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一話 魔獣使いの友達

しばらくは、学園の日常の中で色んなひとに出会って、友達になったり見初められたり(笑)する話が続く予定です。

「おお…あれがウェルヘイムかぁ…」



 『ウェルヘイム冒険者養成学園』


 ここは、普通の方法じゃ辿り着けない場所にある。

 もったいぶらずに言おう、空だ。二十万坪近いと言われているその敷地ごと、空に浮いているのである。三代目学園長がなんともお茶目な人であったらしく、無人島を買い取りそこに学園を移すと、その有り余る魔力をもって空に浮かべてしまったらしい。空にあるということで他の大陸などとの行き来がめんどうだからと、学園の周りに、都市までついでに作ったのだそうだ。そのため、この浮島は『学園都市・ウェルヘイム』と呼ぶ。


 なんとも思い切ったことをするものだとは思うが、おれはこの三代目学園長とやらが、ただただ自分が楽しいからやっただけのような気がする。姉ちゃんと同類の匂いだ。

 特に、有り余る魔力とやらの下りが怪しすぎる。



 実家のある、レスティオ大陸唯一にして最大の港街『眠らぬ港街・パーレン』から乗ってきた、翼獣牽引車ウィグルカートの窓から学園を眺めてみるが、とりあえずでかい。まだ距離は結構あるはずなのに、こんなにでかいとは…学園都市、おそるべしである。


 ちなみに、今おれが乗っているこの乗り物は、新入生を迎え入れるために学園が用意したものだ。これ以外で学園に入ろうとすると、張られた結界に拒まれる。

 ために新入生は、事前に学園より伝えられる各大陸の都市から、待機していた翼獣牽引車ウィグルカートに乗り合わせて向かう。もちろん、おれが乗っているこれも例にもれず、相乗りだ。八人乗りの内部には、おれと、向かいに座るもう一人の子以外、全員みごとに男。

 いや、おれだって外見以外は男のつもりだよ?つもりだけどさ…


「わぁ…ねぇ、ジル!あれ見てください、あれ。私、ガルーダって初めて見ました」

「おれも初めて見るなぁ。…お、あそこ凄い、飛龍二頭で飛んでる!」

「きゃああ、本当だ、凄い!さすがウェルヘイムの魔獣使いの先輩たちですよね!」


 …やっぱり「女の子同士」だと思われてるんだろう。警戒心や、お年頃の男女に特有の微妙な距離感なんかが、残念なことに、共に皆無だ。時折「あそこ」と指差す時に結構密着状態になるのだが、これは喜ぶべきなのか、ショックを受けるべきなのか。


 ともあれ、きゃあきゃあと楽しそうに騒ぐ彼女の名は、ミリアム・レアート。長い茶髪を二つに分けて、太めの紐を使ってゆったりと下方に結っている。魔獣使いを目指し、ウェルヘイムへの入学を決めた18歳。おれより二つ年上の、物静かな、眼鏡の似合うお姉さんだ。いや、正しくはだった、と言うべきか。

 魔獣が好きなようで、空の旅が始まってしばらく、他の大陸の新入生を乗せた翼獣牽引車ウィグルカートが見え出した頃から、こんな風にはしゃぎだした。


 まるで子供みたいだ。


「あああ、凄い、凄い!こんな素敵なお迎えがあるなんて…!」


「あはは、ミリアム、はしゃぎすぎだよ。

 …凄いといえば、この車引いてる魔獣と、御者やってる魔獣使いが一番凄いんだよな。多分」

「ええ、凄いことなんです!ジルにもわかりますか!?グリフォンを使役するなんて…そんなことができる人、この世に十人もいないんですよ…!」


 ぐりん、と勢いよくこちらを向いた彼女の瞳は、憧れにきらきらと輝いていた。

 それもそうだろう。あまり詳しくないおれでも、この翼獣牽引車を操る魔獣使いが凄いことが分かるのだ。魔獣使いを目指しているのなら、なおのことだろう。



 魔獣というのはそもそも、有性生殖で増える、獣に似た姿をもつ魔性の生き物たちの呼称だ。


 通常、魔物は『世界の裂け目』(クラック)と呼ばれる、瘴気の吹き出すスポットから生まれてくるとされている。他にも細かい発生条件があったりするが、基本はそんなところだ。だが何より、魔物の一番の特徴は、殺すとその死骸が全て瘴気の粒子へと還り空中で霧散するために、決して残らないことだ。

 対して魔獣は、『世界の裂け目』から吹き出す瘴気に当てられた獣たちが死なずに、変異を起こしながら、その後生殖を繰り返したことでその存在を確立していったことが始まりだ。故に、殺せば死骸が残る。



