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転生無双  作者: 平朝臣
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閑話⑨「シルヴェストルの病」


 アキラと別れて以来研究室へと引きこもっておるわしは寝る間も惜しんで書物の解読と研究に励んでおった。


シルヴェストル「うぅっ!」


 突然始まった発作によってわしはビーカーを落としてしまい机にもたれかかった勢いでフラスコまでひっくり返り並べてあった試験管まで巻き添えにしながら大きな音をたてて割れてしまった。


シルヴェストル「アキラ………。はぁはぁ…。アキラぁ…。」


 わが身を抱きかかえながらわしは蹲ってしまう。


シルフィ「失礼します!シルヴェストル様、先ほどの音は何事ですか!」


 シルフィが扉を勢いよく開けて飛び込んでくる。


シルヴェストル「うぅ…。」


シルフィ「シルヴェストル様!」


 わしを見つけたシルフィは駆け寄り支えてくれた。この発作自体はいつものことじゃ。じゃがその間隔は次第に短くなってきておるように思う。


シルフィ「大丈夫ですかシルヴェストル様?少しお休みになられたほうが…。」


シルヴェストル「いや…。大丈夫じゃ。もう治まった。それよりも頼んでおいた他の者の様子についての報告を頼むのじゃ。」


シルフィ「ですが………。」


 わしはシルフィを無言で見つめる。シルフィはわしの意思を察して折れてくれた。


シルフィ「……。シルヴェストル様の言われた通りでした。禁忌の地より救い出された方々は通常よりも早い速度で徐々に老化されておられます。老化速度は一定ではなく各個人によって差があるようですが昔の方ほど老化速度が早く新しい方ほど老化速度が遅い傾向にあるようです。」


シルヴェストル「うむ。」


 ここまでは予想通りじゃ。先に死んでいたはずの者ほど先に老化が進み先に生命の源へと帰るのが早くなるとは思っておった。


シルフィ「それで…、その…、シルヴェストル様のような発作のある方は他にはおられませんでした。」


シルヴェストル「そうか……。」


 これも予想通りじゃな。もしかすればわしと同じ症状の者もおるやもしれぬと念のために調べてもらったのじゃがやはり他にはおらぬか。


シルヴェストル「ご苦労じゃったなシルフィ。宰相であるそなたにこのような役目を…。」


シルフィ「とんでもありません!シルヴェストル様は長い歴史において最も偉大なる風の精霊王様だったのです。そのシルヴェストル様のお役に立てるのならこれほど名誉なことはありません!」


 若いのぅ。純粋な目でわしを見ておる。じゃがわしはそう言われるほど立派でも真面目でもなかった。とはいえ次期風の精霊王となるシルフィの想いをここで壊してしまうわけにもゆかんの。先達として精霊王としての振る舞いをせねばなるまい。


シルヴェストル「うむ。今の気持ちを忘れぬようにの。そなたがこれまでの精霊王達に憧れを抱くのと同じく次はそなたがそのように見られるのじゃ。これから先思わぬ壁にぶつかり己の限界を知ることもあるじゃろう。じゃがそなたが先達を見ていたのと同じ目でこれからの子供達もそなたのことを見つめる。将来迷いそうになった時や困った時は今の自分の気持ちを思い出してみるがよい。そなたの心の中におるこれまでの精霊王達がどのような者であったのか思い出すのじゃ。そうすれば己がどうすればよいか自ずと答えは見つかる。」


シルフィ「はいっ!」


シルヴェストル「うむうむ。それでは少し休むことにしようかの。ご苦労じゃったシルフィ。」


シルフィ「はいっ!それでは失礼致します。」


 シルフィが出て行ったのを見届けてから割ってしまった器具を片付ける。もちろん休んでおる時間など今のわしにはないのじゃ。シルフィを帰すための方便じゃ。どれほど調べようと今のわしの症例は過去になく治療の方法も当然わからぬ。もう一度アキラと会うために!今日もまたわしは研究を続けるのじゃ。



  =======



 研究室の隣にある自室の窓から外の様子を少しだけ伺う。エアリエルとシルフィが精霊王会談に向かうための出立の式典が催されておる。


シルヴェストル(精霊王会談にはアキラが来る!行きたい!行きたい!行きたい行きたい行きたいのじゃ!)


