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XXV


遠くからヒロムとイクトを見ていたリュクスはジャスミンとともにどこかの廃墟に移動していた。


誰かに長く使用されていなかったのか辺りは埃にまみれており、リュクスやジャスミンが歩くと足跡が残っている。


埃だけではない。

そもそもこの廃墟自体が手が行き届いておらず、壁はヒビ割れ、床もボロボロになっていた。


「計画を進める前に……聞き出さねぇとな」


リュクスはジャスミンとともに廃墟の奥にある部屋に入り、部屋の明かりをつける。


明かりをつけるとその部屋には全身血塗れで壁に磔にされた銀髪の青年がいま。


「き、きさま……」


「お、生きてたか」


虫の息で言葉を発する青年に対してどこか怪しい笑みを向けるリュクスはどこからか出した綺麗な椅子に腰掛けて彼に話しかけた。


「気分はどうだい、ガレット。

「紅星」の名で米国では有名な賞金稼ぎさん」


「自分が何をしてるのか……分かってるのか?」


「死にかけてたのに急にやる気になった?

まぁ、そんな体じゃ何も出来ないだろうけどね」


さて、とリュクスは足を組むと青年……ガレットを見ながら彼にあることを質問した。


「シェンショウジンはどこだ?」


「な、に……?」


「シェンショウジンだよ。

知らないわけないよな?

「シェンショウジン」、有名なオマエなら知ってるはずだ」


「……バカバカし、い。

あれは……存在しないはずだ」


「それはどうかな?」


リュクスはどこからかナイフを出すとダーツでも楽しむかのように投げ、投げられたナイフはガレットの腹に突き刺さる。


「がっ……」


ナイフの突き刺さったガレットは血を吐き、その様子を見ながらリュクスはもう一度彼に質問した。


「知ってることを全て答えろ。

「シェンショウジン」はどこだ?」


「し、知らない……オレは……」


「……知らぬ存ぜぬを通すなら結構だ。

けど……覚悟はしとけよ?」


リュクスが笑みを浮かべながら指を鳴らすと磔にされているガレットの右腕が何かに握り潰されるかのように骨の砕ける音を響かせ、そして次の瞬間には腕が胴体から切り離されるように綺麗に消えてしまう。


「がぁぁぁぁあ!!」


「まずは右腕だ。

次は右脚か?それとも左右のバランスを考えて左腕がいいか?」


「ううううう!!」


「唸っても分からねぇぞ?

「シェンショウジン」はどこか教えろ、無理なら次はオレの気まぐれで腕か片脚を消す」


「ま、待ってくれ……!!

しら……知らないんだ!!

名前しか……分からない……」


「名前知ってるなら「シェンショウジン」についても知ってるよな?

その正体とその存在の意味もな」


「本当なんだ……!!

オレは……」


うるさい、とリュクスが再び指を鳴らすと左脚の骨が砕ける音が響き、そして左脚が綺麗に消えてしまう。


「うがぁぁぁあ!!」


「片腕ないとメシ食うのに不便だよな?

だから残しておいた」


「き、きさ……ま……!!」


「あと二本だ。

次に関してはメシの心配とかしないからな?

片腕か片脚を消す」


「ま、待ってくれ……頼む……」


腕と脚を片方ずつ消された痛みからか、それとも単にリュクスに対して恐怖を感じてるからなのかガレットは泪を流しながら必死に訴える。


「知らないんだ……本当に。

だから……」


「そうか……。

まぁ、あと四つあるしいいか」


「……四つ……?」


リュクスはまたナイフを出すと勢いよく投げ、投げられたナイフは勢いよくガレットの右眼に突き刺さる。


「ああああああ!!」


「両目が残ってたな。

これで話をする気になってくれるまで楽しめる」


「あ……悪魔……!!」


「悪魔?オレが?

残念だね……オレは善良な人間さ」


リュクスは不敵な笑みを浮かべながら指を鳴らし、今度はガレットの左脚の骨が砕けていく。


「がぁぁぁあ!!」


「痛みは教訓になる。

そう思わないか、ガレット」


「……リュクス様。

悪趣味です」


「ダメか?」


「聞き出すのなら手早く、答えのないなら早急に始末をした方が……」


「少しは楽しもうよジャスミン。

コイツにも利用価値はあるからな」


「利用価値、ですか。

今のこの男にはないと思いますが……」


「利用価値ってのは最後まで見てみないと分からないからな。

それに……「シェンショウジン」がダメでも他のことは聞ける」


「他……ですか?」


仮面をつけているせいでジャスミンの表情は図れないが、ジャスミンの口調からしてリュクスが何を考えてるか分からないと感じているのは伝わってくる。


そんな彼女のことなどお構い無しにリュクスは質問の内容を変えて痛みに苦しむガレットに質問をした。


「……キキトはどこにいる?」


「な……に……?」


「オマエを日本に呼んだのはキキトだってのは分かってる。

だがそのキキトはここ数日姿を見せていない。

どこにいる?答えろ」


「キキトは……キキトは……」


「早く答えろ。

この質問に答えないなら用はない」


リュクスはガレットを急かすように指を鳴らそうと構え、それを見たガレットは苦痛に耐える中で気持ち的に追い込まれて息を乱してパニックに陥っていた。


「ま、待ってくれ!!

たのむ、たのむから……!!」


「ならさっさと答えろ。

オレは別に慈悲深くないからな……オマエ一人ぐらいの命は容易く捨てる」


「言う……言うから待ってくれ!!」


「なら答えろ……キキトはどこだ?」


冷酷な眼差しでガレットを睨むリュクスの言葉はどこか優しくもあるが、ガレットが恐怖を抱くように殺意のようなものが混ざっていた。


その言葉を受けたガレットは乱れる呼吸を整えようと深呼吸すると、痛みに耐えながらゆっくりと言葉を発する。


「キキトは……今西の方に向かってる」


「……他は?」


「それしかわからないんだ!!

