二人の女王
それは遙か昔の或る国のお話し。
イースト共和国がありました。以前は女王が治める国だったのですが、その女王が結婚したと同時に共和制となったのです。女王の名はスカイといい25歳です。
女王は初代の大統領となり、夫の健吉が執行官として議会を取り仕切ります。でも、誰もスカイの事を大統領とは呼びません。国中の民も議会の議員も、未だにスカイのことを女王様と呼んでいました。夫の健吉ですらスカイ女王と呼んで臣下の礼をとるものですから、いつまで経っても誰一人大統領とは呼びません。
でも、スカイ本人はというと、女王と呼ばれ続けていても大して気にする素振りもありませんでした。
「スカイ女王、おはようございます」
「おはよう、健吉さん。今日も良い天気ですね。議会の方は順調ですの?」
「はい、スカイ女王の意に沿った形で全ての審議は進んでいます」
「そうですか、それは良いことですね。なら、議会の方は健吉さんに任せて、私は侍女達とピクニックにでも行こうかしら。構いませんよね?」
スカイは小さい時からとても利発で可愛らしい女の子です。光が当たるとキラキラ輝く金色の髪で、透き通るような白い肌に、少し目尻が垂れたハッキリとした二重の大きな目。国中の民が噂をしていたものです。「スカイ王女様は、将来すんげー美人になるべ」と。
天真爛漫で何にでも興味を持って、何時も眼を輝かせてはコロコロと笑い、国中の誰からも慕われた王女でした。
しかし、王様だった父親が病で死んでしまい、それまでは王女だったスカイが女王になったのですが、どうにも政治と言うものが好きになれずに、周りの反対を押し切って、国を共和制にしてしまったのです。
それまでは、毎日毎日、取り巻きの者達からの色々な報告を聞かされては、その都度、なにかしらの決定を下していたのですが、まだ若くて経験の浅いスカイ女王には解らない事が一杯あって、側近の健吉に教えてもらいながら女王の仕事をこなしていたのです。
そして2年前のスカイ女王が23歳の時に、18歳も年上の健吉と結婚しました。
真面目で実直な性格の健吉は、王様が生きていた頃からお側に仕えていて、側近の仕事は天職のようなものです。その健吉も、さすがに驚いた表情を隠せません。天気が良いのでピクニックに出掛けたいと言っているスカイ女王ですが、昨日も侍女達を連れて海水浴に出掛け、一昨日は山歩きに行っていたのです。
議会は大統領が居なくても進みはしますが、本当は居てもらった方が良いのに決まっています。いくら健吉が議会を代表する執行官だと言っても、人のいい健吉では色々な意見を押さえきれない時があるのです。
スカイが大統領になる前であれば、健吉の助言はありましたが、最終的には女王が全てを決めていたのです。それに異を唱える者などおりませんでした。
大統領となった今でさえ、誰もがスカイを女王として見ています。議会で何も喋らくても良いのです。ただ、凛と座っていてくれるだけで。
そんな健吉の困惑をよそに、スカイ女王は侍女達を呼び集め、「何処に行きましょうか?」、「お昼のお弁当は何が良いでしょう?」と、目を輝かせながら部屋を出て行ってしまいました。
部屋に一人残された健吉の大きな溜息が聞こえます。
「はあぁぁ……」
先代の王様が亡くなる前に寝室に呼ばれた健吉は頼まれました。娘のスカイを支えてやってくれと。
「母親を早くに亡くしたスカイを、つい不憫に思い、わしは甘やかせ過ぎたのかもしれん。女王として国を治める術をお前が教えてやってくれ。あの子は頭の良い子だ、きっと素晴らしい女王に成長するだろう。頼むぞ健吉」
スカイ王女が19の年に王様が亡くなり、女王となったスカイを健吉は支えました。煩わしいと思われるような事でも、ちゃんと苦言を口に出していたのです。4年の間は。
「健吉、私の夫になりなさい」
スカイ女王が23の年に、そう言われた健吉は考えました。女王の取り巻きの中には、何かと女王に取り入ろうとしている者もいて、自分がもっと近い位置ーー夫になって助言をした方が、きっとこの国を正しい方向に導けるのではないだろうかと。
しかし、いざ結婚してみると、健吉は思い知らされました。スカイは王の娘で、今は女王なのだと。身分が違い過ぎたのです。
