第四十六話「二族会談」
いつものように朝一番に目が覚めた俺は城の調理場へと向かう。もちろんこの城に滞在するようになった初日にはすでにサタンに話は通してある。そしてお察しの通り前回同様朝食のおねだりもされている。今回は精霊族の分もあるので軽い朝食としてもかなりの量になるだろう。
あれ…?おかしいな…。俺って一撃で世界を消滅させることもできる最強レベルの強さなんじゃなかったっけ…。何かうまく使われている気がしないでもない。だが俺は地球にいた頃から料理自体は嫌いではなかったし『おいしい』と言いながら食べてくれたらやはりうれしく思うものだ。どうせ自分達の分は作らなければならないのだからおいしいからまた作って欲しいなんて言ってくれる相手にはついでに作ってあげてしまう。料理を出されても感謝の言葉すら言わなかった六人の精霊の神共には出したくないがな。
ミコ「何を作ろっか?」
いつも料理を手伝ってくれているミコがいるので全員分の朝食もすぐに出来上がるだろう。何しろ俺もミコも地球に居た頃よりスピードもパワーも桁違いだ。今ではミコも巨大な獲物ですらものの数分で解体できてしまうのだ。とはいえ朝から凝った料理は必要ないだろう。
アキラ「そうだな。朝食だし軽い物でいいだろう。パンにバターとジャム。それから目玉焼きかスクランブルエッグかな?」
ミコ「う~ん…。それだけだと寂しくない?」
アキラ「じゃあどうする?」
ミコ「フレンチトーストとポタージュ。それからオムレツとソーセージかハムでどうかな?」
アキラ「よし。それでいこう。」
ミコの提案に乗ってそこに果物を搾ったジュースとサラダをつける。もちろん他にもパンをつけている。ちなみにこの世界ではミコが言った料理は何一つ存在しない。果汁のジュースやサラダはもちろんこの世界にもある。だがフレンチトースト、ポタージュ、オムレツ、ハム、ソーセージといったものは一切ない。それどころかバターやジャムすらないのだ。
安宿の朝食のメニューはせいぜい黒くて硬いパンが二つと水のみだ。それでも付いていればマシなほうでほとんどの場合では食事は別になっている。そしてこの黒くて硬いパンは安宿だけではなく一般家庭は疎か王侯貴族ですら食べているのだ。日本のパンに慣れ親しんだ者がこのパンを食べたら絶対に『硬い。臭い。まずい。』と思うだろう。このファルクリアでは料理は基本的に肉だ。理由は簡単。魔獣がそこらじゅうにいる。そして魔獣は害があるので人の生活圏に近寄ってくる物は駆除される。当然新鮮な肉が手に入る。とても食えそうにない魔獣から毒がある魔獣まで様々な魔獣を食べられるようにする料理にかけてはかなり発達している。硬い肉を柔らかくする方法や様々な味付けなど肉料理については俺やミコが習うことの方が多い。
だがその魔獣の所為で農業や牧畜が発達しないのだ。広大な土地と莫大な労力が必要なこれらの産業に割けるだけの労力がないのだ。田畑も家畜も魔獣に荒らされ食われる。広大な農地や牧草地の世話をしながら守るには大勢の人手が必要になる。にも関わらず得られる物は少ない。どれほど被害を減らそうとしても必ず被害が出ることは約束されている。天候などにも左右される。同じ労力を使うのなら魔獣でも狩った方が得られる食料が多く確実なのだ。魔獣の駆除と食料で一石二鳥になる狩りの方が盛んで農業に従事する者は少なくなる。結果、農業従事者は女子供や年寄り、怪我をして引退した者や狩りに自信のない者ばかりになる。比較的安全な街の近くなどの場所でこの者達が寄り集まって小規模な農業をしているだけなのだ。その生産量は需要に対してまったく足りていない。だから贅沢な調理方法などは発達せず出来るだけ多くの者に行き渡るように作られているのだ。
では俺のボックスから出てくる様々な材料や調味料は一体何なのか?どこにあったのか?どうやって手に入れたのか?俺はその真相を知った時愕然とした。五龍将を見てわかる通り俺のボックスの中でも生きていける生物がいる。どんな生物を入れても生きていけるのか奴らだけが生き残れた特別なのかはわからない。だが『ボックスの中でも生きていける生物は存在する』という事実だけは変わらない。そして俺が取り込んだのは水だけではない。土も取り込んでいる。というと変な言い方になってしまうので補足しておくと森というか山というか…、つまりどこかの島のような自然環境を丸々一式取り込んでいたのだ。水中に魚がいて五龍将になったのだ。森があるということは………。これより先は言わなくともわかるだろう。つまり産地はボックス産。地産地消と言える状態なのだ。
