プロローグ 「ある冬の夜にて」
しんとした深い夜。めざめると、ぼくの右目は誰かにうばわれてしまった。ううん、ちがう。それは少しだけちがう。
ぼくの右目の視力が誰かさんにうばわれた。
寒くてくらい冬の夜。冷たくて凍りそうで、息がくるしい。
痛い。片方だけ、何も見えない。
ぼくは静かに泣いた。泣いて、冷めきった空気の中でおえつをもらした。
悲しかった。くるしかった。誰が、いったい何の目的でぼくの右目をうばおうと考えたのだろう。
わからない。
ひとりぼっちで頭を使って考えても、けつろんなんて出やしない。
ただただぼくの体が冷えていく。くちてゆく。このままだと冷えきってしんでしまいそう。
これだから冬はきらいなんだ。生まれてきてたった五年しかたたないけれど、それだけは分かる。
そんなぼくを笑うかのように、星だけはぼくを照らしてくれた。まるでこと切れた役者に当たるスポットライトみたい。
空をみあげる。もう片方しか見えない目で星を見る。
とたん、ぼくに怒りと悲しみとむなしさがごちゃまぜになったモノがぼくの心を支配した。
いたい。かなしい。くるしい。つらい。さびしい。
こんなになってまで、ぼくに手を差し伸べてくれる優しいひとはだれもいない。
眠ることすらゆるされないというように、どくどくと心臓が脈を打つ。
いっしゅんだけ、視界が変わった。ノイズ混じりのその視界は、ぼくをこわすための準備運動だったみたい。
「あはは、は。なんで、なんでこうなるのかなぁ」
うふふ、と笑みがこぼれる。お父さんもお母さんも眠っているみたいで、ぼくの笑い声なんて気づきやしなかった。
さようなら、ぼくの右目。こんにちは、ぼくの新しい物語。