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語る脳子と、綴るは我子  作者: 木ノ倉ラ
四節 熱部霊魂
36/43

4-4 秘匿真性/ロンティエル

Δ



 少女の目には奇妙なものが映っていた。


 丁度、ラベストリとローレンの呪術合戦が佳境を迎えていたときだった。輝く光球が背の高く整った顔立ちの男の体内に勢いよく飛び込む。そしてその光が強くなる。まるでわけが分からなった。


 しかしイルファンは彼に見覚えがあった。


 あいつは琥珀の剣を自分に渡した男だ。敵か味方かはいまいち分からなかったが、何処となく偉そうな奴だった。とはいえ、あの禍々しく光っているもはは身体に良さそうではない。彼は大丈夫なのだろうか、と少女が心配した瞬間に男が何かを呟いた。すると光の球の力は徐々に弱まって嫌な気配も失われていく。


「なんなのこれ」思わずイルファンは呟いた。 

「『葬送儀礼』という文化と魂概念を逆手にとった封印呪術だ」


 その声に振り返れば、背後に両腕を怪我した男が立っていた。


 彼にもたれかかるようにして、満身創痍のリアトも立っている。イルファンは自らの師匠が死んではいないことをひとしきり確認すると、とびきり嬉しそうに「めっちゃ生きてる!」と叫んだ。


「あぁ、生きている」リアトが優しく答えた。

「当然だろう。この俺が死なぬようにずっと見ておったのだから」剣王が言った。


 リアトは兄の自信に満ち溢れた言葉に、顔を顰めた。彼女としては当然ながら面白くはない展開である。兄が十界法則をある程度読んでいたというのを考慮しても面白くない。そもそも、この男の目的は何だったのか。


「兄様、いつから傍観していたのですか」傍観に力を込めて、リアトが問うた。

「『歪場』としての深淵が開かれて、屋敷が崩壊するのとほぼ同時に侵入した。俺ほどの靈気が気取られぬように入るのは、あの瞬間しかなかったのだ。まぁロンティエルは多少勘付いていたようだが」


「そう、それ!」レアーツの言葉に、当の本人、イルファンが強く反応した。

「すっごい聞きたくない話になりそうなんだけど、なんで皆、私を狙うわけ?」


「それは、」


 リアトが答えようとしたその時、ついに『深淵』が解除された。



Δ



 砕け散る岩盤の向こう側には一人の女が倒れている。


 彼女の身に纏う衣は非常に薄く、宍色の肌がわずかに透けて見えていた。ローレンはその肉体がロンティエル=デルフォイのものであることを確かめると、その傍へと近寄り、細い腕の脈部に指先を当てがった。驚いたことに、彼女の肉体はまだ温かい。心臓の鼓動も止まってはいなかった。


 ロンティエル。

 魂の片割れに捨てられたこの肉体は何ら異常なく生きているらしい。


「ふむ。私に捕えられたのは存在位格の一面のみ。本来の位格はいささかも失われておらぬのか。これは事後処理がしやすくて助かるな」ローレンは呟いた。


 そのとき彼の背後に、ぺたぺたと湿った足音を響かせる一人の人物が近づいた。振り返ったローレンは、そこに若い男、しかしとても疲れている様子の男を認めた。彼はランツという名を持っていた。


「ランツ、いやもはや単純なそれではないな。私にさえお前が何に変化してしまったのか分からんよ。ランツか、パーンリアか、あのラクトなのか。それとも、奇怪な混淆物か?」

「さぁ。僕にも分からないな。記憶が継ぎ接ぎになってしまった」


 ランツ、あるいはその記憶の一部だけを留める泥人形はそのように答え、彼の答えはローレンを納得させた。たしかに人格とは記憶からなるものだった。


 青年は重そうな身体を動かして、ロンティエルの隣に座り込む。彼は愛しげに姉を見つめると、彼女の上に何処かから見つけてきたであろう布の切れ端を掛けた。やけに良い生地である布きれには、よくよく見れば、何かの図柄が描かれていた。


「これは、デルフォイ家に敷かれていたものか」ローレンが言う。


 ランツは気付いていたらしく、その布の、最も神聖な部分に手を当てがった。それは『アディアラの夜宴』にて邪竜を討伐した聖騎士の頭部である。精巧に織られた布は、彼の表情や細工をあますところなく映し出していた。


「デルフォイの仇敵、聖騎士ラオネス、またの名をラエス=ルーミン」

「貴方の父によって送られた代物だ」努めて冷静に、ランツが語った。


「皇王ラハリオは乾湿戦争の最中、ここの滅びの象徴を縁起物として送り付けたんだ。デルフォイとラベストリが、ノーラン家に絶対の服従を誓う様に、脅しと侮蔑の意を込めて」


「それで憎しみを募らせたのか? 反乱を企てるほどに?」

「いいや。触発されたのは叔父上たちだけだ。それで十分だったけど」


 ランツの表情には今までにローレンが見たことのないような色が浮かんでいた。悲哀とも憎しみとも、諦めともつかない、混ぜ合わせて汚濁のようになった色。彼自身が混ざっているためにこのような色が生まれるのだろうか、とローレンは思った。


 父の意図は知る由もない。だがデルフォイへの挑発は単なるお遊びではあるまい。彼がこの絨毯を送ったことの裏に、反乱分子の炙り出しがなかったとはいえないだろう。それどころかローレンは、父ならば他にも数多の工作を仕掛けたはずだ、と思った。デルフォイの小規模な反乱を、父が事前に阻止したのは、果たして偶然だったのだろうか。


 すると、ランツが覗き込むように、考え込むローレンの眼をじっと見つめた。


「貴方がラクトを処刑したことも無関係ではないのだ。いやむしろ、僕と姉にとっては、そのことの方が遥かに大きな憎悪を生んだ。僕は打ちひしがれ、姉は狂い、そして、姉は別人のように残忍な性格を持ちはじめ、しかし父はそのことに歓喜した。狂うことが偉大な呪術士を生むのだとアランドは僕に言い、僕にも狂えと告げたのだ」


 ローレンは何やら、恐ろしい話を聞いているように思えた。自らが彼らの人生を狂わせたことよりも、それに利益を見出すアランドに恐怖した。あの男にはやはり、父や子といった関係性への敬意は少しもありえないのだろう。それを見て、呆れたようにランツが語り始める。


「あぁ。貴方も狂っているんだな。少しも反省しちゃいないんだ。だから僕だって狂わなきゃならなかった。術式技術が必要だと思い、幾千もの術式を頭に叩き込んだ。次に時代を動かすものがあるとしたなら、それは術式技術だと、そう思ったからね」


 しかしそれでも、貴方には到底敵わなかった。術式だけでは熱部は貴方から力を奪い返せないのだ、と悟った、とランツが言った。そこから彼がどのように転落し、ロンティエルが何に魅入られたのか。ランツの口から聞くまでもなく、ローレンは知っていた。


 呪術士としての力を再び、呼び戻すこと。強大なラベストリの存在位格によって、ノーランを打倒すること。それがいつしか、彼らの目的そのものへと置き換わっていく。しかしローレンにとっては重要なそれも、ランツにとってはそうではなかった。


 青年は疲れたように呟く。


「貴方だって自分の言葉しか聞いていないんだ」

「あの少年の処刑を咎められる謂れはない」


 この言葉にはローレンも正確に反応した。だがそれは単にそう決められているからそう言うのであって、本心からローレンが処刑の是非を考えたわけではなかった。本質的にローレン=ノーランには物事を考えるのに不向きな人間なのだ。


「咎めようとは思わないさ。貴方は自分のことにしか興味がないんだ。そのことを悪いなんて言えやしない。でも、その態度が僕や姉を狂わせた。僕らを呪わせたということを少しでも感じて欲しかっただけなんだ。この言葉も届いちゃいないだろうけどね」


「規範を破った者を処刑して問題があるのか?」


 ランツの声はローレンの頭には入らない。彼の嘆きは文化膜によって事象から抹消されてしまった。故に皇太子はまったく関係のない話を始めてしまった。そのことにすら気付いていないのだ、とランツは思った。これが恐ろしき呪いの正体なのだと、ランツは沈黙した。


「しかし解せんのは、」ローレンが話を断ち切って尋ねた。

「貴様らほどの呪術士が回りくどいことまでして、あの少女を求めたことだ」


 仕方なくランツがローレンの疑問に答えようとしたその時、何者かがランツの背中を叩いた。驚きながら振り返れば、そこには純白の小さな手と琥珀の髪があった。彼女は口元をきゅっと締めながら、何か言いたげに青年を見つめた。イルファンは苛立ちと悲しみの混じった眼をしていた。


「イルファン。君には申し訳ないことをした」ランツが言う。

「嘘吐かれたのはもう許してあげるけど、ちゃんと謝らないとしばく」


 少女が右の拳を握り固めてそう言った。地下室と森での記憶は、ランツの中にも朧げに残っていた。反射的に青年は身を守るが、少女は優しくその腕を叩いた。幼い頃のローレッドでの記憶は、もはやランツには存在しないのだろう。そう知っていながらも、イルファンは腕を叩かずにはいられなかった。


「すまなかった」青年が頭を下げる。

「いいよ」少女がぶすっとして言った。


 ローレンが奇妙なものを見るように、少女と青年を見つめる。すると、彼ら二人の後方で、リアトとレアーツが自分と同様に少女を見つめているのが見えた。思わず、ローレンは眼を逸らす。しばらくの間は邪魔者らしい、と彼は思った。だがそのとき、