先代シルフィ「そんなに行きたいなら一緒に行けば良いのに。」


 扉に寄りかかりながら先代のほうのシルフィが声を掛けてくる。


シルヴェストル「なんじゃ。可愛くないほうのシルフィか。心を読むでない。わしに何の用じゃ?」


先代シルフィ「可愛くなくて悪かったわね。シルヴェストル様こそ伝え聞いていた偉大なる方と同一人物とは思えませんけど?」


 可愛くないと言われてムッとした顔になった先代シルフィが毒を吐きよる。気配でわかっていたとはいえ無断で部屋に侵入してきたのじゃ。これくらい言われても仕方なかろう。


シルヴェストル「わしに会ったこともない者が勝手に創り出した伝承の人物と同じはずなどないじゃろう?」


先代シルフィ「ほんとに…。伝承なんてあてにならないわね。それで…、どうして一緒に行かないのかしら?」


シルヴェストル「精霊王会談は精霊王と宰相クラスの者が行くのが通例じゃ。わしはお呼びではあるまい。」


先代シルフィ「そんな建前は聞いてないのよ。会いたいんでしょう?あの獣耳の精霊王に。」


 先代シルフィが真っ直ぐにわしを見つめてくる。その顔はわしが答えるまで引く気はないと物語っておる。


シルヴェストル「アキラには会いたい。じゃが今のわしがアキラの前に現れても迷惑を掛けるだけじゃろう。アキラに迷惑は掛けたくないのじゃ。」


先代シルフィ「迷惑…ね。私もあの獣耳の精霊王好きよ?迷惑を掛けたっていいじゃない。あの精霊王ならそんなこと気にしないわ。シルヴェストル様が行かないのなら私が行こうかしら?」


シルヴェストル「………。」


 先代シルフィは目を少し吊り上げきつい口調に変わってさらに続けた。


先代シルフィ「予想では私達はまだ死なないだろうと思うわ。でも予想はあくまで予想よ?今のペースのままならっていう前提での予想にすぎないのよ?本当に次に会うまでにまだ時間があるとは限らない。今この瞬間にだって急激に老化が加速してすぐに死んでしまうかもしれない。死にはしなくてもあの地に居た者達はこれからどうなるのか一切わからないのよ?今この瞬間が最後のチャンスかもしれない。それなのにそれを逃してしまってもいいの?私なら絶対に嫌よ。先に立つ後悔はありませんよ?シルヴェストル様。」


 先代シルフィはそれだけ言うと部屋から出て行ってしまった。先代シルフィの言うことは尤もじゃ。わしもわかっておる。いつも眠る時はそのまま目覚めぬのではないかと気が気ではない。じゃがアキラに迷惑を掛けたくないのも事実。何より今のわしをアキラが受け入れてくれるのか…。それが一番の不安なのじゃ…。もし今わしがアキラに会いに行って拒絶されてしまったら………。その恐ろしい想像に体が震える。


シルヴェストル「アキラ………。」


 わしは自らの体を抱き締める。いつ死ぬかもわからぬ恐怖。アキラに会いたい。じゃがそのアキラに拒絶されてしまうかもしれぬ恐怖………。今日もまたわしは研究に没頭する。この不安を拭いたい一心で。



  =======



 今日もまた研究をしておるとこの研究室へと近づいてくる気配がある。今のわしは人前に姿を現せぬ状態なのでわしと接触する者も限られておる。普段はシルフィくらいしか来ぬ。極稀にエアリエルが相談に来ることがあるくらいで先代シルフィも前のでまだ二回目というところじゃ。そして今わしの研究室へと向かっておった者は扉の前へと辿り着き扉を叩く。


 コンコンッ


シルヴェストル「開いておるのじゃ。」


エアリエル「失礼致します。」


 エアリエルが入ってくる。稀にやって来ることがあるとはいえエアリエルが用もなくわしの元へやって来ることなどないじゃろう。


シルヴェストル「また何か相談かの?」


エアリエル「相談…と言いますか…。ご報告…と言いますか…。」


シルヴェストル「なんじゃ。はっきりせんの。」


 エアリエルはいつもこのように言い淀むことなどない。うまく世間話でもしつつ相談事の話へと持っていく。相談事は決まっておるのじゃから如何にそこへ持っていくかだけでありその話術も心得ておる。じゃが今日は随分と歯切れが悪いようじゃ。


