準備万端告白開始、のはずなんですが様子がおかしいな
放課後、肺助が顔を出したのは、いわゆる校舎裏に面し、伝説の木が見下ろせる位置にある資料室だった。様々な教材が仕舞われており、ふと振り返った肺助は、土偶のレプリカの目が合った。
部屋に入ることは誰にでもできるが、清められていないこの空間から、清浄な校舎裏を見下ろすことはできない。或いは、見ても気にすることができないだろう――その境界を認識できる人間以外は。
「オン・アニチ・マリシエイ・ソワカ」
その隅で、合儀肺助は摩利支天と縁のある手印を結び、複数回真言を唱え、
「合儀肺助の姿を禁じる」と禁歌を行った。
そうして、彼は姿を隠し、主役たちが木の下に揃うことを待った。手印は破らず結んだまま。
故に、手印の形上、何となく人差し指や中指の感覚がなくなってきたころ、漸く主役の一人、真壁動太が現れた――勿論、一人の女子生徒を連れて。
(やっぱりあれが、阿賀谷戸命香先輩)
つい昨日、合儀肺助へ声をかけてきた怪しい少女が動太と一緒に歩いている。
身長は肺助に近く、女子としては高め。背中まで届く長い黒髪に、白い肌。華やかさはないのに、どこか目が離せない雰囲気があった。大きく澄んだ青黒い瞳は、動太の奇妙な歩き方を興味深そうに追う。
対して、顔の輪郭は柔らかく幼い。身長や立ち姿は大人びているのに、顔立ちはまだ少女らしさを残している。
そこから視線を下ろすと、そんな彼女の容態とはややミスマッチに見えるほど、制服の襟、胸元がかなり膨らんでいる。
しかして、これだけ目立つ要素がありながら、所作や佇まいは影のように控えめで、地味に感じる。すれ違っても、印象には不思議と残らないだろう。だが、一度でも注視してその魅力に気付いてしまえば、あっという間に相手を緊張に飲み込む、そんな不思議な存在だった。
(やっぱり、あんな人に告白するなんて、ばっくれても仕方ないかもしれない……いや、とにかく、あとは頑張ってくれ、『相棒』!)
しかして、伝説の木の下、二つの影はなかなか動かない、言葉も発しない。だが、ふといたずらに一陣の風が吹き、阿賀谷戸命香の髪がふわりと広がった、その時!
「阿賀谷戸先輩、おれと、付き合ってください!」
(言った!)
動太のその言葉に、肺助はついつい窓枠から身を乗り出した。
(頼む、うまくいってくれ!)
そして、祈るように肺助は目をきつく閉じた。
「……それについてなのですが」
(ん?)
告白の返答にしては奇妙な言葉。肺助はすぐに眼を開け、これから起こる出来事を視界に収めた。
木の下で、肩を上げて緊張を隠せぬ真壁動太と、顎に指を添え、んー、と声を漏らして言葉を探す阿賀谷戸命香。
(……一体、何が始まるんだ?)
肺助ただ一人が、この場でゆっくり唾を飲んだ。