師匠の庵でボックスについて試行錯誤していた俺はまだこの体に馴染んでいなくて力をうまく使えていなかった。だが今の俺はこのボックスについて前よりもかなりわかるようになったのだ。俺はボックスについて大きな勘違いをしていた。いや、うまく認識できずによくわかっていなかったというべきか。俺はボックスの中は一つの大きな空間にでもなっているのかと思っていた。だがそれは間違いだった。確かに物を出し入れしたりするための出入り口として俺が開く力は同じ物だ。それが最初の時にも思った空間魔法とでも呼べるものだろう。だがその先はいくつもの出口があるのだ。そう。それはまさにグリーンパレスにあった門と似たようなもの。グリーンパレスにある出入り口は一つ。だが思い浮かべた先によって精霊の園の各エリアのどこにでも出られる。ボックスもシステムは同じ。俺が開く出入り口は一つ。だが出し入れする先は無数にある。用途にあった先へ入れたり出したりしているのだ。とはいえまだまだボックスについてはわからないことも多い。このことに気付いたのもグリーンパレスの門に接する機会を得て俺の発想力や空間認識力が上がったからこそ気付けたのだろう。ボックスについては今後も要調査だ。
ちなみに肉料理が発達しているにも関わらずハム、ソーセージ、ベーコンといった物が一切なく干し肉一択しか存在しない理由は肉が供給過剰だからである。旅をしていて魔獣の肉が手に入らないなどということはまずあり得ない。だから念のために持ち歩く保存食は凝った加工などの必要がない干しただけの肉しか存在しないのだ。貴重な木材を使って燻製にしたり塩を使って加工したりする余裕はない。木自体はどこででも手に入る代物だが小さな木ではなくそれなりの木を手に入れようと思えば林や森の奥まで入らなくてはならない。農業の件で言った通り樵も労働力不足なのだ。魔獣に襲われる危険を冒して森まで木を切りに行く者は少ない。また塩も同じ理由で貴重だ。海水から塩を作ろうにも海水を引き込むだけでも海の魔獣に襲われる危険もある。若くて元気な者ほど狩りや戦争に駆り出されるため残った者ではそういった仕事は大変な危険を伴うのである。
ミコ「アキラ君どうしたの?」
俺が考え事をしている間に朝食は出来上がっていた。もちろんサボっていたわけではなく俺も料理はちゃんとしていた。だが料理が出来上がっているのにまだここで固まっていた俺をミコが横から覗き込んでいる。首を傾けているミコがかわいらしい。ミコの方へ少しだけ向き直りそのまま抱き締める。
ミコ「えっ!どっ、どうしたのアキラ君?」
アキラ「いつもありがとう。」
本当はただミコが可愛かったからつい抱き締めてしまっただけなのだがなんとか取り繕う口実を口にした。
ミコ「うっ、うん。一緒にいられるだけでもご褒美なのに…こんな特典まであるなんて………。手伝っててよかったよ。」
ミコは真っ赤になりながらも俺を抱き締め返してくる。だが口走っている言葉はいつものミコらしからない。相当混乱しているようだ。
アキラ「まだ時間があるから他の食材も調理しておこう。」
ミコ「あっ………。うん。そうだね。もう一頑張りしよっか。」
俺が離れるとミコは名残惜しそうな顔をして少しだけ手を伸ばそうとしたがすぐに引っ込めた。俺だって名残惜しい。ずっとミコと抱き合っていたい。だがそういうわけにもいくまい。やるべきことはまだまだあるのだから。
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朝もそれなりの時間になり次第に城内にも活気が出始めた頃に魔人族側から提案があった。精霊族と魔人族が一緒に朝食を摂りその席をそのまま会談にしてしまおうと言うのだ。飯くらい好きなように食わせろと思わなくもないがそれはそれで悪くない気もする。昨日の晩餐会もそれなりにお互い打ち解けることが出来た。疲れたり腹が減っていれば気持ちが荒む。腹がふくれれば気持ちも穏やかになる。あまりリラックスしすぎてもミスをしそうではあるが食事の席をそのまま会談にしてしまうこと自体は悪くない。問題は朝食として用意したメニューだ。
アキラ「これじゃ少なすぎるな。お手軽すぎたか?」
ミコ「う~んと…。朝はあまり食べられない人もいるかもしれないし最初のメニューはそれぞれに出してもらってこれ以外にビュッフェを用意するのはどうかな?」
アキラ「そうだな。そうするか。」
