39、発覚した凡ミス
神がククっと笑っている。
ケルビムも思案顔になっている。
「確かに、私も指示を受けたとき、今回は婚約者ではなく兄になるのかと思ったのだ。」
セラフィムが言葉を濁しながら説明を始めた。その内容は次のようにややこしいものだった。
当初ケルビムを王太子にする予定だったが、ケルビムには天界の役目もあるため王太子となれば人間界に降りる時間が長くなりすぎる可能性もありそれは避けたかった、ケルビムの化身になる者はリリエルより先に生まれる必要がありさらに魔力が高い人物にするためにブラックウェル家の息子エルラールの役目を与えた。
しかしながらその後、セラフィムが非常に多忙になり、リリエルの出生前後で誰を親にするかの設定ミスをしてしまい、結果的にリリエルはケルビムの化身の婚約者ではなく兄妹になってしまったらしい。
セラフィム曰く
「おなじ魂から二つに分かれた光が元の一つになるために、必ずしも夫婦である必要はない、と思って訂正しなかったのだ。今回のウィンザー世界の変化はあまりにも想定外が多くて、、、すまん。」
「私はセラフィム殿のミスではないと思っている。リルが妹であっても守る思いは変わらなかった。どちらかというと恋愛に疎いリルを守るのは兄としての方が良かったというべきか。それに問題があれば主が何とかなさっておられたはずでは?主の配剤は主にしかわからぬこと。」
神が口を開く。
「で、どうするのが良いかのう。誰も考え方は間違っておらんのだが、、、、、一人だけが犠牲になるのも避けたい。ふむ、我に調整を任せてくれぬか。」
セラフィム、ケルビム、ザフキエルは即座に首肯いた。
「「「主の御心のままに。」」」
リリエルだけはケルビムにしがみついて半泣き状態だったが、ケルビムに何度か促されて頷いた。
※ ※ ※
ブーレ湖のほとりでリリエルが泣いている。
「ケルビム様、、、本当に死んだりしないのですね?」
「ああ、死なない、というか死ねない。エルラールとして結界柱になったとしても、中身は私だから死なないから心配するな。」
「会いに行きます。」
「会いに来ずとも、魂は繋がっているのだ、いつも一緒にいる。それよりも、ルベールと幸せになるのだぞ。」
「ケルビム様は、私がルベール様と結婚しても気にならないのですか。」
「天使が嫉妬するはずがなかろう。そんな感情は存在しない。どうか幸せになってほしい。それにあとのことは主とセラフィム殿が対処してくださる。」
「ケルビム様、私は、、、」
ケルビムは翼でリリエルをそっと包み込むと額に口づけた。
「泣くでない。天寿を全うしてこそ、私の魂の片割れと言えるのだから、しっかりと生きなさい。くれぐれも死に急いではならない。」
「、、、、はい。」
そしてケルビムはブラックウェル家のエルラール大魔術師として世界を救うためにブーレ湖深く沈んで行った。ルベールと入れ替わるために。
※ ※ ※
ケルビムと入れ替わったルベールは無事に生還した。
四ヶ月後、王城では王太子エドワード・ルベールとリリエルの結婚式が盛大に行われ、多くから祝福されリリエルは王太子妃となった。
リリエルは兄エルラールを失った悲しみに暮れている暇もなく、王太子妃としての公務に明け暮れていく。もちろん王太子にもこよなく愛されて幸せな人生を歩んでいた。
リリエルは数少ない公務の休みの日には、ブーレ湖の神殿を訪れ、父を母をそして兄を想い魂に光が届くように祈った。先の戦いで大天使バサラと大天使ユーリアは無事だったので、今も天界で天職を全うしているはずだ。ルベールと結婚してからは天界に呼び出されることもなくなり《ウィンザー世界の人》として生きることに全力を注いでいた。
が、時々、魂の片割れを想ってただただケルビムを想うことがあった。いや時々ではなくて、もしかするとずっと、だったかもしれない。
ルベールとケルビムを比較することもなかったし、どちらをより愛していると言うようなことを考えることもなかった。事実比較できるものではなく、順位もつけられない、二人の存在も愛も全く次元が違った。
つまりケルビムの存在は地獄ゲートの結界柱であってもリリエルの全てを守っていたので、リリエルもまた、その存在が胸の奥、心の中、リリエルの全身全霊を包むような光として感受していたのも事実だった。
そして結婚して二年目に入る頃、リリエルは公務で地方の修道院を訪れていた最中に倒れた。
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