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罪深き町に鉄槌を  作者: 朝倉春彦
8.夏夜は氷の世界
27/33

-3-

「何時だ?」

「1時、まだまだ時間はあるよ」


映画を見終わった私達は外に出て、駅前の交差点にいた。


「私さ、少し行きたいところあるけどいいかな?」


加奈が由紀子を見ていった。


「いいよ、どこかな?」


由紀子は優しく答える。


「水族館…昔親ときて…ショーが凄く面白かったの」

「ショー?」

「そう、イルカとかがバーッて飛ぶの!」

「なら見に行ってみるか、まだ1時だろ?まだ間に合うかもな」


そうして私達は水族館に移動してショーを見ることにした。

水族館に行く途中で2つの使い捨てカメラ買って、1つは私が、1つは浩司が持って写真を撮って周ることにする。


加奈の提案のショーは3時からで、丁度良かった。

早めに行ってプールの前に陣取ると、見る見るうちに席が埋まっていく。

夏休み終盤だから、家族連れも多かった。


「千尋、加奈、由紀子こっち振り向け撮るぞ」


待っている間、じっとプールの方を見てイルカを眺めていた私達は、浩司の声に振り向く。

仲のいい3姉妹のようにポーズをとると、カシャっとした音とともにシャッターが切られた。


「千尋、少しは笑えよ?お前だけ不気味だぜ?」


浩司は苦笑いを浮かべていった。


「む、ならもう一枚。驚くがいいさ。ね、由紀子、加奈」


私は由紀子と加奈を引き寄せて顔を下に向ける。

表情を作ることに慣れていないが、できる限り笑ってみようか。


「いくぞー」


浩司の声とともに顔を上げて、できる限り笑顔を作ってレンズを見た。

決めポーズとして、レンズに指をさして、首をかしげる。

浩司の横にいた義昭が少し顔を赤くしたからきっと成功だろう。


「なんだ、そんな顔できるじゃねーか」

「…とっておきは最後に取っておくものだよ」


私が少し調子に乗って言うと、丁度場内のアナウンスが流れ、ショーが始まった。


暫くイルカが飛び跳ねるのを眺めて、何度か水もかけられたりして、ショーを楽しんだ後は、薄暗い館内を回り、いつものように浩司を筆頭に盛り上がる面々に付いていく。


私が手に持ったカメラで、その様子を切り取って私も笑う。

この町で得た"表情"で私も輪の中に混じって笑っていた。


「次は何処に?」

「知らない。ただ体の向いた先に」


由紀子の言葉に、私は敢えてそっけなく答えてから、そっと寄り添う。

その様子を見ていた浩司が何も言わずにカメラを構えた。

私達は気にすることなく写真に収まり、私は小さく笑って見せる。


道順を決めてしまうと、徐々に終わりが近づくのが見えるから。

時計の針は一刻と帰りのバス時間に迫っているが…


今はそれを気にしたくはなかった。


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