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きっと私の心と同じ色

「腰が痛くてたまらないわ」


「これくらいで音を上げるなんてシャロットも情けないな」


「私はドレスなの」


 言いながら両手を腰に当てて擦る仕草をした。


 ――本当に痛いのよ。許されるなら寝間着のままでいたいわ。


「そのドレスを脱がしてやろうか」


 ――にやついた顔、言いたい事はわかる。どうせ私のその姿勢が豊満なそこを強調して見えるからなのでしょう。


「貴方の台詞は私には効かないわ」


「やれやれ、本当に可愛くない女だ」


 鼻をフンと鳴らしたアシュリーが馬車の窓から外を眺める。

 雪山が見えて来た、目的地まで後もう少し。



 ☆ ☆ ☆



 王宮を馬車で発ったのが五日前。

 今回は時間制約の必要な公的視察ではないから、途中で王宮の別邸に立ち寄り休憩しながら、わりとのんびり揺られていられる。


 結婚して半年以上経つ二人には、まだ子の宿る気配がない。 

 誰もがまだかまだかと期待を寄せる。まるでそれが当然だと言うように。

 だからこれは所謂、子作りの為の旅なのだ。



 ☆ ☆ ☆



 ついほんの数週間前、アイザックに呼ばれて私的な夕食会の席に着いた。王妃はもちろんウィリアムやレオンも。

 グレースは出産後の影響を考慮して控えられたが。


 ――そう、ついに可愛い王子が誕生したの。まるで天使のよう。


 国中の民が喜びに沸いた。誰もが待ち望んだ日だったのだ。


 ――本当に涙が出るくらい感動したわ。さすがのウィルも感極まった嬉しそうな顔をしていたわね。きっと、だからなのよね。


『アシュリー、シャロット。二人に休暇を与える。我が国より北に位置する避寒地に多くの貴族が所有する別荘があるのは知っているだろう。そこには例外なく、私達の別荘もある。夏はもちろん湖で泳ぎ放題、野山で走り放題。雪山近くだから今の季節は滑るのも埋もれるのも好き放題だ。だが、あの国はとにかく雪が多い。昨年はあまりの降雪量に訪れる者は少なかったと聞く。そこで二人は彼らに先立って行き、素晴らしい土地だったと次回のパーティーで自慢してもらいたい』


 避寒地を有していない国や同様の貴族連中を、羨望で誘い込むのだ。我が国からの訪問が増えれば、どちらに対しても恩を売る事ができる。


 名目上はそうだろうし、真っ当な理由でもある。だが、国王夫妻の考えは別の所にあるのを二人は知っている。

 休暇なのにわざわざ雪山を選ぶ必要はない。二人とも外で遊べやしないのだから。

 つまり雪国の別荘地に閉じ籠って子作りしろという事だ。 

 その環境を作ってやるのだから、この機会を逃すなという意味なのだろう。


 ――あの国王なら考えそうな事よ。だって私にこっそり耳打ちしたの。


『シャロット、私が手伝ってやってもいいのだぞ』


 ――アイザック、貴方は天が遣わした失敗作ではないかしら。私の腰に添えられたその手が証明していると思うのよ。


『アイザック』


 ――王妃から耳を摘ままれる国王の情けない姿は胸をスカッとさせたわ。



 ☆ ☆ ☆



「これからここが俺達にとって最初で最後の記念の時間になるかもしれないな」


 別荘に着いた時、外を眺めながらアシュリーはそう言った。

 最初で最後。それはきっと彼にとってシャロットという女が重要でないからだ。

 二人が夫婦になって以来、閨を共にしたのは初夜の日を含めても数回だけ。それ以外はほとんど女の所。


 ――私はいつも二人の寝室で身を綺麗にしてから寝るの。いいのよ、それが務めだもの。だってそうでしょ? 貴方にとってあの方がどれだけ重要なのか知っているもの。それが私達にとって結婚の条件だったから。


 先に降りたアシュリーがシャロットに手を差し出した。一応は夫らしい振る舞いをするつもりのようだ。

 ところが馬車に座りっぱなしで揺られる振動から腰が悲鳴を上げていた身体は、立ち上がった瞬間にぐらりとバランスを崩してしまった。


「大丈夫か?」


 アシュリーが心配そうな声を掛ける。


「えぇ……」


 アシュリーの手を取って馬車から降りると、さすがに避寒地。あまりの凍える寒さにぞくりとした。

 まだ周りには雪がたいして積もっていないというのに。

 もしかしたら、この数日の内に積もるかもしれない。それも多くの雪が。


「寒いわね」


「平気か?」


「ドレスの上からコートを羽織っているもの」


「こういう時は寒いから温めてとか甘えればいいのに。君は本当に」


「可愛くないのは承知しているからいいのよ」


「俺は別に……」


「雪が積もったら遊べるかしら。そしたらきっとくたくたに疲れて寝てしまうわね」

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