第7話
大坂の町。
西日本の米が集まる場所。米は貨幣と同等の扱いを受けるため、ここは自然と商業の中心地となる。
賑やかな雑踏に、皆がワクワクする。
小鈴が言う。
「シャーロット様。ここはシャーロット弁の聖地ですよ」
「せやな!関西弁の聖地や!あたしのアイデンティティがここにある。あ、あかんっ。テンション爆上がりやわ。ウヒョー!」
「ふふふ」
千代姫が言う。
「大坂は天下の台所と言われておりますよ」
「食えっちゅうんか?食えっちゅうんか?」
「ふふふ」
シャーロットが感極まる。
「ああっ!もう辛抱たまらん!あたしの関西弁で、大坂の皆さんに話しかけてくるわー。ほな!」
千代姫一行はニコニコとシャーロットを見守る。
向こうでシャーロットが町人に話しかける。
「兄ちゃんまいど!儲かりまっか!」
「え?いや、何ですか?」
「儲かりまっかー?」
「なんで売上の事をあなたに言わなきゃならないんですか」
「なんやなんやノリが悪いなぁ!儲かりまっか言うたらぼちぼちでんなぁちゃうんかーい。おっ!おっちゃん、おいしそうなせんべいやな!これおいくら万両?」
「は?見ての通り20銭だが…」
「なんでやねーん!そのまんまかーい!まあええわ、ありがと万両!!おっ、子犬を発見!お姉ちゃん、あれチャウチャウちゃう?」
「ヒィィィ」
「ええ!?に、逃げんでもええやん…あれ?なんかテンションが違わへんかな、なんか、さ…」
シャーロットがうつむき、つぶやく。
「おっかしいなぁ。なんでこうなってしまったんやろうか。あれ?目から塩っぱい汁が出てきたわ。なんやろなぁコレ…」
誰かがシャーロットの肩を叩いた。
振り返ると、槍花がいた。
「シャーロット…」
「な、なんや。あたしを笑いに来たんか?不審者扱いしに来たんか?」
「あの子犬はだな…ちゃうちゃう。チャウチャウちゃう」
「ブワッ!槍花ぁ~!あたし今キツイんやぁ。イタイ!心がイタイ!」
「ええんやで!ええんやで!泣いてええんやで」
そして一行は宿へ到着する。
千代姫と小鈴が宿に残り、他のメンバーは大坂観光へ出かける。
宿で小鈴が言う。
「では姫様。お仕事の話をしてよろしいですか」
「はいどうぞ」
「江戸からの指令です。ここ大坂の町では、粗悪薬の販売が問題となっております。一度飲むと元気になりますが、依存性があり、やがて体を壊し廃人となる恐ろしい薬です。大阪城代も血眼になり犯人を摘発しようとしていますが、一向に犯人がつかまらないとのこと」
「ええと、つまりその犯人を探すの?この大坂の町で?」
「はい。しかし期限はあります。二月後に江戸から調査人員が派遣される予定です。例え見つけらなくても、我々の期限はそれまでです」
千代姫がため息をつく。
「ズバリ、神器府総年寄の差し金?」
「そうです。総年寄としては、村田蔵五と楠本イネ子を自分の駒にしたいのだと思います。いずれペンドラゴン様を迎える使者をここへ寄越し、一緒に蔵五君達を江戸に運ぼうという策略かと」
「うーん、まさかそう来るとはねぇ。で、小鈴さんはどうすべきだと考えてるの?」
小鈴が背をピンと伸ばして言う。
「正面突破です!かくなるうえは、早急に犯人を見つけるしかないかと」
千代姫は破顔一笑する。
「ふふふ。かっこいいじゃない。よし、私にできる事があれば何でも言って」
「では。まずは地道な聞き込みしか手はないかと存じます。私は単独で動きます。姫様は槍花と2人で聞き込みをお願いします。蔵五くんといね子ちゃんは、ペンドラゴン様とシャーロット様の相手をしてもらいましょう」
「かしこまりました。小鈴さんの下知に従いますよ」
小鈴は闇雲に聞き込みを始める。
この人人々の大坂の町で、まさか聞き込み程度で犯人を見つけられるはずがない。しかし、他にできる方法もない。ならば、やるしかない。
