19、驚愕の事実 シェルブーレの魔法陣編
「リリエル、これから話すことは辛い話になるが」
ホワイティエのお父様が優しく微笑んでくださる。
私は相変わらずオウタイシデンカに膝の上に鎮座し守られていた。
「お父様、私も十四歳。
王妃様のお茶会にも参加しましたし、いずれ聞かなくてはならない事ならば伺いたく存じます」
オウタイシデンカが、そっと優しく包むように抱きしめてくださる。
まるでアレクサンダーお兄様のように。
「わかった。ここにいるアルフレッド、ビショップ、サンダールと私が同時に体験した事だ」
私はオウタイシデンカの膝の上で姿勢を正した。
実のお父様とお母様のことを聞くために。
※ ※ ※
時を遡ること十四年。
またしてもウィンザー王国が震撼する事件が起きた。
旧ロマイエ領で、魔物が大発生したのだ。
旧ロマイエの国土はウィンザーを含め周辺五国で五分割にして、各国が治めていた。
魔物が発生した場所は周辺国が隣接していて、ブーレ湖という美しい湖がある地域だった。
ブーレ湖を中心に水路も発達しており立地条件もよく、ロマイエの恐怖も忘れ去られ各国の商業施設が集まる交易の町として発展していた。
そのブーレ湖から瘴気と共に魔物が大発生したのだ。
湖から街に向けて水路が引かれていたので、魔物はその水路を流れてどんどん街に流入する。
湖はウィンザーが分配された所領にあった。
ウィンザーではさっそく魔法師団討伐隊の派遣と調査が行われた。
王太子アルフレッド、魔法師団特別補佐ヘンリー、魔法副師団長バサラ、宰相補佐ビショップが集まって会議が行われた。
「湖地域が我が国土になった時に、魔法師団が調査して瘴気も魔物の発生もない全く清浄な湖と報告があったはずではないのか」
「そうだ。三年前、ブラックウェル師団長とバサラと私が調査し魔物のかけらもなかったのだ。
精霊は多くいたがロマイエの悪行で姿を潜めていたが、ロマイエが消滅して美しい湖が戻って精霊も姿を表している、とウィンザーにいる精霊からも祝福を受けたほどだ。
魔物は存在しなかった」
「で、今回チャロアイド教授にご同行を願っての調査結果は」
「それなのだが、前回はわからなかった事実が判明した。
ブーレ湖の底に古代遺跡があって、そこに時限式魔法陣が組まれていることがわかった」
「古代遺跡?」
「時限式魔法陣ってなんだ」
ヘンリーがつづける。
「義父殿によると、古代遺跡自体が数百年前の国のものらしい。
妖精王が守護していたシェルブーレという国だ。
古代魔法研究者の間では伝説やお伽話と言われていた国らしい。
おそらくロマイエの先祖に当たる悪党一味が侵略し国を乗っ取り、シェルブーレ国民は全て奴隷になって滅亡した」
王太子が尋ねる。
「ロマイエは存在自体が悪だな、そんな昔から極悪非道だったのか。で、古代遺跡との関係は」
「遺跡はシェルブーレの神殿だ。
シェルブーレの姫は百年に一度、妖精王と結婚してきた。
その百年に当たる年にロマイエに国を乗っ取られ、妖精王に嫁ぐはずのシェルブーレの姫が害された」
「妖精王の婚約者を害するなんて、不届がすぎる」
「湖の底にあった石板に刻まれた内容だったのだが、その先がある。
その姫は害されてもなお命をかけて神殿へたどりつき、妖精王への愛を誓いロマイエの滅亡を願いその命を絶った」
「でもその時に、ロマイエは滅ぼされていない」
「妖精王は百年に一度、光魔法を持つ姫と婚姻することで妖力を取り戻しより強固になっていった。
ところが百年目の婚姻の年に姫を失って、落ちた妖力を回復強化できなくなった。
そこで妖精王は己の最後の妖力と姫の亡骸に残る魔力で魔法陣を刻んだ。
いつか妖精王の妖力が回復した時に、ロマイエの一族郎党関係者が生きていたら国ごと全てを殲滅するという魔法陣だ」
バサラが続ける。
「魔物が出てきて、妖精王の魔法陣が起動し初めた。
だが魔法陣の起動条件はロマイエにかかわる人間が旧ロマイエ領に残っているということだ。
湖底の魔法陣はシェルブーレ人は保護できるがそれ以外を悪とみなしている。
すでにシェルブーレは滅亡しているので、ロマイエの生き残りが一人でもいれば、魔法陣は旧ロマイエ領内の者全てを悪と見なしてしまう」
「四年前に、攫われた者以外ロマイエは全て処理したはずだ」
「殿下、抜けが一つあった。
あのとき、私とバサラが放った闇魔法は、旧ロマイエの国土全体に対してだ。
国外に人身売買に出ていた者がいたとしたら生き残っている可能性が高い」
「当時ヘンリーも私もその可能性を考えなかったわけではないが、周辺国全てに魔法陣を敷くのはさすがに難しかった。
魔法陣は範囲を広げるほど微調整が難しくなる。
万が一、ヘンリーの闇魔法が暴走したら世界が消える」
「確かに。兄上の魔力は魔王レベルだからね。
つまり数百年前にロマイエがシェルブーレという国を滅ぼし、その姫と妖精王が残した魔法陣がロマイエの残党を狙っている。
ロマイエの残党が生き残っているということだ。
で、兄上、その魔法陣の起動を止め、残党だけを消す方法はないのだろうか」
「古代魔法専門のチャロアイド教授にすでに依頼している」
※ ※ ※
旧ロマイエ領、現ウィンザー領、シェルブーレ神殿が沈むブーレ湖のほとり。
ブーレ湖底にある魔法陣の起動を止めるべくウィンザーの精鋭八名がやってきた。
王太子アルフレッド、魔法師団副師団長バサラ、その妻ウィンザーの女神ユーリア、バサラとユーリアの嫡男六歳のエルラール。バサラの弟サンダール・ブラックウェル。
ヘンリー・ホワイティエ、その妻フリージア、フリージアの父であり古代魔法の権威であるチャロアイド教授。
教授が説明する。
「魔法陣は、古代魔法に則ってつくられています。
何が起きるかわからない。
しかも妖精王と話ができるのは光魔法を持つユーリア夫人だけでしょう。ご懐妊中ゆえ、くれぐれも無理をなさらないでいただきたい」
ユーリアは微笑む。
「多くの民が救われるよう。誠心誠意、お話をして参ります」
「ユーリア、身ごもっているお前にこのような大役をすまぬ。
必ず手助けするゆえ、無事でいて欲しい」
「バサラ、私はずっと幸せでした。共に国を守りましょう」
そしてブーレ湖で、新たな魔法陣が起動する。
読んでいただきありがとうございます。明日21時ごろに投稿予定です。




