3、愛しい人
……………………………………
博、、
あの日、
私の目の前から消えてしまったあなた。
あのときに何が起こったのか、幼かった私にはわからなくて。
何もできなくて。
助けられなくて、、!
今の私があのときに戻ることが出来たなら助けられる事はできるのかな?
そんな事を今でも考えてしまう。
でも、そんな事のできない無力な私は
あなたを待っている事しかできないの…
だから、
私、待ってるよ
あなたが笑顔でここへ戻って来てくれる事を、
あなたを想いながら
ずっと、
待ってるの。
……………………………
目覚めると、布団の上だった。
「あれ、私‥?」
起き上がって、蝋燭の明かりで照らされた部屋を見渡す。部屋の家具の配置が違うと思い、キョロキョロとしていると、
「やっと起きたか。」
部屋の隅で本を読んでいたシンが声を掛けてきた。
「お前、あの後倒れたから寝かせたんだぜ」
あのあと…
ふっと記憶がよみがえり、
あのときな恐怖が襲って来る。
そう、
『刺客』がきたあと…
あのあと、彩乃は気を失ってしまった
「守って、くれんだね。」
そうシンにいうと
「まぁ守役だしな」
なんてぶっきらぼうな言葉が帰ってくる。
「っていうか、なんで敬語じゃなくなってるわけ。」
「まー、これが素だし、お前の事なんて姫だと思ってねーしな。おてんば娘だし」
確かにおてんばだが、、
そんな事を言われるような事はまだシンの前でしてはいない、と思う。。
むすっとしたらシンがにやりと笑う。
「おてんば」
「ーっ!!」
とくに反論できるような事も浮かばずにパクパクと口を動かす形になる。
「ほんと、ばかだよな、、」
そんな彩乃の姿にシンは口元を緩める。
だけどその微笑みはどことなく寂しそうで…
…なんで、そんな風に笑うのだろう。
この人は。
「っ、ばかじゃないもん…!」
ふん、と顔を背けて布団から起き上がろうとする。
「まだ夜は明けねーぜ」
さっき日がおちたばかりだしな、とシンは窓を開けながら言う。
そういわれ、彩乃は外に目をむける。
うっすらと赤みがかった空に星がいくつかまたたいているのが見えた。
さっき、窓から刺客は現れた。
もし、夜なんて油断しているときに現れたりしたら、、
怖い…
「安心しろよ、オレが側にいるから。」
彩乃の不安に気付いたのかシンが声をかけてきた。
「……うん、、」
…大丈夫
シンがいる。
そう思えて安心して眠りに着くことができた。
……………………………
コケコッコー!
なんてどこかでにわとりが朝を知らせる声が聞こえる。
起きなきゃ、
と思うけれど、なんだか体が重い。
それになんだか温かくて、秋の寒さから身を守るようにして暖かい眠りに落ちてしまいそうになる。
「ん〜」
と、シンの眠そうな声が上から落ちてきた。
…正確に言うと、上じゃない。
頭の上?
いや。
……………横?
まさか。と思ったが横をみた。
だが、そのまさかで横でシンが寝ていた。。
しかもがっちりと私を抱き留めた形で。。
き、、
「きゃぁあーーーー!!」
彩乃はとっさに声をあげ、シンから逃れようとするが、シンの力は強くて…。
「ん…」
シンは寝ぼけているのかさらにぐっと力を入れ、彩乃を引き寄せた。
「や、ちょ…!?」
やめて、と声を上げる。
「あ”??」
とうっすらと目を明けてシンは返事を返した。
「彩乃、か、、」
ぼんやりと腕の中にいる彩乃を見て、名を呼ぶシン。
そして何を思ったのか、寝ぼけ眼な声で言う。
「…守って、やるよ」
「…は?」
突然の言葉に驚いて声をあげる。
いきなり何をいいだすのか。
「俺がお前を守ってやる…」
そういってシンは彩乃に顔を近付けてきて、、
(な……)
‥思考が、停止した。
ぐっと唇を押し付けられてやわらかな唇と体温を感じる。
それと同時に、
バチッと体の中を電気が流れるような衝撃に襲われた。
(キス、された…!!)
そんな衝撃と共に怒りが込み上げて来る。
(っなんで、こんな奴とキスしなきゃいけないの?!)
「なにすんのー!!!」
どんっとシンを突き飛ばして唇を着物の袖で擦る。
それでも唇にはシンの唇のあたたかさや感触が残っている。
「さいっ‥てー!!!」
彩乃はそう言い放って日が昇って明るくなっている城外へと駆け出した。
……………………………
人の気持ちを考えもしないで、、!!
キス、なんて……
息を切らして彩乃が向かった先は思い出の詰まった場所。
私には好きな人がいるのに!!
城から少しだけ離れた丘の上に立っている古い桜の木の下。
ここは彩乃にとって幼い頃からの大切な場所。
大切な人と時を過ごした特別な場所。
「博…」
太い桜の幹に触れ、愛しい人の名前を呼ぶ。
長年願っているのに会うことの出来ない人の名を呼ぶ。
どこにいるの?
どうして私を残して消えてしまったの?
会いたい、、
あの優しい瞳で私を見つめてよ
会いたいよ、博…




