第三十五話「元素結界」
シルフィに付いて行った先には何もない。ただの崖に祭壇のような物があるだけだった。
アキラ「ここが風の国か?」
シルフィ「ここにある山と渓谷全てが風の国です。この場所は王が御座す場所です。」
だが王はおろか誰もいない。先ほどまでのように姿が見えないだけではない。気配が一切ないのだ。俺達とシルフィ以外は本当に誰もいない。
シルフィ「私は風の国の宰相シルフィです。」
アキラ「…俺は火の精霊王アキラだ。」
俺達は簡単な自己紹介をした。シルフィはやはり宰相だったようだ。
アキラ「王はいないようだが?」
シルフィ「………この地の風の元素は狂っているんです。貴女が行こうとした先からは全てです。」
シルフィの話はこうだ。いつからかわからないが遥か昔にこの地の奥深い渓谷にあった風の元素は狂ってしまった。そこへ入ってしまった風の精霊も狂ってしまう。渓谷の奥深くには狂ってしまった風の精霊達が今も大勢いるそうだ。その狂った風の元素がこちら側にまで吹き出して来ないように風の精霊王は代々奥深くへと入り風の元素を鎮める。
しかし完全に鎮めることもできず精霊王といえども徐々に狂ってしまう。完全に精霊王が狂ってしまう前に次の精霊王候補が奥へと入り精霊王を譲られ代わりに風の元素を抑える。王位を譲った元精霊王は完全に狂ってしまい他の狂った精霊と混じりながらこの渓谷の奥深くで暴れまわる。これを何千年もの間何代も何十代にも渡って繰り返してきた。
だが前回の王位継承で問題が起きた。成長した風の精霊王候補がいなかったのだ。本来であればこのシルフィが風の精霊王になるはずであった。しかし当時まだ幼く成長しきっていなかったシルフィでは仮に譲られてもいくらも持たずすぐに狂ってしまうだろうということでシルフィが奥へと入ることは見送られた。それから程なくして風の精霊王は完全に狂ってしまった。辛うじて風の精霊王が抑えていた最後の防波堤がなくなり最早誰もあの奥へと踏み入ることは出来ない。徐々に狂った風の元素が周囲に広がりつつある中で風の精霊達はここに留まりただ滅びの時を待っているのだ。
シルフィ「風の精霊は風の元素の影響を受けやすいのですぐに狂ってしまいます。ですが狂うのは何も風の精霊だけではないのです。貴女方があそこへと踏み入れば貴女方も狂ってしまうんです。」
アキラ「それでただここで滅びるのを待っているのか?くだらない。お前らはただの無能だ。」
シルフィ「よそ者の貴女に何がわかるんですか!?私達はここを捨ててどこかへ行くわけにはいかないんです。」
アキラ「馬鹿の考えることなど俺にわかるはずはない。ただここで指を咥えて滅びの時を待つというのならそうしてろ。俺は奥へと行く。」
シルフィ「行かせるわけにはいきません。風の精霊は精霊王を失ったんです。貴女にとってはどうでも良いことかもしれませんが精霊族にとっては火の精霊王まで失うわけにはいかないんです。」
アキラ「俺があの中に入って狂うとでも思っているのか?本当にどうしようもない無能だな。」
ミコ「でもアキラ君。どうするつもりなの?」
ミコが訊ねてくる。俺は過去に交わしたティアとの会話であることを思いついていた。その方法を使えばこの程度の問題など簡単にクリアできる。
アキラ「奥にある元素が狂っているのが原因ならばその元素に触れなければいい。渓谷の奥にある元素を遮断して俺達に触れないようにする。ただそれだけだ。むしろなぜ今までその程度のことに考えが回らなかったのか俺には理解できない。」
ミコ「そっか…。そうだね。原因がわかっているのだから…。」
ティア・シルフィ「「そんなこと出来ません!」」
ティアとシルフィがハモって反論してくる。もう何度もこういう事が起こっているので対処方法はわかっている。こういう頭の固い奴らには論より証拠だ。
アキラ「おいティア。ちょっと俺から離れてみろ。」
ティア「何かされるおつもりですか?」
俺は周囲に張っていた火の精霊魔法を消して胸から取り出したティアを遠くに行かせた。そして新たに結界を張りなおす。
アキラ「そこから俺の近くへ空間移動してみろ。出来るものならな。」