ミコの提案を受け入れてビュッフェ形式で並べる物も用意する。とは言っても朝食の準備を終えたあとで作った物を全部出すと多すぎる。調理設備の整っているこの城にいる間に出来るだけ食材を調理しておこうと物凄い量を作り置きしてあるのだ。同じメニューばかり大量にあっても面白くないのでボックスに収納してある物も取り出しつつ一品当たりの量は減らし品数を増やすことにする。
師匠やガウは朝からでもがっつり食える派だ。二人が好きなステーキ、焼肉、から揚げ、コロッケ等の肉類、油物を出しておく。フランはこの二人に比べればあまり食べないほうだ。一般的に考えて小食というわけではないがあの二人が大食いすぎてフランが小食に見える。さらに朝はあまり食が進まないタイプなのでフランが好きなプリンやゼリーを出しておく。甘い物が好きなフランだがいくら好きな物でも朝から大量に甘い物は食べられないだろう。甘さを抑えて軽く食べられる物をチョイスしておく。ミコは日本的な料理を好むので味噌汁、煮物、焼き魚、刺身、寿司を出しておこう。あとはそうだな。俺のチョイスとしてパスタを出しておこう。ペペロンチーノとカルボナーラだ。チョイスの理由はない。なんとなくだ。ついでに様々な種類のパンも出しておく。バターロールのようなオーソドックスな物からクロワッサンやバウムクーヘン、ワッフルやあんパンのような菓子パン類から焼きそばパンのような惣菜パンまでかなりの種類を用意した。この世界のパンだけでは現代日本人は絶対に満足できない。ありとあらゆる種類のパンが存在する現代日本は本当にすごいことだとこの世界のパン事情を見てつくづく思う。
アキラ「こんなものでどうだ?」
ミコ「うん。いいと思うよ。………朝食とは思えないけれど。」
アキラ「そうだな。だが朝昼兼用のような時間だし会談が長引けばそのまま昼食になるだろう。これくらいあっても大丈夫じゃないか?」
ミコ「そうだね。すぐに纏まるとも思えないしお昼ご飯も兼ねていると思えばいいのかも。」
こうして準備の整った俺達は会談の準備のために部屋へと戻ったのだった。
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部屋に案内の者がやってきて会談場へと向かう。廊下の途中で待ち構えていた他の精霊族の代表団が合流してそのまま進む。会談場は食堂ではなく別の部屋のようだ。俺がこれまでこの城に滞在していて一度も訪れたことのない場所へと向かっている。そして廊下の角を曲がると向こうから魔人族側の代表達も同じように先導役に案内されながら歩いてきていた。両者がぴたりと同時に一つの扉の前に辿り着く。扉が開き両代表団が同時に中へと入る。ここはパーティーやダンスをする会場のようだ。この人数だけでは少し広すぎて寂しい感じがする。すでに用意されている席には共通文字で名札が置いてある。それぞれ名前の書かれている席へと着席した。
ちなみに以前話した通りこの世界には共通言語というものがあるがこれを表記するための共通文字というものも存在はしている。ただしほとんど普及していない。理由はよく知らないが恐らく各国が戦争状態だからではないだろうかと俺は考えている。もし世界中で共通文字が普及していて共通文字で全てが書かれていれば一目見てすぐに敵にまで内容を読まれてしまう。だからあえて各族は独自の文字を使用しているのではないだろうか。もちろん魔人文字や精霊文字で書いていても相手がその文字を知っていれば読まれてしまうことに変わりはない。ただし共通文字で統一されていれば文字が読み書きできる全ての者に読まれるが専用文字を使っていればその勉強をしていない者には読まれることはない。相手に専門知識の勉強という負担を強いて読まれるリスクを減らすのに丁度良いのではないだろうか。
日本の方言も実はこれに近い理由によるものだという側面もあるそうだ。現代でもよくあるが方言全開で話されたら他の地域の者は何を言われたのかよくわからないことが多々あるだろう。これはつまり余所から来た敵のスパイに聞かれても相手にばれにくく、さらに会話していれば自分達の方言と合わない者は余所者だとすぐに見分けるためにあえて使っていたというわけだ。
だがこの世界は逆に言葉は全て共通言語で統一されている。意思の疎通をスムーズに行うためだろう。もっとも共通言語が普及しているのは世界を統一していた古代族が他種族と簡単に会話できるように普及させたのだと思われるが…。なのでその頃は共通文字も普及していたのではないかと俺は推測している。だが古代族が滅び各種族が分かれた時に他種族に文字を簡単に読まれないように共通文字は次第に使われなくなっていったのかもしれない。交渉などは必要なため話す言葉はそのまま共通言語が使われたのだろう。これが言語は共通、文字はばらばらという現在の形になった原因だと思う。
