40、幸せな日々
「妃が倒れた?」
王城の執務室で山積みの書類決済をしていた王太子は顔色を変えた。
「すぐに行かねば」
「エドワード殿下、リリエル様には第二騎士団と侍医が同行していますので、続報をお待ちください」
「アレクサンダー、リルに会いに行く」
「殿下、今王城を離れるわけには」
「アレク、代わってくれ、リルを放ってはいられない。
あとは頼んだ!それからリリエルを運ぶための医療用馬車も追って出発させてくれっ!」
「エドワード、ちょっと待て!」
アレクサンダーが大声で呼び止めたが無駄だった。
王太子は双子の弟アレクサンダーに影武者を押し付け、愛馬に飛び乗った。アレクサンダーの指示で数人の側近の護衛騎士も後を追う。
(リル、待っていてくれ、すぐに行く。)
王太子妃リリエルが視察に向かったのは、王都から離れたブルーレイ侯爵家の領地で新しく作られた学校併設の孤児院だった。
ウィンザー国内での孤児たちの環境を改善するためにリリエルは尽力してきた。
ブルーレイ侯爵家は王妃マーガレットとリリエルの実母ユーリアの実家でもあったので、
学校併設の孤児院を建てることも協力的だった。
王都から馬車で三日ほどの距離があったが、リリエルはブルーレイ侯爵領のカントリーハウスへ熱心に通っていた。
王太子エドワードは、転移魔法も使い、馬を飛ばし、一日でブルーレイ侯爵領へと到着した。
※ ※ ※
「リルっ、リルっ、リリエル!!!」
客室の寝台で休んでいたリリエルは空耳を聞いた。
「私、やっぱり狼狽えているのかしら?」
「リリエル様、ご体調がすぐれませんか?」
侍女のエバが聞いてくれる。
「いいえ、ルベール様の声が聞こえた気がして」
「リリエル様、実は私にも聞こえているのですが」
「え?」
「え?」
部屋の外が騒がしい。
「お待ちください、殿下!」家令の声が聞こえると同時に客室の寝室の扉がバンと開いた。
「リルっ!」
「???」
エドワードはリリエルの姿を見て、寝台に歩み寄る。
「リル、リル、リル」
リリエルを抱きしめる。
「殿下、どう、、して、、ここに」
そこからは大騒ぎだった。
王太子は騎乗で駆け続けたため埃まみれ。
リリエルに抱きついて侍女たちから引き剥がされそうになっても離れない。
清潔にしてから面会をと言われても王太子はリリエルから離れなかった。
「リル、大丈夫か、倒れたと聞いて、いてもたってもいられず」
「侍医の診断結果は速馬で王城に向けて出立していたのですが、出会わなかったのでしょうか?」
「馬と転移魔法できたのだ」
「ではすれ違ってますね?」
リリエルの苦笑いに周りが唖然としている。
「心配をかけてごめんなさい。まず私は大丈夫です。
ルベール、大切なお話があるのですが、お疲れでしょうからまずは湯浴みをなさってから、落ち着いてお話しましょう」
リリエルから言われてエドワードは渋々とリリエルから離れた。
「リル、湯浴みをしてすぐに戻る」
王太子が湯浴み中に、後を追ってきた騎士達が到着した。
「王太子妃様っ!お身体は?」
次にリリエルの部屋に入ってきたのはシュベールだった。
「まあ、、シュベールお兄様、、どうして」リリエルが驚いた。
「エドワード殿下が王城を飛び出され、騎士団が後を追いかける予定だったのですが、騎乗のまますぐに転移魔法を使われたので、アレク兄上から急きょ魔法師団へ出動要請があり転移魔法で来ました。お身体は大丈夫なのですか?」
詰め寄るシュベールに侍女のエバが切れた。
「シュベール様まで、いい加減になさってください。
妃殿下はいまは安静が必要なときです。
埃まみれの方々はお部屋から出てください!」
「あ、、、すまなかった。リル、、いや妃殿下がお倒れになったと聞いて気が気でなくて。すぐに失礼する」
「シュベお兄様、ご心配をおかけしました。少し体調を崩しただけです。まずは湯浴みをなさってお疲れを癒してください」
シュベールもエバに叩き出されて湯浴みへ向かった。
※ ※ ※
ブルーレイ侯爵領のカントリーハウスの貴賓室で、人払いをしゆったりとした長椅子にエドワードとリリエルが並んで座っていた。
「リル、横になっていなくても大丈夫なのか」
「大丈夫です。それにご心配をおかけして申し訳ございませんでした。まさか転移魔法でいらっしゃるとは」
「リルにもしものことがあったら、俺は生きていけない。
必ず守るとエルラール殿とも約束をしたからな。
で、無理をしすぎたのではないのか」
「ルベール、無理ではなくて、授かったのです」
「サズカッタ?それは何だ?新しい魔法か?」
「ふふっ、ルベール、あなたのお子を」
「オコ?アナタノオコ?」
「ルベール様ったら、、鈍感すぎます。赤ちゃんです」
「ええっ、ええぇぇぇぇぇ?子が授かったのか。俺とリルの?」
「はい」
「リル、リル、リル、、、、ありがとう」
ルベールはリリエルを抱きしめて涙ぐんでいる。
「リル、俺たちは親になるのだな」
「はい、ルベール」
その日ブルーレイ侯爵領のタウンハウスは大きな喜びに包まれていた。王太子妃懐妊の知らせは、王城の国王と王妃に届けられた。
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