距離を置いた側近の時には言えた事でも、夫婦となった今では何故か言えないのです。それと、夫婦とは名ばかりで未だに寝室を共にした事がありません。名実ともに夫婦になれば、そんな遠慮も無くなるのかもしれないと思う健吉ですが、それを言い出すことも出来ませんでした。
そんな事もあって、子供が出来るはずもなく、スカイ女王は25歳の今でも、まるで10代の娘のように無邪気に歳の近い侍女達と遊び回るのが楽しくて仕方がないのです。
その日の議会は揉めに揉めました。イースト共和国で最近問題となっている事があります。それはアヘンと呼ばれる麻薬でした。
議会の誰もがアヘンは国を滅ぼす元だと考えています。そして厳しい罰則に法律を変えるべきだと盛に発言を繰り返していたのです。
イースト共和国には裁判所がありません。議会がその代わりの機能をも持っているのです。罪を犯せば刑の執行はありますが、先代の王が亡くなりスカイが女王となってからは死刑が廃止されました。
「人は誰でも過ちを犯します。それは女王の私であっても変わりません。人間なのです。けして全能の神ではないのですよ。それに、救いようのない悪人などいないはずです。私は罪と言う行為を憎みます。けれど、人を憎む事はしません。犯した罪は償うのです。今からこの国の死刑制度は廃止とします」
多くの民に喜んで受け入れられた死刑廃止は、イースト共和国内の犯罪を増やす結果となりました。刑務所など無いのです。鞭打ちの刑と斬首しかなかったのです。
健吉も麻薬に関する罰則を厳しくする考えに賛成でした。何度も鞭打ちの刑にあっても懲りない者が多いのです。それどころか、アヘンを吸っていない期間が長いと暴れ出して手に負えない者が増えてきたのです。それはアヘン病と呼ばれるようになりましたが、それでもアヘンに手を出す者が減るどころか、今では普通の主婦の中にも増える有様です。
今日の議会では多くの議員から、「このまま放置していれば、国の将来が危うい」と、国の行く末を憂う意見が活発に出され、どの議員も健吉にスカイ女王を説得して欲しいと、口には出しませんが、目が、表情がそう訴えていました。
疲れ果てて夜になって家に戻った健吉にスカイ女王が声を掛けます。
「健吉さん、今日は楽しかったのよ。私を見掛けた大勢の民が集まって来ましたの。ワインと食事を民にも振る舞ってあげたのです。健吉さんにも見せてあげたかったわ。民があんなに喜んで、詩を歌ったり踊ったりと、本当に楽しい一日でした」
次の日の朝に早馬が手紙を持って来ました。受け取った健吉は、まだベットで眠っているスカイ女王の部屋に入り優しく声を掛けます。
「スカイ女王、起きてください。スカイ女王……」
「う〜〜ん……」
ベットの中で大きく伸びをするスカイ女王。いつもならあと数時間は寝ている時間です。そうです、まだ夜が明けたばかりです。
「レイン女王からの手紙が早馬で届けられました」
◆◆◆◆
サウスという君主制の国がありました。
「女王陛下、昨日、若い男女の5人がアヘンを吸っているのを見たと通報があり、今朝方、全員を縄に繋いで連れて参りました」
そう女王に報告をしているのは、直立不動の背の高い軍服を着た若い男です。20代後半か30になったばかりの青年の顔付きですが、低く落ち着いた声でゆっくりと話しています。
女王の名前はレインといいます。まだ24歳の若い女王です。全ての光を吸い取るような真っ黒な髪を無造作に後ろに束ねた精悍な顔をしたレイン女王は、報告をしている軍服の男をじっと見つめています。日に焼けた浅黒い肌に女性らしくない引き締まった筋肉質の身体が、着ているドレスの上からでも解ります。
「龍造、お前が取り調べたのか?」
言葉少なく出された声も、女性にしてはとても低く華やいだものではありません。
「はい、私が調べました。通報に間違いはありません」
「そうであれば、なぜ、あえて私に報告をする?」
「はい。法の定めの通りに刑を執行させて良いものか、女王陛下の了解を頂きたく」
龍造は若い軍人ながらも、その勇敢さと有能さを買われ、レイン女王の側近として絶えずお側で仕えています。
何度も修羅場をくぐりぬけた経験からなのでしょうか、笑顔も見せずに眉間に皺を寄せるレイン女王に見据えられても、龍造は黙ってそんなレイン女王の視線を受け止めています。