「ローレン、僕の話を聞いていけ。イルファンもだ」


 ランツが声の調子を変えて言った。


 面喰らいながらも、少女とローレンは真剣なまなざしでランツの次の言葉を待つ。恐らく、これから語られるのはイルファンという少女の秘密だと予想された。遠くのほうでレアーツ=ルーミンが苦々しげな顔をする。なるべく、多くのものにはこれを知られたくなかったらしい。推測でしかないが、きっとイルファン=バシリアス自身にも。ローレンは少し身構えた。


「何の話をするつもりだ」

「呪術ではないよ。ある意味では繋がっていく言葉はすべて呪術かもしれないけど、今から僕が話すのはただ単なる事実で、それはこの場にいる人間みなに関係があるともいえるものだ」

「そんな話があるとは思えんが」ローレンが言う。

「歴史を知らなくてもいいなら帰ってくれて構わないさ」


 ランツが口を開いた。

 まるで芝居をするかのように開いた。


「昔々、乾湿戦争が始まる前のことだ」



Δ



 いまだ二十四定式の魔法が知られておらず、誰もが剣を振っていた時代。

 遡ること八十年前はそのような時代であった。


 当時、大陸乾部の覇権を握っていたのはチュニス連邦共和国。数百を超える貴族による合議制が行われていた巨大国家である。宗教や文化に寛容なチュニスは様々な国の人間を取り込み、肥大化していった。この時代、汚職や内紛、見えないところでの侵略戦争は絶えなかったものの、概ね、中央大陸は平和であったと言ってもよい。特に湿部は昔ながらの王国制を維持し、非常に安定していた。


 時代の流れが大きく変わるのは、予言歴九四二年のことである。

 この年、チュニス連邦の冷部側で恐るべき『病』が大流行した。

 それは本来ならば、人間が決して罹らぬと伝えられるはずの病気。


 今日では『古い魔獣病』と呼称される、旧型の魔獣病である。


 チュニス冷部側の大領地のほとんどが隔離地域となり、多くの都市が混乱と叫喚に陥ったその様はまさに地獄と伝えられている。冷部の四大領主は事態を知るや、すぐさま連邦に助けを求めようとした。しかしチュニス連邦会議はそこで非情な決断を下さねばならなかった。自らの領地の民を守るために、彼らは冷部へ通じるすべての道を封鎖したのである。


 元々、チュニス連邦は冷部と熱部の間に険しい山々を挟んでいる。竜の住まうと言われる巨大な霊山がある限り、病の侵入はない。そう踏んだチュニス連邦は国境の行来を厳格に禁止した。もちろん、これは何ら罪責のあることではない。チュニスは共和制の国家である。自らの領地の安全が最優先であった。


 だがこの隔離によって、冷部の住民は大都市以外の逃げ場を失うこととなる。当時から大都市には病をも防ぐ結界術式が張られていた為に、農民も市民も戦錬士も皆がこぞって大都市へと移り住んだという。


 このとき彼らが恐れたのは病に感染することではなく、病に感染した者が悍ましい魔獣へと変化してしまうことであったと伝えられている。魔獣化を防ぐためには罹患者を変躰前に殺すしかない。親しい者を殺すことの辛さと殺されることの恐怖が、ともに病を隠した。そうして、厳重に封鎖していたはずの大都市にまでも病は入り込むことになった。


 当然、内から封鎖された大都市の中で魔獣が発生することは致命的な事態をもたらした。人間が変躰したすばしっこい魔獣たちは、傭兵や術士の手を掻い潜る。下水道や裏道に巣を作り、そして病原菌を街中にばら撒いた。聡い者たちは、魔獣が目撃されるとすぐにその街を去るということを続けたのであるが、事態はその程度では収まらなかった。なぜなら乾部の街で魔獣がいない街など数えるほどしかなかったからである。時に魔獣病が根絶された街もあったが、多くの街は早々に崩壊した。


 また魔獣病ばかりが熱部崩壊の原因ではなかった。

 主な原因は飢えである。


 農耕や牧畜といった生命に直結する営みが出来なくなってから、冷部の市民たちは自らの備蓄していた食料を切り崩していくしかなかった。チュニスとの貿易もできない状況では食料はただ減るのみ。多くの人間がそのために死んだのであった。


 都市へと逃げ込んでくる大量の難民には、食料など欠片ほども行き渡らない。上位階級や大商人へと憎しみは向けられ、多くの都市で反乱が起こったという。しかし、有力者を惨殺したのちに城館の備蓄庫を漁った市民たちは絶望した。そもそも彼らの住む街には余った食料など何処にもなかったのだ。それらはすべて混乱の最初期に分け与えられていたのである。他ならぬ領主の手によって。


 人々は絶望した。その絶望は新たなる犠牲者を増やすことに向けられた。そうすることでしか彼らは苦しみと憎しみを癒せなかったのである。まさに恐ろしいのは、人間の怨嗟の念というものであった。


 冷部の人間たちは、支援を打ち切っただけでなく街道までも封鎖した『チュニス共和国』を憎んだ。そのために彼らは、正常な戦錬士たちをわざとチュニスへと送り込み、一つの噂を流させたのである。「冷部で滅びた街には大量の財がそのまま残っている」という噂を。これは復讐であった。


 欲に駆られた傭兵たちが、正規ではない道を用いて冷部に侵入したという。そして病など怖くはないとばかりに魔獣を狩り、財宝を略奪していった。口元に大きな布を巻き、まるで真交流の剣術士のような出で立ちの傭兵たちは恐れられることに悦びを見いだしていた。街に残ったわずかな健常者たちを魔獣のようにさらりと殺していく者たちは、持ち込んだ小型の結界術式と古い薬草を使用していた。それで自らの安全だけは確保していたつもりであった。


 しかしもちろん、彼らのような略奪者たちも病には勝てなかった。多くの罹患者がそれと隠したままにチュニスへと戻り、体調を崩したまま治療を受けようと街に入った。そして治し切れずにおぞましい魔獣へと姿を変えていく。『獣棲士≪やまいもち≫』がその姿を魔獣へと変躰させていくときのように。誰の目にも明らかだった。乾部に安全なところなどもはやない。


 気が付けば大陸の乾部にあるほとんどの国家で魔獣病が発生していた。


 こうなればもはや止められるものではない。発生からわずか二年の内に、病は乾部から熱部へ、そして湿部へも広がり、大陸は平穏とはまるで言えない状況に陥っていた。大陸全土で人口は四分の一以下に減り、小中都市の五分の三が滅んだと言われている。憎悪と苦しみがあまたの国々を滅ぼしたのだ。



 この魔獣病への対抗策を最初に見つけたのは、チュニス冷部のある領地であった。古くからの文献を守ると伝わるこの地『エズアル』の者たちは、まず領地の近辺に馬を出し、罹患しない者だけを一ところに集め続けた。中には時間差で発症する者もいた。むしろほとんどの者がそうだったために、試みは多くの犠牲を出したという。


 しかし数えきれない失敗ののち、ついに、病に罹らない人間が見つかった。

 人口が最も減少した冷部だからこそ見つけることができた特異者。

 それこそ『琥珀髪』と呼ばれる、グレル=ティア人の末裔の一派であった。


 彼らが琥珀髪と言われるのは単純な理由であった。彼らの髪が琥珀色なのである。金色とも茶色とも異なる、深みを帯びた黄色。力を溢れさせるほどに透き通るという琥珀の髪。彼らの姿は、がらんどうになった大都市の中で異彩を放った。


 しばらくの間、琥珀髪の者たちはエズアルで救世主として崇められることになった。


 彼らの血液に特効薬があるのか、それとも靈力にあるのか。

 多くの著名な学者がエズアルに集結し、彼らの研究を行った。

 研究は一年を超え、何人もの学者たちがその間に命を落としていった。

 そのような中でも琥珀髪はただ一人として減らなかった。


 研究は過熱する。


 老いた琥珀髪の男が姿を消し、翌日には研究が一歩前進していることもあった。うすうすは誰もが感づいていた。尋常の手段では成果など得られない。これ以上の研究を行うには、琥珀髪を非人道的に取り扱う必要さえあるのではないか、と。それが王に伝えられる前に、学者たちはすでに琥珀髪を殺していた。彼らは、琥珀髪の脳に秘密があるのではないのかと推論し、手始めに数十人が実験室へと回された。秘密裏に。


 だがしかし、成果は得られなかった。

 どれだけ研究を重ねても彼らの特異点は髪だけだったのである。


 いつしか、人々の琥珀髪に向ける目は呪を帯びていた。狂気に駆られた者どもは、まだ街に住んでいた琥珀髪を殺し、その血を啜った。皮を剥ぎ肉を切り裂いて、それを薬として喰らった。巷の露店では琥珀髪の骨粉がまことしやかな薬として売られていた。特に髪付きの頭骨は、病除けの呪具として高値で取引されたという。無論、かような呪術めいた行いには何の効果もなかった。されど、人々の心を抑え込むためにはそれが最善手だったのかもしれなかった。


 元々、琥珀髪という種族はそれほど多くは存在しない。それ故に、彼らが危機感を覚えてから逃げるまでに時間はかからなかった。ある夜、エズアルの収容所で大規模な反乱が起こり、すべての琥珀髪が闇のなかへと消えた。そして美しい髪を布で隠して、あるいは根元から剃ることで彼らは隠れたという。その逃げる琥珀髪を率いた男が、ヴェルディア=バシリアスであった。男は琥珀髪の長にして、類まれなる剣士であった。男は一言だけ残した。