少し話が脱線しているので元に戻す。火の国の席はど真ん中。俺と師匠はそのさらに真ん中で向かいは黒の魔神とサタンだ。あとは左右に六将軍が並んでいる。なんというかこれははっきり言って俺と師匠とだけ交渉するという魔人族の意思を示しているかのような並びだ。他の精霊の国は火の国の左右に並べられているがまるでこちらとは交渉する気などないと言わんばかりである。
アキラ「おいサタン。いくらなんでもこれは露骨すぎやしないか?」
そもそも精霊族と魔人族の戦争についての会談のはずなのにどちらとも無関係の師匠がど真ん中で黒の魔神の前はやりすぎではないだろうか。
黒の魔神「勝ったのはお前達二人であって魔人族は他の精霊族に負けた覚えはない。他の精霊族の話も聞きはするがお前達二人が納得するかどうかだけの問題で他の者の意思が介入する余地などない。」
サタンが何か言うよりも早く黒の魔神が答える。それは確かにあながち間違いでもない。俺達が納得しなければ他の精霊族が納得しても魔人族は交渉を続けなければならないし、他の精霊族が納得しなくとも俺達が納得すれば俺達は戦争から抜ける。俺達が抜けても戦いたければ精霊族だけで勝手に戦えばいい。
ノーム「わしらはかまわんよ。のう?水の?風の?」
ウンディーネ「婿殿にお任せします。」
エアリエル「風にも異論はありません。」
ノームの言葉に他の二人も賛同する。精霊の神達は文句があるようだが全て聞かなかったことにする。さらっと流したが俺はいつから婿殿になったのだろうか。ウンディーネも俺とティアの関係を着実に既成事実化しようとしている気がしてならない。
アキラ「誰も文句がないのならいいか。」
サタン「それでは二族会談を始めよう。」
精霊の神達は文句を言っているが俺の耳には入らない。サタンの合図で会談が始まった。
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会談は始まったが最初は食事だ。いきなり交渉が始まったらご飯もゆっくり食べられない。和やかな雰囲気の中でそれぞれが朝食を食べている。昨晩始めて俺の料理を食べた精霊達からは今日の料理も大絶賛だった。黒の魔神はさっさと自分の分を食べ終わるとすぐさまビュッフェの方へと向かって行った。だがこいつは単においしいからや口に合ったからではない別の目的がありそうだ。黒の魔神は俺の出す料理に大量の神力が含まれていることに気付いた。こいつはこれを食うだけで力が増えるとわかったのだろう。力を増すために貪欲に食べてい………。
黒の魔神「おおっ。こんな物があったのか。むっ!これもうまい。…ほう。これは昔似たような物を見たことがあるな。………こっちのこれはどうやって食うんだ?」
違ったようだ。こいつは楽しんで食事をしている。まるで子供のように大はしゃぎしながらビュッフェを堪能していた。俺の邪推だったようだ。俺達を除けば一番影響力のある黒の魔神が率先して色々するので他の者も動きやすくなった。そういうことも見越しての行動だったのならたいしたものだ。
ある程度食事も進み皆の腹も膨れてきた頃だろう。そろそろ会談を始めようと俺が声をかける。
アキラ「まず最初に状況の整理とお互いの認識の摺り合わせをしておきたい。魔人族が人間族に戦争を仕掛けた。そして人神に請われて精霊族から魔人族に戦争を仕掛けた。これで合っているな?」
黒の魔神「そうだ。」
火霊神「………。」
黒の魔神は即座に答える。というかこの話は黒の魔神から聞いたことなので黒の魔神が違うと言うはずはない。そして俺からそう遠くない位置に座っている火霊神を見てみると何も言わずただ黒の魔神を睨みつけている。
アキラ「おい。間違いがあるならちゃんと今のうちに言えよ。後で違うだとか間違っているだとかいう苦情は聞かないからな。」
地球でも何度も同じ問題を蒸し返して強請り集る国が存在する。後で何度も繰り返しにならないようにきっちりとここで全てを終わらせる。法の秩序にはいくつか絶対に破ってはならない原則がある。一度償った罪は再度問われることがないことや法の不遡及は誰でも考え付く当然のことだろう。
誰かに怪我をさせて罪に問われた者が相手に損害賠償や慰謝料で1000万円支払い一年間刑務所にも入ったとしよう。全ての罪を償い無事刑務所から出てきたら被害者が刑務所の前で待っていて前にもらったお金は使い果たしたからもう一度払え。払わないのならまた刑務所へ入れ。と言われて納得するだろうか?それを支持するだろうか?
