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呪術恋愛戦線 山奥に隠れていた陰キャ呪術師の俺が都会から来た陰陽師美少女に狙われる異能バトルラブコメ  作者: 杉林重工
一章 合儀肺助の受難

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さあ本番ニ、三時間ぐらい前? の幕間

 朝。登校後にまずは一回。例の木の下で真壁動太へ呪いを掛ける。そして、昼にも呪いを掛ける。男二人が恋愛成就の木の下にいるのは何とも気持ち悪いが、誰も立ちることはないのでよしとした。それに、呪術的にもここは一時的とはいえ清められた場所になっていて都合もよい。


「真壁動太の弱気を禁ず」


 肺助は昨日と朝に続き、動太の背に向け刀印でもって九字を切り、呪いを掛ける。


「これで最後です」


 一呼吸、そして肺助は声を掛けた。


「これで、大丈夫なのか……?」


 当の動太にそういわれると、急に肺助も不安になった。弱気を禁じる、そういう禁歌を使ったのだが。


「なんてな! 大丈夫だ。今のおれは、この地球上で一番モテている。なんかお前が、小さく貧弱で、可哀想に見えるな!」


 振り向いて笑いかけてくる動太の口から、腹立たしい言葉を浴びせられ、肺助は複雑な心境であった。


(禁歌は完璧に作用しているだろうが、なんかむかつくな)


「はっはっは、まあそう拗ねるな!」


 次いで、動太は肺助の肩を掴んで元気に揺すってくる。肺助はもう帰ろうかと視線を遠く向けていた。


「じゃあ、放課後もよろしく頼んだぞ」


 ところが突然そう言って、び、と親指を立てる動太に、肺助は首を傾げた。


「放課後にできることはもうないので、あとは結界の入り口で真壁さんが待つだけですよ」


「違う。折角だから見ていけ。おれの一世一代の晴れ舞台を」


「え? いいんですか」


 二つの意味がある。まず、動太はこの図体の癖に、告白を随分と恥ずかしがっていたため。そしてもう一つ、そもそも肺助は『部外者』だからして。


 ところが、そんな肺助の思惑の外から、実に嬉しそうに動太は言う。


「ほかの奴らに見られるのはやっぱり困る。特に、阿賀谷戸先輩だって、ギャラリーがいれば、緊張するものだろう。でも、お前は別だ。前三回と違って、なんだかおれは今、凄い無敵な感じがする。これは絶対にお前のおかげだ」


 動太は肺助の眼を見て、はっきりとそう言った。


「あ、うん、ありがとう……」こうもはっきり言われると、嬉しいやら恥ずかしいやらで肺助は顔を逸らした。


「お前抜きに、おれの人生はもう語れない。だから、お前には最後まで見ていてほしい。結婚式のスピーチも、今のうちに考えておいてくれ」


「気が早い」肺助はびっくりして相手を見上げた。


「遠慮はいらん。だっておれとお前は友達……否、親友を超えた、相棒というべきか!」


「え、相棒までいく……?」


 肺助の頬が引きつった。二階級特進どころではなかったからだ。


「わかったな。ぜひ来てくれ」


そういう動太の顔には、自信が溢れている。何はともあれ、これなら大丈夫だ、と肺助も確信した。


「じゃあ、こっそり観客として、見届けさせてもらいます」


 なんだかんだ言って、結果は気になる。


(ばっくれ三回は気になるけど、真壁さんは見た目ほど怖くないし、そんな真壁さんが好きになる先輩なら、彼の人格はわかってくれるに違いない)


