2、刺客
「姫サマ」
そう後ろから呼び止められるが振り返らない。
っていうか振り返りたくない。
その相手が誰だか分かっているから振り返らずに声を張り上げる。
「もーっ!なんなのよ、しつこいわよ!」
「すみません、でもどこへ行くのかと思って」
「‥どこでもいいじゃない」
つん、とした態度でかえすと
「わかりました。姫がいくところならどこへでも参ります」
なんて予想外な返事を返された。
「姫を守るためなら」
真剣な表情で横から顔を覗きこまれて一瞬どきっとした…
が、
「例え、火の中(布団)水の中(お風呂)でも、です☆」
…括弧の中の言葉が明らかにおかしいわけで。
「っふざけんなー!!」
ばしっとシンに向けて放った拳は軽々と受け止められる。
「危ないですよ、姫サマ♪」
なんてひょうひょうといわれ、かちん、とくる。
シンと言い合いをしながら長い廊下を抜けた後、畳10畳分の部屋へと入る。
いつものように遠く離れた友人への文を書こうと
部屋の隅にある襖に向う。
襖から筆と和紙を取り出し、ふと顔を上げると、
シンが部屋の片隅で行儀よく立っていた。
「何か用があったらお言い付け下さいね」
「あ、うん‥」
返事をしてからはたと気付く。
守役、ということは当分の間寝食を共に過ごす事になるのだろう。
寝食をともに…?
さっき冗談のように言っていた布団やお風呂も一緒なんてことも、、
こんな軽男なら
ありえてしまうわけで!!
「姫」
そんな事を考えていたら不意に名を呼ばれた。
はっとして顔を上げると間近にシンがいて、
「じっとしてろよ」
と、さっきまでの丁寧な口調とは違う言葉で耳元でそう囁かれた。
え…?
そして、事態を飲み込めないうちにシンの筋肉のついた太い腕に抱き込まれる。
刹那、
がしゃん、
と何かが壊れる音がして広縁についていた襖が
彩乃とシンのいる場所にむかって倒れ込んでくる。
何事ー!?
シンは彩乃を守るように襖をよける。
「‥来たか」
来た!?
何が、、
広縁の方に目を向けると
忍者のような格好をした人影が一つ見えた。
「姫のお命‥頂戴いたす」
そう言い放ったと思ったら
短剣を彩乃に向かって投げつけてきた。
「……」
シンは動じずに狙いを定め、手で短剣を払い落とした。
ばしんっ
派手な音が部屋に響く。
「姫の命はやんねーよ」
ふっ、と、こんな状況でも笑みをこぼすシン。
まるで、この状況を楽しむような姿に背中に悪寒が走る。
「我は与えられた使命は果たさねばならない」
そういって忍者は間合いを詰めてくる。
「させるかよ」
いつのまにか刀を手にしていたシンはそういって一歩前にで、二人は組み合う。
カキン、カキンと
金属がぶつかる音が何度もこだまする。
誰か応援をよばないと、と思うが声を出すことができない。
目の前での命をかけた戦いに、彩乃は萎縮してしまう。
「っ…」
シンが避けそびれた刃をくらい、小さく声を漏らす。
切られた肌から鮮血が飛び散り
畳が赤く染まる。
彩乃はその光景を目の当たりにして、その場にへたりこんでしまう。
「っ…!」
なにこの殺気だった空気、、
怖い‥!!
座り込んだ姫をみてシンはぼそりと呟いた。
「彩乃、、ごめん」
シンは懐からすばやく手裏剣を取り出しいくつか刺客に投げる。
だがら刺客は動じず手裏剣を剣でたたき落とした、
が、即座にシンは剣を向ける。
それをよけようとし、よろめく刺客。
その瞬間を狙ってシンは剣を振り下ろした。
ざっと虚空をきる音が響き、
シンが止めをさし損ねたように思ったが、
決着はついていた。
シンの振り下ろした刀は、刺客を直撃しており、
刺客の姿はさらさらと砂のように崩れていく。
異様な光景に彩乃は目を見開くが
シンはなんともないようにソレを見下ろしていた。
「、我が消えても‥あの方は、あきらめな、い…!」
砂と化した刺客から、とぎれとぎれに最後の声を漏らした。
…あの方?
やっぱりあの手紙は本物だったの、、?
「ふざけんなよ、‥俺は絶対に、、…だからなっ!」
シンは誓うように己の意思を呟き、風にさらわれていく刺客にトドメを刺すように短剣を投げつけた。
なげつけた短剣は『どすっ』と
畳みの上に突き刺さった。
「姫、大丈夫か?」
シンが手を差し出してくれるが、立ち上がれない。
‥足がすくんで動けない。
スリとか泥棒とかそういう類のものとは違う。
今までのものとは全く比べものにならないモノが
今ここにいて私の命を狙っていた。
大丈夫だと思っていた、、
自分でなんとかできると思っていたのに。
…思って、いたのに、、
こんなに何も出来なくってしまうくらいに動けなくなってしまうなんて。
彩乃の体の震えを止めるようにシンは彩乃の肩を抱いた。
「俺は守るから、、」
シンは、軽い奴だし女の子に声かけまくるやつだから信じられないのに、、
今はその声に、安心をしてしまう。
……………………………
「あーぁ。つまんないの。」
ツインテールの少女は唇をへの字にまげ、ため息をはく。
小さな手で包み込むように持った手鏡の中に映るのは
少女の幼くも整った顔ではなく、
城の中にいるシンと彩乃だった。
「どうして、、シン‥」
少女はシンを見つめ、苦痛に顔をにじませる。
「微々(ビビ)様。」
ふいに声をかけられ銀色の長いツインテールをなびかせ、
少女、微々は振り向いて応える。
「なあに、博」
「次はどうなさるのですか」
博と呼ばれた従者は微々に手を捕まれ、隣に座らせられる。
「ふふ、そうね。まだ他にも方法はあるわ」
何故か、表情に影を落とす博をみて微々は笑う。
「私は、欲しいものは全て手に入れたいの。」
そういい表情を変え、
にやりと、笑った。
「ふふ。本番はこれからだものね」