「人のままで死なれよ」 


 こうして、エズアルの魔獣病研究は終わりを告げたかにみえた。しかし、琥珀髪が一夜の後に消えてから半年後にエズアルは魔獣病に打ち勝ったのである。確実に治せるものではないが、非常に有効な新魔法が生み出されたのであった。この魔法は『安定化魔法術式』と呼称され、各国に伝えられた。これは魔獣病の病原体そのものを殺すものではなかったが、病の過程を正しく理解した病見士にはその価値が分かった。


 重要なのは、病原体そのものの根絶ではなく、『変躰』を食い止めることだった。そこに的を絞れば、薬剤との併用で十分に魔獣化は止められた。本質的にはこの病は単なる風邪と変わらないものだったのである。これは琥珀の民が病に罹らぬ理由を探るうちに、分かったことであった。琥珀髪の研究は無駄ではなかったのである。しかし当の琥珀髪にとっては、それは果てしなくどうでもよいことであった。


 予言歴九四四年。

 エズアルに治療院が開かれ、医療学校ナウィネフが開設。

 ここを中心として、魔獣病は少しずつ勢力を弱めていくこととなる。


 大陸全土で猛威を振るった魔獣病であるが、エズアルにとっては好機でもあった。エズアルを含めた冷部での魔獣騒動が収まるやいなや、この地域はチュニス連邦共和国からの永久なる独立を宣言した。エズアルの領主であったバルドレア=ゲーレン・マルドゥシアは国王を名乗り、魔獣病で力の落ちた諸領を征服、三年ののちには、領土はチュニスと同格となった。


 その時点でバルドレアは自らの存在位格を『皇帝』へと昇格させた。領地を『大エズアル帝国』と名付け、乾部の新たな支配者に君臨したのである。国力の落ちたチュニスは歴史舞台から降り、エズアルの時代が幕を開けた。


 しかしそれは、乾湿戦争という名の、血塗れた歴史の始まりでもあった。

 エズアルのチュニス攻撃を機に勃発した大戦争は、多くの英雄を殺した。

 病を生き延びたものたちでさえ、同じ人間には勝てなかった。


 双方に大きな犠牲を出し、それでも求められるがままに戦争が起きる。

 ひとつの戦地が片付いても、また次の戦地が生まれるだけだった。

 ひとりの英雄を殺しても、また次の英雄が生まれるだけだった。

 

 第一次乾湿戦争が終結し、束の間の平和が訪れ、

 生まれた子どもが育ち、そして兵士となって、

 第二次乾湿戦争に旅立っていった数十年の繰り返し。

 逃れることができないまま、人々はただ戦い続けていた。


 そうして、時は予言歴九九六年。

 乾湿戦争が新たな局面を迎えてから数年後である。

 時は既に、乾熱部の三大国連合と冷湿同盟の混戦期。

 乾湿戦争は小競り合いの段階を終え、いよいよ本格的な戦争となっていた。

 すなわち大戦末期。九八四年より始まった第二次大戦の真っ最中である。

 琥珀髪が姿を消してから実に五十一年もの月日が流れていた。


 強大な剣術士の衝突と大規模術式陣の連発により、大陸は荒廃していく。誰もがこの争いを止める手段を模索しながらも、有効な手立てを打てなかった。戦局は五分。一見、術式技術と靈気剣術に優れた冷湿同盟の優勢に見えたものの、決定打となる一撃を与えるほどには、湿部の剣術士の数は多くはなかった。もちろん剣の戦いでは「群の力」よりも「個の力」が物を言うのであるが、いざ戦争となれば、領地を守り、そしてまた奪うという能力が必要になる。その為に必要なのはやはり、点の駒ではなく、面を支配できるような駒であった。


 両軍が互いに互いを攻めあぐね、戦況が完全に硬直する。

 だが、戦の安定期を迎えようとする大国を、一人の男が揺るがした。

 彼の名こそヴォファン=バシリアス、

 琥珀髪の若き英雄にして『怪物』である。


 消えた琥珀髪は再び歴史の表舞台に姿を現したのであった。



Δ


 

 語りは軽やかであったが、不思議と重苦しさが立ち込めていた。

 ランツがヴォファンの名を口にした時、女が口を開いた。


「ここからは私が話そう。ランツ、任せてくれないか」

「もちろんです、リアト様。これは貴方様から語られるべき史実だ」


 師匠であるリアトがいつの間にやら傍にいたことに、イルファンは驚いた。あのランツの話をずっと聞いていたのであろうか、眼が大きく開かれている。まるで何かが心の底から溢れ出すのを抑え込むかのように。


 その一方で、ローレン=ノーランは心底、つまらなさそうに話を聞いていた。化け物じみた少女の秘密を知ることが出来ると思ったのに、話されたのは、貴族であれば誰もが知るような現代の歴史である。つまらないどころか、反吐が出る程に聞き飽きた逸話伝説の類には辟易していた。


 それに付け加えれば、いささか、誇張があるようにも思われた。

 ローレンの記憶では、ヴォファンはただの強力な傭兵だったのである。

 それがまるで戦争の鍵を握る人物のように、彼は扱われていた。


「要点と結論を言え。私は暇人ではない」ローレンがぼやく。

「すまないローレン。だが是非とも聞いていて欲しいのだ」リアトが言った。

「これ以上くだらん話が続かんことを祈っている」

「よかろう」


 リアトが口を開いた。


「……琥珀髪の若き長たるヴォファンが参戦したのには理由があった」

「戦で名を上げるのに大層な理由が必要か?」


 ローレンの憎まれ口を無視して、リアトはイルファンに語り始めた。

 少女は話が始まってから、ただの一言も口を聞こうとしなかった。



Δ



 予言歴九九六年。

 第二次乾湿戦争の半ばである。


 この時、ヴォファンは齢二十四とまさに剣術盛りであった。

 確かに腕を見せつけたいという欲はあったかもしれない。

 しかし、琥珀髪は普通、隠れ住む民族である。

 たとえヴォファンが闘いを望んでも仲間の為にそれは出来なかっただろう。


 では何故、彼は仲間を危険に晒すような真似を自らしたのであろうか。結末から述べれば、彼が乾湿戦争に参戦した直接の理由は『死の恐怖』であった。しかし、彼の動機を探るにはわずかな時間を見るだけでは到底、不十分である。全てを余すところなく知る為には、まず琥珀髪の過去から知らねばならない。


 そもそも九四五年に消えてから、琥珀髪は何処にいたのか。


 当時の長、ヴェルディアに率いられた琥珀の民は、新天地を求めて冷部に逃げていた。乾部と元々敵対していた上に、気温が低く、魔獣病が流行しにくい冷部、ここまでは流石のエズアル人も追ってはこないと踏んだのである。事実、ヴェルディアの元での平和は冷部の大国エレングルとともに長く続いた。魔獣病はエレングル王国の一部の民を蹂躙したが、それとてすぐに終息を迎えた。


 このままエレングルに留まれば、誰もが幸せであったに違いない。

 されど運命かはたまた十界法則の為せる技か、

 琥珀髪はまたしても危機にさらされることになる。


 それは一つの戦争を切っ掛けにして生じたものであった。


 時は九八四年。

 二度目の乾湿戦争のはじまりに遡る。

 

 この年、乾部の巨大国家である『大エズアル帝国』は、大規模な地上侵攻を開始した。それまでの竜兵による『空略』を中止し、十万の兵を用いて、冷部国家を攻めたのだ。魔獣病で国力の落ちていた冷部小国家フルクディアンは半年の内に陥落、調子づいたエズアルは、そのまま大国であるエレングル王国へと手を伸ばした。


 バルドレア=ゲーレン・マルドゥシアが息子、『操竜王』デスティリア=リルケ・マルドゥシアは野心家である。しかし、彼がただ野心を持つだけの王であれば、数百年に渡って守られてきた冷部の巨大砦『龍神の口』を落とすことは出来なかっただろう。デスティリアには大望だけではなく、強大な力があったのである。彼が最も信頼していた剣の一族、『ガラマール』の力が。


 ガラマールは数多の砦を落とし、数多の兵士を屠った。遂にその剣がエレングルに触れた時、この大国は巨大な氷の壁を用いて、かの者の歩みを止めようとしたが、それすら『竜王』の前には矮小な障害物としかならなかった。そしてまた戦いは繰り返された。終わることを知らぬ歳月のように、誰もがそれを受け入れるまで剣は振られ続けた。



 有名な『冷壁の戦い』によって冷湿部と乾部の衝突が必至となってから十年。第一次大戦と異なり、特殊術式士の参戦によって戦局は混乱の一途をたどっていたが、『リオラン=グラットの悪夢の日』ほどに恐ろしい事件は起こらなかった。ただ、強大な力を持つ『大規模術式魔術』が幾つもの国を焼き、幾つもの森や平原を焦土へと変えていっただけである。すべてを呑み込む戦火などこの世ではさして恐ろしいものではなかった。なにせそれはもうずっと続いていたのだから。


 その間、琥珀髪は隠れ里から一度も出ることなく自分たちの存在の痕跡を消すことに努めた。幸いなことに戦火はエレングルを焼きこそすれ、琥珀髪たちの元までは至らなかった。そのため、彼らは迫害の日々を恐れながらも気ままな生活を送ることができた。特に、まだ幼いものたちや若い者たちは魔獣病のことをほとんど知らない。彼らにとってはエレングルの山奥が生まれ故郷であった。そしてヴォファン=バシリアスも、そんな琥珀髪の若者の一人であった。このとき、男はまだ22歳になったばかりであったという。


