運命の二人
う~ん……少し酔ったか……? あ、このおつまみ、おいし~。
は? なんか面白い話? 急に言われても……そっちこそ何かないの?
ん? あ~そっか、アンタ怪談系のライターやってたっけ。それでアタシに「面白い話ないか」って? アタシが巫女のバイトやってた時の話で?
そもそも、あれは半年もつづかなかったしなぁ。う~ん。
……。
面白いかどうかは、わかんないけど。先輩から聞いた話なら覚えてるよ、それでいい?
断っとくけど、あくまで先輩の話だからね? 誰のことか、って訊かれても全然わかんないし、だいいちアタシ、霊感とかないから怖くなくても知らないからね?
それでもいい? じゃあ、話すけど。あるご夫婦の話。
題して『神様によって結ばれた、運命の二人』!
えーと、アタシがお仕えしていた神社……具体的な名前は出さないよ。そこの先輩から聞いた話で、先輩の尊敬する先輩というか、師匠みたいな人が関わった話らしいんだけど。
先輩の師匠はすごく力の強い巫女で、人柄も良かったらしくてね。色んな人生相談とかにものってたんだって。
参拝客の何割かは「悪いことがつづくから」「呪われているかもしれないから」「憑かれているみたいだから」「お祓いしてくれ」って言う人なのよ。想像つくでしょ?
でも実際に呪われたり憑かれてたりするのは、ごく一部。その師匠いわく「癌よりよっぽど少ない」レベル。
でも、ホントーに時々、稀にだけど、人間以外の存在に手を出されているケースもあるわけ。そのご夫婦も、その一例。
まずね、その夫婦はもともと不倫だった。
有り体に言えば、略奪婚ってやつ。
旦那さんはもともと別の女性と結婚してたんだけど、偶然、ある女性と出会って。
お互い一目惚れだったみたい。どっちも「はじめて会った時に運命を感じた」って言ってたらしいよ。当然……というのかな? 深い仲になるのに、時間はかからなかったみたい。
旦那さんはあっという間に家に帰らなくなって、不倫相手の女性の家から職場に通ってたレベルだったみたい。
もちろん、奥さんからしたら、とんでもない話。
いろいろ試したみたいでね。探偵を雇って調査したり、お互いの両親に話して、義理の両親や共通の友人に、帰ってくるよう説得してもらったり……。
でも全然、効果がなかったんだって。
むしろ奥さんがなにかすればするほど、旦那さんの心は離れて帰って来なくなる一方で。
ボロボロになった奥さんが、その先輩の師匠を訪ねてきたんだって。
『あんなに優しくて思いやり深い人が、こんな風に私を苦しめるはずがない。あれは本当のあの人じゃない、きっとなにか悪いモノに憑かれるか、不倫相手が呪いをかけて私と旦那を引き裂こうとしているに違いない』ってね。
で、旦那さんや不倫相手も呼んで話し合った結果。
呪いとか、悪しきモノの形跡はないって。
ただ、人智を超えた存在が関わっているのは事実だ、って。
奥さんは、先輩の師匠から離婚を勧められたらしいよ。できるだけ早いうちに旦那さんから離れて遠くに行きなさい、夫のことは忘れなさい、って。
なんでも、旦那さんと不倫相手は神様がとりもった仲だったんだって。
神様が二人を引き合わせて、結ばれるよう仕向けている。
神様のやることだから、人間にはどうしようもない。あきらめなさい。
あまり粘ると、神様が力ずくで奥さんを排除しようとするかもしれない。その前に夫を手放して逃げなさい、って。
無茶苦茶じゃないか、って? うん、そうよね。アタシもそう思う。奥さんからすりゃ、理不尽の極みでしょ。問題のない良い奥さんだったらしいから、なおさら。
でもねぇ。神様って、そういうもんというか……そういうところがあるんだって。
特別たいした理由もなしに特定の人間を気に入って、無償同然で守ったり幸運を恵んでくださったり~てのは、漫画や小説の中の話。
本当の神様ってのは、人間じゃないし、別次元に生きる存在だし、人間の理屈や感情は伝わらない理解できない、という前提で接しなきゃならないものなんだってさ。せいぜい「礼を尽くせば話くらいは聞いてもらえる」程度。
基本的に、人間側の都合や気持ちは考慮されないもの、と思っといたほうが無難らしいね。今回の奥さんみたいに。
ただ、その神様も極悪ではなかったし、自分の都合に奥さんを巻き込んだことは理解していたみたいで。
先輩の師匠いわく「おとなしく身を引けば、相応の見返りはくださるだろう」ってさ。
けっきょく、奥さんは離婚に同意したの。
