30、ブーレ湖の決戦 中編
ブーレ神殿からリリエルが放った光が広がって世界中を包んだのをみて、エルラールが世界の大空へ雷を放った。
これは戦闘開始の合図。
辺境地区では、大天使ウリエル軍が、地獄の亀裂からはみ出してくるアンデッドたちを天界の光で殲滅していく。
アンデッドは人の姿に似たものだけではなく、醜い蝙蝠とハイエナが混じったような形で翼を持つ魔物もいた。
地上と空中で地獄の赤黒い炎と天界の光り輝くほとんど白く見える光がぶつかり、醜悪なものはチリのように焼け溶けて灰すら残らず消えていく。
アンデッドは動きが早い。
天使軍の追尾にも捕まらず人の住む街へと侵攻していく。
エルラールの世界魔法大学の同胞と弟子と教え子達、アレクサンダー、シュベールが、アンデッドの行手を遮る結界を張り、さまざまな魔法で攻撃をしていく。
少しでも人間が住む場所へ近づけないためだ。
それをすり抜け人間が住む場所にも、アンデッドが押し寄せていた。
リリエルの光で包まれたものはアンデッドに襲われることがない。アンデットが手を出そうとしても、ビリビリと雷のような光が反射して邪悪なものをはねのけてしまう。
そこに大天使バサラたちの天軍が大量のアンデッドを狙い撃ちにする。
リリエルの実の父親であったバサラは、死後、大天使になって、元からの雷魔法が雷光燐となり、善きを救い悪しきを滅する戦天使となっていた。
ブーレ神殿の上空では、堕天使アジズと大天使ミカエルがぶつかっていた。
「ミカエル、お前も地獄に来い、欲しいものはなんでも手に入るぞ」
「堕天使アジズ、神の慈悲を裏切ってまで欲しいものなどない!
大切なものは《愛》だ」
「まだそんな幼稚な子供騙しの愛を信じているのか。
享楽、欲望のままに生きる、それが幸せというものだ。馬鹿者が」
「命を踏み躙った上に幸福などない!」
ミカエルとアジズのぶつかりあいに、空が震え雷鳴が轟く。
「白百合の乙女を渡せ。ルシファー様がお望みだ。
光の乙女を喰い尽くしたいと楽しみにしておられる」
「全ての天使の光にかえても渡さぬ!それが主の御心」
ブーレ神殿の上空は天使と堕天使の激しい攻防が続いていた。
※ ※ ※
神殿では異変が起きかけていた。
湖の温度が上昇し、湯が沸くようにプクプクと泡が水面に上がってきている。
「リル、湖底のより深くで地獄のゲートが開きそうだ。
エルラール殿の説明では今のルシファーの力では人間界には出てこれない。
だが、ゲートが開けばそこに吸い込まれる可能性がある。
そうなったら俺がゲート付近で結界を張るから、絶対にゲートに近づくな。敵の目的はリリエルだけなんだ。
だから絶対に、絶対に近づかないでくれ。いいなリル」
ルベールの必死の思い。
「ルベールさま、、、ルベール様もどうか、吸い込まれないでください」
「わかった。
俺では地獄の肥やしにもならんそうだが、リルは違う。
俺の大切なただ一人の愛する女を奪われるわけにはいかないのだ。命に代えても守るからな」
「ルベール様、どうか、どうか」
リリエルの目に涙が溢れそうになる。
「リル、水面では結界が張りにくい、深いところへ移動するので、ここから動くな。いいな」
「、、、、、はい。ルベールさまっ、、、どうか、、、」
「リル、戻ったら結婚式だ。必ず戻る」
リリエルがルベールの全身に光魔法で強固な結界を張る。
ルベールはリリエルに口付けして、神殿の底深くへ潜っていった。
(ルベール様、どうかご無事で、お願いだから生きて戻って。
私の命ならいくらでも差し出せるけど、今回は私がさらわれてしまったらこの世界が無くなってしまうから。
この世界に生きる多くの命のために私は絶対に生き延びなくてはならない。
ルベールさま、お願い、生きてください)
※ ※ ※
神殿の上空ではまだ白い翼と煤色の翼の軍と軍の激しい戦いが続いていた。
その時だった。
ミカエルが神殿のオーロラ色のガラスの天窓を破って落ちてきた。翼の片方をもがれてボロボロになっている。
「ミカエルさまっ、翼が、、、今、回復魔法を、」
「、、うっ、、、リリエル、ダメだ、私のことは良いから、、、自らに結界魔法を張るのだ。堕天使に触れられたら連れ去られるぞ」
また天窓から煤色の翼を持つ堕天使達が雪崩れ込んでくる。
リリエルに真っ直ぐに向かってくる。逃げられない。
「リリエルっ、静電気を放つぞ。お前もだ!」
「お兄さまっ、わかりました!」
リリエルはエルラールの声を聞いて、瞬時に察した。
ケルビムが雷神と言われる所以は、智天使の超強大な雷だ。
リリエルもその力を光魔法と共に受け継いでいる。
天も地上も揺るがすようなバリバリバリバリ!!!というケルビムの雷鳴が轟いた。
同時にリリエルは先に周りにいる天使軍に光の結界を張り、
煤色の翼を持つ堕天使に向かって静電気を放った。
眩しいほどの雷光が煤色の堕天使に突き刺さっていく。感電したように、堕天使が次々と空から落ちて煤となって消えていく。
リリエルはミカエルに走り寄り助け起こそうとする。
「ミカエルさま、大丈夫ですか。今、翼を回復します」
「リリエル、危ないっ」
リリエルの後ろには翼を半分焦げ付かせた堕天使アジズが立っていた。リリエルは咄嗟にミカエルを庇った。
「お前が神に愛されし白百合の乙女か。
出来損ないの人間の分際で何百年も何十回も生き延びて、烏滸がましいやつ。
地獄で身も心も弄ばれ引き裂かれるがよい!」
「あなたがアジズね。逆恨みも甚だしいわ。
神様より愛される天使なのに地獄に落ちるなんて、あなたに神様の愛を問う権利などないわ。
人間も動物も妖精も草花も、この世界では精一杯、一生懸命に生きているのよ」
「その減らず口もいつまで聞けるのか楽しみだ。さあ、こいっ!」
アジズがリリエルに手を伸ばそうとした瞬間、背中を剣が貫き同時に足元から黒い炎が出てきた。
「「私の妹に手を出すのはやめてもらおう」」
アレクサンダーとシュベールだった。
アジズは叫ぶ間もなく黒い炎に包まれて煤も残らずに燃え尽きた。
「リル、遅くなってすまない。辺境と街の間で手こずってしまってな」
「リル、ずっと心配で心配で、無事でよかった」
「アレクサンダーお兄さま、シュベールお兄さま」
リリエルは、ミカエルを抱き止めたまま、ヘナヘナと崩れた。
エルラールも空中から神殿へと降りてきた。
「リル、ミカエル、無事でよかった。アジズ軍はおおかた片付いたが、地獄ゲートが開きかけている。湖底深く王太子殿下が先に行っておられる。我々も湖底へ行かねば」
「「「「「「はっ!」」」」」」
「リリエル、すぐにバサラ殿が到着するので、離れぬように」
「、、、、お父様が?」
エルラールは頷き、リリエルを残して、全員が湖底へ向かった。
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