第11話 全ての元凶
それから数日後、ヴィジアさんとクオレ君の町が襲撃されました。シエルトスからお二人が住んでいた町・ストホウまではさほど遠くなかったのでこちらでも少し揺れました。
エルス君と違和感を覚えて空を見上げると、西の空を切り裂くように巨大な竜巻が巻き起こっているのが目に入りました。
「師匠!これはいったい!?」
「私にもわかりません。ですが、先日のイクエスの件を踏まえると何か裏がありそうですね…とりあえずストホウへ向かいましょう。」
私とエルス君は走って町へ向かいましたが、その時にはもう目も当てられないほど悲惨な状態でした。揺れの影響で崩れた瓦礫が竜巻で舞上げられ、それらに押しつぶされてしまったであろう遺体がたくさんありました。全く酷いことをするものです。徹底的にこの町を壊してやろうという悪意を感じました。
悪夢のような惨状を前に足が竦んでいた私たちですが、ふと一つの疑問が脳裏をよぎったのです。
ーーもしもこれがイクエスの思惑ならば、この町にギフテッドがいたのでは?
咄嗟に私は魂エネルギーの探知を始めました。
すると、私のレーダーには二つの魂エネルギーが感知されました。
「エルス君。この町には二人ギフテッドがいます。」
「ギフテッド!?となるとイクエスは本当に…」
「今はそれを考えている暇はありません。エルス君はエネルギーが小さい方をお願いします。」
「わかりました。またここで合流しましょう。」
二手に分かれて町を捜索し、どちらも無事に救出することができました。私たちは二人を抱え、急ぎ森へと連れ帰りました。
そして私たちは、二度とこのような悲劇を繰り返さないために。そしてイクエスを打倒するために、過酷な修行の日々を始めました。
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ーーイクエス…そいつが全ての元凶なのか。
「私は実際に町が襲われるまでイクエスの話を真剣に受け止めていませんでした。たしかにギフテッドではありましたが、所詮は机上の空論だとばかり。情けない限りです。」
珍しく師匠は落ち込んだ表情を見せた。
「自分のことをそんなに責めないでください。私は師匠のおかげで救われましたから。」
「ヴィジアさん…」
「水を差すようで悪いんすけど、師匠ほんとに呪ったんですか?」
ーーおい、今聞くことか…?
師匠が話してくれた内容にたしかに「呪ってやる」という単語は出てきた。いつも穏やかな口調で話している師匠からは想像もできないセリフだ。よほど腹が立っていたのだろう。
「えぇ。もちろん呪いましたよ。」
「「えっ。」」
ガイルとワイドは同時に息を呑んだ。満面の笑みでその事実を告白している様子に対して、背筋が凍るような恐怖すら感じる。
ーー口だけじゃなかったのか。
「自分で言ってしまったことですしね。有言実行ですよ。」
「ちなみに何の呪いを…?」
「それはですね…」
それを聞いてガイルとワイドは、先ほど以上の衝撃に固まった。生半可な呪いなどではなかったからだ。師匠の穏やかで優しい人という二人が抱いていた印象は少しずつ崩れていっていた。
「ところで、リフカールはどうするの。」
ギフテッドや魂エネルギー、イクエスの話を聞いていてすっかり忘れられていたが、先ほどまではリフカールと戦っていた。
リヴァがタイミングを見計らって話しかけてくれたのだ。
ーーワイドとは大違いだな。
「このまま放置するのも危険だ。殺してしまった方が身のためだとは思うが。」
ーーエルスさんもなかなかに残虐的なんだな。
多少驚きはしたが、師匠のこともあってか今回はさほど驚かなかった。殺すというのは残酷的ではあるが一番合理的な判断なのだ。
「そうですね。では、私がその役目を担いましょう。仕方がないとはいえ皆さんに人殺しはさせたくありません。」
「エルス君、剣を。」と師匠はいい、エルスさんのギフトで生成した武器をリフカールに向けた。
「地獄で自分の罪を償ってください。」
そういい剣を振り下ろそうとした瞬間、
「皆さん、修行しているということだけあってとても強いですね。流石です。」
「誰だ!」
その声を聞いて、対面したことのある二人はすぐに誰かわかった。
顔を覆う仮面のせいで表情が読み取れず、感情の起伏すら感じられない。狂気と冷血さを纏ったあの男。
「ヘタイロイが一人、ゼロノクスと申します。」
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ギフテッド:イクエス・リムトリス
ギフト:???
