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愛の囁きは密談の中で

「やぁ、シャロン。ジェシカは無事に行ったようだね」


 箱馬車の扉を自ら開けたまま、シャロットとレオンを見上げる。


「え、ウィル?」


 そこに立っているのは御者のオーバーコートを着た王太子殿下本人。


 ――この人は何をしているの?


「貴方、いったい……」


 ウィリアムは御者の格好のまま、颯爽と勢い良く足場に乗った。


「馬車馬を操るのはなかなか難しいね」


 次期国王らしからぬ身のこなし。

 それでもシャロットの隣に座ってオーバーコートの前をバサリと開けると、やはりいつもの彼がそこにいる。どうやらこのオーバーコートと帽子は王太子の変装には合っていたようで、少なくともシャロットに気づかれる事はなかった。


 ――知らなかったのは私とジェシカだけだったのね。


 そうでなければ、ここまで大掛かりな警護にはならないだろう。


「貴方が御者に憧れていたなんて知らなかったわ」


「馬を自在に操る男は女の上でも上手いのさ」


「兄上、失礼ですよ」


 ウィリアムはこんな風に子供っぽいところがあるが、国境近くまで無茶するとは。


「ウィル、こんな真似して。もしも貴方に何か起きたらどうするの?」


「大丈夫さ、レオンも騎士団もいる。危険な事にはならない」


「そういう問題ではないわ!」


 もしもウィリアムに何かあればグレースが泣いてしまう。


 ――どんなにお嘆きになるか……。


 すると、ウィリアムがシャロットの肩を抱くように手を回して言った。


「シャロン、そんな事態にはならないさ。僕が命に換えても君を守ってみせる」


「私はいいのよ、何か起きてもアシュリーには新しい伴侶ができるもの。それよりグレース様が嘆き悲しむのだけは嫌なの」


「シャロン、君を愛しているよ」


「ジェシカも貴方に愛されたかったはずよ」


 ウィリアムはシャロットの髪に口づけて言う。


「見送りに僕が顔を出すわけにはいかなかった。王太子の情けがジェシカに見えてしまうと里心がつく。これでも彼女を愛人に据えた責任を感じているからね。これからあの国でジェシカにどんな未来が訪れるかわからない。だから上手く男を乗り換えた女くらいの箔をつけて堂々としていて欲しいのだ」


 ――それ、私の事ではないわよね?


 思わず隣で楽しそうに笑っている彼の顔を見上げた。


「シャロット、兄上はこれでもジェシカ嬢を心配なさっていたのですよ」


 レオンがフォローする。


「おい、レオン。僕が心配なのはシャロンの方だ」


「それは俺がシャロットと二人きりだからですよね」


「レオンはアシュリーと違って真面目を絵に描いたような男だ。だが、女に関しては奥手で一向に婚約者の一人もできない。それはどうしてだ? シャロンの存在があるからだろ?」


 ――あの……本人を前にして何の兄弟喧嘩ですの?


「もしもアシュリーより先に求婚していたら、今頃はどうなっていたのだろうな」


 ――だからそういうのは本人のいない所でお願いしたいわ。


 二人が睨み合う原因がシャロットなのは明白だ。


 ――私はいったいどんな失敗をしてしまったの?


「兄上、そういう話はシャロットのいない所でしませんか?」


「では、アシュリーも含めて三人で改めるとしよう」


「ウィル、いい加減にしないと怒るわよ」


 そう言って睨みを効かせた目でウィリアムを見たのだが、これも失敗だったと気づいた時には遅かった。


「あぁ、シャロン。愛するシャロン。僕は君の下僕だ」


 ――そんな甘い求愛めいた台詞を堂々と言うのよ、ウィルという男は。


 どうやらシャロットの、その瞳に映る光が愛を囁いているように見えるらしい。


「その台詞、騎士団の方々には決して聞かせないでね」


 ――白い目で見られるわ、絶対。


「連中はシャロンへの僕の愛は知っているさ。もちろんグレースとは別のね」


 ――どんな顔をして皆さんの前に出たらいいのかしら……。


 シャロットはいつまでたっても愛人のままなのかもしれない。


 ――アシュリー、貴方のせいよ。



 ☆ ☆ ☆



 結局、王宮に着くまでウィリアムの甘い台詞が途絶える事はなかった。


 まるでシャロットの記憶に植えつけて忘れさせない為、一番愛しているのは自分だと呪文でも唱えるかのように。

 彼が実は嫉妬深いのではと思ったのがシャロットだけではなかったのは、レオンの苦い顔を見た時だった。


 そして馬車が大きく揺れる事もなく静かにリズムを刻むのは、王太子本人がそこにいないからだと二人とも安堵したのは内緒だ。

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