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1話 「出会いは唐突に」

 樹齢五百は超える桜の御神木の下で、俺は突っ立っていた。銅像のように堅く。誰が来てもいいように表情も硬くして。


 桜の花びらが地に落ちていくまで、スローモーションに感じる。時間間隔までおかしくなってしまったのだろう。なんせ、ここには巨大な桜の木と俺の家――春野はるの家しかない。つまりここは俺ん家の敷地内ってことになる。


 相変わらず土地だけは広いもんな、ここ。


「あらあらどうも、こんにちは。お兄さん。随分ずいぶんいきな格好をしていらっしゃるのね」


 花びらと共に現れたのは銀髪碧眼の女性だ。肩まで切りそろえられたショートボブに、灰色の長袖シャツと黒のキャミソールワンピース。黒い日傘を差して、靴も黒に仕上がっていて。黒一辺倒だからこそ銀髪と青い瞳が際立っている。


「あ、えっと。どうも」


 俺の粋な格好。それは多分俺の部屋着のことだろう。俺は洋服よりも和服が好きで、家では着物を着ることが滅法多いから。


「――貴女は、誰ですか?」


「私はエンジュ。ただの田舎娘な吸血鬼よ」


「へぇ……って、吸血鬼!? 現代でも存在しているのか!?」


「えぇ、残念ながら私は生き残りなの。それに何年も前からこの国に移住してる」


 吸血鬼が移住って。それこそ信じられない話だ。パスポートとか身分証明書とか偽装してるんじゃないだろうな……。


「は、はぁ……」


「綺麗な桜ね」


「当然だよ。俺らが代々受け継いで守ってるんだから」


 そうだ。俺達春野の一族はこの育ちきった巨大な桜を守らなければいけない使命がある。理由は単純で、ここ周辺の街を桜が見守ってくださり、時に災いから身をていして守ってくださるからだ。


「どうやらそれがあなたの運命みたいね。血筋から伝わってくるわ」


「そういうものなのか?」

「えぇ、そういうものよ」


「……そういえば、自己紹介をしていなかった。俺の名前は春野吉はるのよしきちと書いてよし。よろしく」


「じゃあヨシって呼ぶわね。それともハルノの方がいい? あなたが選んで」


「ヨシでいい。……いや、ヨシ()いい。ハルノだと長男としてのプレッシャーというか、責任感が溢れ出して眉間のしわが増える」


「分かったわ、ヨシ。まずはお友達としてよろしくね」


「あぁ、よろしく」


 彼女と交わした握手は冷たく、けれどどこか暖かい手の温もりを感じていられるのであった。


 これからの俺の物語(じんせい)に彩りがつく――。すなわち、新しいページが開かれる瞬間だった。

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