第9話
神器府の評定の間。
上座には総年寄である紀州重造が座る。カエルのようにでっぷりとした巨体。しかし、顔はやつれ頬はこけ、目の下には隈。
その前には年寄役の徳川綱良。
下座に紀州巴と徳川千代。
それぞれ血縁がある。
徳川千代は、徳川綱良の妹。
紀州巴は、紀州重造の娘である。
重造が言う。
「では、これより評定を始める。いやぁ綱良様、生牡蠣に当たってしまいましてな」
「大変だったようだな。かなり痩せてしまった」
「はい。生牡蠣はもう御免ですな。げっへっへ」
下品な笑い声に、皆が眉をひそめる。
「では、1つ目の案件だが、千代姫が見つけてきた人材の処遇だな。村田蔵五、楠本いね子、そしてお絹。優秀な人材であるならば、ぜひ、綱良様お預かりとして大いに薫陶していただきたいのですが」
綱良が首を振る。
「いやいや、千代姫に預けるのが良いだろう。懐いているようだし。面倒くさいし」
「なるほど!さすが綱良様!ご慧眼お見事!この重造、軽々しい考えを申し上げてしまい、大変お恥ずかしいっ!お許しくだされっ!」
「え?う、うん…」
重造が巴姫に言う。
「では、巴の意見はどうかね?」
「慣れない土地で頑張っているのですもの。綱良様の言う通り、気心の知れている千代姫の預かりにした方があの子達の為にも良いですわね」
「よし」
最後に、重造が千代姫の方を向く。
「千代姫。蔵五達は千代姫預かりとすべき、と言う意見だが、いかがかな」
「かしこまりました。彼らが安心して勤められるよう、最善を尽くします」
「ふーん…」
「イラッ!」
笑顔の千代姫の眉間にしわが寄る。
次の議題に移っていく。
「では次の案件だ。来たる御前試合についてだな。ここは例年通り槍花と真白でよいかな。あの2人のことだ、卒なくこなすだろう。綱良様はいかがですかな」
「いいんじゃないか」
「げっへっへ。気がいますなぁ。頭脳明晰な綱吉様と同意見とは、光栄至極ですぞ。げっへっへ」
「そ、そうか。良かったな」
重造が巴姫に言う。
「巴はどうだ?」
「異議なしですわ」
「うむ」
重造が千代姫に言う。
「千代姫はいかがかな?」
「私も賛成です」
「ふーん…では次の案件」
「ピキッ!」
笑顔の千代姫のこめかみに青筋が浮き上がる。
このようにして評定は進む。
「では最後の案件。江戸の怪異についてなのだが…血を吸われた町民の遺体が見つかる事件が出てきている。怪異の仕業とみて間違いないが…異人のペンドラゴンなる者が横槍を入れてきた」
重造は続ける。
「幕府評議からは、ペンドラゴンを主体に事に当たれとのこと。そして、そのペンドラゴンは千代姫に協力を要請しているとのことなのだが、千代姫、いかがか?」
「お受けいたします」
「ふーん。槍花を護衛にして、2人でよいな。幕府評議からは、小梅が監察として派遣されるそうだ。小梅は確か、小鈴の姉だったな」
千代姫が少し慌てる。
先日、小梅が蔵五に雄しべと雌しべがゴッツンコ的な興味を持っていると聞いたばかりだ。接触の可能性はなるべく減らしたい。
そこに、綱良が言う。
「村田蔵五、楠本いね子の両名も加えだらどうだ。鉄は熱いうちに打て。よい経験になるだろう」
「な、なんで…」
うなだれる千代姫。
気付かず重造が言う。
「さすが綱良様!お見事な采配でございます!ぜひ、そういたしましょう!」
「お、おう…」
「では千代姫、村田と楠本の両名を呼びなさい。ワシはまだ挨拶を受けておらずでな」
すこし慌てて、綱良が言う。
「私は所用があってな…これで失礼してよいか?」
「もちろんでございますとも!どうぞお気をつけてお帰りくださいませ」
綱良がそそくさと帰っていく。
千代姫がにやりと笑い、席を外す。
「では、村田達を呼んでまいります」
評定の間には、紀州重造と紀州巴の2人となる。
「お父様、村田なにがしと言うのは、仲間の男が近付くとその相手を不幸にする貧乏神体質と聞きましたが」