エアリエル「事があまりに重大すぎて…。私もまだ理解できていないと言いますか…。考えがまとまらないと言いますか…。火の精霊王様が魔人族に勝利し、戦争を終わらせたそうです。」


シルヴェストル「………。ん?」


エアリエル「火の精霊王様が魔人族に勝利されたそうです。」


シルヴェストル「………なん…じゃと…。」


エアリエル「信じられないのも無理はありません………。それで私はどうすれば良いでしょうか?」


シルヴェストル「どうと言われても…。それでアキラは何も言ってきておらぬのか?」


エアリエル「水の国の宰相オーレイテュイアがやって来て戦争が終わったからその話し合いの席を魔人族の国で設けたいと…。」


シルヴェストル「それならばその場に出向くよりあるまいの。」


エアリエル「それはそうなのですが…。」


シルヴェストル「アキラが信じられぬか?」


エアリエル「いえ。私は風の精霊種を救ってくださった火の精霊王様を信じております。」


 エアリエルは真っ直ぐにわしを見据えてくる。これは建前などではない。心の底からアキラを信じておる目じゃ。


シルヴェストル「ならば何が問題なのじゃ?」


エアリエル「風の国は…、風の精霊王はどうすれば良いのでしょうか?」


シルヴェストル「ふむ…。戦争が終わったのならまずは風の精霊達に魔人族とこれ以上争わぬように止めるのが最優先じゃの。」


エアリエル「………そうですね。攻撃された場合の反撃以外は手を出さないように通達致します。他には何かありますか?」


シルヴェストル「戦闘の一時停止以外には講和の会談に行ってみなければわからんの。」


エアリエル「講和会談では風の国として何か要求した方が良いのでしょうか?」


シルヴェストル「アキラに助けられた一精霊として言わせてもらえばアキラに全て委ねれば良いと思うのじゃ。じゃが精霊王として考えるのならば会談で風の国にとって不利益にならぬように立ち回るしかないの。」


エアリエル「出たとこ勝負ということでしょうか?」


シルヴェストル「そうじゃな。考えなしと言われればそれまでじゃがアキラと魔人族がどういう経緯で講和することになったのかもわからぬ。アキラが魔人族に突きつける条件もわからぬのに風の国だけの判断で条件はつけられぬであろうよ。」


エアリエル「そう…ですね…。やはり私がその場で判断するしかないのですね。」


 エアリエルは神妙な顔で頷いている。始めからそうなることはわかっておったが最後の後押しが欲しかったというところかの。


エアリエル「シルヴェストル様。ありがとうございました。…ところで、ご一緒に会談へ向かいませんか?」


シルヴェストル「わしがか?わしの出る幕ではないじゃろう?」


エアリエル「そう…ですか。シルヴェストル様がそう言われるのでしたら…。それでは失礼致します。」


 八の字に眉を下げたエアリエルは少し残念そうな顔をしながら部屋から出て行った。相談よりもわしを会談に連れ出してアキラと会わせることが目的だったのやもしれぬな。じゃがわしはアキラの前に行くのは怖いのじゃ………。


シルヴェストル「うっ!」


 また始まった発作に胸を抑えながらなんとか椅子に腰掛ける。このような状態ではとてもアキラには会えぬ。会いたい…。会いたい…。アキラに会いたいのじゃ………。



  =======



 エアリエルとシルフィが会談に向かってすでに数日が経っておる。わしの発作の間隔は日に日に短くなってきておる。最早自分でも抑えきれぬ。


シルヴェストル「うぅ…。はぁはぁ…。アキラ………。」


???「――――。―――――ッ。――――。」


 誰かがわしを支えて何かを言っておるような気がする。じゃがもう外に意識を向けておれぬわしには誰に支えられておるのかも何を言っておるのかもわからぬ。ただ両脇を支えられたような気がした少しあとで空間を移動した時のような感覚に襲われた気がした………。


 ………。

 ……。

 …。


 ふわっと空間を移動したような感覚がした後にアキラの匂いや気配を感じた。発作でまともに動けぬはずのわしは力を振り絞って目を開け確認する。わしの目の前にはアキラがおる。胸に発作とは別の切なさが襲ってくる。


