ベールに包まれた愛
夢を見た。
王宮でも別荘でもない、どこだかわからない。どこまでも続く雪原のような土地には訪れた事もない、そんな場所に一人佇んでいる。
周囲の音は聞こえず、鳥のさえずりも人の話し声すら存在しないようだ。
まるでどこか遠くの星に放り出されたかのような気がしてしまうし、或いは天国かもしれないと信じたくなるような。不快感も疑問さえも感じない世界だ。
もしもこれが天国なら身につけるドレスは何が良いだろうかと、つまらない事を考えた。
だが、思案する必要はないらしい。
既に装いはその場に相応しいもので、純白の飾りのレースも何もないシンプルなドレスだった。
しかもそれはありきたりのドレスではない。
小さな、とても小さな宝石の集合体は結晶のように光輝き、生まれて一度も目にした事のない美しい形をしている。少なくとも所持する宝石の中に、そんな物は一つとして。
不思議だ、シャロットは確かにアシュリーと婚姻の儀を行ったはず。なのにどうして天国で再び、そのような格好をしているのだろうか。
あの時でさえ、ここまで素晴らしく美しいドレスではなかったというのに。
ふとそこで、周りを見渡した。いない、まだ来ない、もうすぐ来るはずだ。
それが誰だかわからないが、きっと愛する人なのだろう。とても待ちきれない気持ちなのだ。
だからこそ気づかなかった。ヒールを履かずに裸足で立っている事に。
冷たさなんて感じない。寧ろ、暖かくて心地良いくらいだ。
雪がふわりと舞い踊り、形作っていく。
現れたのは真っ白な王冠を被り、やはり全身がシャロットと同じ結晶に包まれている彼。
瞬間、悟った。ここで花嫁になるのだと。
その時になって、ようやく気づいたのだ。着ているそれは二人とも雪の結晶を纏っているだけなのを。
シャロットは彼の差し出す手を取り、共に歩き出す。その手はとても冷たくて。
だから初めて疑問を感じたのだ。
どうして手だけが氷のようなのだろうか、雪面を踏む足は感じないのに。
彼に問い掛けた。
『貴方は誰なの?』
知っているはずなのだ、夢の中のシャロットはそれが誰だか。
すると、彼は答えた。
なのに聞こえない。雪音で耳に届かないわけでもないようだ。
『俺の花嫁は君だ』
――そうよ、私はアシュリーと……。ウィルとは今更どうにもならない。ねぇ、どうして跪くの? まるで雪の王様のようなのに。貴方はいったい誰?
☆ ☆ ☆
冷たさを感じる手が頬に伝わる。
目を開けて、それがレオンだと気づくまでには少しの時間が必要だった。
「どうして?」
シャロットの休んでいるその寝台の懐かしい匂いと感触に覚えがあり、そこにいるはずのないレオンがいる事にも疑問を覚えたのだ。
だからそれは、誰にというのではない思わず溢れた言葉だ。
「シャロット」
真上にある整った顔立ちのレオン。
「夢を見たの。手が冷たくて、とても安心できたの」
「熱を出したのですよ」
「レオン様がここへ?」
「兄上です」
「ウィルがどうして……」
「アシュリーには任せておけないと、それは凄い剣幕で」
「私が勝手に怪我したのですわ。サラにも何度も言われていたのに」
「それでもね、兄上は許せなかったのですよ」
「アシュリーはどうしているのでしょう」
「国王へ報告に」
「私も行きます。アシュリーは悪くないもの」
寝ている場合ではない。すぐに起きて事の顛末を話さなければ、彼が悪者にされてしまう。
そう思い、起き上がろうとするのをレオンが慌てて止める。
「大丈夫。シャロットの気持ちはわかりますが、今は安静にせねば」
「それはそうですが……」
「それに俺は兄上から貴方の看病をするように言われていますので、無理をさせては怒られてしまう」
レオンは肩を竦めて笑う。
「それに今は起きない方が良いかと……」
彼の言葉が尻すぼみになっていくから、その意味がわからなかった。
――どうして頬を染めているの?
思わず、顔を窺った。
本当に気づかなかったのだ。
――どうして別荘でのあの寝間着なの? いくらなんでもサラがこんな真似をするかしら。レオン様はもちろん、アシュリーの悪趣味もこんな場所で発揮なんてしないはずよ。
「おそらくサラが貴方を着替えさせる時に兄上がそれを……」
――ウィル! これでは寝台から出られないわ。まさかその為にわざとレオン様を見張りにつけたのね。
「俺は何も見ていません。今しがたの目の保養をしたとしても」
それはアシュリーやウィリアムとは少し違う笑みに見えた。




