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6、微笑み



「文が届いたみたいだぜー」


シンは、襖をノックもせずにずかずかと入ってきた。


文を右手に持ち、彩乃に突き出している。


「あ、未子(ミ-コ)からの文ね!」


シンから文を受け取り、うきうきしながら封を開ける。


「未子?」


「うん、私の親友」


鼻歌混じりに文を読みはじめる。

「ほんと可愛い子なの。いつか紹介したいな〜」


「ふーん」


巫女だったら会いたくねーな、とシンはボソリと呟く。


そんな親父ギャグみたいな名前あるわけないだろう、と思いシンはあえて彩乃に聞かなかった。


「え、え!?あ、未子が遊びに来るって!」


「ふーん、いつ?」


「うん、まだわかんないけどそのうち来るってかいてあるー!」


彩乃は興奮気味に叫ぶ。


「父様に未子が泊まれるように許可もらわなきゃーっ!」


彩乃はそういって、部屋から駆け出した。


「おい、彩乃‥!」


シンが止める間もなく、

彩乃は部屋の外へ出、父の部屋へと走り出した。



‥‥‥‥‥‥‥


彩乃は客間を出、

階段付近まで走ってきた。


トントントン、と階段を駆け降りる音が聞こえ、目を向けると、

がたん、と大きな音がし、

続いて

「きゃ…っ」

と声がして階段を人が転がり落ちてきた。


どすん、


とその人は廊下に転がったまま「うぅ‥」とうめき声を漏らした。

周りにはその人がもっていた荷物が色々散らばっている。


すぐさま彩乃は駆け寄り、声をかけた。

「大丈夫?」


はい、と顔を上げたのは由衣だった。


「あ、姫様っ!!」


由衣は驚いてぴょこんと飛び上がった。


「はい、大丈夫です!」


そういって顔を赤らめながら、ちらばったお茶の道具を拾い集め始めた。


手伝おうと腰を下ろすと、


「いえ、姫様にお手を煩わせる事はできません」


と、丁寧に断られる。


別にいいのに、

と思うのだが姫と使用人という立場上、仕方ないのだろう。



「茶道家の先生の所にいくの?」


「あ、いえ、、先程修業をしていただいたところです。」


由衣は拾い集めたお茶の道具を胸に抱える。


「姫様はどちらに行かれるところなんですか?」


そう聞かれてはっと思い出す。


「父様に合いにいく途中なの」


「御当主様、ですか?今日はお出かけになっていらっしゃいますよ」


そうなの!?と、知らないうちに父様が出掛けた事に驚く彩乃。


用事がなくなってしまったので、彩乃は由衣を部屋に呼んで抹茶を立ててもらう事にした。




……………………………




<<恐怖のヤツが来た…!>>


由衣がお茶の道具を持ってきたとき、シンはそう思った。


あのときのお茶の恐怖はシンにとって忘れられないものとなっていたのだ。


ぺこり、と頭を下げ控えめに部屋に入る由衣を引き連れた彩乃は笑っていた。


「じゃ、抹茶よろしくっ」


この間の事をすっかり忘れてしまったかのように平然とした顔で彩乃は言う。


「あ、ぇ、あの…本当にいいんですか?私のお茶で‥その、シン様が倒れてしまうくらいにまずかったりすると、思うんですけど、、」


「いーの、いーの!」


シンは飲んだことない抹茶に驚いただけだから、と、彩乃はあっけらかんと笑う。


「今日は、抹茶に会うような甘ぁーいお茶菓子も用意してるから」


客間の箪笥を開け、そこから団子の入った包みをとりだしなが、由衣に抹茶を立てるようにうながす。



「未子にも飲んでもらいたいなぁ。未子、抹茶好きだから。」


「でも、今の状況ではご友人を呼ぶにも危険ではありませんか?」


(出た、よそ行き敬語シン。)


彩乃はシンに疑わしげな眼差しを向ける。


「‥そういえばだめかもしれないわね。

あーぁ、未子に会いたかったのに」


がくーっと彩乃はうなだれる。


「ミコ‥さん?」


由衣が尋ねる。


「うん、私の親友なの。すっごい元気な子だよー!今は遠くにいるから会えなくて、、でも文通はしてるの」


ミコさん、ですか、と由衣はぽつり、と繰り返した。



「粗末なものですが、、」

そういい由衣は点てた抹茶を器に移す。

その動作はまだぎこちないものだが、そのうち板についてくるのだろう。

その時にもまた抹茶を点てて欲しいものだ。


今回も当然の如くシンから先に飲む。

一口飲んだ後、眉を歪め、直ぐに団子に手を伸ばす。


「う”ぅーんー!!」


あまりのマズさに

マズイ、もう一杯なんて失言をしてしまうところだった。


そのあとで甘い団子を食べる。。苦さと甘さの絶妙なバランス。


今回はシンがぶっ倒れなかった事にホッとしている由衣に彩乃は団子を一本向ける。。


「どうぞー」


「ぇ、でも、、姫様から頂き物なんて‥」


「美味しいものはみんなで食べるべきよ」


そういうと、由衣は頷き、


「はい、、頂きます」

団子を受け取る。

一口食べ、美味しい、と由衣。


「でしょー!この甘さが堪んないのよねっ」


「はい、こんなに美味しい団子初めて食べました‥」



それから談笑をして、お寺が闇夜を告げる鐘を合図に、小さなお茶会はお開きになった。



「また来てくれる?」


「はい、よろこんで。姫様」


ふわりと由衣は笑う。


「姫様のお好きな時におよび付け下さいね。」


姫、その単語は、なんだかやっぱり腑に落ちない。


街の子供にさえ、姫でなく彩乃ねーちゃんとか、彩乃だとか呼ばれているのだ。

無礼だとはまったく思わないし、むしろ繋がりが強くなるのではないかと思っている。


だから、


「‥彩乃って呼んで」


突然、由衣はそういわれ驚きの表情を見せる。


「でも‥」


「構わないわ。あなたにはそう呼ばれたい」


彩乃がそういうと、


「はい、‥彩乃様」 

由衣は嬉しそうに笑った。





……………………………†




♪ふふふーん


ツインテールをなびかせ、微々は軽やかに闇の中を歩み、崖にたどり着く。


ビュォオオ、と下から風が突き抜ける谷底を崖から見下ろし、

ふ、と口元を緩める。


「優しさや微笑みは、油断を作る最大の武器」


ぽつり、と呟き、笑う。


「シンはあたしのものなのよ、、!!宮都坂 彩乃…!あんたになんか渡さないっ!!」


その怒りに応えるかのように、谷底の風は一層強く吹き付ける。

その風に煽られて、ぐらり、と微々の体が風にさらわれ、崖から身を投げ出す形になる。


落ちた、と思った瞬間には


ばさり、

と背から漆黒の翼を広げ、微々は空を舞っていた。



今日は、お休みです!

特にデートだとか予定の入っていないカラフルにとっては続きを書く自由な時間です!

ので、

また今日アップできると思います。

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