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ーー仮面の男…リフカールが言っていたゼロノクスというやつはこいつなんだな。
今になって考えてみるとこうして直々に名乗られなくてもゼロノクスが仮面の男だという要素はあった。確信的な事で言うと、この蝶のネックレスだろう。ガイルが蝶のネックレスを身につけ始めてから会った人物は、ヴィジア、クオレ、ワイド、そして師匠達、それから仮面の男だ。
ーーなんで仲間に俺を殺さないようにと命令したんだ?何か意味があるのか?
「おや、殺しそびれてしまったお二人もいるではありませんか。」
そういうと仮面の男・ゼロノクスはガイルとヴィジアに目線を向けてきた。ヴィジアは恐怖心があってか顔が歪んでいる。
「そんなに怯えないでください。私はあなたたちに危害は加えませんよ。」
「なんだと。じゃあ何のために来たんだ!」
エルスが声を荒げてゼロノクスに問いただした。
「リフカールさんの回収に決まっていますよ。」
そういうと突然風が吹き荒れ、リフカールの近くにいた師匠とエルスは後方へ吹き飛ばされてしまった。
ーーさっきのはリフカールのギフト!?魂エネルギーが少ないんじゃなかったのか!?
「どうやら魂が消滅しない程度に力を振り絞って攻撃してきたみたいですね。正真正銘これが最後の抵抗です。」
「やはり気絶していなかったんですね。リフカールさん。」
ゼロノクスの言葉に、リフカールは自力で起き上がった。
「ちぇ。バレちゃってたのか。」
「剣を振り下ろされる直前、ガタガタと震えていましたからね。私が来るのが少しでも遅かったら…死んでましたね。」
「ニッコニコで話さないでよ!もう、死ぬかと思ってリフカール怖かったんだから!」
やはり恐ろしい男だ。もし本当にリフカールが死んでいても何も感じないのだろう。
「では、長居は無用。そろそろ、お暇させていただきます。」
「そうはさせるか!」
そういいワイドがゼロノクスに飛びかかろうとした。しかし、
「ワイド君やめなさい。今の君では無理です。」
「じゃあ師匠が行ってくださいよ!」
師匠は苦々しい表情を浮かべ、静かに頭を振った。
「勝てません。直感がそう告げているのです。」
「懸命な判断ですね。流石は森の守護神です。」
嫌らしい笑みをこちらに向けた後、ふと何かお思い出したように胸元へ手をやった。
「そういえば、イクエス様から手紙を預かっていたんでした。」
そういうと手紙らしきものをこちらめがけて投げてきた。
「ではまたお会いしましょう。」
一瞬にしてリフカールとゼロノクスは姿を消してしまった。
敵がいなくなったことで図書室には静けさが戻り、建物内の荒れ果てた様子を物語っているようだった。
「とりあえず手紙とやらを読んでみますか。」
最初に沈黙を破ったのは師匠だった。それに引き続き、皆立ち上がり師匠の元へ集まっていった。
『拠点アテリッサまで来い。決着をつけてやるーー森の守護神様。』
「宣戦布告ですか。どうします?」
師匠はしばし目を閉じ、思考を巡らせた後、重々しく口を開いた。
「あのまま彼を野放しにするわけにはいきません。敵の思惑通りに踊らされている感は否めませんが…ここは乗るしかありません。」
師匠の決断に異論を唱えるものは誰もいなかった。全員の目が決意の光を宿している。
「では、明日の朝には出ましょう。今日は今まで以上に修行に励んでください。そして、エルス君、ワイド君の実戦を許可します。」
「「はい。」」
「ではそれぞれ自分がすべきことをしてください。解散!」
「ガイル。さっきは一手取られたけど、今度は本気でかかるから。」
「はい。よろしくお願いします。」
「ヴィジア。今まで通り実戦をするぞ。」
「わかってるって!クオレ、絶対強くなろうね。」
「ワイド。俺と実戦をしよう。本を読んでてそろそろ飽きてきた頃なんじゃないか?」
「ようやく実戦できるなんて!しかもエルス先輩と!がんばるっす!」
それぞれが熱気を帯びた声を掛け合い、森へと散っていく。荒れ果てた図書室には、一人残された師匠の姿があった。
手紙を静かに握りつぶし、師匠は誰もいない闇に向かって呟いた。
「ただ遊ばれるだけのおもちゃではないと、証明しないとですね。」




