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場面練習的な  作者: No.9
3/23

師匠ごめんなさい

「ンヤー、虎の尾を踏んだね」

 ベックはそう言うが早いか、チリチリと刺さるような魔力を背中に感じつつミナコの手を引いてその場を去りはじめた。

 しなやかさが自慢らしい彼の猫ひげはピンと固く伸びてひくひく動いている。


 その背後で兵士たちは不穏な気配を感じながらも、大半は何が起こったのか考えが及ばない。

 一部の考えが及ぶ者や勘の鋭い者たちは、それ故にその場を動けず、ただ戦々恐々と自体を見守るしかなかった。



 速やかに安全な丘の上まで引いたベックはやっと猫ひげをほぐしながら、事態を見ている。

「ベック、あれ何?」

「ンヤー、思ったよりやばいナ、ミナコ笛、笛」

 ミナコの指の先、兵士たちの辺りだけで突如(ちり)のようなものがきらめいている。

「あれね、あれ、やばいやつ。ルートの魔力で精霊が結晶化したり戻ったり繰り返してる。ンヤー、笛まだ?」

「ルートすごい」

 ベックはのんびりとした様子のミナコからさっと小さな角のような笛を受け取ると、ヒューっと風が抜けるような音を鳴らした。

「ベック下手くそ」

 ミナコは尻目にベックをやじるが、言われた当人は満足げに髭をいじっている。

「ンヤー、いいのいいの。ちゃんと音精おとせいは飛んでったよ。さてさて、間に合うかネ〜、ンヤー俺じゃもうどうにもできないネ、ン、知らない知らない」

 距離をとったここからでもわかるほどに、ルートは怒っているようだった。




 勘の鈍い兵士たちも、それなりに状況は理解し始めていた。

たった今グーズドウェル団長がリゴの果実もろともぶっとばした仔猫のようなクソガキが、この一帯の兵士達全員を震え上がらせているのだということを……。


 ルートは散らばった果実を見ている。無残に魔法で潰された果実を、ただじっと……。

 やがて動かないルートの周りがきらめき始める。

 にわかに深いため息をついて、ルートはおののく兵士たちを一瞥いちべつした。

──ずず

 小さな歩幅で一歩一歩近づく

──ずず、ずず

 ルートが近づくたび、ずずず、と歴戦の兵士たちが皆思わずすり足で後退をしてしまう。

「なんだよ情けねえ、情けねえな。村のみんな命かけて作ったリゴの実だぞ。それをあんなにして、なあ、情けねえ。命かけろよ。かけるだろ? なあ?」


 ルートの気迫は尋常ではない、身体は仔猫のように小さいが、神獣である白虎や龍の片鱗を思わせる程に並の小ささではない(・・・・・・・・・)

 瞳は冷静さを欠いて爛々(らんらん)と猛り、隠さない牙で獲物を震え上がらせる。精霊を結晶化させきらめかせるほど発散される魔力は、彼の唸りを魔術に変える。


 唸りが魔力の波紋を起こし、見た目と地声に合わない重たい音を鳴らすと彼の唸りにあてられた未熟な者達数十人がバタバタと倒れ始める。

 しかし彼らはルートの怒りの本命ではない。ルートの本命は──



なんだ! なんだというのだ!!

馬鹿な! 馬鹿な!

俺は、クソ生意気な猫のガキをぶっとばした。たかだかリゴの実一つ、俺様が頂戴してやったくらいで文句をたれてきやがったからだ。

見た目通り、予想通り、手ごたえもなく軽く、やつはふっとんだ。大事にしていたリゴの実もいましめにズタズタにしてやって。それでやつに俺は過ちを教えてやったんだ。

それがなんだ、どうしてこうなった!?

地面に突っ伏したままのやつから、俺に詫びて命乞いをするはずのガキから、まるで大型魔獣のような気が膨らんだ。

畜生! こんな仔猫の気配ごときで俺の身体は金縛りにあったみたいに動かない!



