21話 「答え」
隆司の後ろに着いて行くと、見慣れた武家屋敷が目についた。月代家だ。
「入れ。助けたいのは分かるが、まずは話し合いからだ」
「……分かった」
玄関の框を踏む。家の空気は全体的に暗く、重苦しい物だった。
案内された場所は居間では無く床の間だ。縁側に続く障子は全て開け放たれており、月明かりと夜風が心地良い。
「座れ」
言われた通り、隆司と向かい合い距離を取ってあぐらをかく。ただならぬ緊張が走り、生唾を飲み込んだ。
「……。小僧、俺は今からお前に質問する。純血を助けたとして、お前はどうするつもりだ?」
「そ、それは……」
「答えによっては始末する。お前も、純血も」
その目は邪魔なものを始末する獣の目だった。空気は一瞬で圧縮され、心臓が締め付けられるような感覚に陥る。
このままだと本当に殺されてしまう。容赦なく、慈悲もなく、無様に。
「――……誰にも迷惑をかけないように、遠くへ行く。エンジュと二人で過ごすために。そのためには親や知り合いの力が必要になるけど、準備が出来次第離れることにする、から……」
声が震える。目も合わせられずに下を向く。
「駆け落ちか。お前は村から逃げる道を選ぶんだな。次期当主の座についてはどうする。放棄して父親に押し付け、春野の代を終わらせる気なのか?」
「……。次期当主の座は捨てる。一族の皆には悪いけど、村を離れるためにはそうするしかないんだ」
「村に残る選択はしないんだな」
「あぁ。この件が解決したとしても、真は執念深いからな。それにあんたらの風習だって廃れたわけじゃない。俺とエンジュの子どもが出来たら処理……いや、殺される運命だってあるんだから」
「それが月代の、村の常識だからな。山神に間引かれるよりも先に息子が『迎え』に行くだろう」
「どうして生まれた命を摘み取るんだ……!」
「必要ないからだ」
即座に紡がれたその答えは、何度も聞いた癖に開いた口が塞がらない。
そして、気がつくと俺は拳を隆司に向けて振るっていた。
「遅い」
振るわれた俺の手を掴み、押さえつけられる。尋常じゃない力で押さえつけられたそれは、身体中の神経が悲鳴を上げて骨も容易く折れそうだ。
「くそっ、ぐ……!! がぁっ!」
何とか踏みとどまり、俺は隆司に頭突きをする。予想外の行動に彼は混乱し、幸運にも頭を抱えたのでその隙に逃げた。
「はっ、は、はぁっ――!」
走る。走る。走る。
廊下を駆け抜け、玄関から転げ落ちそうになりながらとにかく走る。後ろは振り返なかった。いや、振り返ることが出来なかった。
鬼と恐れられたあの人に敵う訳が無い。今はエンジュを助けることを見い出せ。エンジュはきっと、離れの座敷牢に閉じ込められているはずだ。昔、真が得意気に教えてくれたのを思い出す。
「はぁっ、は、っ……!?」
空気が変わった。思わず足を止める。振り替えたくない。振り返ってしまったら、俺はもう終わる。
「死にたいようだな、小僧」
振り返る。
なす術もなく涙が零れ落ちる。
その先には、月に照らされた隆司が立っていた。