ティア「その程度のこと………。………そんなっ!どういうことですか?」
ティアは俺の側に空間移動できずに困惑しているようだ。腕を組み顎に手を当てながら右へ左へうろうろと飛び回っている。
シルフィ「一体どうしたんですか?オーレイテュイア。」
アキラ「わからないならシルフィが俺の周りまで空間移動してみろ。」
ティアの困惑の理由がわからないシルフィにそう告げる。
シルフィ「ここは風の国です。私が行けない場所なんてありません。………!!??なぜ…。こんなはずは…。」
アキラ「わかったか?今の俺の周りには水の元素も風の元素も存在しない。お前達では座標を固定出来ずに俺の近くへと空間移動することは出来ない。そして俺の周りに元素がないということは外の元素が結界を出入りすることも俺に触れることも出来ていないということだ。」
以前ティアが言っていた元素が多く力の強い場所に空間移動出来るという話を聞いてから俺の周りに移動して来れない方法を考えていた。その方法は至って単純だ。この世界に元素がない場所などほとんどないと言っても過言ではない。ならば作り出せばいい。元素が通過出来ない結界を体から周りに発生させてそれを広げていく。そうすると近くにある元素は結界に押されて俺の周りから遠ざかっていく。
これを考えた理由は俺の近くの元素を遠くへと押しやって俺の近くに空間移動してこれないためであったが今回は内側の元素を完全に排除してしまう必要はない。仲間を完全にこの結界で囲んで外の元素が入ってこなければいい。思わぬ形で役に立つことになった。
シルフィ「あり得ません…。元素を遮断してしまう結界なんて…。」
アキラ「お前の常識であり得ようがあり得まいが現実に今目の前にある。それが事実だ。これで問題解決なのだから俺達が奥へと行くのに異論はないな?」
シルフィ「それは…。いえ、やはり行かせるわけにはいきません。どうしても行くと言われるなら私も連れて行ってください。」
アキラ「………。そんな言い回しをする必要はあるのか?自分も行きたいから連れて行って欲しいと素直に頼んだらどうだ?」
シルフィ「………私も行かなければならないので連れて行ってください。」
シルフィは思ったよりも素直なようだ。だが聞いておかなければならないことがある。
アキラ「なぜシルフィが行かなければならない?理由を聞かなければ同行は許可しない。」
シルフィ「渓谷の奥におられる風の精霊王様はすでに狂っておられるはずです。私がその王位を奪います。」
アキラ「なるほどな。今度はお前が人柱になって狂った風の元素を抑えるつもりか。まぁ誰が犠牲になろうが俺には関係ないことだ。連れて行くだけなら連れて行ってやる。ただし俺達は俺達の目的を果たす。お前の手伝いはしない。」
シルフィ「風の精霊の問題は風の精霊だけでなんとかします。………ありがとう。」
最後は小さな声ではあったが俺にははっきりと聞こえていた。
狐神「さすがは私のアキラだね。もう何が出来ても驚かないよ。」
フラン「キツネさん。キツネさんだけのアキラさんじゃありませんと先ほども言ったじゃないですか。」
ミコ「そうだよね。アキラ君は私達皆のアキラ君なんだから。ね?」
ミコは少しだけ首を傾げてウィンクした。その仕草が妙にかわいく俺の胸が高鳴ってしまった。
アキラ「だけどこんなことがそれほど大したことですか?師匠でも簡単に出来ると思いますが…。」
狐神「私には元素が感知できないんだよ。今アキラがやったことを真似することは出来るけどそれで本当に元素が近くにないかどうかは判断できないからね。」
ティア「そもそも元素に干渉するなんて精霊神様でも出来ません!アキラ様がおかしいのです。…わたくしも中に入れてください。」
ティアが俺の結界の外に張り付いてドンドンと叩きながら喚いている。どうやら元素だけではなく精霊も遮断できるようだ。元素と精霊は近い性質なのかもしれない。俺が結界を解くと一目散に俺の胸に飛び込んできたティアは服の中へと入り谷間に収まる。
アキラ「………おい。なぜそこに入る………。」
ティア「ここはわたくしの席です。」