一日歩き回り、成果はゼロだった。
肩を落として宿に戻り、千代姫に愚痴る。
「姫様、偉そうなことを申し上げましたが…やはり、大海に落とした一粒の石を探すようなものかと」
千代姫が笑う。
「ふふふ。できることをやる。それでいいじゃないですか。結果は二の次ですよ」
「すいません…」
翌日も徒労に終わる。そして、翌々日も同じく。
小鈴は重い足取りで宿に戻った。
宿では、シャーロットがペンドラゴンから説教をされていた。
「ペラペラペラ(怒)!」
「すんません…」
「ペラペラペラ(怒)!」
「ほんま、すんません」
小鈴が千代姫に聞く。
「何があったのですか?」
「シャーロット様が宿を抜け出して賭博場に行ったみたいですね。旅の予算を使い込んだみたいよ」
そうこうしているうちに、説教が終わった。
解放されたシャーロットが小鈴に近寄ってくる。
「おかえり〜。仕事は順調か?」
先程まで説教をされていたのに、すぐに屈託がなくなったシャーロットの態度。小鈴は思わず笑ってしまう。
「ふふふ。全然だめですよ。まあ、地道にやるしかないですね」
「へっへっへ。実はな、薬の売人を紹介してもらえる事になったで」
小梅がキョトンとする。
「…はい?」
「賭場でや。ただでさえ異国人で目立つのに、更に金をわんさか使ったったからな。チンピラが寄ってきて、わざとらしく薬の売人と会える場所を教えてくれたわ」
「そ、そのチンピラは?」
「一見客らしくて、そいつの情報は手に入らんかった。尾行したかったけど、あたしは目立つからなぁ。これが限界や」
小鈴が呆然とする。
「シャーロット様、すごい…」
シャーロットが得意気に言う。
「明日の夕方に約束を取り付けたで。太鼓橋の前で、赤い手ぬぐいを頭に巻いて立っておいてくれ、との事や。さて、賭けで負けた代金は、姫さんに請求してええか?」
「もちろんです!色を付けてお支払いします」
「がっはっは」
翌日の夕方。
太鼓橋にて、シャーロットが赤い手ぬぐいを頭に巻き立つ。
遠くで他のメンバーがその様子を見守る。しかし、いくら待っても売人はやって来ない。
小鈴が言う。
「姫様…お金欲しさの、シャーロット様の嘘だった可能性もありますよね」
「…大いにありますね」
2人でペンドラゴンを見る。
視線に気づいたペンドラゴンが自信満々に答える。
「ノープロブレム!」
言葉は通じないが、小鈴の不安は通じていた。
そして、それに対する答えは、ペンドラゴンのシャーロットへの信頼だった。
千代姫が言う。
「小鈴さん、シャーロット様を信じましょう」
「はい!」
「それしか出来ることはないですしね…」
「ですね…」
その時、シャーロットが動いた。
ひとり団子屋に移動する。
みんなが息をのみ注目する。
シャーロットは団子を買う。そして、おいしそうに食べる。店主にゲラゲラ笑いながら話しかけるが、店主から無視されている。
小鈴が言う。
「姫様…シャーロット様は飽きて来ていますよね」
「そうですね」
「オウ…」
店主に相手をされないシャーロットが橋に戻り、泣きながらひとり団子をかじる。
そこに、ひとりの男の町人がシャーロットに話しかける。
少しして、2人が何かを交換する。シャーロットが手ぬぐいを頭から外す。見事な金髪が光に輝いた。
こちらを見るシャーロットはドヤ顔だった。
「姫様!合図です!」
「みんな!いきますよ!」
ここからは千代姫一行の出番だった。
ペンドラゴンチームは日本人への危害を禁じられている。その為、手出しは出来ない。
千代姫一行が走り出す。気付いた売人はぎょっとして駆け出す。中年の男だった。そして、古着屋に飛び込む。
千代姫一行が古着屋に到着し、突入する。
しかし、そこには売人がいなかった。
店主と中年の女が会話をしているだけだった。逃げた男の姿はない。