それ以外は……」


ガレットが続けて何か言おうとする中、リュクスが指を鳴らすと彼は見るも無残な姿に変えられてしまう。


「……くそが」


リュクスは舌打ちをすると立ち上がり、ジャスミンとともに部屋を出ると廃墟から出ようとする。


そんなリュクスに向けてジャスミンは話しかけた。


「やはり誰に聞いても答えは同じですね」


「ああ、キキトは西に向かっているという偽の情報だけだ。

最初のその情報から西を捜索させても一切姿を見せなかったからすぐに嘘だと分かったが……ここまで徹底してるとはな」


「次はどうなさいますか?」


「次?

関係のありそうなヤツを尋問するだけさ」




***


学校・屋上。


イクトはガイとソラにリトル・パープルに襲撃された件と愛咲リナについて説明していた。


「……ってことがあった」


「そんなことが……」


「そいつは今どうなった?」


「拘束したリトル・パープルは「月翔団」に渡して尋問するらしい。

とりあえずは一件落着……なのかな?」


「ところで……愛咲リナについては?」


ガイが話題を変えて愛咲リナの件について質問するとイクトは首を傾げ、そして二人に向けて何もわからないということを伝えた。


「彼女についてはなぜヒロムに護衛を指示したのかまだ分からない。

あの様子だと能力者同士の争いには無関係そうだし、何より……」


「このタイミングなら何か理由があるのは確かだろ?」


「蓮夜はキキトのことをオレやガイとコイツに任せてヒロムには護衛に専念させようとした。

この時点で裏で何かあるのは明白だな」


「彼女が何か隠してるって?」


さぁな、とソラは適当な返事を返し、返事を聞いたイクトはため息をつくと二人にこれからについて相談した。


「キキトについてはまったく情報がない。

そして愛咲リナの護衛の件についてもハッキリしない。

オレらはどうすべきだと思う?」


「知るわけねぇだろ、んなこと」


「いやいや、ソラにとっても大事なことだろ?

「八神」に関わる相手をヒロムのために倒す、ソラがやりたいことだよな?」


「よく分かってるな。

けど、敵の居場所が分からないのもよく分かってるよな?」


「それは……」


「キキトに関する手掛かりなしなのは変わりない。

ヒロムに愛咲リナってヤツを任せるにしてもこっちには足りないものが多すぎる」


イクトとソラが議論を繰り広げる中、ガイは何か思いついたのかイクトに向けてあることを質問した。


「イクト……仲間はいるのか?」


「仲間?」


「ガイ、何の話だ?」


「賞金稼ぎの仲間だよ。

情報屋や賞金稼ぎは互いに情報を共有するなら仲間がいてもおかしくないだろ?

だから……」


「その仲間がキキトだったんだけどな……。

頼りになるバーのマスターもソラが尋問したあと姿晦ましていないし……」


「ああ……すまない」


イクトの言葉を聞いてガイは申し訳なくなって謝るが、ソラはそんなイクトに向けて少し冷たく言った。


「独りぼっちなのはよく分かった。

だがやらなきゃならねぇことに変わりはない。

どうにかしてアテを探すしかない」


「どうやって?」


「どうにかしてだ。

オレたちが目的を達成するには意地でも見つけなきゃならない」


「だからどうやってだよ?

オレはキキトのせいで追われる身だしオマエら二人は「八神」に顔知られてるせいで警戒されるだろ?

そんな中でどうする気なんだよ?」


「それをどうにかして考えるしかねぇだろ?

今更なこと言ってんじゃねぇぞ?」


「ならハッキリ言うけどそんな曖昧な理由じゃ動けねぇだろ?

危険にさらされるだけ、無謀すぎる!!」


「だったら納得出来るアイデア出せよ!!

元はと言えばオマエが巻き起こした件が長引いてんだろうが!!」


「分かってるよ!!

だからこそ……」


「黙れ!!」


イクトとソラが口論になる中、ガイは二人を黙らせるように強く告げた言うとため息をつき、そして二人に対して落ち着くように伝えた。


「ここでいがみ合っても何も解決しない。

今は蓮夜さんから少しでも情報をもらうなりして策を練るしかない」


「……」


「……」


「焦るのは分かる。

だけど今オレたちが争っても……解決しないだろ」


「分かってるよ……」


「ああ、分かってる」


「……ならこの話は終わりだ。

とにかくまずはリトル・パープルの件の報告を待とう。

愛咲リナのことはヒロムに任せて……オレたちで解決しよう」


イクトとソラを宥めるとガイは二人に言い聞かせるように言うが、三人の間に漂う空気はどこか気まずく重かった。


そんな中、イクトは何かを思い出して二人にある提案をした。


「……一人だけ、キキトの居場所を知ってるかもしれないヤツに心当たりがある」


「何?」


「本当なのか?」


「名前はネクロ、前に何回か会ったことのある変人なんだけど、キキトと仲が悪くて……前会った時に「次アイツに会ったら殺してやる」って」


イクトの話を聞いたガイとソラは顔を見合わせ、そしてソラはイクトに確認するように訊ねた。


「そいつは今どこにいる?」


「多分だけど西の方の地方にいる」


「多分、か……」


「どうするガイ?」


イクトの情報がハッキリしないために悩むガイ。

そのガイに決断を迫るようにソラが聞くとガイはイクトを見ながら己が下した決断を伝えた。


「そいつの所に案内してくれ」


「分かった、任せてくれ」


ネクロ……イクトが出したこの人物だけが手掛かりになる。


三人の目的は決まり、そして彼らは動き出す。


目指すは……西

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