アキラ「そこは誰の席でもない。俺の胸だ。さっさと出ろ。」
俺が手を伸ばしてティアを捕まえようとすると服の中へと引っ込んでしまった。
アキラ「ちょっ!この馬鹿。どこに入って…。くすぐったい!やめろ!出て来い!」
捕まえようとすると服の中をちょろちょろと逃げ回る。
アキラ「あっ…そこを掴むな!馬鹿!やめろって!あはは。そこは触るな。くすぐったい。……ひぁっ!」
………。ティアが俺の敏感な場所を触った瞬間に俺の口から出たとは思えないかわいい悲鳴を上げてしまった。きっと今の俺は赤面しているだろう…。
ミコ「アキラ君………。」
ミコが俺を見つめてくる…。
ミコ「アキラ君かわいい!」
ミコは俺に飛びつき抱き締めた。ミコの体からは何かクラクラするような香りがする。そのままこちらからも抱き締め返してしまいそうになる衝動を何とか抑える。
アキラ「………離せ。」
狐神「私も混ぜとくれよ。」
師匠まで一緒になってミコごと俺を抱き締めてくる。
フラン「あっ!ずるいです。私も混ぜてください。」
ガウ「がうもなの~~~~!」
フランとガウまで混ざってくる。皆で塊になって抱き締めあっている。もう何をしているのか意味がわからない。ただクラクラと俺の頭を麻痺させてしまうような女の香りに包まれて俺の頭は沸騰寸前になる。
ティア「むきゅぅ………。」
辛うじて残っていた理性でなんとか師匠達を押しのけて変な声を上げたティアを服の中から取り出す。するとティアは押しつぶされて気を失ったのか目を回してぐったりしていた。
アキラ「さぁさっさと行きましょう。」
俺は気を失っているティアをポイッと投げ捨て歩き出した。
ミコ「ちょ、ちょっとアキラ君。流石にこれはティアちゃんが可哀想だよ。」
アキラ「自業自得だ。」
ミコはティアを拾い上げ両手で優しく抱っこしている。俺はそれ以上ティアのことは気にせずに歩きだした。
アキラ「結界を張る。全員俺の側にかたまれ。」
先ほどの場所まで戻ってから全員を集めて結界を張った。うるさいティアはまだ気を失っているので静かでいい。少し進んだ辺りから徐々に元素の動きが変わってきたのがわかった。結界の外側にある元素は勢いよく跳ね回り不規則に高速移動し続けている。これがシルフィの言っていた狂った元素なのだろう。
アキラ「ふむ…。これは俺が触れても影響はないな。俺達に結界は必要なかったか。」
シルフィ「どういうことですか?」
俺の呟きにシルフィが反応した。
アキラ「どうもこうもない。言葉通りだ。この元素に触れても俺と師匠とガウには影響はない。五龍将も問題ない。ポイニクスとムルキベルは数千年ほどここにただじっとしていれば影響を受けるだろうな。ミコとフランなら狂うまでに掛かる時間は数百年というところか。」
シルフィ「………理由を説明していただけますか?」
アキラ「お前達の言う狂った元素というのは簡単に言えば内包するエネルギーが多すぎて活発になりすぎた元素のことだ。エネルギーは周囲と均等になろうとしてエネルギー量の多い方から少ない方へと移ろうとする。つまり活発すぎる元素に触れると元素から触れている相手にも徐々にそのエネルギーが浸透するということだ。元素に触れる時間が長くなり受け取る側の許容量を超えるほどのエネルギーを受け取ると受け取った者が狂ってしまうんだろう。普通の精霊ならすぐに狂って精霊王なら多少は耐えられるのは許容量の差だろう。」
シルフィ「………それが本当だとしてどうして貴女は大丈夫なんですか?」
アキラ「一つ目の理由は種族の問題だ。精霊族は元素からエネルギーを受け取りやすい性質がある。だから精霊族であるお前達や精霊魔法で出来ているムルキベルはこの元素からエネルギーを短い時間で多く取り込んでしまう。人間のミコや魔人族のフランは少しくらい触れていてもなかなか元素からのエネルギーが取り込まれにくいということだ。」
シルフィ「一つ目ということは他にも?」
