16 3日目 - 午前(3)
clickありがとうございますm(_ _ )m
特技は料理、ひとりぼっちの桜です。
え?誰に手料理を振舞うのか、ですって?
………
自分自身にですが、、、何か?(T_T)
今回のお話は何とか、10ページ以内に纏めました。まぁ危なかったんですがw
てことでどうぞご覧ください(^^)
――彼は天才だった
クルウェイ・キュート、彼の初陣は9つの時であった。
しかしそれは別に彼が望んでそうしたわけではない。
事は全て成り行きであった。
父親は戦場で盾や剣、弓、矢、趣向品を売る商人をしていた。
別に父親もそれを好んでやっていたわけではなく、追いやられた結果そうするしかなかった。
商人の世界も実力社会、力のある者は安全な王都で店を構え、力の無いものはより危険な外へ追いやられる。
その末路、それが血なまぐさい戦場での商売人だ。
でも悪い事ばかりではない。
なぜならよく物が売れた、しかも都では考えられないほどの高値で。
しかしそれは当たり前と言えば当たり前、戦っている者にとって剣や盾、防具はそのまま命に直結する品物、もちろん軍からの支給品も大量にある、しかしそれも無限ではない、特に戦闘が激化した場所なら消費速度も加速する。
クルウェイの父親はそんな時を見計らったかのように現れては品物を売りさばき戦場を渡り歩いた。
だからクルウェイ少年も一般の商人と同等、いや、ヘタすると貴族並みの生活を営む事ができた。
その日が来るまでは…
運命は突発的にやってきた。
今日も人の弱みに付け込むように横たわる死体を横切って商売を営んでいた。
血だらけの兵士もたくさんいるプルートの駐屯所で一息つく。
いつものように王都で馬と一緒に借り受けた荷車には大量の物資。
少し戦況は悪い、それは横たわって治療を受けているプルート兵の数が物語っていた。
経験則から父はこう口にする「そろそろこの戦場も危ないかな」
だがクルウェイ父にとってそれはいつもの日常、数多くの戦場を渡り歩けばそういうこともあるだろう。
ただしその日は1つ違った事があった。
荷馬車でせっせと仕分けの作業をしているのは若き日のクルウェイ。
9つになった彼は手伝いのために父に連れられて戦場へ出向いていたのだ。
彼の主なお仕事は荷物の積み下ろしと初めての戦場を観ること
それだけのはずだった。
突然の事だった
駐屯地の石垣を乗り越えるようにしてやってきた敵兵の強襲。
完全に父の勘が外れた。
父は早々(そうそう)に馬車の荷物は諦めた、そして息子に売上金だけを持って来るように指示を出す。
だがそれが不味かった。
負傷兵ばかりの駐屯地、動きを悟らせないように少数で乗り込んできた敵、思った以上に中心部に近づいてくるのが早かったのだ。
金など放っておけばよかった。
そう父は今まさに自身に向かって剣を振り上げている兵士を見て思った。
呆気ないものだった。
それで死んだ。
だが彼にそれを悲しむ猶予は与えられなかった。
次は自分の番、そう言っていた、兵士の瞳が、持つ父の血がべったりと着いた剣が。
どうして自分に?
まだ子供なのに?