神様の計画と知って怖くなったか、あきらめざるをえなかったか……先輩の師匠の忠告で、旦那さんと不倫相手はちゃんと慰謝料を払って、謝罪したそうだけど。
旦那さんも不倫相手も一応、頭は下げたけど、本心は「しかたないよね」って勝ち誇った感じだったらしいよ。
自分達が結ばれるのは、神様がさだめた運命。だから自分達は悪くない、みたいな。
ただ先輩の師匠は、二人に忠告もしていたみたい。
「神様のやることを頭から信じるな」って。
神様には神様の思惑がある。彼らは人間とは別種の存在で、必ずしも人間より寛容だったり慈悲深かったり、まっとうだったりするわけじゃない。
人間とは考え方も感じ方も違うのだから、人間にはついていけない時も多いんだ、ってね。
あと「神様が関わっているとはいえ、他者を傷つけた報いは必ず、どこかで受ける」とも。
まあとにかく、その後、奥さんと旦那さんは離婚して。
世間的には旦那と不倫相手が悪いから、双方、慰謝料も払って。
それで奥さんは、実家に帰ったんだって。
旦那さんも職場を変えて、あらためて不倫相手と再婚。新しい家と新しい職場で、新しい生活をスタート、すぐに子供にも恵まれたんだって。
この子供っていうのがまた、可愛い娘さんだったらしくてね。愛想もいいから、道行く人には「可愛いねぇ」って褒められまくって、先生達にも可愛がられるし、クラスでも人気者。
あまりの可愛さに、不倫を怒っていた双方の親達も、いつの間にかめろめろになって、まさに『誰からも愛される純粋無垢な子』だったらしいわ。キッズモデルの有名な事務所からもスカウトが来て。
両親の仕事も順調だし、旦那さんも不倫相手――――再婚した妻も、幸せの絶頂にいたわけね。
で、その子が七歳だか六歳だかの時よ。
キッズモデルの仕事で、リゾート地にロケに行くことになってさ。
再婚妻――――母親と一緒に、スタッフ側が用意したバスに乗って。
事故に遭ったの。
他の乗客は怪我で済んだけど、母と娘はバスの外に放り出されて。
海へと投げ出されて、文字どおり『帰らぬ人』となってしまったんだって。
仕事で同行できなかった旦那さんは、連絡をもらって現場に駆けつけると、半狂乱で「なんで自分も一緒に行かなかったんだ」って、喚いてたらしいよ――――
つまりさ。その可愛くて純粋な娘さんは、神様に目をつけられちゃったのよ。
神様の巫女とか花嫁とかお仕えする家来とか…………贄にね。
娘さんは神様に捧げられた。
不倫した旦那と再婚妻は、はじめから娘さんを娘さんとしてこの世に誕生させるための、道具にすぎなかった。
この二人の間からでなければ、娘さんはこの世に生まれてこない。
だから神様はそうしただけ。
不倫も離婚も再婚も、神様にとっては、ただ気に入った存在をこの世に呼び寄せるための、手段にすぎなかった。それだけなんだってさ。
先輩の師匠はそれを察していた。だから二人に忠告したわけ。
「神様のやることを頭から信じるな」ってね。
…………神様なんかに目をつけられるもんじゃない。それが先輩の師匠の口癖だったみたい。
あれらは、人間とは別の次元の存在。
たとえ幸運を恵まれたように見えても、長い目で見れば、必ず相応の代償を払わされる。
それが先輩の師匠の持論だったんだって。
え? なんで先輩の師匠は、それを最初に三人に教えなかったのか、って?
教えたからって、素直に別れて、元鞘に戻ると思う? 不倫中の舞いあがっている男女が。
自分に都合が良ければ「神様の決めた運命だ!」って喜んで従って、都合が悪ければ「ただのインチキだ!」って怒って帰るだけ。それが人間でしょ?
師匠はちゃんと「報いは必ずうける」と忠告はしていたわけだし。
あ、旦那さんも亡くなったよ?
経緯はどうあれ、真実、愛する女性だったのは間違いなかったみたいでね。
妻と娘、心底愛した女性二人を一度に失って、精神的に不安定になって。
心配した親に病院に連れていかれる前日、発作的に妻子が眠る海へ飛び込んだんだって。
三人の遺体は、今も見つかっていない。
神様のもとで親子三人、仲良くやっているのかもね。
まあそんなわけで、この話はおしまい。信じるか信じないかはアナタ次第…………ってね。
どう? ネタになった?
ん? 最後の一人?
ああ、元奥さんは無事。
早めに身を引いたのがよかったのか、なんなのか。
実家に戻って、しばらく休んで再就職して、新しい男性と出会って再婚して、今は子供も生まれて幸せに暮らしているらしいよ。
神様の都合で奪われた幸せのお詫び……かどうかは、わからないけどね。