 それは、一人の琥珀髪の女が高熱を出して倒れたことから始まった。沸騰するような熱さの中で、その女は苦しみ抜いて死んだ。細い喉からは獣のような声が漏れ出しており、気が狂ったかと思うような目がヴォファンを貫いた。彼女、青年の許嫁は呪術を受けて殺された、と幾人かの者が言った。


 まるで悍ましい『魔犬ギリベス』のように突き出た顎、鋭い牙、血走った眼。骨という骨は変形し、皮膚からは褐色の毛のようなものが生えていた。魔獣とも人間ともつかない異形の死体。自らが愛した女の肉体は、いまや怪物のそれを成り果てていた。美しい琥珀の髪は穢れた茶色に染まっていた。


 このとき何故か、ヴォファンは愛しいものを奪われたという憎しみを感じなかった。だが、背筋を伝う恐怖の感情だけは、確かに本物だった。


 このような穢れた肉体を、ヴォファンはすでに見たことがあった。それは人間のものではなく、原種動物のものである。エレングルの平原や森の中では、かような奇体のものが見られた。琥珀髪の老人たちがさまざまな推測を重ねていた奇妙な生物の死骸。ねじ曲がったような骨と筋肉に引き攣れた皮膚。まさに自らの許嫁と同じ症状である。老人たちがあの生き物を非常に危険なものとして扱っていたことをヴォファンは知っていた。


 許嫁の奇妙な死について、琥珀髪の寄り合いが開かれ、識者たちがかの禍物を注視する。祖父である長老ヴェルディア=バシリアスはその正体をすぐに見抜いた。これが、かつての『魔獣病』と同じものであるということに気付いたのである。


 まさしく、彼らが遭遇した新たな敵とは『若い魔獣病』と呼ばれる病であった。この新たな病は、驚くべきことに琥珀髪にすら発症し、肉体を死に至らしめた。彼らは女の死を嘆くよりも先に、この病に琥珀髪が敗北した事態に困惑した。これは琥珀の民『不死なる種族』には決して罹らぬ病であったというのに、何故、かようなことが起こったというのか。


 思い当たることは一つだけ存在していた。森にしばしば現れる奇妙な生き物。身の毛もよだつあれが病の運び手だとするならば、それに遡る原因とはなんだろうか。勘の良い女たちはまた、別のことを想起した。ここしばらく、森や平原では奇妙な姿の草木が見掛けられていた。ねじ曲がったものや色違いのもの。異常に大きなものや信じられぬほど醜悪なもの。だが草木に獣の病が罹ろうはずもない。


 だとすれば、変躰の原因は病そのものではない。


 むしろ、と長老ヴェルディア=バシリアスは唇を震わせた。病もまた何らかの原因によって、新たなものへと変化せしめられたのではないか。あれは古い魔獣病とは異なる類の、変躰した魔獣病なのではないか。その推測は当たっていた。病はかつて猛威を振るっていたその姿を、新たなものへと変えたのだ。琥珀髪をも殺す姿へと。


 では、一体何が。

 何が病を変化させたのか。


 病などそう簡単に変質するものではないはずである。琥珀髪は迷信深くはなかったから、病の霊など信じてはいなかった。ましてや呪術も疑わしく思っていた。それは実界と呪界の双方に影響を及ぼすほどの強力な力を持つ何かでなければならない。そんなものは一つしか思い当たらなかった。老人たちの推測は、ついに其れへと行きついた。物体を滅茶苦茶に変質させるもの。それを彼らは知っていた。大戦争の最中にたった一度だけ冷部で見たことがあったのだ。


 それこそ『大規模術式魔法』である。



Δ



「大規模術式だと?」素っ頓狂な声をローレンが挙げた。


 いや、そんなことはあり得ない。とローレンは自分に言い聞かせた。まさか、魔法術式が新型魔獣病を生んだなど。それが事実ならば、大陸中の魔司士たちは術式開発をやめてしまうだろう。だから、ローレンはリアトの話を慎重に聞かねばならなかった。


「確かに大規模術式魔法は、呪界に多大な影響を与えるだろう。だが、新型魔獣病の原因が其れだというのは私には飛躍のように聞こえる。病など自らの力で勝手に変異していくものだろう」


 呪界変動の原因の一つが大魔力の発現であることはよく知られている。リアトの話したように、大規模魔法が使用された地域はしばしば、壊滅的な被害を受ける。実界は焦土へと変わり、呪界は子どもの落書きのようにごちゃごちゃになってしまう。そのうえ爆心地付近では奇妙奇態な生命や深魔が出現するようになり、形を崩した動物が闊歩するのである。


 そのことはローレンもよく知っていた。それが多くの人々を苦しめていることも知っていた。しかし、それで病までもが変質するとは俄かには信じがたい。というよりも信じたくはなかった。それこそ彼が今まで目を瞑ってきたものだったからである。男の疑問に対して、リアトも真面目に答えた。


「ヴォファンにも確証があったわけではない。病自体は昔から存在していたし、人に感染する魔獣病も戦争前から確認されていた。魔獣病が自然に変質した可能性は決して排除できるものではない」

「ならば、」


「だから問題はそこにあるのではない。これはヴォファンの物語なのだ」


 そう言ってから、リアトは目を細めた。流石のローレンもそう言われては黙るしかなかった。



Δ



 魔獣病が変質した原因が大規模術式魔法にある。そう知らされたとき、ヴォファンの敵は明確に定められた。彼にとってはもはや、全ての術式魔法が憎悪の対象だった。新型の魔獣病によって仲間たちは一人、また一人と死んでいった。狭い集落における病の伝搬速度は速く、止められるものではない。ヴォファンや彼の兄弟もこの新型魔獣病に感染し、


 そして、ヴォファンだけが生き残った。



 琥珀髪の半数が死んだ後で遂にヴェルディアは移住を決断した。それも集団での移動ではなく、民族の離散を決断したのだ。これは病による全滅を防ぐための苦肉の策であった。


 真っ先に隠れ里を出て行ったのは、ヴォファン=バシリアスだった。彼は鬼の形相で馬に乗ると、バルニュスを片手に奔った。男には目的があった。それこそが術式陣の破壊である。大量の大規模術式魔法は今なお大陸の何処かで起動している。病に感染しても死ななかったヴォファンだが、それも永遠ではない。


 仮にあの魔獣病が更に変質すれば、人間はどうなるのか。琥珀髪は。自分は。死に絶えるのではないか。かつて魔獣病の救世主と呼ばれた民族の男は、いまや魔獣病と無縁ではいられなくなった。己の肉体はたまたま生き残った。だがこの先また同じことがあればどうなるかは分からない。そもそも魔獣病に罹患した自分がまだ生きている理由も分からない。何か、簡単に縋りつくことのできる使命が欲しかった。そういうものが必要だった。


 だから男は術式陣を憎んだ。

 己の存在の不安定さが怖かったのだ。

 恐らく家族や許嫁の死よりも。


 一人旅を続けるヴォファンを幾つもの苦難が襲った。魔獣や盗賊は彼を獲物とみなして食い殺そうとした。しかしその誰もが彼に傷一つ負わせられなかった。何故なら男は、もう既に人間ではなかったからだ。彼はかつて魔獣病に罹患した際に、その身を変質させられたのだ。ヴォファンはすでに人間ではなかった。生きている理由など本当は存在しないことを知っていた。彼はもう既に人としては死んでいたのだ。


 ヴォファンを一目見たものは、その異形に身を震わせたという。


 男の爪牙は虎のように鋭く、骨格は猪のように頑強。死の淵から生還した男の髪は誰よりも美しい琥珀に染まっていた。その巨躯は人間を遥かに超えて逞しく、強靭にして精緻。何十年と生きた獣のような風格は大魔獣すらも怯えさせた。背に負うバルニュスは物足りぬとばかりに巨大な剣身を有していたという。


 彼は自らの命がいつまで続くのかをいつも恐れていた。一度は死んだ肉体と、失われた魂だ。彼自身、そう長く生きられるとは思ってはいなかった。魔獣と人間の狭間で生き残ったことは幸せでもなんでもなかった。それはヴォファンにとって、単なる謎でしかなかった。


 大陸中を走り回る男はすべてを忘れるために、狂ったように戦場に飛び込んでは剣を振るう。多くの場合、彼は勝者が雇った凄腕の傭兵として扱われたが、本当のところ、ただの一度も彼が誰かの下に付いたことはなかった。目的は魔法を殺すことだけだった。


 あらゆる魔法が、ヴォファンの前では紙切れのように破壊された。いや、魔法だけではなく、術式そのものも刹那の内に斬り破られた。こんなことは本来あり得ぬことであった。何十人もの脳を繋いで発動する大規模魔法がどうして一人の人間に破られるのか。ヴォファンすらもその理由を知らぬままに、各地の魔法術式を破壊していた。

 

 だがある戦場で巨大な結界魔法術式陣を一断ちした際に、男はふと疑問に思った。俺はいつからこれ程までに条理を無視するようになったのだ。魔法と名の付くものならばその全てが破断出来てしまう。これはもはや剣術の極には収まらぬ、異常な力。


