XXVI
学校内の売店にある自動販売機。
その売店に姫神ヒロムはいた。
「……」
何かするわけでもなくヒロムは自動販売機で買ったと思われる無糖の缶コーヒーを片手にどこかへ向かおうとする。
「……」
「どこ行くんだ?」
どこかへ向かおうとするヒロムを呼び止めるようにイクトが声をかけ、声をかけられたヒロムは歩みを止めるとイクトの方を向いた。
「オマエか。
どうかしたのか?」
「アンタこそどうしたんだ?
教室とは逆方向に行こうとしてたみたいだけど」
「オマエに関係あるのか?」
「関係はあるね。
仲間だから」
仲間か、とヒロムは何か言いたげな言い方をするとため息をつき、そしてイクトに向けてある質問をした。
「オレはこれから愛咲リナのもとへ向かうんだが、今朝の件で少し怯えてるか弱い女のところに男二人で向かうのは失礼だと思わないか?」
「ああ……なるほど。
分かった、聞かなかったことにする」
「ならどこに行くかも聞くなよ?
これでもオレの護衛の件は彼女自身渋々理解してくれたんだからな」
「狙われる理由とかは知ってたのか?」
「さぁな。
リトル・パープルはオレやオマエを狙ってたわけであって愛咲リナを狙ってたわけじゃないからな。
彼女に何かあるとしてもこのタイミングってのが怪しいんだよな」
「何か思惑が?」
あるかもな、とヒロムは一言言うと今度はヒロムからイクトに向けて質問をした。
「そっちはどうなった?
ソラとガイと話してたなら何かしら進展あったんだろ?」
「ああ、その事で話がある」
「?」
「立ち話も何だしどっかに……」
「構わない。
ここで話せ」
「……キキトの居場所に心当たりがあるオレの味方になってくれるヤツが一人いるんだ」
イクトは先程ソラやガイと話していた事をヒロムに説明するように話し始めた。
「ネクロってヤツでキキトととにかく仲が悪くて次に会ったら殺すって言ってるヤツだ」
「その言葉だけで信用できるのか?」
「もはやそいつにかけるしかないんだ。
ここまでキキトに関して手掛かりがない中でリトル・パープルが現れた。
キキトに関わりがあるあの男が現れた今、何かあるかもしれない。
だから……」
「まぁ手掛かりが少しでもあるなら試す他ないのは事実だな。
それでそいつはどこにいる?」
イクトの話の続きを聞こうとヒロムは彼に説明の続きを求めるようにネクロという人物の居場所を訊ね、訊ねられたイクトは自分の知る情報をヒロムに話した。
「オレの知るかぎりでは西の地方にいる。
そこにネクロの住処があるんだ」
「西の地方?
まさかだが湖のある県とか京の町とかなんか色んな城があるあの関西のことか?」
「そう、関西だ。
西の地方で合ってるだろ?」
「オマエそんなところまで行ってたのか?」
「半年前に何回かだけだよ。
元々ネクロもこっちに来たりしててちょうどこの街に来てたアイツと出会ったんだ」
「いや、馴れ初めはどうでもいい。
分かってると思うがオレは愛咲リナの件があるから動けないからな?」
「むしろ動かない前提で考えてたんだけど……場所によっては来る気だったのか?」
「……まぁ、いい」
誤魔化しやがった、とイクトが呟くとヒロムはイクトを睨み、イクトが愛想笑いをすると呆れながらヒロムは彼に西の地方……つまり関西にいるネクロに会う件について詳しく質問した。
「オマエはともかくガイとソラも行くんだよな?」
「とりあえずは三人で動くつもりだよ。
アンタの方は愛咲リナの件があるし、「月翔団」の人らもオレ絡みとなると面倒なことになるだろ?」
「そうだな。
少なくともオマエが敵に接触すると判断して拘束するだろうな」
「……で、相談なんだけどさ。
オレら三人がネクロを探しに行く際にバレなくする方法ってないか?」
イクトの質問、それはおそらく「月翔団」とその団長の白崎蓮夜を警戒してのものだ。
ヒロムやガイ、ソラがどれだけイクトを信用しても彼らのような大人はイクトを警戒している。
今こうしてる時も監視されてる可能性がある。
だからイクトはそれをどうにかしなければネクロに会うのは難しいと思っているのだ。
そしてその打開策を持つであろう人間で今イクトが頼れるのはヒロムだけなのだ。
「方法、か……」
「さすがのアンタでもあの人らを止めるのは無理か?」
「ヤツらがオレの思惑の中で動いてないから不可能だけど……ちょうど都合よくいい駒が手元にあるから利用してどうにかしてやるよ」
「駒?」
ヒロムの言う「駒」が何なのか気になるイクトは首を傾げながら聞き返すがヒロムはイクトを無視するかのように携帯電話を取り出すとどこかへ電話をかける。
「……オレだ。
アンタに頼みがある。
ああ、アンタの事だから察しがついてんだろ?
頼めるか?
