18、驚愕の事実 友情の密約
ロマイエ王国は近隣諸国への強奪や人攫い、人身売買で国を繁栄させていた王国とは名ばかりの極悪非道悪党の国だった。ウィンザーだけでなく周辺国は国境付近への度重なる侵略強奪だけでなく人攫いにも苦しんでいた。
マーガレットの父親で当時のブルーレイ宰相は、周辺国と政治的な繋がりの中で人攫い問題についての調整も担っていたが、その補佐をしていたのがユーリアとマーガレットの兄、嫡男ビショップ・ブルーレイだった。
ロマイエのアリシア王女が斬首された後、密かにヘンリーとバサラとビショップはロマイエを探りロマイエの封じ込めについて策を練っていた。
周辺の国々との外交でロマイエへの制裁の意思を固め、相互を守り合う安全平和条約への調印を勝ち取ってきたのが宰相補佐のビショップだった。
しかし、ロマイエはウィンザー王国の王太子妃をはじめ女性達を拉致し、ロマイエ国はあの日一瞬で滅んだ。と言うかヘンリーとバサラが強大な魔法を使って滅ぼしたのだ。ロマイエ自体が奴隷市場だったため、拉致誘拐された者以外は全て殲滅された。周辺国の喜びと感謝はウィンザーに向けられ、属国希望が後をたたなかったが、ウィンザーはそれを断り国家独立を推奨、平和条約を外交の基本とし、ロマイエの国土は周辺国間で平等に分けられた。
しかし、拉致の爪痕がウィンザーにも残ってしまった。孤児達も含め全員無事に奪還したものの、マーガレット、ユーリア、フリージアが五十人を超える全員の身を守るために使った魔力は相当な魔力量だった。一番魔力の少なかったマーガレットは魔力枯渇をし生死の間をさまよい流産、その後子を望めない体になった。子が産めない王太子妃は存在意義をなさない。しかしアルフレッド王太子は離縁も再婚も側妃も拒否した。
「私はマーガレットを連れて王家を出る。廃嫡してほしい。」
「待て、アルフレッド。とにかくちょっと待て。」
「しかし兄上。私は孤児を守るために命をかけてくれたマーガレットを捨てられない。」
「それでいい、マーガレットは国母として民を守りその責務を全うした。その見返りが廃妃ではおかしい。」
そして、アルフレッド王太子を囲んでヘンリー・ホワイティエ、バサラ・ブラックウェル、ビショップ・ブルーレイの中で密約がなされた。ここにはそれぞれの妻達も含まれた。
マーガレットが子を失った時、フリージアは既に懐妊していた。
アルフレッドとマーガレットの立場を守るために、フリージアが産んだ第一子をマーガレットの子とすることになった。これで王家の血筋は守られる。今の王太子夫妻に子ができないと分かれば、王太子の力は弱くなり王家自体が揺らぐことになるため、ヘンリー夫妻が王太子夫妻に逆戻りになるしか道はない。それを避けるための案だった。
マーガレットが妊娠できない事を隠すため、マーガレットの侍女として姉のユーリアとフリージアが付くことになった。
侯爵夫人が侍女となるのは前代未聞だったが、ユーリアは双子の姉妹でもありすでに出産経験があるという理由で、フリージアは妊婦の友人で魔力量が多いため警護を兼ねられるという理由で周りは納得した。これはフリージアがマーガレットの代わりに第一子を王宮で出産するためだった。
認識阻害の魔法だけではなくありとあらゆる魔法を駆使して、この女性三人は互いを守り切った。他の侍女達はもちろん、診察していた侍医でさえ気がついてなかった。
そして月が満ちフリージアは王族ヘンリーの子を無事出産した。
ところが生まれてみると男児の双子。双子の兄の方がマーガレットが生んだ子となり、エドワード・ルベールと名付けられた。
双子の弟の方は、同日数時間後にフリージアが生んだ男児として、アレクサンダーと名付けられた。
出産までそしてその後も王太子夫妻、ヘンリー夫妻、バサラ夫妻、ビショップは、この秘密を守り切った。
十八年後、自らの息子たちに翻弄される形で告白するまでは。
※ ※ ※
時は現在、アルフレッド王の隠された会議室。
「私は王としては失格かも知れぬ。だが我が妻を守りたかったのだ。私が廃嫡になって兄上に王太子をお願いしたいとも思ったが。」
「アルフレッドが妻を守りたいように、私もフリージアを守りたかった。当時ユーリアとマーガレットは一緒に王太子妃教育を受けていたが、フリージアは学者の家で育った研究者だった。実家は侯爵家だが未来の王妃にするには、更なる妃教育が必要になる。そういう世界にフリージアを置きたくなかったのだ。それを表立って言えば、ユーリアまでどうなったことやら。」
「私の子でも兄上の子でも王位継承権はあるし、エドワードとアレクサンダーを乳兄弟として同時に王子教育をするのも問題なかった。逆に第一王子、第二王子と派閥争いを避ける意味でも都合が良かった。」
「事情はよく理解しました。母上とフリージア伯母上がとても仲が良いのも、理由があったのですね。周辺国の歴史を学んでもロマイエ王国の消滅がどうにもスッキリしないと思っていましたが、そういうことだったのですか。」
「ルベールの影武者になるのも苦はなかったし、父上がルベールや私の魔法の訓練に厳しかったのも頷けます。」
「僕も納得しました。兄上と殿下は体格が違うから外見で間違えることはないのですが、時々、声や魔力が似ていて錯覚することがあったのです。やっと納得です。」
アレクサンダーお兄様とオウタイシデンカとシュベールお兄様は、すこぶる納得しているようだけど、未解決の問題があるのではないでしょうか。
「お兄様方がご兄弟なのも、秘密の理由があったのも良くわかりましたわ。では私は、ブラックウェル家の生まれなのに、何故、ホワイティエ家の子になったのですか?」
またみんなが一斉にこっちを見る。もう、こっち見るな!
読んでいただきありがとうございます。明日21時ごろに投稿予定です。