 そして、生物である以上、心を通わせ、従えることも可能であろうという考えから生まれた職業が『魔獣使い』だ。



 魔獣使いは特殊な乗り物を、自らが従えた魔獣を操り、あるいは力を借りて扱うことができるため、ギルドや組織を問わず重宝される。

 おれたちが今まさに乗っているこの翼獣牽引車も、その一つだ。その名の通り、翼をもち、空を翔る魔獣に引かせる車である。


 代表としては、さっきおれたちが見ていたガルーダと呼ばれる大きな鳥の姿をした魔獣らしい。少々好戦的ではあるものの、空運にはもってこいな魔獣で、一度懐けば従順なためによく好まれる。飛龍は小柄なドラゴンだが、その戦闘能力はドラゴン族最低辺。ただし、その臆病な性質が反映された飛行速度や技術は、翼獣の中では最高クラスだ。だから主に、王族や外交官などの要人を乗せる飛空艇に、脱出用に乗せられていることが多いのだとか。飛龍の飛行能力が、直接その背に乗った時にこそ、その真価を発揮するためだ。臆病ゆえに、相手の出方を見て避け、逃げることに長けているということらしい。

 この辺はさっき、ミリアムに教えてもらったのでおれはあまり詳しく知らないことだ。



 だが、グリフォンといえば誰もが知っている。


 その太く丈夫な足から繰り出される蹴りも、鋭い鉤爪も、敵として現れたならば己の不運を呪うほど恐ろしいものだ。歴戦の強者が挑み、逆に反撃され命を落とすという話は、決して少なくなはい。

 飛行速度だけなら飛竜にも劣らないほどで、好戦的な上に獰猛。己の体格の数倍あるようなドラゴンであっても、縄張りや家族を守るためならば向かっていくような、果敢な性格も持ち合わせている。


 つまり、逆に言うなら、味方であればこれ以上頼もしいものはいないということだ。


「グリフォンって、とっても頭が良くて、気難しい子も多いから、滅多に連れている魔獣使いっていないんですよね。リスクが高すぎて、挑む人も少ないらしいんです。何せ死ぬ確率の方が高いうえに、彼らに認めてもらうことも、とても難しいから。野生のグリフォンは警戒心が強くて、近づいただけでも攻撃してくる子もいるし…


 それがこんなに近くで見られた上に、あまつさえグリフォンが引いてくれる翼獣牽引車に乗れるだなんて…

 私。私、もうこれだけで、ここに来た甲斐がありました…!」


「なるほどなー。なんでミリアムが、誰も行こうとしないこっちに乗ろうとしてたのか納得したよ」


 港で待っている時、グリフォンが怖いのか、こちらに乗ろうとする人間はほとんどいなかった。おれとミリアム以外の六人は、他に乗れなかったせいでこっちにくるはめになった、いわゆる「ハズレ籤を引いた」連中だ。それが証拠に、さっきから完全に黙り込んで震えている奴か、ぶつぶつと祈りを捧げている奴しかいない。こいつら本当に卒業できるのか。


 それに比べ、熱っぽく語る彼女のその姿が、まさに夢のために頑張ろうとしている若人といった風で微笑ましくて、おれは思わず笑ってしまう。馬鹿にしたわけではないのだが、ミリアムははっとしたような顔になり、次いで耳まで朱に染まった。


「ご、ごめんなさい。私、魔獣の話になると、つい…」


 席に座り直したミリアムが、しゅんとして俯く。

 年上のはずだが、さっきから随分と子供のようなリアクションばかりで、可愛らしいとすら感じる。きっと、あまり同世代の「女の子」と、こういう話をしたことがないのだろう、とても楽しげに話していた。子供の頃、いつも面白くなさそうな顔をしてた姉ちゃんが、ある日突然嬉しそうに「ライバルができた」と言っていた時に、どこか似たものがあった。ただの憶測だが、多分合ってる。


 俯いているせいで表情は分からないが、つまらなかったよね、とか調子にのってごめんなさいだとかごにょごにょと唱えるように言っているところを見ると、どうやら「失敗した」と思っていそうだ。泣くかもしれない。


「いや、おれも興味のある話だったから、楽しかったよ。今まで考えたことなかったけど、魔獣使いってのも楽しそうだなぁ」


 だが、残念ながらとても楽しめたのでとりあえず本心を言ってみる。

 ガバッと上げたミリアムの顔は、やっぱり目にいっぱい涙を溜めていて、泣く寸前だったようだ。


「ほ、本当に?」


「うん。ミリアムさえよけりゃ、また教えてよ」


 そう言えば、ぱぁっと花が咲いたように笑って。



「――、はい!」




 …うん、こういう感じなら、おれが女ってのも悪くないな、なんて。

 姉ちゃんには絶対言わないけど、そう思えた。



 とりあえず、おれには早速、友達が一人できたようだ。

う…な、長くて読みにくいかもしれません。

けどこれ、途中でぶったぎんのもなぁ…


とりあえず、このあと水を得た魚のようになったミリアムが、その魔獣関連の知識を怒涛の勢いでジルに語って聞かせます。それをこっそり聞いてる御者さんが、今年はなかなか有望な子がいるなぁ、なんてほくほくしていますよ。


ちなみに、ジルやミリアムの故郷は別々ですが、似たような田舎なので、魔獣使いが引く乗り物は、今日初めて見ました。


はい、完全におのぼりさんというやつです。

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