現代日本はこれと同じ集りを受けている。それが元々本当にあった罪であったか捏造のでっち上げであるのかどうかは別の機会に考えるとして日本は少なくとも迷惑は掛けたので賠償は支払いましょうと条約を結んだ。被害を受けた人に個別賠償で支払うといった日本に対し相手は個人には自分が個別に支払うから国家賠償で全て一括で国に渡せと言って来た。
この交渉の際に自分達の主張を通すために当時軍を解散させられ自衛戦力すらなかった日本のとある島を占領し、漁民達を5000人近くも拉致し50人近くも虐殺したのだ。この島が現在も領有権で揉めている例の島である。この漁民達を返して欲しければ我々の言うことを聞けと脅して自分達に有利な交渉をしようとしたのだ。
結果まとめられた条約は以下のようになった。
日本がその国に置いてきた全ての財産の権利を放棄する。日本はその国に国家賠償で多額の賠償金を支払う。(個人への賠償は受け取ったその国がすると自ら言った。)
日本に収監されているその国の人達を全て釈放し、日本に滞在している全てのその国の人達に特別居住権を認める。(この囚人達は冤罪で収監されている者達ということではなく明らかに犯罪を犯した現行犯や罪の確定している者も全てであり犯罪者を釈放しろという要求である。)
日本にあるその国の文化財を引き渡す。(合併時に持ち出された物に限らず遥か昔に伝来した物から正当な取引などで手に入れた物まで経緯に関わらず日本にあるその国の文化財は全て寄こせといわれたが日本が引き渡すことができる物100余点のみを引き渡すことで合意した。)
日本が不法に占領された島については領有権は確定させずに問題を棚上げし漁業協定を結んだ。(どちらの物かは決めないが中間線でお互い漁業は認めましょう。)
その他にも細かい付随協約などがあるがこれらをもって両国の財産、請求権について完全かつ最終的に解決済みであると確認する。とこの条約には書かれている。もちろん両国が納得しサインしてこの条約は発効している。
これによってようやく日本の漁民5000人近くは開放されて日本へと帰国することができたのである。だがこの条約には問題があった。まずこの国は日本から多額の賠償を受け取ったことを自国民に隠し続けてきた。そして受け取った賠償金を使い国のインフラ整備をしたのである。この後、奇跡的な経済発展と言われる時期がこの国に訪れるがその原資は日本から受け取った賠償金だったのだ。これによってその国の国民達は『賠償金をもらっていない。』と教えられ育ってきた。確かに個人はもらってないのかもしれないがそれを支払う義務があるのはその国である。そしてそうするようにといったのはその国である。この国民達の要求が大きくなりすぎてこの国の裁判所の命令により条約交渉の議事録が公開された。そこにははっきりと請求権は完全かつ最終的に解決済みであり個人賠償はその国が支払わなければならないことが公開された。にも関わらずその国の国民達は未だに自分達は賠償金を受け取っていないので日本が支払えと日本に請求しているのだ。理由は簡単。彼らにとっては日本には何を言っても何をしても良いという常識があるのだ。厳密に言えば日本にというだけではなく兄ならば弟に、格上は格下に、理不尽な要求をしてもかまわないという半島流儒教というものがあるからだ。
最近世界ではこの条約が徐々に知られるところとなり、その国が主張していた謝罪も賠償もされていないという嘘がばれつつある。諸外国からはこの国が何度謝罪しようと賠償しようと次々要求することから動くゴールポスト論と言われたりしている。つまりここでゴールして終わりと言われてそこまで我慢しても次はここまで、その次はさらにここまで、とゴール(終着点)が動き限りなく要求を繰り返すのである。確かに一番悪いのはいつまでも強請り集りを続ける相手であるのは間違いないがそれに付き合いいつまでも払い続けていた日本の過去のトップ達にも原因がある。接待やリベート、キックバックなどを受けていた者や日本は悪いことをしたのだから謝り続けなければならないなどという意味不明な主張の者達があちこちに潜み日本にそういうことをさせてきたのだ。