なんて問いかけているヒマは無かった。
その時初めてクルウェイは剣を手にした。
目の前にあった売り物の剣を明確な殺意を持って。
しかし問題はあった。
その刀身はまだ9つの少年の身丈にはあまりに長く
その重量は少年の細腕にはあまりに重かった。
だが彼は咄嗟に身体を動かした。
天性のひらめき、彼が使ったのは遠心力と重力であった。
鎧の薄い兵士にはぐるりと身体全体を使ってなぎ殺した。
鎧の厚い兵士には高い場所から自身の体重と重力を利用して潰し殺した。
幸いとしてそこは商人の息子、鎧の薄い箇所は歴戦の兵士並みに目が肥えていた。
そして敵兵士20人あまり、その全てを彼は1人で撃退してしまった。
当時、剣も振り回したことも無かった9歳の少年が、だ。
そんな人間を放っておくはずも無く、程なくして彼は軍にスカウトされた。
そして彼はその後、色々な人の下で様々な事を学ぶ事になる。
時に歴戦の軍師の下で…
時に銀の髪を持つ美しい指揮官の下で…
時には百戦錬磨の猛将の下で…
その頃には彼の華奢な身体もたくましく育っていた。
そんな彼にもやがて魔道具が巡ってきた、その魔道具はプルートにおいて数個しか無い『黄金シリーズ』の1つ黄金のハルバート。
しかもそれまで誰も扱えなかった、プルート内でいわく付きの一品であった。
だが手にした瞬間、若き日の彼は悟った「この魔道具は自分を待っていた」と。
現在35才のクルウェイ・キュート、彼の半生を振り返ると、彼は”何か”が秀でていたのではなく”全て”が秀でていた。
素手で厚い鎧を打ち抜くような腕力を持ち、全ての武器をその道を極めた達人のように扱う彼。
いかなる策を用いようが看破する目を持ち、その策を逆に利用して打ち崩すほどの頭脳を持つ彼。
ここぞという時に戦局を読む勝負勘、どれだけ劣勢でも部下達の士気を上げるカリスマ性を秘めている彼。
それらは一軍を率いれば自身は戦場に出る事無く勝利に導き、ひとたび敵と相対すればどんな者であろうが太刀打ちできない。
だがそんな彼も無傷ではなかった。
最初の9つの時、初めて剣を握って人を殺したとき。
その時に一太刀だけ受けてしまったのだ。
まだ生きているかも、と思って父親の死体を庇った結果、こめかみの辺りから目尻を通って頬の辺りまで伸びた刀傷。
深く、深く刻み付けられた傷。
だがそれだけ
彼はその後いく数十の戦場を乗り越えていくことになるのだが、その身体にはかすり傷1つ浴びることは無かった。
その戦う様は獅子。
その黄金の武器を掲げ、一軍を率いる様は英雄。
その武勇伝を語り始めると切りも無く、生きとして伝説になった男。
だからこそ彼は味方からは尊敬、敵からは畏怖の感情を込められてこう呼ばれ始めた。
そう、その名こそが
――金獅子のクルウェイ。
× ×
曲がり角から出てきた集団、延べ8名。
その全員が曲がった時にまず視界に入って来たのは、壁に持たれかかっているマリアンヌの姿であった。
四角に切り取られた壁面から入ってくる風になびく銀の髪
その姿。
声にならない「えっ!?」という音と共に息を飲む。
だが次の瞬間にはこの国の騎士としての本分を思い出し、回廊の脇に身を寄せ、片膝立ちの姿勢で顔を伏せた。
「「マリアンヌ皇女殿下!ご機嫌麗しゅうございます!」」
この国において最強の近衛騎士団。
集団の先頭にいるのはもちろんクルウェイ。
彼も他の部下同様視線を下に向ける。
カイルのように数多くの傷を身体に宿しているわけでもない、唯一あるのは顔の横に長く深く刻まれた刀傷。
体格で言うならマリアンヌのすぐ後ろにいるフードを被ったカイルやムンガルと同じぐらいだが、纏ったオーラは雰囲気とも呼べるそれは強者そのもの、炎のような力強さであった。
対面した者は、戦うまでもなく自身との実力差を実感して自ら足を折るしかない。
そんな最強の男が今、壁を背に持たれかかっている16の少女に対して傅く。
ゆっくりと動くマリアンヌの頭。
そしてこの構図こそがこの国の支配体系と言わんばかりに視線を向け、見下ろす。
「ああ、久しいなクルウェイ。 アンジェラの一件以来か?」
「はい、ご無沙汰しております。そしてマリアンヌ皇女殿下、初陣にも関わらずダイアル城塞の攻略、お見事でございました」
「褒めるな褒めるな。 あのようなチンケな城塞、我の本気の100分の8ほどの力を出せばものの数日で陥落よ」
「流石でございます」
「お前も確か何処かに行っていたのだろう?」
「はい、マリアンヌ様の打ち立てられた功績に比べれば小さな事ですが、南西部一帯に勢力を伸ばしていたアゾット族を滅ぼしてまいりました」
…それ、お前のほうが凄くないか?