 自分が闘気特質を用いていることに、ヴォファンはようやく気付いた。

 光り輝く琥珀の剣身。


 その力こそ、『絶気』と呼ばれる特質だった。



Δ



 リアトがそう言った時、イルファンがぴくりと身を震わせた。彼女は何かを確認するかのように、自らの足元の剣に恐る恐る触れた。琥珀の剣はわずかに輝き、その思いを訴えかけるようにイルファンの方へと少しずつ近づいていた。


「震えてる」少女が小さく言った。


 剣を手にとれば、彼女の手元で琥珀の剣はかたかたと喚く様に震えた。甲高い音が微かに剣の内側より鳴り響いていた。少女の言葉を聞いて、リアトが苦しげな声で言った。


「それは奴の形見だ」

「これは私の父親が使っていた剣なの?」

「ヴォファンが……遺した物だ」リアトが慎重に言った。


 イルファンが剣を撫でれば、剣はさらに鳴りを強める。その剣鳴りを訝しげに見ながら、皇太子ローレンは黙り込んだ。彼は何かを思いつきながらも、それを言えぬようであった。代わりにランツが、話を促すようにリアトに話しかけた。


「リアト様、イルファンに『力』のことを教えねばなりません」

「『力』?」少女が聞き返す。


「君の父、ヴォファンが有していた『絶気』という力のことだ」

「それはお前にも、備わっている」リアトが絞り出すように言う。


 その瞬間、イルファンの心はわずかに冷めた。なぜならば、少女はリアトの言葉が真実そのものではないことに気付いてしまったからである。何故、師匠がこれ程に苦しそうな声で話すのかは分からなかった。だがこれから女が話すことは丸ごとの真実ではない。どういうわけだか、少女はそれを知っていた。


 そもそもここまでの話にも実感はなかったし、どう反応すれば良いのか分からないというのもあった。自分の父親に関する記憶は未だに戻らないのだから悲しさもない。あのローレッドで過ごした日々だけが少女の、全ての時間だったのだ。今更、父親だとか、『力』だとか言われてもそれが何だというのだ。それよりも『隠し事』をされ続けているという事実が少女を傷つけた。


 そのせいなのだろうか。自身の根幹に関わる問題だというのに何処か他人事に思われて、しかし、イルファンはリアトの為に自分の父親の話を聞いた。その優しさは実のところ誰にとっても無意味すぎるものではあったのだが、少女はまだ子どもだったのである。


「『絶気』は簡単に言えば、ただの闘気特質に過ぎない。あらゆる無力な呪を切り裂き、精緻な構造を瓦解させる顕能だ。靈力使いにはほぼ意味がないし、魔法士を相手にしたときも特別に役立つことはないだろう。空体を破壊出来るのは有利だが、そもそも接近戦で魔法士に苦戦することなどない」そう言って、リアトは少女を見つめた。


 少女は軽く頷いた。師匠の言っていることは事実だ。魔法など躱せば良いだけだし、そもそも能力なしでも破壊出来る。空体は脆いのだ。靈気剣撃で真正面から撃ち落とせるほどに。だとすれば、『絶気』という能力の本領はどこにあるのか。その問いに答えるように、リアトが言葉を続けた。


「だが、術式相手であれば『絶気』は最善手だ」

「どうして?」イルファンが問うた。

「術式構造は複雑だが、それ故に厳密だからだよ」ランツが答える。


「術式魔術はその構造を破壊されれば、形質を保てない」

「どういうこと?」イルファンが聞く。

「『絶気』は術式を紙切れをちぎるかのように破壊することができる。くわえて、呪界におけるあらゆる構造体も『絶気』の前では形を保つことができない。ヴォファンが乾湿戦争においてほとんど無敵だったというのにも合点がいくよ」ランツが苦笑した。


「馬鹿げてる!!」


 青年の言葉に、今まで黙っていたローレン=ノーランが声を上げた。彼は俄かに気色ばんでいて、信じられないとばかりに頭を振っている。皇太子の余りに大きな声に眠り込んでいた傍付ラツィオが目覚めた。


「一体、何が起きたんだ?」

「術式狂いの皇太子が叫んだ」


 レグルスが軽口を叩く。


「ローレンが? 無事なのか」

「ラツィオ、なんだ起きたのか」ローレンが口をすぼめて言った。

「起きないほうが良かったか?」


 困り顔でラツィオが頭を掻いた。


「いや、そういうわけではない」狼狽するローレン。

「なら話を続けよう。それが必要だろう」ランツがすかさず言った。


 釈然としない表情を浮かべながらもローレンは頷いた。術式に自らの才能を注ぎ込んだ彼にとって、ランツの話は到底信じられないものであったし、信じたくないものでもあった。術式魔術がそれほど弱いものだとすれば――いや事実として弱いのだが――対抗策が各国に広まった後にはその優位性は低くなってしまう。


 そもそも、ヴォファンや『絶気』とはなんだ。ローレンにはそれが下らない作り話にしか思えなかった。あの乾湿戦争当時を生きていた上に、第一皇太子でもある自分がどうしてそれを知らされていなかったのか。許せない。ローレンは思案気に呟いた。


「『絶気』など聞いたこともない。そんなものがあるのなら私が知らないわけがないだろう。私の情報網ならばどんな秘匿だろうと破れぬはずがない。もしもそんなものがあるとするなら、私はすでに知っているはずだ」

「隠したい連中がいたのさ。事実は隠蔽され続けた」


 ランツが言い、イルファンがそれを聞いて口を開く。


「父や私の力を隠すってこと?」

「ヴォファンの力は奪われかけたのだ。だが辛くもそれは失敗した。あの男が制御できないことを知って、奴らは『絶気』を諦めたのだ。その代わりにあの者どもは同じ力を作り出そうとした」リアトが苦々しい表情で言った。


 あの者とは誰だ、とローレンは思ったが、すぐには問わなかった。当事者であるイルファンの表情が、信じられないほどに冷たいものへと変わっていることに気が付いたからだ。


「それが私とか?」イルファンが伏し目がちに尋ねる。

「……そうだ」リアトが暫しの沈黙の後に答えた。


「でも私は獣でもないし、親の顔も知らない」


 少女が鋭く言い捨てた。


 その言葉には悲痛さとは異なる、一種の諦観じみたものが込められていて、その子供らしくはない声の響きに、思わずリアトは自らの拳を強く握りしめた。ぎりぎりと締められた口からも歯ぎしりの音が漏れていた。彼女はまさに葛藤していた。


 すべてを話さなければならないと思いながらも、リアトの口は滑らかには動かない。隠したいことはないが、隠さなければならないことは山のようにあった。そして、その逡巡をイルファンに悟られていることもまた、リアトはちゃんと気付いていた。この少女はもう二度と自分を信じないに違いないと、彼女は思いながらも言葉を紡いだ。


「獣ではないように調整され、父親とはほんの数年しか一緒ではなかった」

「じゃあ私は『絶気』なんて今更どうでもいい」少女が言う。

「お前の父親と私は約束をしたのだ」


 イルファンはそれを聞いて地団太を踏んだ。


「ローレッドで八年間もあんたと過ごして、それだけしかないのに、ヴォファンだかなんだかの約束なんて私にはなんの関係もないじゃない。それなのにリアトはそいつとの約束を守ろうとしてる。今もまだ!! 私の人生はそいつの為にあるんじゃない!!」


 少しだけ憎々しげにイルファンが言う。自分と過ごした日々は楽しいものではなかったに違いない。そのこともリアトは知っていた。あの時は楽しさなどというものを自分やイルファンは享受してはならないと思っていたのだ。だがそれはきっと、単なる自己満足だったのだろう。


 あの八年。八年間の地獄。

 それが喜びに、幸せに変わったのはいつだったろう。


「お前を連中から隠すためには忌み地へと逃れるしかなく、私はお前の父との約束を果たすために、ずっと、ずっとお前を鍛え続けた」

「何を言ってるの……?」


 それを聞いて、イルファンの手に力が籠った。同時に、リアトの手のひらからぽたぽたと血が滴った。彼女は歯を食いしばり、涙のない慟哭を発していた。イルファンは自分の師匠のことをよく知っていた。しかしそれでも、この慟哭の原因が本当はどこにあるのかまでは分からなかった。


「私が引き取ったときのお前は本当に何も知らない子どもだった。だがそのときから既に剣術の力は大人を凌駕していた。私でさえ卸しきれぬほどの剣捌きはお前の武器でもあり、弱点でもあった。私はお前をあらゆるものから守るために手を尽くしたのだ」


「そんなの今言うことじゃない」少女が唸った。

「お前はお前自身も知らぬ秘密を抱えているのだ」


 リアトが独り言のように言う。


「私は秘密を守り続けた。お前にも一生隠しておくつもりだった。それがヴォファンとの約束だったからだ。だがいつしか、お前は約束ではなくなっていた、私の弟子として――あぁ八年という月日はあまりにも長すぎた。もはや他人とは思えない程になってしまった。だからこうして私はここにいるのだろうな」


「私は。そうじゃないよ」イルファンが言った。

 

 そのように言われることを女は知っていた。


「私を遺した父さんが憎いし、こんな話にした奴らが憎いし、ランツが憎いし、術式とかいうのも許せないし、リアトも大嫌い。みんな寄ってたかって本当のことを言わないままで、私と関わろうとする。まだ、まだ嘘を吐くのが必要だっていうの?」