「龍造、法を曲げる理由があるとでも言うのか?」
「捕らえた5人の内、2人が17の娘です。刑の執行には女王陛下のご指示が必要です」
「そうか、解った。女であろうが成人前であろうが、法の前には誰もが平等。全裸で街中を引き回し、広場で首を跳ねなさい」
「御意」
サウス王国では死刑制度があります。レイン女王が罪人を許さないのです。
「正直者が馬鹿を見る世の中には絶対にしません」
5人の若い男女が素っ裸で首に掛けられた縄を引かれて歩かされて行きます。両手を後ろに縛られ身体を隠すことも出来ない姿です。
街中の人が通りに出て来ました。大人も子供も裸の男女に向かって石を拾っては投げ始めましたが、誰も止めたりはしません。
何時間もの間、ずっと晒し者にされ続けて、ようやっと街の中央にある刑の執行場に着いた頃には、5人の男女は全身の至るところの肉が抉れて、血塗れの姿で声を出すことも出来ない状態です。そして、一段高い台の上に並ばされ、何百人もの、いえ、何千人もの人が集まった中で、ガタガタと身体を震わせて立って居られないようです。台の上に手を付いて、泣きながらオシッコを垂れ流して命乞いをしています。
宮殿では、誰もいない部屋で、椅子に腰を下ろしているレイン女王が両耳を押さえ、唇を噛んで、ぎっちりと目をつぶっています。それでも外からの民の声が聞こえます。
罪人へ罵声や、早く首を撥ねろとの怒声が刑の執行場に溢れかえり、宮殿の中にまで聞こえて来るのです。一段と大きな歓声が湧き上がりました。きっと一人目の首が刎ねられたのでしょう。少しするとまた歓声が湧き上がり、それが5回ありました。
レイン女王の部屋の大きな扉の向こう側では、龍造が微動だもせずに立っていました。誰も入って来ることがないようにと。そして、小さな小さな誰にも聞き取れない声で呟きました。
「女王陛下、耐えてください。貴方がお一人で背負うしかないのです」
朝になり、部屋の中からレイン女王に呼ばれるまで、龍造は扉の前で動こうとはしませんでした。
「そこに居るのでしょう。入って来なさい龍造」
「失礼します」
扉を開けて入って来た龍造は視線を下げたままで、けしてレイン女王を見ようとはしません。
「龍造、ちゃんと私を見なさい。泣いてなどいませんから。私はサウス王国の女王ですよ、失礼でしょう」
「はい、女王陛下、申し訳ありませんでした」
龍造の前には、目を真っ赤に泣き腫らしたレイン女王が、気丈にも背筋を伸ばして立っています。そんな女王に龍造は、ぎこちなく照れ臭そうな笑顔を見せると、眩しそうに思わす目を伏せてしまったレイン女王でした。
数週間があっという間に過ぎました。
サウス王国では誰もが働きます。男も女もお年寄りですら、出来る仕事を不平を漏らすことも無く、働き者の国でした。
言葉の少ないレイン女王。その代わりにやはり無口な龍造が、毎日のように国中を回って民に声を掛けます。
「誰のためでもない。子のため孫のために、国を豊かにするのだ。将来、これから生まれてくる者のために今を無駄にするんじゃない」
そんな龍造の前に、一人の若い女が飛び出して来ました。見ると衣服が酷く破れ片方の乳房が見えてしまってます。
「娘、その姿はどうした!」
しかし、激しく震えて泣き続ける娘の声は言葉にはなりません。
「おい、誰か服を掛けてやれ!」
龍造は後ろに控えている十数人の部下に命じました。軍服を着た男達が上着を脱いで、半裸の娘の身体に掛けてあげます。
暫くして少し落ち着いてきた娘が嗚咽交じりに話したのは、「男二人に乱暴された」という内容でした。
それを聞いて顔色が変わった龍造が部下の一人に命じます。
「お前、戻って一個小隊を率いて来い! 大至急だ! 後の者は、このまま俺に続け!」
龍造は自分が跨っている馬の後ろに娘を乗せ、娘の家に案内させてました。すると、行く手の遠くに炎が上がっているのが見えてきて、馬に鞭を入れます。
案内された娘の家が、ごーごーと音を立てて燃えているではありませんか。娘を馬から降ろした龍造が叫びます。
「剣を抜け! 突撃するぞ、俺に続けーーー!」
火を怖がる馬から降りた龍造が、先陣を切って燃え盛る家に飛び込んで行きました。危ないと止める者は誰も居ません。それどころか、龍造に続いて部下達も飛び込んで行ったのです。
