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対照的な二人

 うー…………飲みすぎた…………いやマジ、ホントにきつくなってきた、水…………。

 あ、ありがと、水。ごくごく。

 ぷはー。

 うーん、ちょっとマシになったか…………?

 え? なに? 面白いネタ?

 さっき話したじゃん。

 ええ…………? もう一話?

 そんなこと言われたって、アタシもあんまり聞いてないし、覚えてないし…………。

 うー、あー…………わかった、じゃ、もう一つだけね?

 先輩から聞いた話だからね? 本当かどうか、保証はしないからね?

 え? 今さらだけど、聞いたら祟られたりしないか?

 知るか、ボケ。もうすでに一話、聞いてんじゃん。不安なら聞くな。ホント、今さら。

 あー、はいはい。じゃあ、最後の一話。

 題して? んー…………じゃあ、題して『対照的な二人』!






 あるところに、女生徒が二人いたわけよ。高校生か中学生か、詳しくは想像に任せる。

 とにかく、女子が二人いて、そこそこ長い付き合いの幼なじみだった。

 で、ある日、片方が先輩の師匠に相談に来たわけよ。

「あの子ばかり得をしている。ここの神様はえこひいきだ」ってね。

 仮にこっちはA子としようか。

 A子いわく、彼女と幼なじみのB子は、先輩の師匠が当時お仕えしていた神社から、少し離れた所に住んでてね。数ヶ月前に偶然、そこを見つけてお参りしたのよ。

 で、その時、B子のほうが言われたんだって。

「あなたは、ここの神様と相性がいい。ここの神様に好かれる人間だから、きちんとお参りすれば守ってもらえるよ」みたいなことを。

 誰に言われたか? そこは忘れた。神職か、居合わせた参拝客か……とにかく、B子はそこの神様に愛されやすい、と言われたのよ。B子だけがね。

 で、言われたとおりになったんだって。

 そこの神様にお参りして以降、B子には次々幸運が舞い込んだのよ。

 少額を拾ったとか、試験のヤマが当たったとか、倍率の高いライブのチケットや、抽選で欲しい賞品が当たったとか、タイミングよくいいことをしているところを先生に褒められたとか。

 一つ一つは些細でも、重なれば「やっぱり神様のおかげだ」って思うし、なにより見ている周囲は羨ましくなるもんじゃない?

 A子もそれで相談に来たわけよ。

「私も神様に愛されたい」「B子だけが愛されるのは不公平だ」ってね。

 まあ、それは自然な感情よね。よほどの聖人君子でない限り、そう思うでしょ。

 A子が欲しかった物をB子だけが手に入れたとか、そういうことも何度かあったみたいで、A子にしてみれば自分の幸運を横取りされたようにも感じたんじゃない?

幼なじみで、しょっちゅう一緒にいれば、嫌でも目に入っただろうし。

 んでも、例の先輩の師匠の意見は同じ。

「神様に目をつけられても、あまりいいことはない」の一点張り。

 神様と相性がいいというのは、神様の御力の影響を受けやすいということ。そして神様が人間とは別の次元に生きる存在である以上、神の影響を受けるということは、人間にとって必ずしもいいことではない。神様の考える人間の幸せが、本当に人間にとって幸せかは、保証できない、ってね。

 でもA子は納得できなかったみたい。

 そりゃそうよ。十代の学生じゃ、嫉妬するなというほうが無理。

 でも、だからってA子が今日から神様に愛される方法~なんてあるわけないし。

「神様のことは気にせず、自分の目標にむかって努力しなさい」

 そう、先輩の師匠に言われて、A子はがっかりして、ふてくされて帰ったわけ。

 で、ある時、二人そろってお参りに来たわけよ。受験の合格祈願にね。

 その頃には、B子は自分の幸運が神様のおかげと信じて、毎日のようにお参りして、ますます幸運に恵まれて「ここの神様にお願いすれば、自分は大丈夫」って自信満々。

 A子は「自分の幸運を見せつけてんの?」って、完全にふてくされた感じだったらしいよ。

 B子自身、この頃には自分の愛され具合を自覚して、いちいちA子を煽るような言い方をして、優越感に浸っていたみたい。

 とにかく、二人でお参りして。

 そしたら誰かに教わったみたい。お百度参りのこと。

 同じ神社に百回、お参りしたら心願成就、というやつね。

 当然、「やろう!」ということになって。主にB子が。

 B子にしてみれば、そこの神様に気に入られている自分の願いが叶わないはずなかったし、嫌がるA子を強引に巻き込んで、二人一緒にお百度参りをはじめたんだって。

 まあ、そもそも帰り道を少し遠回りすればいいだけの話だったから。

 順調に進んだんだって。九十九回目まで。

 で、満願の百日目。

 二人共、用ができちゃったのよね。

 A子は親が倒れたとかで、病院に行って。幸い、たいしたことなかったらしいけど。

 B子は、気になっていた男子に遊びに誘われた、とかじゃなかったかな。そんな感じの用よ。

 とにかく、最後の最後でお百度参りは失敗、九十九日間が白紙になっちゃったわけ。

 でもま、二人共あまり気にしてなかったみたい。

 A子はそもそもそこの神様を信用してなかったし、B子はB子で「九十九日間もつづけたんだから、一日くらいは」って気持ちだったみたい。「愛されてるんだから、この程度の失敗は大丈夫でしょ」ってね。

 結果。

 A子は第二志望校に合格して、第一志望は補欠合格。

 B子は第一志望も第二志望も、どちらも落とした。

 受験日に目覚ましが壊れて寝坊したり、体調を崩したりしてね。

 なんでかって?

 相性が良すぎたのよ。神様との。

 言ったでしょ「神様の御力の影響を受けやすい」って。

 どんな理由であれ、いったん「百日間、通う」と約束したからには、それを達成しなければならない。でないと、神様に嘘をついたことになる。

 神様だって嘘をつかれれば怒るし、ついた者をただではおかないわけよ。

 要は、B子は約束を果たさなかったことで神様の寵愛を失い、怒りを買ったのよ。

 B子は、その神様との相性が良かった。

 良すぎて、愛情からくる招福の御力も、怒りからくる拒絶の御力も、同じようにダイレクトに受けとめてしまった、ってわけ。

 なら、同じように約束を果たさなかったA子は何故、受かったのかって?

 もちろん、神様はA子に対しても、同じくらい怒ったはずよ。

 でもA子は、その神様との相性が良くなかったから。

 B子と同程度の怒りを買っていたとしても、A子に届く影響は、B子よりずっと小さかった、ってわけ。たぶん。

 先輩の師匠がくりかえす「神様と関わらないほうがいい」ってのは、そういうことよ。

 見返りも大きいけれど、反動も大きい。

 それが、人間から見た神様。

 …………さて。じゃあ、こんなもんでいい?

 そろそろお開きにしよっか。おやすみなさい。




――明日も元気でね――


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