「もう嘘は吐かないと誓う……」リアトが言った。

「でも真実を話すつもりはないんでしょ!?」少女が叫んだ。


 リアトもランツも何も返さなかった。

 女には返す言葉がなかった。


 イルファンの胸中では何とも知れぬ怒りが渦巻いていた。リアトが悪い訳でもない。父が悪い訳でもない。だというのに、一番憎らしいのはこの二人だった。恐らくこの感情は単なる甘えなのだろう、と思いながらもイルファンは、思いが溢れ出ることを止められなかった。


「『絶気』。そんなこと言われたら喜ぶとでも思ったの。あぁやっと闘気特質が手に入った、良かったってなるかと思ったの。でもならなかった。私は今、すごい怒ってる。そこのあんたたちも!」


 ラツィオとローレンが、明らかに場違いの二人がうろたえる。自分たちへと少女の怒りが向けられていることを理解したのだろう、ラツィオが引きつる顔で弁解する。


「俺たちはデルフォイを潰しに来ただけだが」

「それは上手くいったみたいね。私には関係ないけど、何もかも」


 リアトがそれを聞いて狼狽えた。まだ話足りないとばかりに口を開こうとするも、イルファンが鋭い目でそれを制する。話されたくないとばかりに、少女はリアトを睨んだ。


「叫んだらちょっとだけすっきりした。『絶気』と父さんの話はまた後で詳しく聞くことにするから、今は何も言わないでって感じ。つまり、あんたたちみんな黙ってて欲しい」


 むくれるイルファンに、ランツが優しく目を合わせる。彼は何も自責の念から黙り込んでいたわけではないらしい。何か思惑ありげに、ランツは少女の姿をじっと見ていた。その眼はどこか冷たく、どこか温かい。


「何が面白いのよ」

「君をここに連れてきた目的を教えるときが来たようだ」


 ランツが怪しげな笑みを浮かべたままで、少女に近づいた。リアトはそれを見て、少しだけ警戒心を強めるが、すぐに力を抜いた。今のランツに何か悪しきことができるとは思えなかったのだ。


「今更すぎるんだけど」イルファンが言った。

「すまない」


 青年は優しい手つきで少女の手のひらを取ると、そのまま歩き出した。この大穴の中心、完全なる正円の中心へと二人は向かう。ローレンとリアトもつられて、中心へと歩いた。この場所に何があるというのか。目的とは何なのか。レアーツ以外の誰もが、それを未だに知らなかった。


「ここだよ」


 足を止めたランツは、腰を屈めて、大穴の底に手を触れる。この場所の地面は『深淵』とは異なってからからに乾いた岩盤で出来ている。それもただの岩ではなく、とてつもなく巨大な一枚岩であるらしい。よくよく見れば、その岩の表面には細かな文様が刻まれているように見えた。


「術式陣ってやつ?」イルファンが問うた。

「いや、違うな」と否定したのはローレン=ノーラン。


 彼は非常に楽しそうな顔をすると、丹念に地面の文様を指でなぞる。そして視鏡まで持ち出して調べ始めた。本当に術式狂いだな、とイルファンは思った。しばらく調査した後にローレンは勿体ぶって言った。


「本当に存在していたとはな。これは魔法陣と封印術式陣が複雑に絡みついた二重の術式だ。そうか、五百年前にノーランが封じた深淵への入り口とはこれか。不思議な代物だ。これが忌地の呪いすらも封じているのか。くそ、構造を解析してみたいものだが、解体すれば何が起こるか予測がつかん」


「最悪の代物さ」


 物騒な台詞を聞き流してランツが呟く。


 深淵とは即ち死者の国。


 ボダットの文化膜と魔法陣が造りだした、魂を幽閉する地獄のことだ。リゲトーメルクという名の古き神から奪われた魂たちの隠し場所だ。そして、その場所には恐らく『視覚的空想としての魂』だけが到達することが出来たのだ。


「これは元々、古代グレルト人が描き上げた魔法陣だった」ランツが言った。


§


 酷く古い時代のこと、呪術士や魔術士どもは魔法陣と呼ばれる術式を用いていた。何重もの正円と古式魔法文字によって意味を練り上げられたそれは、世界の最も深き相を束縛し、無限の環に囚われた蛇の如く、魔術的現象を引き起こすのだ。


§


 ランツが暗記していた言葉を言うように淀みなく語る。


「太古の呪術士たちは正円に、生命原理を見出した。彼らは刻まれた魔法を実行する為に『魔法陣』を用いたんだ。この陣は、死を生へと転化する為に魂を捕えて離さない束縛の魔法陣ということになる。僕には読めないけれど父がそう教えてくれた。あの人はこれを奇妙な目で見つめていたよ」


 その言葉の意味はよく分からないが、これがデルフォイの人間たちにとって最も重要なものだということは、イルファンにも分かった。ロンティエルはこれと『絶気』を使って、何かを成し遂げようとしたのだ。


「自分たち自身を束縛したのか」そこでローレンが尋ねる。

「そうだ。我々は輪廻転生など信じてはいないからな。古き男神リゲトーメルクの舌に苛まれぬように魂はここに封じられたんだよ。くだらない妄執だが、文化膜の下ではそれも現実になる」


 いやはやなんとも現実味のない話だ、とイルファンは思った。そもそも、それは一歩間違えれば、神への反逆とも考えられる所業ではないのか。古い神様のところへ行くべき魂を封じてどうしようとしたのだろう。本当にみんなみんな下らないことに心血を注ぎこむものだ。イルファンにその生き方はまったく理解できなかった。しかしランツの話は物語としては面白みがあった。


「魂の持つ力を現世に封じることで、ボダット人は力の流失を防いだ。死と生は永遠に正円の中を回り続ける。それによって、大地に豊穣をもたらすことに、太古の呪術士たちは成功した。いや、もっと言えば、彼らは魂の力を流用することで自らの力をも高めようとした。呪術士ラベストリの異常な呪力の源はそれなんだよ、ローレン」


 ランツの言葉に、合点がいったとばかりにローレンが頷く。


「ロンティエルが画策していたのもそれか」

「ノーランの魔司士によって封じられた禍忌魔術の一つだけどね。死者の魂を貪り喰らうこと。まさかリゲトーメルクになるわけじゃないだろうが、古神級の力は得られたのかもしれない。もっとも、そんな呪われた身になってまで力を欲するのは、他人の魂を力にするなんてのは、遠慮したいけどね」


 遥か五百年前の光景が、再びローレンの脳裏に浮かんだ。


 強大な『塔』によって剣術士らを屠るラベストリの力は圧倒的であった。あの「ラベストリ」が『大穴』に叩き落とされたのち、ラエス=ルーミンと彼に従う魔司士たちは、その下に有ったはずの『深淵』もろとも、『大穴』を封じたのであろう。


 それによって力を奪われたラベストリは、死者の魂の力を豊穣に向けるだけの単なる統治者になってしまった。熱部の支配者であった呪術士たちはその真の力を失ったのだ。ロンティエルが画策した熱部の復興とはその呪力の復活を指していたのか、とローレンは思った。


 詳細な方法までは分からないが、仮にイルファンの『絶気』によってそれが成功していれば、彼女たちは相当に手強い相手となっていたに違いなかった。


 しかし、ランツは自嘲気味に言った。


「でも、恐らく姉さんは失敗していたよ。ラベストリの位格を有していたといえども所詮はただの人間だ。文化膜や違界も、太古の時代とは違って強固になってしまっているし、そう簡単に干渉出来ないはず。この計画は端から成功することのない夢物語だったんだろう」

「その夢を見たお前がそれを言うのか?」ローレンが顰め面で言った。


 男の言葉に、ランツが寂し気な顔を見せた。とても奇妙なことに、その表情にはどこかロンティエルの面影があった。死んだ弟を思い続ける女の色が。彼女が造り上げたランツには、彼女自身の中身も混じっているのかもしれなかった。


「本当のランツの思いは分からないけど、僕は思うんだ。ラベストリの真なる復活なんて僕が興味を持っただろうか。ローレンへの復讐なんて本当にランツの魂を動かしたんだろうか。いやそもそも、あの姉さんが他人の魂なんて欲しがるだろうか。そんな熱部的なものを喜ぶだろうか」

「どういう意味?」イルファンが首を傾げて問う。


「ひょっとしたらね。ランツも姉さんも、本当は『魔法陣』に捕われたラクト=デルフォイの魂や古きボダットの魂を解放したかっただけなんじゃないかな。全部が下らない言い訳でさ、本当は、ラクトという肉親に会いたかっただけなんじゃないかな。その為に、こいつをぶち壊したかったんじゃないだろうか」


 魂のないラクトの身体記憶、ランツの記憶、そして魔獣の肉躰を有する青年が虚ろな瞳で呟いた。あらゆる熱部の魂は『豊穣の魔法陣』によって束縛され、力を搾り取られてしまう。


 大陸熱部で死んだラクトといえども、その魂は文化膜に絡み取られてボダットへと流れ込んだはずだった。そして、そのような魂の末路はたったの一つしかない。少なくとも、熱部人たるデルフォイの子どもたちはそれを信じていたし、その魂概念だけが本物であった。


「くだらない擁護にしか聞こえんな。事実として貴様らはイルファンを攫い、その肉体を奪い取ろうと画策しただろうが。それを無視して何が魂の解放だ。自分たちの悍ましさを綺麗ごとにするのは滑稽だぞ、いくらお前でもそれだけは許さん」