シルヴェストル「―――ッ!アキラッ!アキラッ!」


 わしは必死にアキラにしがみ付き体を擦り付ける。アキラに嫌われるかもしれぬとか拒絶されたらどうしようなどと考えていたことすら忘れ去りただただアキラに縋り付き続けた。





  ~~~~~アキラ編~~~~~



 エアリエルとシルフィにシルヴェストルの体に異変が起こっていると聞かされた。すぐにシルヴェストルと会うことにした俺達は空間移動できるように俺のパーティーメンバーとエアリエルとシルフィの二人を連れてパンデモニウムの外へと出た。二人はすぐに連れてくると言って空間移動で風の国へと飛んだ。言葉通りすぐに戻ってきた二人に両脇を支えられた一人の精霊はぐったりと俯き荒い息を繰り返していた。


シルヴェストル「―――ッ!アキラッ!アキラッ!」


 二人に両脇を支えられたまま何とか顔を上げて目を開いたシルヴェストルは俺が何か言葉をかけるよりも早く俺の胸に飛び込んできて体を擦りつけ始めた。


アキラ「おい…。シルヴェストル…。一体どうした?」


シルヴェストル「アキラぁ…。はぁはぁ…。アキラぁ~。」


 俺の言葉も聞こえていないのか一心不乱に俺の胸に体を擦りつけ続けているシルヴェストル。これは…なんというか…。色々とヤバイ…。


 まず風の精は無性のはずだ。現にエアリエルとシルフィも無性で胸も性器もない。体は半透明にうっすら透けており実体も薄いような印象を受ける。それなのにシルヴェストルは色もはっきりしておりそこに実体がちゃんとある。何より胸が膨らんでいる。性器はないようだが体型は完全に女性型をしている。言うなればマネキンだ。整いすぎた体で性器もなく、ともすれば不気味にすら感じるほどだ。その体を隠すように布を巻いているがただ裸の上にマントを巻いているようなもので動くたびにチラチラと素肌が見える。それが余計に色気を放っている。


 次にエアリエルとシルフィは発作だと言っていたが顔を赤らめ息を荒げて自分の体を弄っているその姿は発作というよりただ単に発情しているだけのように見える。シルヴェストルが俺の体に自分の体を擦りつけながら発情していると考えるのが一番しっくりくる。もし俺が鼻血を出せる体だったのならまず間違いなく鼻血を噴き出していただろう。それほど今のシルヴェストルは艶かしい。


アキラ「これは…どうしたら?」


 俺は嫁達に視線を向けた。


狐神「治まるまで待つしかないんじゃないかい。」


フラン「あの…。その…。そういうものは発散させると治まると聞きます。発散してしまうまで待つのが良いかと…。」


ミコ「………アキラ君のエッチ。」


 皆にもやはりシルヴェストルは発情してるだけに見えるようだ。あとミコよ。何で俺がエッチということになるんだ?それからしばらくシルヴェストルは俺の体に自分の体を擦りつけ続けた。



  =======



 しばらく発情しているかのようだったシルヴェストルも次第に落ち着いてきていた。


シルヴェストル「アキラすまぬ…。わしは…。」


アキラ「落ち着いたか?気にすることはない。ただ色々確認したいことはある。」


シルヴェストル「………うむ。」


 俯いているシルヴェストルの表情は見えない。だがその声には元気がない。まぁあんな姿を人に見られたら落ち込むのも無理はないか。少なくとも俺なら悶絶ものだ。


アキラ「あの発作(?)はいつから出始めた?頻度は?」


シルヴェストル「始まったのはアキラと別れてから程なくじゃ。最初の頃は数日に一度あるかないかじゃった。それが次第に間隔が短くなって今では一日に数度は起こる。」


アキラ「体の変化はいつからだ?」


 その言葉を聞いてシルヴェストルはビクリと体を震わせた。


シルヴェストル「………。これも発作が起こり始めた頃からじゃ。発作の頻度が上がると共に体型も徐々に変わり始めたのじゃ。」


 自分の腕で自分の体をきつく抱き締めるシルヴェストル。そのせいで胸がさらに強調されているのが艶かしい。


アキラ「ちょっと確認させてもらってもいいか?」


シルヴェストル「………。」


 言葉では返事をしてくれないがコクコクと頭を縦に振っている。よほど嫌なのかプルプル震える腕で体を覆う布をたくし上げる。


シルヴェストル「………アキラぁ。」


