16話 「先輩の秘密」
「そうだ。俺達の秘密を教えたことだし、先輩の秘密も教えてくださいよ」
「秘密って言われてもなぁ。暴露するほどおれは爆弾を抱えていないよ」
「先輩の目のことです。エンジュが気になるから教えろって」
「あぁ、そういう。それなら教えるよ。君達は秘密を晒してもらったし、おれのも教えないとフェアじゃないだろ?」
「はい。ですので樹希先輩の『変色症』について改めて教えていただければ」
「うん。分かったよ。じゃあ先輩直伝のレクチャーといこうか」
樹希先輩はこほんと軽く咳払いをして、「さて」と息をつく。先輩による講座の始まりだ。
「まず『変色症』というのはね、共感覚の派生だと言ってもいい。強く捻れ、歪んで出来たものが変色症。神経の病気ともされているけど、医学的根拠はない。
変色症の症状はたくさんあるけれど、代表的な物を言うと他人の感情や視界が色で表されるんだ。例えば、今そこにいる吉くんを俺の目で通すとオレンジ色……つまり、楽しいって思えるように見えてるとかね」
「じゃあイツキ、あなたが見る私は何色に見えるの?」
「うん、いい質問。そうだね……エンジュさんの色は水色。退屈だ、って思ってるだろ?」
「えぇ、正解。確かにこの空間は幸せなのだけど、あなたの講義は退屈だわ」
「あはは、ごもっともな意見ありがとう。でも変色症は危険な側面も持っていてね。暴発することだってあるんだ。個人差はあるけどね。例えるなら、クレヨンで色がごちゃ混ぜになった感じ……あまり思い出したくはないけど、吐き気と目眩が酷くなる」
「それ、大丈夫じゃないですよね……。外でそんなことが起きたらどうするんですか?」
「無理して休めるところまで歩くか、救急車のお世話になるかな」
「それダメなやつじゃないですか!?」
思わず大声を出してしまった。他のお客さんに見られたことが恥ずかしくて、顔を伏せる。
「す、すみません」
「いいよ。おれの身を案じてくれる人は数少ないから」
「ほの暗い闇を提示するのやめてもらっていいですか……」
「あはは、ごめんね。おれ友達いないから」
「お、俺とエンジュがいるじゃないですかっ。な、エンジュ?」
「えぇ、そうね。私という美少女がいながらも無下にするなんて、さすがに黙ってちゃいられないわ」
「一言余計だけどな」
「別にいいじゃない」
「……ふふっ、あははっ」
「何かおかしいことでもあったんですか、先輩」
笑う先輩は何だかとても嬉しそうだ。笑顔なんかはにかんじゃったりして、今まで見たことない彼の一面が見れた気がして。
「いいや、君達と会えて良かったなぁって。改めて思っただけだよ」
先輩の満面の笑みは、正直言うと可愛らしかった。男の俺が言うのもなんだけど、愛らしいというか――そう、先輩が心から笑えるという事実が、単に嬉しかったのだ。