 リアトが言った。


「なるほど。まさしくリアト様の仰ることはその通りです。ですが、人間とは本来悍ましいものでしょう。私利私欲のために他人を犠牲にするものでしょう。貴方だってそのことを知っているはずだ。僕の、ランツの兄を見捨てた貴方なら、悍ましさを否定することはできないはずだ」


 その言葉にリアトは何も答えられなかった。


「ランツ、」


 イルファンが気付いた時には、『泥人形』ランツの肉体は崩れ始めていた。爪先に手先、末端部分から壊れていく青年の肉体は本当に泥で造られているかのようだった。これが完全なる不死の代償。リアトを殺す為だけに生みだされた道具としての、人間。

 

 その在り方は、どこか自分と被っているように思えた。


 イルファンという人間。いや、自分は本当に人間なのだろうか。誰かの為に造られて、誰かの為に育てられたような生命は人間と呼んでもいいのだろうか。少女はそんなことを思いながら、青年の壊れていく姿を見ている。


「僕にはローレッドでの記憶はほとんど残っちゃいないし、ラクトとしての記憶もない。だが、君やリアト様の中にはその全てがある。知ってるかい? ひとつの人格を規定するのは文化膜と位格、それに記憶なんだ。だからね、きっとイルファンの悩みなんて、一面的なものでしかないんだ」


「なにそれ」

「君自身が選べなくても、君がどうありたいかは伝わるんだよ」


 琥珀の少女はその言葉を理解出来なかったが、これが彼なりの励ましであることは分かった。それが一体、どの彼なのかは分からなかったが、その中にはきっと自分の知っていたランツ=デルフォイも居るはずだということは分かった。不思議と、悲しさや怒りは薄れてしまっていた。


 彼の消え方があまりにも幻想的だったから、

 少女の思いは解けてしまったのだ。


 ランツがローレンに向かって言った。


「ロンティエルと父を宜しく頼む」

「任せておけ、愚か者」


「一足先に、罰神の元で待っているとでも伝えておいてくれ。あの人は悲しい人だから、ルスラ兄さんのように愚かな人間ではないから、きっと貴方にもそれは分かるはずだから」

「私はアランドを捕えて殺すだけだ」ローレンが呟いた。


 最後の最後に、ランツはリアトへと向き直った。


 その顔には無数の罅割れが入り、もはや見目麗しき青年の面影はない。されど、唯一残っている瞳だけは、純真な少年のような輝きをもって、女のすべてを捉えていた。それはまさにかつてと同じように。


「それからリアト様。いや、リアト」

「ラクトの魂はここにはない」リアトが何かを振り払うように言った。


「あぁ、それでも構わない。俺たちデルフォイの人間は『模倣』と『再生』そして『人形』の呪術士だからな。ただの演技だと思ってくれればそれでいいぜ」


 その口調に、リアトは眉根を寄せた。


 ラクトを演じるつもりなのか、と彼女は思った。だとすれば、それは何の為に。演じることには意味なんてない。演じたいと思うことにしか意味はないのに。この腐れた人形には本物の意志などないはずなのに。


 しかし、ランツは真っ直ぐな眼でリアトを見ていた。

 彼は真剣な顔で語り始めた。


「リアト、今のお前が抱えているものが何かは知らない。イルファンって子が傍にいるお前のことを知らないからな。俺が知っている頃のお前は、年上だってのに俺よりも背が小さくて、だってのに俺よりも強くて、皇太子相手にも少しも怯まない戦錬士だった。誰もが匙を投げた熱部作戦でお前一人だけが勝つ為に戦っていた。多くの犠牲を払って、多くの剣術士を打ち倒して、気付いたらお前は、たったの一人になっていた」


 女は目を見開いた。


 その瞬間、リアトはそこにラクト=デルフォイの姿を認めていた。演技とは思えないその姿、語り口。何よりも彼の言葉は牢の中から自分に語った言葉とほとんど同じ言葉だった。どうしてランツはそれを知っているのか。


「ラクト」思わず、リアトはそう尋ねていた。


 しかし、ランツはその問いには答えず、語りを続けた。その語りはただの一人語りのようにも聞こえたが、耳を澄ませば、それを語っている人間の、魂の柔らかさと温かさを感じさせるものだった。しかしそれはどうしようもなく人形から毀れているはずのものなのだ。


「俺には、お前を助けなければならない理由があった。デルフォイである俺がこんなことをいうのは変かもしれないが、『誇り高き剣術士は友人を見捨ててはならない』んだ。だから、俺は迎えに行った。持ち場を離れたし、何人か斬ったが後悔はない。お前の為に禍忌魔術まで使ってやったんだぞ」


「その所為で死罪を言い渡された」リアトが呟いた。

「それなりのことはしたからな。でも、それは俺の誇りの為にしたことだ。お前を助けずに指を咥えて見ているなんて出来るわけがない」


「私が独断専行をしなければ、」

「十五年前と同じことをまだ言うのか? 俺たちのアルシールを救う為には退却は出来なかったし、ノーランの為にもお前の行動は必要だった。強いて言うなら、ローレン=ノーランの失策だ」


 その言葉にローレンが目を剥いたが、流石にこの場の空気に充てられたらしく、ぎゃあぎゃあと喚くことはなかった。それに本当のところは、彼だって自分が失策をしたということをほんの少しは理解していた。


「いいか、お前はもっと『自分を信じるべき』なんだ。そうじゃないと、他の誰かなんて救えやしないぞ。あの時、俺はお前を信じていた。生き残ったお前が海刃流の剣王を打ち倒してくれると心の底から思ってたんだ。そう思ってる俺を信じていた。じゃなきゃ、なにもかもかなぐり捨ててなんて動けやしない」


「私は、迷ってばかりで」リアトが言う。

「それでもお前はここまで来たんだろうが。どんな人生を送ってきたのかは知らないけどな、お前はここまで来たんだ。過去だの未来だのにお前がいるわけじゃない。いつだってお前のいるところにしかお前はいないんだ」


 それを聞いて、蒼髪の女は自らの強張った掌を見た。ローレッドにいる間も欠かさずに鍛錬を続けてきた両掌は、いまや鋼のように硬い。十五年前とは全く異なる、自分自身の手だ。こうなるまでには数えきれないほどの出来事があった。本当に多くの出来事が。


 ランツが少しだけ笑って、言った。


「これだけの月日が経っても昔のことを後悔するのか?」

「いや、本当はそうじゃない、そうじゃないんだろう」


 独り言のように、しかし、吐露するようにリアトが呟いた。彼女はラクトとの接触によって、漸く、自らの思いに言葉を与えられるような気がした。


「多分、私は私のすることに自信がないだけだ。何をしたら一番自分が辛くないか。そんなことばかり考えているから、誰かの為に生きるしかないような気がしてしまうんだ。これはきっと後悔じゃないんだろうな」


「なら俺が言えることはもう一つだけだ。あのなぁ。もっと自分を愛してやれよ、リアト。そうじゃなきゃ何もかも失っちまうぞ」ラクトが言った。


 その直後、青年の身体が音を立てて崩れた。もはや泥人形の限界なのだろう。身体が砕けてしまえば、彼の魂はこの現世にいられない。熱部人が死者の国と信じていた『深淵』の奥底へと彼は閉じ込められてしまう。


「またさよならか」リアトが言った。


 もはや頭部だけの泥人形が、それに答えた。


「――えぇ。リアト様。騙されてくださって有難うございます。貴女ならば僕の騙りを一蹴することも出来たでしょうに。頭の半分で僕と、そして兄を信じてくれた。こんなくだらない紛い物でも信じてくださった。心を預けてくださった。それは本当に嬉しいことなのです」それはランツだった。


「今のが演技だというならば、よく出来たものだった」リアトが呟く。

「砕けた文化膜の元では、演劇も意味合いが変わるのですよ」


 すると、ゆっくりと琥珀の少女が、泥人形の傍へと歩み寄った。彼女の眼に涙は溜まっていないが、少女は泣いているように見えた。


「これで消えちゃうの?」イルファンが言った。

「勿論。長々と失礼したね。悲しむことはないじゃないか。僕はそもそもランツに似せて作られた土人形でしかないのだから。君が悲しむべき相手はもうとっくの昔にあの世に行っているよ。でも、まぁ君が人並みの情動でもって、僕の死を嘆いてくれるということはとても嬉しい」ランツが言う。


「さっさと行け」リアトが泥人形の方を見ずに吐き捨てた。

「最後に忠告を。リアト様、嘘と隠し事は諸刃の剣ではありませんし、善悪の秤は神様が定めているものでもありません。貴女はもう一度だけ自分の命が何のためにあるのかを真剣に考えた方が良いですよ」


「それは、」


 唇を噛みながら、女は微かに顔を強張らせた。


 それと同時に、ランツの頭部がぼろぼろと崩れていき、数瞬の後には土塊だけが岩盤の上に積もっていた。イルファンはそれを優しく摘み上げると、感慨深げにぱらぱらと落とした。風のないこの場所では、土くれは真下に落ちていった。



Δ



 強烈な怒気に充てられて、ルハラン=ノーランは慄いていた。


 自分にあれほど怯えていた琥珀髪の少女の雰囲気の変わりように怯えていた。この少女はこんな風に自分に命令するような女子だったか。剣王レアーツの命令をなんとか終えて、靈気を頼りに戻ってみればこれだ。自分のいない間に事象は加速度的に変化しているらしい。ルハランは心の中でレアーツを恨んだ。


