5、守役
―‥暇すぎる。。
彩乃は窓辺で溜息をつく。
自分の部屋は、
刺客が来たときに壊れたものの修繕を施しているため、
見晴らしの悪い客間に移ってきた。
彩乃の部屋からは街が見えた。
夕方になると夕焼けに照らされ、街全体が赤みがかる。
その景色が彩乃は好きだ。
けして裕福なわけではないが、街の人たちが家族のような温かみがある街。
そんな街が好きのだ。
その景色がみえたのならまだ退屈はしないだろう。
だけど、ここは客間。
大切な客人をもてなす場だが、景色は彩乃の部屋より劣る。
何もすることがなく、彩乃はただ窓辺からぼんやりと雲を眺めた。
いつもはこの時間帯には街にでていたが、今は外出禁止である。
彩乃が自ら危険な場に飛び出していくとは、家来のものたちも思ってはいなかった。
が、
朝、彩乃が飛び出していった事で警戒は強まった。
朝は門番が2人しかいないため、すばしっこい彩乃はするりと飛び出していってしまったのだ。
帰ってきたとき、城では彩乃が消えたという騒ぎになっていた。
姫はおてんばすぎる、
と乳母に言われ、その上、説教までされてしまった。
ふて腐れていた事も手伝って、彩乃は窓から雲を見る事に没頭していた。
(元はといえば、、)
「暇そうだな、お前。」
室内にもかかわらず、空いたスペースでシンはぶんぶんと木刀を振り回している。
(元はといえば、コイツが契約のき、キスとかしたせいなのにー!!)
「お前もやるか?」
そういいシンは木刀をもう一本懐からだし、彩乃に向ける。
「‥結構よ」
暇だけど家の中で棒を振り回そうとは思わない。
「そうか、またやりたくなったら使えよ。ここに置いとく。」
シンは木刀を畳みの上に放ってまた素振りに没頭する。
その様子をみながら彩乃は思った。
(…だいたい、私が武術をやる必要もあるのだろうか。
刺客が現れたときも私は何もできなかった。
声を出すことさえもできなかったんだ。
命を懸けた戦いに、足がすくんだのだ、、
そんな私が武術を習得したところで、何の役に立つのだろう…)
そんな弱気な事を思ってしまう。
(それに今はシンがいるし、守るっていって、契約のき、き、キス、、もしたじゃない。)
そう思った、
だから、、
「…あなたが、守ってくれるのでしょう?」
ふいにそんな言葉を出してしまう。
それを聞いたシンは、
キョトン、と驚いたような顔をする。
「あぁ、言った‥」
しかも返事まで気が抜けている。
(っ、なんでそんな生温い返事なわけ、、)
「い、言ったでしょう!?」
シンのキョトン、とした態度に何か間違った事をいったのだろうか、と彩乃はあわてる。
「いや、その‥姫がそんな風にオレのこと頼ってるとは、思わなくて、、」
シンがそんな風に言うのは
彩乃が初対面のときからシンに反抗的な態度を取っていたからだろうか。
「べ、別に頼ってるわけじゃないわ!」
ふん、と彩乃は顔を背ける。
そんな彩乃の様子にシンは苦笑しつつ言葉を続ける。
「でも、姫にも、己で自分を守らなければいけない場合もあるし‥」
「そうね、あんたが側にいないときもあるかもしれないものね。お風呂とか」
「いえ、例えお風呂であろうとも、姫の身を守るためならついていき」
「こなくていい!」
シンの発言を直ぐさま遮る。
(やっぱこいつ、油断できない‥
エッチだし、キスもしてくるし、、
‥少しはいいやつかなって思ったのに。。)
上がりかけていたシンに対する信頼度が下降する。
「ま、武術を習うのは嫌いじゃないし、気が向いたらやるわ」
そういって、彩乃はまた外の景色に目を向けた。
あの雲、団子に似てるなぁ、
とか思っていると。。
控えめに『とんとん』、と襖が叩かれた。
「どうぞー」
彩乃は応える。
「姫様、お茶をお持ちしました。」
女官がお盆や茶道の道具を持って部屋に入ってくる。
「有難う」
彩乃はそういいつつ、
女官の顔をみて、
ん?と顔をしかめる。
見慣れない顔、彩乃と同い年くらいの女官。
淡い紫色のセミロングの髪を後ろに束ねて結っている。
女官は彩乃の視線に気付いて、彩乃を見てあわてて姿勢を正す。
「あ、申し遅れました、、
私、由衣と申します。
茶道をこちらの茶道家の先生に見習いとして置いて頂いています。」
由は恭しく頭を下げた。
「そうなの、よろしくね。