 じっとシルヴェストルの体を見ていた俺の顔を覗き込むようにしながらシルヴェストルが俺の名を呼ぶ。体から顔へと視線を上げてみると顔を真っ赤にしてフルフルと震えるシルヴェストルの顔が目に入る。これは本当にヤバイ。俺の理性がどこかへぶっ飛びそうだ。性に疎い子に悪戯をする変質者の気持ちが少しわかってしまったかもしれない。これ以上進んではいけない扉を開いてしまいそうだ。


アキラ「すぐに済む。もう少し我慢してくれ。」


 俺はなるべく気持ちを落ち着けながらシルヴェストルの体を観察する。やはり性器はない。胸もただ張っているだけで女性のそれとは違う。人間ならば先っぽについているはずのぽっちりがないのだ。そもそも子供を産まない風の精にはそれらの機能は必要ないため最初からついていない。腰はくびれてお尻は丸い。見た目の形が女性型であるだけで本当にマネキンのようだ。一応断りを入れておくが俺はマネキンに興奮する性癖があるわけじゃない。ただ女性的な体型のシルヴェストルが性知識に疎いながらも自分の変化にとまどい恥じている姿が艶かしいのだ。体型以外の変化も探してみるが顔などが老けたりしている様子はない。力は…ん?…。


アキラ「精霊力が変化したのはいつからだ?」


シルヴェストル「………さすがアキラじゃな。禁忌の地を出てから徐々に変化しておる。」


アキラ「………そうか。」


 表面的にはうまく誤魔化して普通の精霊力を纏っているように見せかけているがシルヴェストルの内面にある力はすでに他の風の精とは違うものに変化している。具体的に何がどう違うのか説明してみろと言われてもどう違うのか。その違いで何が変わるのかはわからない。ただ例えるならば他の精霊達の精霊力が黄色い絵の具を溶かした水だとすればシルヴェストルの精霊力は徐々に黄緑色へと変化しつつあるようなものだ。これは例えなので実際に黄緑色に変化しているわけでもないし、それが少し変わったからと言って何がどう変わるのかは俺にはわからない。ただ一つ言えることは最早シルヴェストルはただの風の精ではない別の何かに変わっているのだろうということだ。


アキラ「他に同じ状態になっている者はいないのか?」


シルヴェストル「体も精霊力もこのように変わっておるのはわしだけじゃ。」


アキラ「…やっぱりあそこに長い間居すぎたせいだと思うか?」


シルヴェストル「………関係ある可能性はあるの。じゃがわしより前の世代でもこのようなことは起こっておらん。」


アキラ「中にいた時間の長さじゃなく制御していた時間の長さが影響しているとすれば…。」


シルヴェストル「わしだけが目に見える影響を受けている理由にはなりえるの。」


 シルヴェストルは歴代風の精霊王の中でも飛びぬけて長い間狂った元素を抑えていた。中に入っていた時間の長さだけで言えばシルヴェストルより前の世代は皆シルヴェストルより長くなるが抑えていた時間歴代一位のシルヴェストルだけが変化しているのなら抑えていた時間の長さが原因でこの変化が起こっている可能性はある。


アキラ「今はその変化の理由も原因も影響もわからない。だがともかくこれからはシルヴェストルは俺と一緒にいろ。何かあっても俺ならすぐに対処出来る。」


シルヴェストル「アキラ…。良いのか?わしが一緒におっても?迷惑ではないのか?このような体になったわしが気持ち悪くはないのか?」


アキラ「良いに決まってる。気持ち悪いわけないだろう?むしろ艶かしくて俺のほうがドキドキするくらいだ。」


シルヴェストル「ッ!アキラぁ!」


 再度俺に飛びついたシルヴェストルは自分の体を俺にこすり付けている。もしかして我慢させずに時々こうやって発散させればその発作とやらの頻度もある程度下がるかもしれない。それを確かめるためにもこれから多少はこうやって俺の体にスリスリしてくるシルヴェストルの好きにさせてやるほうがいいかもしれない。決して間近で盛っているシルヴェストルを見たいからではない。


ミコ「アキラ君。鼻の下が伸びてるよ。」


狐神「結局六人目だったね。」


フラン「私は良いと思いますよ。」


ガウ「がうがう。」


 嫁達の許可は下りたようだ。


エアリエル「シルヴェストル様のこと…、よろしくお願い致します。」


 エアリエルとシルフィも俺に頭を下げてくる。別に二人や風の精霊種のためじゃない。俺にとっても大切なシルヴェストルのためにこれからはシルヴェストルもパーティーメンバーとして受け入れることになったのだった。