「な、なにがあったんや」ルハランがおどおどと喋る。

「それ何語なの? 普通に喋れないわけ?」


 イルファンがすかさず反応した。あまりにもきつい語調にルハランは口を噤む。それを可哀想に思ったのか、ローレンがそこに割り込んだ。


「ルハランは傭兵をしていたからな。傭兵訛りの一種だ」

「百年前くらいの奴でしょ。傭兵が使ってるのなんて見たことないわ。かっこつけ?」


 その言葉に心を抉られたらしく、ルハランが胸を押さえた。いつから、この少女はこんな毒舌機械になったのか。ローレンは舌を巻きながら、流石にこれは手強すぎる、と思った。


「で? やることやってきたんでしょ?」イルファンが言った。

「何の話だ」ルハランが驚いたように答える。


 ちっ、と聞こえるように舌打ちをしてから少女は言う。おお、まるで歴戦の傭兵のように見事な舌打ちだ、とルハランは思った。こんなことを考えてしまうような男だからイルファンに舐められてしまっているのだが、彼はそんなことには気付かない。


「剣王に頼まれごとしてたんじゃないの? 忌々しい術式とかの研究施設を調べてたんじゃないの? 言わなきゃわかんないわけ?」


 その言葉にルハランはへこへこと頭を下げたが、当の剣王はやれやれといった様子で少女の行動を観察していた。ここは大穴から少し離れた洞窟の奥深くである。この隠された場所にデルフォイ家の術式研究設備があった。森から直結された幾つもの入り口と無数の小部屋が一行を出迎える。


 イルファンにリアトとレアーツ、それにレグルスと皇太子二人に傍付き。七人で歩けば、いくら洞窟が広いといっても狭苦しい。そこで縦に歩けば、必然的にイルファンの周りに来るのは三人程度だ。リアトとローレンとルハラン。この三人が並ぶことになる。彼らはその位置関係上、少女の言葉から逃れることも出来ずに苛まれていた。


 剣王レアーツとレグルスはそれを悠々と眺めるのみである。


「レアーツ、あいつは随分と良い性格をしてるじゃねぇか」男が言った。

「リアトの教育ではないでしょうから、恐らく、幼少期に接触した傭兵連中の影響でしょう。あの子は『黒狼』のウィンクと親しかったようですからね」

「ウィンクねぇ……あいつは、……まぁいいか」


 子どもの人格形成は幼少期が大切だ。成長過程でどのような人間と接触したかによって、子どもの性格はある程度左右される。イルファンの場合は、それが獣じみた二人の女だったわけだ。まぁ、片一方の獣は殆ど何も話さなかったようだが。


「それより今はこっちだな。あのルハランを待っている間に聞いた話じゃ、皇太子様は急いでエルトリアムに戻らないといけねぇんだろ。ここから皇都までは闘鎧馬で約五日はかかる。皇貴会議とやらには間に合わねぇんじゃねぇのか。転移も出来ないんだろ?」レグルスが軽い口調で言った。


「都市以外からの転移を封じる結界が、皇都には張られていますからね。ローレンは本来ならばここでおしまいという訳です」レアーツが笑った。


 だがそうはならない。含みを持った言い方。レアーツの目の奥で、妖しい光が輝くのをレグルスは感じた。これは悪いことを考えている時の顔だ。この年下の剣王は一体何を企んでいるのか。


 そう考えている内に、長い洞窟は一枚の扉に突き当たった。ルハランが手慣れた様子で、扉の鍵を解除し始める。いつか見たように封印された扉。


 イルファンは蟻の街ドピエルでのことを思い出し、そしてラフィーのことを思い出した。そういえばあの時、自分はラフィーから転言術式板を貰っていたのだ。荷物は知らぬ間になくなっていたけれど、あれは一体何処にあるのだろうか。と、思っていたら、レグルスとかいう奴がイルファンの袋を持っているのが目に入った。我が物顔で肩からぶら下げている。


「ちょっと! レグルスだっけ? その袋、私のだと思うんだけど」


 少女の言葉に、レグルスは片方の眉を上げた。物凄い剣幕だ。恐らくルハラン=ノーランならば少女の言葉を聞いただけで挙動不審になっていただろう。だが、レグルスは琥珀の少女など単なるガキだと思っていた。


「ん、これか。大穴の底に落ちてたぜ」そう言って彼はだるそうに笑った。


 やばい。とイルファンは思った。こいつはルハランとかとは全然違って、本物の傭兵だ。どっちかというとラフィーに近いにおいがする。そして、正直なところ、イルファンという少女は歴戦の傭兵というのが大好きだった。優れた傭兵は命をやり取りを数え切れないほどにしている。だからだろうか、態度の一つ一つに威厳のようなものがあるのだ。


 レグルスが何の気なしに袋を放り投げた。それは寸分違わずにイルファンの胸元に当たった。けれど痛くはない。袋の柔らかい部分が上手い具合に当たったのだ。


 そのさりげなさ。その高度な技術。だけど殊更に飾り立てることのない態度。その全てが、イルファンの理想に近しいものだった。勿論、恋愛感情とは異なるのだが、イルファンはその瞬間、レグルスという男を認めていた。


「あんたは結構好きかも」

「そりゃ、ありがとな」レグルスは微妙に嫌そうな顔をして、礼を言った。


 彼がそんな態度を取ったのは、イルファンのもう一人の師匠ともいうべき、リアトの弟子『黒狼』のウィンクのことがあったからなのだが、イルファンはそのことを知らない。少女はちょっと不満げな顔で男の元を離れた。



Δ



 重々しい扉が開く。


 開いた扉の向こうには、大量の術式板と魔晶石が転がっていた。そればかりか、船の骨組みのようなものが幾つも部屋の中に捨てられている。この部屋はデルフォイ家の玄関と同じくらいか、それ以上に広かった。天井部分は存在せず、吹き抜けになっているように見えるが、恐らく外部からは見えないように結界術式で封じられているのだろう。レアーツはそう思いながら、お目当てのものに手を触れようとした。


「剣王、抜け駆けはよくないぞ」ローレンが目聡く言った。


 とはいえ、彼の両手にも既に大量の紙が握られている。どうやら、この男も自分も考えることは同じであるらしい。元より、レアーツは皇太子と敵対するつもりなどなかった。それ故、剣王レアーツは資料に伸ばした手を引っ込めた。


「なに、デルフォイの術式兵器には興味がない。呪術を基幹構造とするような禍物はあまりにも異端すぎるだろう。俺が欲しいのは、トルリアの情報だけだ」

「神聖トルリアとデルフォイが手を組んでいたことを知っているのか」


 そう、ローレンが驚いたように言ったが、知っているも何も、レアーツはその事実をロンティエル自身から聞き知っていた。彼女がアランド=デルフォイを牽制する為に作った禍物の開発にレアーツ自身も関わっていたのだから。その意味で、レアーツにとってデルフォイの術式兵器は無価値なのだ。


「当然だ。ローレン、貴様が欲しているものも俺はよく知っている。トルリアの魔法技師が開発したといわれる最新鋭の術式兵器『飛竜船』。これの存在が明らかになれば、確かにアランドは困るに違いない」

「そこまで知っていて、動かなかったのか……?」


 信じられないとばかりにローレンが責め立てる。レアーツは重々承知していることだったが、この視野の狭い皇太子にとって大事なものとは、彼の身の周りのものだけだった。すなわち、ノーラン皇国という形だけがローレンの守るべきものであり、そこには大きな目的意識は少しも存在しない。それ故にローレンはデルフォイの叛逆を阻止しようとしなかったレアーツを敵視するのだ。


「お前に目的があるように、俺にも俺の目的がある。アランドの失脚がノーランの隆盛に繋がるかどうかは非常に微妙なところでな。俺はそれを見極めなければならなかった。たとえ、お前が失脚したとしてもな。とはいえまぁ、現状は俺もアランドを止めるつもりではあるのだが」

 

「まさか、気付いていたのか」

「飛竜船とてそう長くは隠していられるものではないからな。動くならばこの機会を逃すはずはない。目的までは分からんが、ひょっとするとアランドは国盗りを始めるつもりかもしれんぞ」


 国盗りというその言葉にはあまりにも現実味がなかった。デルフォイの目的が一枚岩ではないことはすでに露見していたが、だとすればアランドの目的は何なのか。それが分からなかった。ローレンは困惑しながらも眉を顰めて言葉を返した。


「ならば急いで皇都へ戻らねばならぬ」


 さっ、と背を向けたローレンの後ろ姿はまるで本当の王であるかのように堂々としている。グレオン=ラベストリの存在情報を部分的に奪ったことで、微妙に変化が表れているのかもしれない、とレアーツは思った。それから足元に倒れているロンティエルを一瞥する。この女にはもはや呪術士の存在位格はない。アランドは彼女と彼女の神を犠牲にしてでもある目的を成し遂げようとしているのだ。


「ルハラン!」ローレンが言った。

「兄上。既に『船』は確保していますし、皇都の貴族への根回しも滞りなく終わっています」

「では、行こうか」


 弟の言葉を受けて、ローレンが厳かに言った。


 その言葉を向けられて、イルファンとリアトが不思議そうな顔をする。この二人は実際のところ、何も知らないのだ。やはりローレンは肝心なところで締まらない男だ、とレアーツは思った。そしてまた、ラツィオ=メインも同じことを思っていた。但し、彼の場合には、その締まらなさに皇太子の価値があるとも思っていた。十界法則は確定させないままの方がよりよい結果を生むこともあるのだから。



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