エグズトの裏切り……?
近頃調子のおかしいエグズトが、珍しく俺に時間を要求してきた。
大方予想はしているが、嫌だな、ただの謀反とかだったら……。
約束の時間十分前きっかり、エグズトの気配は俺の部屋の前にやってきた。
こらえきれない闘気を漏らしているが、嫌な感じはない。しかし気にはなるので俺は声をかけた。
「いるんだろ、入れ」
「失礼いたします」
ただでさえ強面なのに、緊張から一層強面になるわ闘気は抑えきれないわで中々やばい。心臓の弱い一般人なんか倒れちゃうんじゃない? これ。
それにしてもエグズトは喋らない。口下手だもんな。それにこの精悍で不器用だけど綺麗な闘気。筋金入りの真面目バカだ。
「エグズト」
だから俺から声をかけてやる。長所を活かし短所を支えるのも上に立つものの愛情ってやつだ。
エグズトは少し申し訳なさそうな渋い顔をして俺の言葉を待つ。
「覚悟、決めてきたんだろ? 黙らず今ここで話せ」
「主よ……俺は……。腹を切る覚悟である!!」
「は?」
エグズトは自らの刀を自らに突きたてんと肩を動かす。
急だし意味が解らないが、取り敢えず一発奴の頬をひっぱたいて止めた。
「自己完結すんな、なんのための覚悟だそりゃ。逃げる覚悟はかっこよくないと許されんぞ? 俺は話せと言ったんだ。話せ、エグズト」
「俺は主への忠誠を、迷ってしまっている。だから腹を……」
「そりゃいいって、腹は。とにかく要らんから、お前の中の過程を話してくれ。迷う理由があったんだろお前には」
「俺は、ヨモの事が……!」
乙女のように頬を染めて、エグズトはつらつらと語り始めた──
「いいじゃん、可愛いもんねヨモちゃん。いい子だし」
「しかし! 俺は主に忠誠をちかった! それにヨモは……」
「それを踏まえて“いい”って言ってんの、配下を束縛しないってのが俺の信条だし、それに忠誠にも色々形があって然るべきだろ」
それでもエグズトは煮え切らない様子で、迷いは相変わらず消えやしない。
「じゃあ、こうしよう」
俺はエグズトの肩を叩いて、【ワープ】を発動した。
景色は一変して風が吹き荒ぶ。俺の部屋から荒野にやってきたんだ。
「ここは……!?」
動揺するエグズトに俺は闘気を思いっきりぶつけてやる。
声には意思の魔力を込めて……。
「負けたらヨモの命はない」
途端、揺れていたエグズトの闘気はピンと張り詰め、膨れ上がる。
やつが構えを取ると気の奔流は収まり、濃く、重たく、魔力が纏まった。
相変わらず、なんて綺麗なんだ。ヨモちゃんも惚れちゃうわけだわ。さてそれじゃあ
「かかってこいよ、バカ野郎」
◆
決着はすぐにつき、俺にズタボロにされたエグズトは地面に転がっていた。
「わかったな? ヨモちゃんの境遇が俺と敵対する関係にあることもわかってる。 でも俺はお前一人裏切ったところで屁でもないんだ。だから俺じゃなくてヨモちゃん守ってやれよ。 ……あれ? 起きてる? てか生きてる?」
俺の話にエグズトは、声も出せないくらい顔をくちゃくちゃに濡らしながら土下座した後、そのまま気絶しやがった。
マジで、ほんとバカ野郎だよな。
どうせ目覚めたら挨拶もせず出てくんだろうな「資格がない」とか言ってな。真面目で気の良いやつだけど自己完結野郎だもんなー。ヨモちゃんの為にも許さんぞ。
明日、もしそのまま出ていこうとしたら許さんぞ……。