 肺助はそう思い直した。


「じゃあ、必ず見届けてくれ……ところでなんだが」


 今まで自信たっぷり、生気に溢れていた真壁動太が、急に声を潜めた。


「何かあったのか? どうも顔が暗いぞ」その言葉に、肺助は内心驚いた。


「いえ、別に……」肺助は慌てて顔を逸らした。だが、動太はその太い指で肺助の両肩を掴んでとどめる。


「どうした。お前はおれの相棒だ。困ったことがあったのなら言ってくれ」


 肺助は困惑を引き摺って視線を上げる。自分の顔が暗いと言われる由縁は、何となく自覚があった――悩んでいるのだ。


「真壁さんに言うのも変かもしれないんですが、今回呪術を使ったこと、実は少し後悔しているというか、やるべきじゃなかったんじゃないかって、そう思うんです」


「なんだって?」


 動太は眉間に皺を寄せた。


「母さんに言われたんです。誰も彼をも、そう軽々しく助けるのはどうなんだって。でも、おれにとっては呪いって身近で、誰かを助けられるならそれでいいとは思うんだけど、違うのもわかるというか……でも、母さんみたいに仕事って割り切るのも違う気がして、だけどそういう線の引き方もわかるというかわかりやすくて羨ましいというか……」


 ぐずぐずと肺助は口の中で言葉を揉んだ。対して、真壁動太は一切考える様子もなく、次のように言った。


「そうか。そんなことは、おれは知らん」


 動太ははっきりと言い切った。何となく、動太なら何か答えを知っているのではないかと期待した自分を恥じる。


「だが、そうやってグジグジ悩んでいるのなら、お前は毎回、諦めるしかない!」


大声で動太はそう言うが、あまりにも意味が分からなかったため、肺助は首を傾げた。


「毎回、諦める?」


「だってもう、お前はやっちゃっただろ」


「一体、何を?」


「おれはお前がいなかったら今頃四回目のばっくれを決め、トイレに籠っていたはずだ。だけど、実際はこうして勇気と自信に溢れている。負ける気もしない。これは間違いなくお前の力だ。だから、お前は、もう仕事をやっちゃったんだ。取り返しはつかない」


 その言葉に、肺助は目を丸くした。


「仕事を、やっちゃった?」


「お前は難しく考えすぎだ。仕事として割り切ったって、なんか引っかかることぐらいよくあるんじゃないか」


「仕事として割り切ったって、なんか引っかかることぐらいよくある?」


「おれだって、合意の上のはずの柔道の試合で投げ飛ばした相手がしばらく起き上がってこなかったら、ちょっとは気になる」


「……」


「お前が家族と同じく仕事として割り切ろうが、素直に呪術を使おうが、どうせお前は微妙に後悔するだろう。だから、おれはお前に、毎回諦めろ、と言わざるを得ない!」


真壁動太は肺助の肩をがっしと掴んで、目をまっすぐ見据える。


「おれにはわかる。お前はどう悩もうと、断りたいと思っても、結局仕事をやっちゃうんだ。目の前の、なんか困っていそうな誰かを見捨てることはできない。そして、助けた後にいろいろと考えるんだ。でも、忘れるな。おれは、お前を頼ってよかったと思っている。きっとこの先、お前に助けられた人はみんなそう思う――だから、ありがとう、相棒」


「真壁さん……」肺助は急に目頭が熱くなるのを感じた。


「馬鹿、相棒だろ! そんな顔はやめろ」肺助の言葉を吹き飛ばすように、動太は大声で言う。


「やっぱり、『相棒』はおれのハネムーンにも招待する! 絶対楽しくなる! お前も高校生なんだから、難しいことは忘れて恋に生きろ! いい女を探せ! なんなら、ちょっとぐらい休んだらどうだ!」


 動太はそんな無責任なことを言って、今度こそ去って行った。肺助はその背中を黙ってみることしかできなかった。


(駄目だ、考えがまとまらない!)


 肺助は頭を抱えて天を仰ぎ、やがて力なく両手を垂らした。


「とりあえず、しばらく呪術はお休みかな……」


 なんとなく、肺助はそんな言葉を独り言つ。休め、とは動太も言っていたし。思えば、ずっと昔、何も考えずに誰かに呪術を使っていたことが懐かしくなった。


 とはいえ、当然、このやり取りが彼の予定を変えることはなかった。


(おれが結局ここに来たのは、ただの野次馬だからか、相棒に頼まれたからなのか、それともやっぱり『仕事』だからだろうか……)


 種々の悩みを抱え、放課後。


 於、罪斗罰高等学校。三階、北側。


 ――合儀肺助は駆け足で校舎の三階に至り、その窓からこっそり顔を出した。見ゆるは、校舎裏、一本の銀杏の木。



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