「へ、へ~え、まぁ、頑張ったほうだな。我には適わないが、、。 面をあげよ」
「お褒めの言葉ありがとうございます。マリアンヌ様におかれましてはご機嫌うるわ…しくはなさそうですね」
凛々しい眉に鋭い眼光、口ひげは綺麗に整えられた実に質実剛健な顔を上げる。
するとあったのは誰の目にも明らかなぐらい不満そうにしているマリアンヌ。
「不躾な提案かもしれませんが、もし何かお困りのようでしたらおっしゃっていただければお力になれるやもしれません」
「何、大した事は無い、ただ何処ぞの馬鹿のせいで、この広い迷宮で迷っているだけだ、なんてこと無い日常だ、むしろ最高の気分だよ」
なんて辛らつな物言いなんだ。ムンガルは思わず額に手を当てて顔を背けた。
それを見て少し表情を緩めるクルウェイ。
「なるほど、それは大変な思いをされましたね。どうでしょう、よければ我々がご案内いたしましょうか?」
渡りに船のような言葉に、瞬間晴れやかになるマリアンヌの表情。
しかし提案をしてきたこのクルウェイの姿をマジマジと眺めると、また表情を曇らせ天井を見上げる。
「………」
後ろに陣取っている巨体2つ。
これにクルウェイが追加された暁には空気が間違いなく圧迫される。
そうなったら酸素濃度が低くなる、歩行が困難になる、何か汗臭そうだから息もしづらくなる。
「その他、様々な事が起こるやもしれぬ」
いかんな、これは命の危機だ。
「そこのお前、お前が案内せい」
壁を背に持たれたまま指差した先にいたのは長身で細木のような男。
8人の中でもっとも長身の男。
跪いてるにも関わらず、小さな子供ぐらいなら背で勝ってしまうほどの長身。
「お前が一番汗臭くなさそうだ」
「グロエ、皇女殿下の直々の指名だ。しっかり道案内するように」
「了解いたしました」
冬の枯れ木を髣髴とさせる雰囲気で、彼は愛嬌など皆無の顔を上げる。
きちんと中央で別けられた髪に痩せた頬、だが決して華奢というわけではなく、むしろ無駄な脂肪など無く、細い筋肉の上に皮を被せたような体格の男。
なんていうか…生気を感じられない。
「では皇女殿下こちらへ」
クルウェイの横を通過していくマリアンヌ一行
思い出したかのようにクルウェイは言った
「そう言えばマリアンヌ様、本来なら今日私が御前試合に出るはずだったのですが、急遽他の人物になったということを聞いたのですが、皇女殿下はそれが誰になったかご存知ですか?」
その問いにマリアンヌは口角を上げる。
「いや、知らんな」
グロエは無駄口を一切叩く事無く、ひたすら無言で案内をする。
だが途中、階段の前でピタリとその足を止めた。
「皇族の方の席は特別の部屋のような造りをしています。その部屋は13ありますが、どの部屋にご案内いたしましょう?」
どの部屋?と問われた所で、その存在をつい今しがたまで知らなかったマリアンヌに『何処』と指定は出来ない。
だがマリアンヌは悩まなかった。
そして即答した。
「ロキから一番離れた部屋」
「承りました、では第2皇子ロキ様の天秤の間から一番離れた牡羊の間へご案内いたします」
「その部屋からはロキの姿は見えぬのだな?」
「はい、ちょうど対角線上少し横になりますが、距離がありますゆえ視認するのは難しいと思います」
聞かれた質問は簡潔に、その答えを言い終わると再び口を閉ざしてしまったグロエ。
なだらかな1周ぐるりと回る螺旋階段を数回昇った先、いくつもの靴と石材のカツンという音を重ねた先。
そこでマリアンヌたちを待っていたのは朱色の分厚いカーテン。
カーテンの隙間から薄い光が漏れ出ていた。
グロエはその切れ目に自身の細長い指を差し込んだ。
「この先がリングを一望できる皇族専用、展望デッキになります」
急な明りに視界が真っ白に包まれる。
待ち構えていたのは観客席よりも高く、リングを見下ろすように設置されたVIP席。
腰ほどの高さまに設定されている転落防止用手すり。
そこから先は言葉を失うような開けた空間、まるで空にいるような開放感。
上空から流れ落ちる風が更に心を躍らせる。
「………」
まったく期待してはおらなんだ。
汗臭い男共が戦う光景を眺める部屋、どうして期待を持てようか。
しかし一歩カーテンの内へ入った途端、自然とマリアンヌの眉が動いていた。
そしてこう言っていた。
「これは…素晴らしい。この建物、風景、是非とも欲しい」
閲覧ありがとうございました(#^.^#)
1週間ぐらい前かな?5章のタイトルを変えました(^^)
「3日物語(表)」
勘のいい方なら私が何をしようとしているのかわかりそうなタイトルですが、そこはご愛嬌でw知らぬフリをしていただけると幸いです(*^。^*)
ではまた次回お会いしましょう(@^^)/~~~