だから俺は同じ轍は踏まない。ここで全てきっちり清算する。あとからゴネ得になるような真似はさせない。全てをつまびらかにし双方納得させた上で同じ案件で何度も請求を繰り返すようなことは出来ないようにするのだ。
土霊神「確かに精霊族から魔人族に戦争を仕掛けた。」
土霊神がそう声を上げ誰も反論しない。太古の神々がそう言い反論もないということは精霊族も認めているということでいいのだろう。
ノーム「なるほどのぅ…。」
ウンディーネ「初耳ですね。」
エアリエル「どちらから、などということは重要なのでしょうか?」
どうやら四霊神と呼ばれる者達以外は知らなかったようだ。火の精霊神ですら驚いた顔をしている。
アキラ「もちろんどちらからどういう理由で仕掛けたのかは重要だ。それをこれから詰めていく。」
それほど新しい事実もなかったが四霊神も認めたり訂正したりの意見を出しつつこの戦争の全貌が明らかになった。とはいえそれほど難しいものではない。
太古の大戦後に勢力圏協定が結ばれて最初の頃はまだどの種族もお互いに干渉せず平和な時期があった。だが人間族が魔人族の魔法の秘技を奪い使っていることがわかった。制約で秘技自体を拡散させてしまったのはわかっていたが人間族が魔法を使えるようになるなど当時の黒の魔神は考えてもいなかった。が、この制約の話は神々の盟約で神にしか話せないため今回の会談では表向きははっきりとは言及されていない。この件について人神に抗議しようと思った黒の魔神は人神の陰謀に気づいた。そこで魔人族は人間族に宣戦布告し戦争へと突入した。人神は精霊族と獣人族に支援を要請。この要請を受けて精霊族は魔人族を背後から脅かすため西回廊を渡って北大陸へと攻め込んだ。だが逆に精霊族は押され西大陸へと押し込まれさらには西大陸北部の支配まで魔人族に奪われることとなった。
土霊神「人神の陰謀とはなんのことだ?」
黒の魔神「人神は人間族以外の全てを滅ぼしこの世界を人間族だけで支配するつもりだ。」
水霊神「何を馬鹿なことを!人神は太古の大戦を終結へと導いた英雄ではないか。邪悪な魔人族は滅ぼされるかもしれぬが同盟相手である精霊族や獣人族まで滅ぼすわけがない。」
黒の魔神「そもそもなぜ古代族を滅ぼさなければならなかった?」
火霊神「何を今更…。世界を支配していた邪悪な古代族を俺らで打ち破ったんじゃないか。」
黒の魔神「確かに古代族は全世界を統一していた。だが俺達は力ずくで無理やり支配されていたわけじゃない。よく思い出せ。古代族は滅ぼされなければならないような悪政を敷いていたか?技術も生活も今よりも遥かに豊かだったのを忘れたのか?」
風霊神「その豊かさとは古代族以外の我ら五族に強制労働させて得た豊かさではないか!」
黒の魔神「街道や回廊の整備事業のことを言っているのか?当時は古代族の公共事業の人足は高給で待遇もよく休憩もきっちりあり食事も住む場所も保証されていただろう?無理やり働かされた者などいない。それどころか皆がやりたがり倍率も高かったじゃないか。後になってあれは無理やり働かさせられていたのだと事実を捻じ曲げるのか?高い給料をもらっていたくせに?当時の花形職業で皆の憧れで誰もがやりたかった仕事なのに?」