  ~~~~~大ヴァーラント魔帝国の人々~~~~~



 先のアキラの力は異常の一言に尽きる。本当に狐神よりも強いのだろう。俺と戦った時の狐神もまだ完全な本気ではなかったと思う。その狐神の本気を上回るとしたら現存する神の中でも最強だろう。そんな者は古代族の神しか見たことがない。そう言えばあのセリフ…。


アキラ『人神は敵だ。それは俺も同じこと。だがお前の敵は人間族全てか?それとも人神か?人間族全てを滅ぼすのがお前の正義か?』


 よく似たセリフを遥か昔にも聞いた…。俺がかつて裏切り、死においやってしまった親友の言葉を思い出す…。


???『お前の敵は――族か?それとも俺か?――族全てを滅ぼすのがお前の正義か?』


 あの時俺はその問いに答えられなかった。それは俺がその時既に人神に思考誘導を受けていたからだろうか?俺はあいつに救われて以来あいつのことを親友だと思っていた。まぁあいつからすれば当時の俺なんて単なる世話のかかるガキだったのだろうが…。あの時答えられなかった問いの答えを…これから示す時なのだろう…。こんなことで俺の罪滅ぼしになるわけではないが…、お前の想いには応えられるだろうか?―神よ…。


 それにしてもあのアキラという娘は不思議な娘だ。親友と初恋の人を同時に失って以来俺は二度と誰かを愛することなどないと思っていた。その俺が出会ってたった数日の、それもあんな小娘に惚れつつあるとはとんだお笑い種だな。だがあの娘には俺を惹きつける何かがある。


レヴィアタン「………あぁ。もうお終いだ…。」


 レヴィアタンの名を継ぐ者がさっきからずっと同じセリフを繰り返している。辛気臭くて鬱陶しい。


レヴィアタン「わしはなんということをしてしまったのだ…。まさか黒き獣があれほどの力を持っておったとは…。あの者の怒りを買うなど…、この国が滅ぶどころでは済まない…。」


バアルペオル「だなぁ…。まさか美しいお嬢さんがあそこまで力を持ってたとはなぁ…。あれは俺達じゃどうにもなんねぇよ。」


アスモデウス「あら?よろしいじゃありませんか。あぁ…、アキラ殿…。アキラ殿になら滅ぼされても本望ですわ。」


 バアルペオルの名を継ぐ者がレヴィアタンに同意しアスモデウスの名を継ぐ者は自らの体を抱いている。


バアルゼブル「確かに昔の黒き獣よりも遥かに強い力であったわい。たったこれだけの期間にあれほどの力を得たのは驚くべきことじゃ。」


サタン「いや…。おそらくアキラ殿は昔からあれほどの力を持っておったのだろう。我らが見た黒き獣の力などほんの一端にすぎなかったということよ。」


マンモン「………。皇帝陛下の言われる通りかと…。アキラは最初から手加減していた。そしてあの時の力もまだ全力ではない…。」


 さすがにバアルゼブル、サタン、マンモンの名を継ぐ上位三人はよく見ている。


黒の魔神「マンモンが正解だろうな。アキラの力は俺でも底が計れなかった。」


サタン「黒の魔神様をもってしてもですか…。」


六将軍「「「「「………。」」」」」


レヴィアタン「あぁ…。わしはなんいうことをしてしまったのだ…。」


 また始まったレヴィアタンの辛気臭い嘆きはいつまでも繰り返されていた。



 昨日まで三日連続一万文字以上だけど今日は9800文字だからギリギリ一万文字じゃない!


 読みにくかったらすみません………。この辺りは一話当たりの文字数がやや多い回が続きます。

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