アキラ「二つ目の理由は許容量の差だ。俺達三人や五龍将ではこの程度にいくら触れていようと許容量を超えることなどない。元素からエネルギーを受け取りやすいポイニクスとムルキベルも発散させていれば影響はないがただひたすらじっと受け取るだけを続ければ数千年ほどで許容量を超える可能性はある。ミコとフランは他の者に比べて許容量は少ないがお前達と比べれば桁違いに許容量は大きくさらに種族的に影響を受けにくいので狂うまでに数百年はかかるだろう。」
シルフィ「狂ってしまう仕組みについては納得できることもありました。ですが貴女方の許容量とやらが大きいから平気だと言う話には納得できません。種族の差という点を加えても並の精霊王程度でしかない貴女がどれほど浴びようと平気というのはおかしな話です。」
ティア「シルフィ…アキラ様はお力を隠しておられるのよ…。」
ティアは目を覚ましていたようだ。会話に割って入りシルフィの疑問に答えている。
シルフィ「大きな力を持っているのはわかっています。ですがその隠している力が精霊王並でしかないと言っているんです。」
ティア「それが間違いなのです…。水の精霊はそう思ってこの方達を侮っていました。ですがこの小さな次期火の精霊王の力は相克など無意味になるほどの力で水の精霊を滅ぼしかけたのです。…そしてその力ですらいとも簡単に抑えてしまえるほどのお力をアキラ様は持っておられるのです。」
シルフィ「先ほども言っていましたがとても信じられません。相克を超越した力だと言うんですか?」
ティア「そうです。」
ティアはシルフィに説明しようとしているがどうせいつものパターンだ。人は信じたいことしか信じない。それが事実とは違う捏造や歪曲でも自分に都合が良ければそれを信じる愚かな生き物なのだ。どれほど客観的証拠を突きつけられようと感情を優先して自分の都合の良いように捻じ曲げる。何しろ、こちらには貴方の意見とは違う事実が客観的証拠としてありますが貴方の言うことを証明する証拠を見せてくださいと言われたら『被害者である自分がこう言っているのが何よりの証拠だ』と言ってしまうくらいなのだから失笑ものだ。相手が客観的物証を提示しようが、自分の意見を証明する証拠がなかろうが『自称被害者』が被害を受けたと言えばそれをただ信じるというのだからいかに都合の良いことしか信じないのかがよくわかる。
ティア「アキラ様。今一度あのお力を見せてください。」
アキラ「断る。」
ティア「どうしてでしょうか?目の前で見せられればシルフィも信じます。」
アキラ「別にシルフィに信じさせる必要がない。そいつはそいつの信じたいことだけを信じていればいい。その結果愚か者がどういう結末になろうと俺の知ったことじゃない。」
ティア「………そうですか。」
シルフィ「………。」
アキラ「それからティアは俺の服に入ろうとするな。」
会話が途切れたところでティアはミコの手から飛び立ち俺の胸元へと入ろうとしている。
ティア「ここはわたくしの場所です。絶対に譲りません。」
段々どうでもよくなってきた俺はもうティアにいちいち構うのはやめて無視して歩き続けた。
バシンッ!バシンッ!
暫く歩き続けたところである意味恐怖体験とも言える事態に遭遇した。
ミコ「ひっ…。怖いよアキラ君。」
フラン「ブルブルッ…。」
ミコとフランは俺にしがみ付き震えている。原因は今も聞こえている俺の結界を叩く音の発生源だ。結界にはびっしりと正気を失った風の精霊と思しき者達が張り付き結界を叩き続けている。力で言えばフランでも軽く全てなぎ払える程度の雑魚共だがその様はまるでパニックホラー映画のゾンビに囲まれているような状態なのだ。ゾンビのように腐ってはいないが狂気を宿し歪んだ顔でひたすら結界に張り付き叩き続けている姿は中々に恐怖心を煽る。ホラーも平気だと言っていたミコですら震える程度には恐ろしいのだ。
狐神「ひどい有様だねぇ…。」
ガウ「がう。やっつけるの。」
アキラ「ちょっと待てガウ。この程度の奴らは放っておけ。」
シルフィ「………。」
シルフィは複雑な表情で外の精霊達を見つめている。その感情は狂ってしまった仲間達への憐みや自分もいずれこうなってしまうという恐怖心等だろう。
アキラ「あそこだ。」