うちの茶道家は厳しくて有名だけど、頑張って」
彩乃がそういうと、女官は顔をあげて微笑んだ。
「は、はい」
そして、由衣は慣れない手つきで机にお茶の準備を始める。
木刀のすぶりを一旦中止したシンは、部屋の隅に移動する。
シンの姿を見てほんのりと頬を赤らめる由衣。
(口は悪いけど、見た目だけはかっこいいものね。。チャラチャラしてるけど、こういう男に女は惹かれるものなのね。。)
頬を染めている由衣をみつつ、世の中の恋愛に触れたような事を思う。
ま、私は博のほうがずっとカッコよくて、優しいと思うけど。。
「シン様もお飲みになりますか?」
「いいですね」
シンは由衣のそんな問い掛けに笑顔で、しかも丁寧な言葉遣いで応える。
(そういえば、敬語キャラ作ってるんだったっけ、、)
そんな姿があまりにも嘘っぽくて。
疑わしげな目でみていると、シンと目があう。
「なんですか、姫サマ☆」
普段の態度と違うシンに、背筋がぞわりとする。
「…なんでもないわ」
ひく、と眉をつりあげて彩乃は答えた。
「お粗末なものですが、、」
そういって由衣はたった今、立てた抹茶を街の職人の手に寄ってつくられたの器に注いだ。
「いただきます」
彩乃が由衣が作ってくれた抹茶に手を伸ばそうとすると、シンが先に動いた。
「では、お毒味をさせて頂きます。」
「…は」
父の食事の際にしか聞いたことのない言葉に驚きの声を発してしまった。
「当主からいわれておりますゆえ」
澄ました顔をしてシンは答えた。
「そうですよね。姫様はお命を狙われて…。
用心深くしていただければ幸いです。」
と、由衣もシンの言葉に応える。
いやいやいや、
そうだけど!
でも、目の前で人が死ぬかもしれないのに
しかも私のために命を落とすなんて…!
そんな落ち着いてられないって!!
「っていうか、毒味なんかして守り役のあんたが死んだらどうすんのよ!」
「オレは、、姫サマのためならこの身をも投げ出す覚悟ですから。」
シンに真っ直ぐ見つめられて、一瞬だけど、、ドキマキしてしまった。
「ま、毒で死ぬとか馬鹿みたいですけどね。ありえないです」
そう断言し、シンはにこりと笑う。
…どこからその余裕しゃくしゃくの言葉がでてくるかは不明だが、、
とりあえず、シンに一任を置く事にする。
まさか食事だけでなく、お茶までとは。
父様も厳重である。
「では、いただきますね」
シンは微笑み、抹茶の入った器を持ち上げる。
「…う”」
シンがお茶に口をつけたあと、濁った声を発した。
「どうしたの、シン!!」
シンは口を押さえてうずくまる。
由衣は心底驚いた表情で、
「だ、誰か、お医者様を…」
と、慌てている。
まさかお茶に毒が!?
毒で死ぬとか馬鹿みたいっていってたじゃない!
死んでもあんたのこと、馬鹿扱いするわよ!!
成仏なんてさせてやんないんだから!
「苦、、」
シンは顔を青くさせながらもそう呟いた。
「は」
「え、」
由衣はその言葉を聞いて固まる。
彩乃は拍子抜けという表情をして放けていた。
………………………………
「あははは!死んだら馬鹿みたいっていっただろ?」
「………」
ははは、と笑うシンとは対象的に彩乃は俯いている。
………
話しをきくところによると、女官は見習いの茶道家だったそうで。
彩乃も抹茶を飲んでみたが、、喉を通すことができないくらい苦かった。。
しかもシンは抹茶を飲むのは初めてだったようで、、
その強烈な苦さに声をも失ってしまったのだという。
「ごめんなさい、こんなつもりはなかったんです」、と瞳に涙を浮かべて茶道家の見習いの由は謝った。
いーよ、いーよと彩乃は由衣をなだめた。
「また、お茶飲ませてね。」と声をかけたが、由衣は小さく「はい」と答えた。
そして、
ぺこり、と頭を下げて立ち去ってしまったのだ。
…………
「飲んだとしても、毒なんかで死なねーよ。」
シンは当たり前だとでも言うようにそういった。
「だってオレは、。」
何か言おうとしたが、
シンはそこで口を閉ざす。
「絶対、死なないで…。」
懇願するように彩乃はシンの手を握ったから。
それに応えるようにシンは彩乃の手を握りかえした。
2人のラブ度がUPしているように見えることを願います、、
これからもアゲアゲでいきたい次第です。。
今度は23日にアップします、
よろしくお願いします




