第10話 森の記憶
「実は私たちも町が壊されちゃったんだ。」
「え。」
ガイルたちは衝撃を受けた。前々からここにいる理由が気になってはいたが、まさか自分たちと同じ境遇だったとは思いもしなかったのだ。
「驚くのも無理はないよね。むしろ今まで話してなくてごめん。」
思いもしなかった事実に呆然としていたため、ワンテンポ遅れて「いえ、大丈夫です」と深く頷いた。ヴィジアさんは柔らかな微笑みを浮かべた後、すぐに真剣な面持ちに戻って言葉を継いだ。
「あれはニ年前のことかな。当時は気づいていなかったけど、私とクオレは同じ町に住んでたんだ。」
「全く、驚きだよ。そこまでデカい町でもなかったんだがな。」
「…そうだね。」
ヴィジアさんは少し苦笑いを浮かべた後、話を続けた。
「ガイルたちの時と同じように地震みたいなのが起こって…家がたくさん崩れ落ちてた。」
話の途中でヴィジアさんはリフカールに目を向け、また話を再開した。
「そして、その地震の後を追うような形で竜巻も出現したの。今考えたらこの子のギフトだよね。」
「そうだな。」
地震という点ではガイルたちの時の襲撃と変わりはなかった。しかし、その後の竜巻・つまりリフカールもその場に赴いていたということは違っていた。ガイルたちの町にはリフカールではなく、仮面の男が来ていた。
「一人で町を彷徨っていたんだが、そこをエルスに助けてもらったんだ。」
「私は死にかけだったんだけど、そこを師匠に助けてもらって今に至るってわけ。」
助けてもらった、ということも含めてガイルたちと境遇が似ていた。助けてもらった二人が、次の襲撃では助ける側に成長したのだ。
「ところで、仮面の男は主人の命令でギフテッドを殺しにきた、そう言ってたってことで間違いないんだよね?」
「はい。」
ガイルは当時のことがフラッシュバックした。今でも鼻にこびりついている血の匂い。そして町を崩壊させ、間接的とはいえ母さんを殺したあの男のことを思い出すたび、はらわたが煮え繰り返るような思いをする。
「仮面の男は、リフカールと同じくイクエスの配下で間違い無いだろう。」
「ということはあいつもヘタイロイ?」
「そこまではわからないが仮面の男は誰かの命令で動いていたんだろ?ギフテッドを殺せとイカれた命令をするなんてイクエスぐらいしか思いつかない。」
ある程度の根拠はあるにしても、こじつけがましいところが多いのでは無いかと失礼ながら感じてしまった。リフカールの話に引っ張られ過ぎているのでは無いかとも思った。
「でも、そのイクエスってやつが元凶っていう根拠は少なくないすか?」
ーーストレートに言ったな。
ワイドは素直に話すことが多い。それが吉と出るか凶と出るかは場合によるが、今回ガイルにとっては吉であった。同じことを感じていたが先輩たちの推測に物申すのもどうかと躊躇っていたのだ。
「これについては私から言ったほうが早いかな。」
先ほどまで聞いていただけの師匠がようやく口を開いた。
「ヴィジアさんとクオレ君の町が襲われる少し前、この森に侵入してきた人たちがいてね。」
ーーー
ーー
ー
ーニ年前 シエルトスー
「エルス君、見てください。この花もう少しで咲きそうですよ。」
「ほんとだ。早く咲いてるところが見たいですね。」
いつもと変わらず私とエルス君は日課の散歩をしていました。
「結構歩きましたし、小屋に戻って朝ごはんにしましょう!」
「そうですね。」
その時はリフカールさんや仮面の男のような敵対している相手などいなかったので、修行は全くしていませんでした。ご飯を食べて読書をし、森でのんびりと過ごす。それが私たちの日常でした。
するとある日、森の中に数人の人たちが入ってくる気配を感じ取ったんです。私はすぐにその場へ向かいました。
「あ、あのイクエス様…」
「なんだ?」
「恐れながら……この森を開拓する計画は撤回された方がよろしいかと……」
私は大変驚きました。この森を破壊しようとする人物がいるとは思いもよりませんでしたからね。
「ほぉ。お前はこのまま易々帰れと言いたいのか?」
「い、いえ!ただ、この森には守護神というものが存在するらしく、怒りを買ってしまうのではないかと…」
「守護神か。確かに怖いよなぁ。だが、もっと恐れていた方がいいのは守護神などではなく…」
イクエスは他の者から斧を奪い、親切に警告をしてくれた者の首を切り落としました。
「俺だったようだな。」
生首は他の者たちの前へ転がっていきました。するとイクエスはその生首を掴んでこう話したのです。
「こんな愚か者の仲間になりたい奴は他にいるか?お前らは俺の命令に従っていればいいんだ。従順な下僕であってくれよ。」
不敵な笑みを浮かべ、掴んでいた生首は投げ捨ててしまいました。森を傷つけられるのも嫌ですが、それとは別にイクエスのその行為に対して私は怒りが抑えられませんでした。
恐怖心から行動せざるを得なくなった者たちが、次々と木を伐採しようと斧を突き立て始めました。イクエスの全ての行動に対し、苛立ちを抑えきれなくなった私はついギフトを発動してしまったんです。
その影響で木を切っていた者たちは全員即死し、残ったのはイクエスただ一人でした。
「こりゃあびっくりだ。ほんとうに守護神がいるなんてな。」
「神ではありませんけどね。」
私はイクエスの前に姿を現しました。
「人間か?それに魂エネルギーがあるな。全く、驚かされてばっかりだ。こんなところにギフテッドがいるなんてな。」
「あなたもギフテッドなんですね。なぜ、こんなことを?」
「おいおい。あんたのこと詳しく教えてくれよ。俺だけ話すなんてフェアじゃないだろ。」
こんな人物に教えることなどない、とは思いましたが情報を聞き出すためある程度のことを教えました。
「なるほどな。」
「私は伝えられる限りのことは伝えましたよ。次はあなたの番です。」
「おーけー。おーけー。約束は守る男なんでね。ちゃんと伝えるよ。」
イクエスは言葉通り全てのことを教えてくれました。
最近になって能力を手に入れたこと。この世界の絶対的な支配者になりたいこと。そしてその計画において、障害となる他のギフテッドを排除していること。森の開拓も、自身の領域を広げるための踏み台に過ぎないと。
「自分勝手な望みですね。」
「なんだと?」
「なぜ、たかがあなたの都合で私たちが危険に晒されなければならないのです?」
「たかがだと?このイクエスは神から認められた存在だ。当然のことをしているだけだ。」
「話が通じないようですね。」
「さっきからずっと澄ましているようだが、強がっているだけか?」
するとイクエスはものすごいスピードで木を切り倒していきました。怒りが頂点に達した私はギフトの力を最大限使い、イクエスを森から追い出しました。
イクエスを森の外へと叩き出しながら、私は彼を見つめ、言い放ちました。
「呪ってやる。」