俺はこの渓谷での最終目的地と思われる場所を見つけた。そこは谷の奥深く行き止まりになっている場所だ。細い谷間を歩いていたがそこだけ少し壁と壁の間隔が広くなっている。中央には祭壇のようなものがありそこに一体の精霊がじっと目を閉じ胡坐で座っている。ぴくりとも動かないその姿はまるで死んでいるように見える。だが死んでいないことは神力でわかる。
シルフィ「エアリエル様っ!」
祭壇のすぐ手前まで近づき俺の結界が胡坐をかいた精霊のすぐ前まで来た時にシルフィがその精霊の前まで飛んで行った。その瞬間カッと目を見開いたその精霊は突如暴れだした。
エアリエル「キイイィィィィッ!」
シルフィに襲い掛かろうとしたエアリエルは俺の結界に阻まれて他の精霊達と同じように結界を叩き出した。
エアリエル「アアアァァァァアアァァァアァァ!」
シルフィ「エアリエル様………。」
狂ったように、否、まさに狂って俺の結界を叩き続けるエアリエルをシルフィは涙を流しながら見つめていた。エアリエルを見ても俺の記憶は思い出されないことから直接会ったことはない者かそれほど重要な者ではなかったのかどちらかであろうがこの精霊力から察するにこいつが風の精霊王だろう。
ミコ「アキラ君…。なんとか出来ないの?」
俺の隣に立ったミコは外套を掴みながら俺の顔を覗き込む。
ティア「アキラ様、どうか風の精霊をお救いください。」
アキラ「なぜ俺が風の精霊を救わなければならない?」
ティア「風の精霊はわたくし達とは違いアキラ様に敵対などしておりません。どうか…。」
俺の胸元から出てきたティアは目の前で空中土下座をしている。
アキラ「それで俺は何を得るんだ?」
ミコ「アキラ君………。見返りを要求するの?」
アキラ「別に俺は慈善事業をしているわけじゃないからな。仮に精霊族が滅んだところで俺には関係ない。」
ティア「わたくしを差し上げます。」
アキラ「いらん。」
ティアの提案に俺は即断りを入れた。だが言葉はともかくミコもティアも必死にお願いをしているのはわかる。
アキラ「ふぅ…。それじゃ多数決を取ろうか………。」
ミコ「アキラ君ありがとう!」
ミコが俺に抱き付いてくる。段々ミコのスキンシップも過激になってきている。最初の頃は恥ずかしがっていたのに最近ではこういうスキンシップを軽くしてくるようになった。
ミコ「それじゃあ助けるのに反対の人は?」
ミコの問いに誰も反応しない。これで全員賛成かと言うとそうではない。ミコの聞き方がずるいのだ。
ミコ「決まりだね。」
アキラ「待て。賛成の者は?」
俺の問いにも誰も反応しない。ミコとティアだけが挙手をしている。結局のところ他の者はどちらでもいいのだ。積極的賛成も積極的反対もしない。
狐神「私は精霊族のことは関係ないからねぇ…。」
ガウ「ガウもなの。」
ムルキベル「私はアキラ様のご命令に従うのみです。」
師匠とガウは我関せずだ。ムルキベルも俺に従うのみと公言しているので俺の言った通りにする。五龍将はまったく口を挟んでこないが聞いてもムルキベルと同じようなことを言うだろう。ポイニクスはまだ幼くこういう問題に明確な答えは出せないかもしれない。
フラン「私は………。」
フランは迷っているようだ。魔人族からすれば精霊族は敵と言ってもいい関係なのだ。
フラン「私は…賛成です。アキラさんが助けることが出来るのなら助けてあげてはどうでしょうか…。」
アキラ「いいのか?魔人族からすれば精霊族は敵も同然だ。水の国でのフランの扱いも忘れたわけじゃないだろう?」
フラン「それでも…、私や魔人族のためではなくアキラさんのために…。助けてあげるべきです。」
フランは真っ直ぐに俺を見据えた。その瞳は真っ直ぐで意思が固いことを俺に示している。
アキラ「はぁ…。それじゃ助けてやるか…。多数決と言い出したのは俺だからな…。」
ミコ「アキラ君!」
フラン「アキラさん…。ありがとうございます。」
ミコとフランは俺の左右から抱き締めてきた。二人とも近いよ…。ティアもこっそり混ざってポイニクスとは逆の俺の首筋に抱きついている。
アキラ「助けると決まったならさっさと済ませよう。少し離れてろ。」
四人が俺から離れたのを確認して俺は目を閉じた。助けるからにはさっさと、きっちり助けてやるとするか。




