中、黒雲に火の粉が舞い散り、汗は涙と混じって頰を伝い気持ちが悪い。目の前には、鮮血の絡め付いた剣を振るう宿敵が、叫喚に陥る主人公を見据えている。



『そんな肉塊に縋ってどうする』



その声は宛ら悪魔の様で、自身を象徴する様に燃え盛る炎に、全く見合わぬ冷たさだった。



『起きろっ、ほら、一緒に暮らしていくんだろ?お嫁さんになるんだろ、まだ、まだみんなでしたいこといっぱいあっただろ、…』



悲劇、惨劇に揉まれる主人公は、我を失い枯れた声で妹を揺さぶった。、血の繋がった愛すべき者が目を覚ますことはなく、背景が赤く炎で包まれていく。



『なんて無様な,』



その言葉は非常に無責任で、人を殺めたとしてもそのようにしか思えない宿敵の薄情さが滲み出ていた。薄情とも言えまいか?何処となく、感情そのものがない、と言った方が良いような気がする。悪役としては満点だった。 



『っゔぅう、』



這いつくばった主人公の中に、突如流れてくるのは今までの家族の思い出と、苦悩と、そしてその中にあった幸福だった。目の前でそれが崩れ落ちていく。



縋る様に抱きしめて、感じる。ほのかに香るのは彼女の好きな花の匂いだった。枯れかけた涙を地面に一つ落とし、産まれ直したかの様によろよろと立ち上がる。痛みと苦しみに耐えるよう嗚咽を吐いては、庇うように、自身の後ろに妹の遺体を置いた



『殺してやるっ、』



明確な殺意、揺らぐことの無い意志、復讐に意味などは無いものの、憂さ晴らしとしては適任。良薬口に苦し、水も飲まずにその粘り強い薬をごくりと飲み込んだ。



『、おぉ、それでこそ…』



我が宿敵だ、と。まるでその答えを待っていたかの様に残忍に笑みを溢す悪役。どれも間違いだった黒い瞳を。幸福となる為の言葉を吐く口を。恍惚と眺めた。



『殺してやる!!!!、

 妹から幸せを奪い、俺から妹を奪った世界、

そしてお前を、今、ここで、ぶっ殺してやる!!』



食らいついては、垂らした唾液も気にしない、そんな暴虐の怪物と化した主人公は、地を踏み締めてこの悲劇の幕を閉じるために、憎き悪へ向かっていった。





開かれたページに映る、死に枯れた横たわる少女と、泣き叫んで苦しむその少女の兄である主人公。ページの端を持つマワルの手は震えて、現実を受け入れたく無い事を鮮明に語っていた。



「こんなの絶対ダメだ、…

 そんなことあっちゃならない。」



ただただ、縋っていた。人を殺した鉄屑に八つ当たるよりも、何もできなかった父を責めるよりも、ずっと良い対処方法。新たな巻が出ると聞いた時に、生きる理由を見つけた。



妹と二人三脚で頑張る主人公を応援して、次の巻が出るまで耐えるんだと心に決めて、最愛の妹を、この世で1人しかいなかった妹を失ったときの喪失感を埋めるために。幼い頃から読み続けていた漫画へ、縋っていた。孤独に耐えれたのはこの漫画のおかげだった。



けれど、その紙の束は幼い少年を裏切った。



灰色の紙に涙が落ちて、漫画内の主人公の嗚咽と、マワルの嗚咽が重なる。力がこもってシワの付いた漫画、自分たちを重ねていた相手が不幸に苦しむ、まるでリンクする様に、死んだ妹。苦しむ兄。



引き裂きたくなる展開だ。しかし、引き裂く代わりに、彼は瞳へ鮮明に映った油性ペンを手に取った。ペン立てが倒れて色とりどりのペンが音を立てて落ちる。


無かったことに。先がない様に、バッドエンドに行かぬ様に…そのページを全部塗りつぶし、次のページも黒塗りにして、次へ、次へ、。主人公の妹は死ななくて、悪は滅され2人仲睦まじく暮らして、いつまでもいつまでも暮らして…。



子供は隠す事によって、その事象自体が無かった、片付いたと認識する。またはそうしたがる。ページを塗りつぶす事でその展開自体を埋めた。



交通事故で最愛の妹を亡くした12歳の少年は、愛しく尊い家族のどうしようもない儚さを身に沁みて突きつけられ、惨めに余った、黒塗りの跡がついた両手で妹と安眠を願ったのだった。




しかしこの悲劇は “序章”




確かに始まりでしか無かったし、本作の主人公にとっては、後々遡って考えたとき、起承転結の起に当たる出来事であったと言える。


マワルという名を持つ彼にとっては最大の不幸であったが、彼自身が住む、清く回る世界にとって彼が不幸に打ちのめされ、そしてなお憎しみを抱くのは申し分ないほどの幸福であった。


なぜならば、次の展開へ赴く大きな一歩であり、悲劇こそ、言わばそれこそが緞帳だったからである。



初めまして。


処女作にして早くも絶作となりそうな此方をご観覧していただき誠に有難う御座います。


タイトルも仮で、とりあえずの投稿になります。

スマホのメモアプリでちまちま書いていたものを放出予定ですが、本筋の投稿は推敲出来次第になるためいつになるかなどは不明です。もし先が気になる、なんて方は沢山急かしていただければと思います。何卒よろしくお願い致します。

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