ふと思う。まるでどこぞの強制連行だの強制労働だのと喚く連中と同じだなと…。当時は自分達から進んで仕事に就き高給をもらっていたくせにあとになって強制労働させられたから賠償金を払えと言う不法入国者共とよく似ている。現代ではホワイトカラーのほうが一段上の仕事でブルーカラーを馬鹿にするような風潮が一部にはある。だから現代人の感覚で言えば肉体労働を進んでやりたがるはずはないのだから無理やりやらさせたのだろうなどと日本人ですら思う者がいるらしい。だが当時は肉体労働を卑しめるような考えはなかった。ゴールドラッシュを思い浮かべればわかりやすいだろう。作業着を着て鉱山を掘ったり川を浚ったりする大変な労働だ。だが当事者達は一攫千金を夢見て自ら進んでやっていたのだ。高給の職業というのは貧しい国や時代では皆が憧れる花形職業なのだ。
土霊神「古代族の話などもうどうでも良い。それよりも人神が人間族以外を滅ぼそうとしておるという証拠はなんだ?」
黒の魔神「どうでも良くないぞ。全ては繋がっている。なぜ滅ぼす必要のなかった古代族を滅ぼさなければならなかった?もし古代族が悪で俺たち五族同盟が正義だったのだとすればなぜ未だに戦争はなくならない?」
水霊神「それはお前達魔人族が戦争を望み戦争を始めたからではないか。」
黒の魔神「精霊族も戦争を始めたじゃないか。」
火霊神「だからそれは魔人族が戦争を始めたからだろ!」
黒の魔神「精霊族にとってそれが理由で正義なのだとすればなぜ魔人族にも理由があったと考えない?俺達には俺達なりの譲れない理由があった。それなのになぜ人神の言うことだけを信じて俺達が悪だと言い切れる?一方の主張だけ聞いてそれだけを信じてお前達は戦争を始めた。何かおかしいと思わないか?これは自分で気付かなければ解けないんだ。矛盾に気付け。」
風霊神「それは魔人族が邪悪な存在で人神が太古の大戦の英雄なのですから…。」
黒の魔神「そもそもなぜ人神が英雄なんだ?奴が何をした?血と汗を流したのは俺達四族だ。人間族が何をした?」
土霊神「人神の策のおかげで我らは勝利できたのだ。人間族はひ弱で戦力としては乏しかったかもしれぬがその分後方支援と知恵を貸してくれたではないか。」
黒の魔神「その策は本当に良い策だったのか?かえって被害が増えるような、双方が傷つくような策ばかりではなかったか?よく思い出せ。」
水霊神「何が言いたいのだ!」
黒の魔神「倒す必要のない古代族と俺達四族をぶつけて双方を潰し合わせた。そして勝った四族のうち今度は魔人族を滅ぼそうとしている。その魔人族を滅ぼすために他の三族とぶつけてお互い潰し合わせてな。これを続けていけばどうなる?弱りきった最後に残った種族に人間族がとどめを刺せば人神の目的は達成される。わかるか?」
火霊神「なにを馬鹿な…。」
黒の魔神「馬鹿なことだと一笑に付せるか?何も思い当たることはないと言い切れるか?冷静に考えてみろ。」
風霊神「何のために…?」
黒の魔神「さぁな。それは俺にもわからない。ただ五族同盟のうち人間族以外の四族をお互いに潰し合わせて最後に人間族だけが残る。人神はそれを狙っている。」
四霊神「「「「………。」」」」
その時、キィィィーンと何かが弾けるような音が鳴り響いた。四霊神の頭の辺りからキラキラと何かが散っている。あれは呪い?何かの呪縛だろうか。
黒の魔神「人神の思考誘導が解けたようだな。」
四霊神「「「「………。」」」」
黒の魔神「前提条件は整った。さぁ…、交渉を始めようか?」
それまで四霊神と話していた黒の魔神は俺と師匠へと向き直ってそう告げた。
二日続けて一万文字オーバー………。今日は一万二千文字…。読みにくいかもしれませんがご容赦ください。
しかも四日後、五日後に過去最大文字数の話がくることに………。分割した方が読みやすいのかなと思いながらも一話として書いてあるものを分割するとおかしくなるかと思って出来ないチキンです。