「戯言を真に受けるな。部下を囲い込みたい千代姫の嘘に決まっているだろう。そんな事よりも、もっと綱良様に媚びんか。綱良様に気に入られて、妻になってやろうと言う気概はないのか」
「お父上…私はあんな昼行灯は嫌ですわ」
「ならばどんな男が好みだというのだ」
「それは何というか…ゴニョゴニョ…千代姫みたいな凛とした男がいれば…ゴニョゴニョ」
そこに千代姫が戻ってくる。
「ただいま戻りました。ではお二人とも、総年寄の紀州重造様ですよ。あと蔵五さんは始めてお会いするのかしら?あちらが年寄役の紀州巴様ですよ。ご挨拶なさって」
「村田蔵五と申します」
「楠本いね子と申します」
部屋に入らず、廊下で2人は平伏する。
重造が上機嫌で言う。
「なんだ、ふたりともこちらに来なさい。顔がよく見えんではないか。げっへっへ」
千代姫がニヤリとして言う。
「総年寄のお下知です。従いなさい。さもなくば不敬にあたりますからね。さあさあ!」
「は、はい」
蔵五といね子の2人は重造の前に進みです。
「ふたりとも、類まれなる豪傑であるらしいな。期待しているぞ。げっへっへ…おや?」
すきま風が吹き、机の書面が飛びそうになる。重造が慌てて手で押さえる。その手が筆に当たり、重造の顔に飛ぶ。
「おっと!」
重蔵はそれをかわし、後ろに倒れる。倒れた先には屏風。屏風に頭を突っ込み、破る事となる。
「ああっ!?おっ、お気に入りの屏風がっ!」
慌てて起き上がろうとして、足を振り回し、机にすねをぶつける。
「痛っ!」
巴姫が重造に駆け寄る。
「お父様!大丈夫ですか」
「大丈夫じゃない。早く、村田を退室させてくれ」
必死に笑いをこらえながら、千代姫が言う。
「お二人とも、総年寄のお下知ですよ。退室しましょうか。ふふふ」
改易大名の屋敷。
ペンドラゴンがシャーロットの髪を整えている。ふたりは軍服姿。
そこに千代姫一行がやってくる。千代姫、村田蔵五、楠本いね子、お絹の四名である。
四人の姿を見て、ペンドラゴンがニッコリ笑う。
シャーロットが言う。
「皆いらっしゃい。早速やが蔵五、皆にお茶を入れてきてや」
「はい、わかりました」
いね子が慌てて言う。
「いえ、村田様、私がやりますので。座っておいてください」
「いいよ。いね子ちゃんは休んでおいて」
「いけません」
それを見たペンドラゴンが怒り出す。
「ペラペラペラ!」
「へ〜い、すんませぇーん。自分でやりますよ、っと…面倒くさいし白湯でええやろ。いや、水でええわ」
その様子を見ながら、千代姫が言う。
「さて、あとは小梅さん待ちね。いね子ちゃん、小梅さんについては何か聞いてる?」
「はい、小鈴様から聞いています。その、なんというか…」
「変人?」
「…はい。そう伺っております」
「なら話が早いわ。何が起きても気にしないでね」
少しして、小鈴の姉、小梅がやってくる。
幕府評議行動補佐の豪傑。処女ビッチ。
小梅を見て、いね子がつぶやく。
「小鈴様そっくり。でも、泣きぼくろがある…」
小梅は千代姫とペンドラゴン、シャーロットに、慇懃に挨拶をする。
そして、蔵五といね子に近寄る。
「小鈴の姉の小梅です。妹から、ずっとあなたたちの話を聞いていましたよ。やっとお会いできましたね」
小梅は両の手を使い、蔵五の手といね子の手をつかむ。モジモジしながら言う。
「あの時。小鈴がメスになった時。感応していた私もメスになったのです」
「へ?」
「あのあと、小一時間は腰が砕けてビクンビクンしていました」
「へ?」
「さあ、アレをやりましょう!ハァハァ」
小梅の口からよだれが垂れる。
蔵五の背筋が凍る。
「ヒィィィ!」
「辛抱たまらん!さあ早く!早く私をメスにっ!」
「た、助けていね子ちゃん!」
「…ニチャア」
「ヒィィィ!」
千代姫がおでこを押さえて言う。
「駄目です。許可しません」
「姫様!ありがとうございます」
泣いて喜ぶ蔵五。うなだれる小梅といね子。
そんなこんなで打ち合わせがスタートする。