メラメラと燃える柱や天井が次々と崩れる家の中で、倒れている一人の女がいます。抱きかかえて家から連れ出すと、さっきの娘が「母さん! 母さん!」と泣き叫びながら走って来ます。女は煙を吸ったせいでしょうか、意識が朦朧としているようで何も喋ろうとはしません。
「なにがあった! 女、しっかりしろ!」
龍造が何度呼び掛けてもグッタリしています。それでも、「母さん! 母さん!」と抱きつく娘の声が届いたのか、その声の主を見て安心したように息をしなくなりました。
娘が、ゆっくりと立ち上がって龍造を見据えます。そんな娘の肩に優しく手を置いた龍造が言いました。
「娘、お前の母なのだな。気の毒に。いったい何が起きた? 辛いだろうが泣いている時では無い。分かるな? 知っている事を言ってくれ」
お昼のご飯を作りに母と娘で家に戻って来た時に、二人の男が押し入って来たらしく、その男達に母娘共が辱められたのでした。母親が隙をみて娘を逃がしてくれたのです。
「なんだと! 娘、その男は知っている男か?」
「名は知らん。あいつら……隣の国の男だ」
「なに?! 娘、間違い無いか!」
「間違い無ぇ。前にも来て……母さんに酷い事やった。そん時、あいつら言ってた。こっちの国の方がイーストより、いい女が多いって」
「前にも来ただと? なぜ、その時言わなかった! 娘、お前はその時……」
「アタシは隠れてた! 母さんが誰にも言うなって……父さんにも言ったらダメって……」
知らせを聞いたレイン女王。見る見る顔が蒼ざめ、手を震わせています。
「姉に手紙を書きます。国一番の早馬を用意しなさい」
◆◆◆◆
ベットに寝たままで手紙を読んでいたスカイ女王が、跳ねるように起き上がり、何度も何度も手紙を読み返しています。夫の健吉ですら、そんなスカイ女王を見るのは初めてでした。
「スカイ女王、妹のレイン女王は何と?」
息を整えるように大きく深呼吸したスカイ女王。
「我がイースト共和国の男二人が、サウス王国に侵入して……」
震える声でそう言ったまま、言葉を止めてしまったスカイ女王。
健吉も、何か大変な事が起きたのだと、じっと、スカイ女王が再び喋り始めるのを待っています。
「何かの間違いだわ。そんな事があるはずが……」
スカイ女王は、読んでいた手紙をくちゃくちゃに丸め、ベットの横に立ち尽くしている健吉に向って投げつけました。
胸に当たって床に落ちた手紙を慌てて拾い上げた健吉が、もどかしいように両手で伸ばして目を通し始めています。ベットに上半身を起こしているネグリジェ姿のスカイ女王は、宙に視線を彷徨わせて唇を噛んだままです。
「なっ……」
手紙を読んでいた健吉が大きく息を飲んで、「そんな、バカな…」と言ったきりです。
「健吉さん、早馬の用意をしてください。妹に手紙を書きます」
「てっ、手紙? 今書くのですか?」
「そうです。今直ぐに書きます」
「まっ、待ってくださいスカイ女王。とにかく我が国で調べてからでも遅くはありません」
「ええ、調べますとも。それで事実と判れば、イースト共和国の法律で処罰するのです。健吉さん、妹の国の法律を知らなくて?」
「そっ、それは……」
そう言った健吉は、再び手紙に視線を戻して黙ってしまいました。レイン女王からの手紙にはこうありました。
イースト共和国の男二人が、両国の取り決めに反しサウス王国への密入国を繰り返しています。更には、罪もない13歳の娘とその母を辱め、家に火を放って辱めた母親を焼き殺し、イースト共和国に逃げ帰りました。我が国の軍をイースト共和国に向かわせ、犯人を逮捕連行します。邪魔だては無用に願います。
一言の挨拶も書かれていないその手紙は、軍をイースト共和国に向かわせる事への了解も求めておりません。勝手に探して連れて行くから、そちらはただ黙って見ていなさいとの、一方的な通告文です。
手紙を何度も読み返している健吉に、スカイ女王はもう一度聞きました。
「罪人であってもイースト共和国の民です。イースト共和国の法律で裁くのが筋だと思いますが、それは間違っているのですか?……健吉さん答えなさい」