……そうか、なら頼む」
ヒロムは電話を終えると通話を切り、そしてイクトの方を見るとある人物の名を出した。
「元賞金稼ぎのオマエならこの名前を出せばわかるよな?」
「?」
「ロビン、て分かるか?」
ロビン、ヒロムの口から出たその名を聞いたイクトは驚いた顔をし、そしてその名の人物について詳しく聞こうとする。
「なんでロビンさんの名前が出てくるんだ!?」
「まぁ、有名人だもんなロビンは。
伝説の賞金稼ぎにして七年前突如として姿を消した殺しも請け負う天才、だろ?」
「そこまで知ってるのか……って何で知ってんだよ!?」
「失踪した理由は七年前にある男が賞金のために誘拐しようとした七歳のガキに負けたからだ」
「負けた?」
「そっ、十九歳にして伝説のように謳われた賞金稼ぎは七歳のガキに倒された。
そしてその不名誉な負け方を晒さぬように失踪した」
「なんで詳しいんだ?
ロビンさんの話はどれも噂程度で真実は誰も知らないはずなのに……」
妙に「ロビン」について詳しいヒロムに対して不信感を抱きつつあるイクト。
そんなイクトのその不信感を払拭するかのようにヒロムは自身の知ることを伝えた。
「その七歳のガキはオレだからだ」
「……はぁ!?」
ヒロムの言葉に耳を疑うイクトは大きな声で驚いてしまい、そして思わずヒロムに聞き返してしまう。
「冗談だよな?
アンタがあの伝説の賞金稼ぎを倒したなんて嘘だよな?」
「それに関しては事実だし、信用してないならロビン本人に聞けばいい」
「えっ、会えるのか!?」
「ああ、夜にでも屋敷に来るからその時会えるさ。
ロビンが協力してくれるおかげでとりあえずは蓮夜を騙せるかもな」
「とりあえずってことはすぐにバレるって事だよな?」
「まぁな。
バレたら止められかねないな」
「他に方法はないのか?
ロビンさんの力を借りた上でもっと確実性を上げるような……」
あるぞ、とイクトの質問に被せるようにヒロムは言うと質問してきたイクトに向けてある質問をした。
「賞金稼ぎってのは個人的な依頼も簡単に引き受けてくれるんだよな?」
「依頼の内容と報酬にもよるけど……オレに何か頼む気なの?」
「ああ、この依頼を受けてくれるなら報酬は金の代わりとして蓮夜と「月翔団」全員を黙らせておくけど……どうする?」
イクトに対しての依頼、そしてその依頼の報酬として関西に向かうことをバレないようにしたいイクトの手助けをすると言うヒロム。
そのヒロムの依頼の内容が気になるイクトだったが、彼はひとまずヒロムのその報酬代わりの足止めについて確認した。
「オレが何とかして依頼をクリアすればバレないようにしてくれるんだよな?」
「ああ、約束してやるよ。
オマエが依頼を完遂してくれるならの話だがな」
どうする、とヒロムはイクトに依頼を受けるか受けないかを答えさせようとし、問われたイクトは少し間を開けるとため息をつきつつもヒロムに返事を返した。
「引き受けるよ。
今は早くネクロのもとに向かいたいからな」
「そうか」
「で、内容は?」
それはだな、とヒロムは周囲を見渡すようにして確認するとイクトに歩み寄って彼の耳元で囁くようにして伝えた。
「……え?
そんなのでいいの?」
耳元で伝えられた賞金稼ぎとしてのイクトへの依頼。
だがその内容を聞いたイクトはその内容に疑問を抱いたのかヒロムに聞き返してしまう。
聞き返されたヒロムはただ静かに頷くと続けて補足するように説明した。
「それさえあればオマエらが明日の朝から関西に向かっても確実に足止め出来るしいざとなればヤツらに対しての交渉の手段に今後も利用できるからな」
「……何か悪いこと考えてないか?」
「気のせいだ。
とにかく今はオマエらが関西に向かってネクロってのと会ってキキトのことを聞き出すのが優先だ。
オレにとっては「八神」に関わる人間を一人潰せてオマエにとっては真実を知った上で身の振り方を決め直せるチャンスだからな」
「この機会を逃せば次はないってことだよな?」
「次どころかこの先一生ないけどな」
「これが最初で最後の……」
プレッシャーを与えるかのようなヒロムの一言、それを受けたイクトは緊張したのか息を飲み、そのイクトの反応を見たヒロムは彼を励ますかのように伝えた。
「最後にはさせねぇから安心しろ。
そのためにオマエに依頼したんだし、足止めするってオレが言ったんだ。
オマエはまずそのための布石を用意してくれればいい」
「分かった。
タイムリミットは?」
「別にねぇけど遅くなればなるほどネクロってのに会えなくなる可能性が増すだけだってのは覚えとけよ?」
「分かってるよ。
失敗は許されない、だろ?」
「分かってるならいいさ」
頼んだぞ、とヒロムはイクトとの話を終わらせるように一言残すとどこかへ向かおうと歩き始め、イクトは彼の背中を見ながら深呼吸すると自分に言い聞かせようとした。
「チャンスは一度だ。
失敗は許されない……気を引き締めろよ、オレ!!」
***
イクトが今後について方針を決めているその頃……
西の地方、関西のとある町外れにある古民家。
日差しだけでは明るく照らされることも無い古民家の室内は薄気味悪いほどに暗く、どこかホコリっぽかった。
そして何やら怪しい液体の入ったビーカーや試験管が多く並んでおり、テーブルの上には何やら古代文字のようなものが無数に描かれた紙が散乱していた。
「さて……そろそろかな」
イスに腰掛けて足を組む青年は時計を見ながら何かを呟き始める。
「もうじきここに来るんだろうな……運命に弄ばれた愚者が。
ここに来るからには……覚悟しとけよ、イクト」