それに動じる様子もなく、小鈴が言う。
「失礼します。いまここに、中年の男が来ませんでしたか?」
店主達は不思議そうに顔を見合わせる。
「ええと、何の話でしょうか」
「私共には、さっぱり…」
小鈴がにやりと笑う。
「わざとらしいですね。姫様、お願いします」
「わかりました」
千代姫が2人を睨みつける。途端に、中年の女の容姿が変化する。一瞬にして美しい少女の姿に変わる。
小鈴が叫ぶ。
「槍花は店主を確保して!私は少女を確保する!」
「まかせろ!」
槍花が一瞬で店主を確保する。
一方、少女が走り出す。小鈴に体当たりをして吹き飛ばし、外に出る。
そこにいたのはシャーロットだった。
「おっと、滑って転んだー」
わざとらしく売人少女を巻き添えにして転ぶ。腕をつかみ逃げられないようにする。
「お嬢ちゃん、大丈夫か!」
「離して!私が捕まったらお母さんが…!」
千代姫が言う。
「シャーロット様、その少女をお願いできますか?」
「了解やでー。捕まえとくわ」
「さて。小鈴さん、大手柄ね。怪我はない?」
小鈴が答える。
「大丈夫です。ちょっと足をひねりましたが…」
千代姫が驚く。
「ええ!?なんですって!それは大変!」
「いえ、全然大したことじゃないですってば。姫様は心配しすぎ…」
「蔵五さん!いね子さん!例のやつを」
「…へ?」
「早く!気力を小鈴さんに注ぎ込むのです。小梅さんを助けないと」
「え?…イヤぁぁぁ」
蔵五がいね子に言う。
「いね子ちゃん、今回はやりすぎないでよ」
「はい(ニチャア)」
蔵五がため息をつく。
「…小鈴様、では行きます」
「だめっ!やめてっ!お姉ちゃん助けてー」
「姫様の命令なので…すいません」
「ヒィィィ。お姉ちゃーん!や、やめ…え?何この温かい力は⋯全身がほどけていく⋯お?おおお?おおおおお」
「いね子ちゃん、そろそろ手を離して!」
「おおおおお♡」
「いね子ちゃん…」
「おおおおお♡」
「おおおおお♡」
「ヒィィィ!」
その光景を見て、槍花とシャーロットがビクビクと怯える。
千代姫がつぶやく。
「すまし顔の小鈴があんなアホな顔をして悦んで…ああ、楽しいっ」
そこに、ペンドラゴンがハアハアしながら千代姫に握手を求める。
「エクセレント!」
「ふふふ」
固い握手をする。そこに小鈴が訴える。
「おおおおお♡姫様ぁ…こ、壊れちゃうよぉ」
「あら、いけない」
千代姫が蔵五を睨みつける。気力が霧散し、いね子の手が離れる。
ツヤツヤになったいね子と小鈴が倒れビクンビクンする。
「さて、次は…」
シャーロットが捕まえている売人少女の元へ歩く。
シャーロットがビクッとなる。
「ビクッ!?姫さん、次はあたしか?あたしをメスにするんか!?」
「いえいえ、違います。ご安心ください」
姫がしゃがみ、売人少女と会話を始める。
「お嬢さんは豪傑ですね。変装の」
「…はい、そうです」
「先ほど、お母さんがどうこうと言ってましたね?どういうことですか?」
「お、お母さんが病気で…言うことを聞かないと、高価な薬を貰えなくて」
「なるほど、弱みを握られていたと。ところで何を売らされていたか分かってますか?」
「分かりません。教えてくれなかったから…」
姫は頷く。
「お嬢さん、私に雇われなさい。お母様の病は治して差し上げます」
「え?治すって?どうやって?」
「…あの力を使います」
千代姫の視線が、ビクンビクンしているいね子と小鈴に向く。
売人少女が怯える。
「…い、嫌ぁ」
「治りますよ?」
「ううう。分かりました」
千代姫が言う。
「さて、お嬢さんのお名前は?」
「き、絹です」
「よろしい。ではお絹さんの身柄は私が預かります。悪いようにしませんよ。いかがなさいますか?」
「はい…従います」
小鈴が放心状態でつぶやく。
「ら、らめぇ…」