「はい……このようなケースに関する両国の取り決めはありません。もし仮に、この手紙に書かれている内容が事実だとしますと、確かにスカイ女王が仰ったように罪人はイースト共和国の民ですが、イースト共和国内での犯罪ではありませんので、裁く根拠がありません」
「なら健吉さんは、我が国の民を引き渡せと言うのですか? サウス王国の強姦罪の刑を知らないのですか? 私は、以前、妹に逢いに行った時、偶然にもその刑の執行を目にしました。その場で気を失い、その後、何ヶ月もの間悪夢にうなされました」
「いえ……サウス王国の強姦罪の刑、見たことはありませんが知っています。しかし、我が国の法律で処罰をしても刑が違い過ぎて、おそらくレイン女王は納得しないでしょう」
「構いません。我が国の軍に捜査を命じて下さい。それと、急いで早馬を手配して」
イースト共和国での強姦罪の刑は30回の鞭打ちです。鞭で打たれた者は、4〜5日は酷く熱が出てご飯も喉に通りません。そして、打たれた箇所の皮膚だけでは無く肉も抉れて、ベットの上に横になることもできないのですが、数カ月もすれば元の元気な姿に戻ります。しかし、サウス王国の強姦罪は死罪です。それも苦しみ抜いての死刑なのです。その時の様子を思い出したのか、スカイ女王の顔色は真っ青です。
「血止めをして去勢するのですよ! 出血で簡単に死んでしまわないように。そして、裸のまま広場で晒し者にされるのです。息を引き取るまで」
スカイ女王は妹のレイン女王に手紙を書きました。
親愛なる我が妹レイン女王。
今年の残暑は厳しく、子供の頃より暑さに弱かった貴方はどう過ごされているのかと気を揉んでいたところ、貴方からの便りが届き、元気な様子が目に浮かぶようで安心しました。
さて、我が国の男二人が貴国に内密に侵入し、更には貴国民に対し狼藉をせしめたとの報告の手紙、驚きをもって拝読致しました。まずは、不幸な死を遂げた貴国民への哀悼の意を表します。又、幼き女児の身に起きた悪夢の如き出来事に対し、深い悲しみを禁じ得ません。早々に、我がイースト共和国の軍を総動員し、憎っくき罪人を捕らえるべく捜査を開始しました。捕まえたあかつきには、我がイースト共和国の法律で、厳正かつ慈愛をもって処罰します。サウス王国の手を煩わせることが無いよう万事手筈を整えて事にあたっていますので、我が国民への関与、無用に願います。
◆◆◆◆
元の名をセンター王国と言いました。かなり大きな島国で、長年治めていた王様が病に罹り、日を追うごとにどんどん弱ってゆきました。
枕元に呼ばれた二人の王女。そう、スカイとレインです。
金色の髪をして人懐っこい姉のスカイ王女と、真っ黒な髪で無口な妹のレイン王女。
姉のスカイは透き通るような白い肌を持ち、零れるような笑顔を絶えず振りまき、民からも王様の取り巻きからもとても人気がありました。
妹のレインは子供の頃から日に焼けた浅黒い肌で、滅多に笑うことも無く、話している相手の目をじっと見据えるようなところのある娘でした。
民は噂をしていたものです。スカイ王女は19歳、レイン王女は18歳。歳も一つしか違わない姉妹なのに、どうして顔も性格もあれほど違うのだろうと。
ベットに横たわる王様は二人の王女を交互に見ながら言いました。
「私はもう長くないだろう。二人の王女よ、そんな悲しい顔をしないでおくれ。泣いている暇など無いのですよ。これから私が言う事を良くおきき。この国は島国だけれど、とても広い。ちょうど真ん中に大きな川があるのを知っているだろう。その川から北東をスカイが治めるのです。南西をレインが治めなさい。そうです、今からお前達は女王です。どんな国にしてゆくのかは、お前達がそれぞれ決めるのです。但し、一つだけ守ってもらいたい事があります。争ってはいけないと言うことです。お前達はいずれ結婚して子をもうけるでしょう。その子にも、更には孫達にも、必ず守らせるのです」
もっと何かを言い掛けている王様を遮ってスカイが言いました。
「お父様、そんなこと……私たち姉妹が争い合うなんて……」
しかしレインは何も言いません。ただ、じっと王様の目を見ております。強く結んだ唇を僅かに震わせながら。
王様は悲しそうな目をして大きく息を吐き出しました。
「どちらが、民をより幸せに出来るかを競い合いなさい。それぞれの国をどれだけ豊かにできるかだけを競い合うのですよ。民はお前達の鏡です」