 ──ルートの本命、グーズドウェルは胸ぐらを掴まれるとルートの身長まで引き下げられた(・・・・・・)。自身の膝の辺りまで頭を下げられたためにグーズドウェルは肘と膝をついて、四足のようになっている。

「トカゲ、クソトカゲ。リゴの実返せ。返せるか?」

「その! 侮辱は! 許さん!!」


 竜族である自分に対して鱗族以下(トカゲ)と罵られ、グーズドウェルは戦慄しながらも閉まる喉を振り絞って怒った。

しかし今のルートが意に介すはずもない。返せるかと再び問いながら、力を込めて更に地を這わせるようにした。

 意地を振り絞って僅かでも立ち上がろうとするが、ルートの力にグーズドウェルは敵わず、そのままトカゲのようにもがくしかない。


「おら、クソトカゲ答えろ。リゴの実返せるか?」

「かえ……せない……」

「村のみんな、命かけて作ったやつだぞ。知ってるか? 知らなくてもいい。もうリゴの実戻らないもんな」

 話しながら、ルートの怒りは更に膨れ、怒りに満たされた魔力で精霊がバチバチとルートの気分を体現するように音を立てる。

 もう傲慢なグーズドウェルも、プライドどころではなかった。

 先程よりちらつく彼の牙が話すせいではなく、自分を仕留めたくてちらついているのだと気付いたのだ。

「す……すみ、ませんでした」

「うるせえあの世であやま──!!」


 謝罪いのちごいを無視したルートがグーズドウェルに噛みつかんとしたその時、突然ぶっ飛んだ(・・・・・・・)

 鼻血を垂れ流しながらも器用に着地をしたルートだが、怒りはどこへやら血の気の引いた顔をしている。

「ごめん! ごめん師匠! ごべっ!!」

 虚空へ謝り、そしてまたぶっ飛んだ。


 何度も響く殴打の音。大地は弾け、砂を散らし、ルートは破裂するような音と共に宙を舞い、瞬く間に辺りを砂埃が覆う。

 震えるしかなかった周りの兵士たちも何が起こったのかは解らなかったが、先程までのような身を刻まれるような気配が消えたことに幾ばくか安堵をしていた。


 砂埃が晴れるとそこには、しなやかな肢体の女と、その女に踏みつけられるボロ雑巾のごときルートがいた。


「魔術師たるものぉおおおおお!!!」

 魔術かと疑うほどの大声が響く。

「冷静に!!!!」

 女の叫びに合わせ、めりめりとルートの頭が地面に沈んでゆく。

 血溜まりが溢れないのは、ルートが頑丈なのか女の手加減なのかはきっと彼女以外にはわからない。


「兵士たるものおおおおお!! 志は美しく!!!」

 すわ俺たちなのかと兵士が身構えた瞬間、どんな魔術なのか、女から距離のある兵士たち含めて全員が全く同時に(・・・・・)何かで頬をぶたれた。


「リーダーたるものおおお!!! その重みをしれ!!!」

 女がルートを踏んでいない方の足を地面に打ち付けると、意識を朦朧とさせて地に伏していたグーズドウェルが星にならんばかりに空へ突き上げられる。



| 縦線:開始位置

《》 一部()でも代用可能だが、《》でないと利用できない事が多い

ルビについて《・・・・・・》 縦線なし

ルビについて(・・・・・・) 頭に縦線あり


僕達私達わたしたち 私の頭に縦線なし

僕達私達(わたしたち) 私の頭に縦線あり


私達私達わたしたちわたしたち カーニング(字間)(かくにん)


カーニング(字間)(かくにん)認  カー┃ニング<字間>の┃確<かくにん>認


超|過剰《あかさたなはまやらわあかさたなはまやらわあかさたなはまやらわ》なルビをふる


過剰あかさたなはまやらわあかさたなはまやらわルビをふる(限界)

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