8話 長かった一日
更新遅くなりました。すみません。よろしくおねがいしますm(_ _)m
王宮に着いたアンドレア達一行は、一度、応接間に案内された。しかし、先に王宮に向かっていることは伝えてあったため、そこまで待たされることなく会議室に連れていかれた。会議室では、この国の上層部が円卓を囲み、壁際に自分の子供を学園に通わせている沢山の領主達や学園の関係者が立っている。そして、ようやく来た今回の主役たちに視線が注がれた。
ヴィオラは自分のせいでこんなにも多くの人たちが面倒に巻き込まれたのだと少し怖くなった。
ーーほんとうに大丈夫なのかしら…?『殿下』とだけ言っとけばいいなんて…。
しかし、今更引き返すことなんてできない。腹をくくるしかなかった。
「それでは、ヴィオラ・サングリア、今回の騒動について説明してもらおうか。」
「申し訳ありません。ヴィオラ嬢はまだ冷静な対応ができる状態ではありませんので、先ほど話を聞いた私から説明させていただくことをお許しいただけないでしょうか。」
陛下のお言葉に答えるべきヴィオラではないアンドレアが答えた。本来、話すべきではないアンドレアが口を挟んだことで、何人かは眉をひそめる。しかし、少々荒っぽいやり方ではあったが、なんとかアンドレアに視線を集めることができた。
「いいだろう。許可しよう。」
「ありがとうございます。それでは今回起きた事件について説明させていただきます。」
数秒の沈黙の時間があった後アンドレアが息を吸った。
「今回の事件は全て私の愛が足りなかったせいで起きてしまったのですっ!」
ーー…会議室にいる方々の頭にクエスチョンマークが浮かんだのが見えた気がするわ。
ヴィオラがそんなことを思っている時もアンドレアの“劇”は続いていく。
「愛がっ!ヴィオラ嬢に私の愛がっ!全く届いてはいなかった…。彼女を沢山不安にさせてしまいました。その結果、彼女は私の愛があるのか確かめようとこの計画を実行してしまいました。死のうとするフリをしようとしたのです。しかし、首にナイフを持っていく途中で石に躓いてしまい、切るはずがなかった首を誤って切ってしまったのです…。」
ーーん?今、殿下は嘘をついたわ...。
真実に混ぜられた嘘に気づいたであろうヴィオラのことは無視して、アンドレアは周りに目を向け訴えかけるように話を続ける。
「なんっていじらしいことでしょう!こんなにも彼女に思われる私はなんて幸せな男でしょうかっ!!」
普段と全く違うアンドレアの様子に関わりがある大人たちは不審に思うが、アンドレアは周りに突っ込まれないように間を空けないで話を進める。
「彼女を失うかもしれないと思ったとき、私は心臓が止まるかと思いました。しかし、そのおかげで私とヴィオラ嬢の仲は誰にも引き離せない確固たるものになりました。もしかしたら、今回の件は神が私たちに仕向けた試験なのかもしれませんっ!いいや!きっとそうに違いない!!」
ーーか、神のせいにしたわ…。
アンドレアはまるで神に訴えかけるように上を向く。
「神よ!私たちは見事に試練をクリアしました!」
そういうとヴィオラの方へ体を向け、アンドレアがヴィオラにあのセリフを言うように目で訴える。
「で、殿下!」
「ヴィオラ嬢!やったな!」
そういうとアンドレアはヴィオラを抱き寄せる。そして、ヴィオラの耳元で囁いた。
「気を失ったふりをしろ。」
ーーひゃぁあああああああ。顔がちかい!い、息がっ…!
ヴィオラの頭の中はパニックだったがとりあえず目を閉じ体の力をぬいた。その瞬間、アンドレアはヴィオラを抱き上げる。
ーーんんんんんんっ!
叫び出さなかったヴィオラは自分を褒めたい気持ちでいっぱいだった。
「あぁっ!やはり、まだ疲れが取れていなかったようだな。陛下!どうか私にヴィオラ嬢を医務室に連れていくことをお許しください!」
アンドレアはまっすぐ自分の父親の顔を見る。陛下と皇妃は、パッと見れば真面目な顔に見えた。しかし…
ーーくそっ!口元が震えてるんだよ!
アンドレアはこんな姿を両親に見られて気恥ずかしさでどうにかなりそうだった。
「そうだな。まずは人命第一だ。…神の試練の後で疲れているだろう。医務室に連れていくことを許可しよう。」
「…ありがとうございます。」
皇妃と陛下が後で説明するようにと目で訴えているのを確認し、アンドレア達は退出した。
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最初に通された応接間に入った瞬間、やっと解放されたと言わんばかりにイーサンの笑い声が部屋の中に響いた。
「ぷっはははははは。…はぁ失礼しました。素晴らしい役者でしたよ、殿下。」
「お前、後で覚えとけよ。」
「全て神の仕業ですから。恥ずかしがることないと思います。」
「お前もだ、ラルク。お前の罪が一番重い。それにあれは全て父上と母上に丸投げしただけだ。…はぁ。対価に何を要求されるか分かったもんじゃない…。」
「陛下と皇妃陛下は面白いことが大好きですからね。事情を知った殿下がわざわざあんな…ふふっ…失礼しました。あの態度を取ればひとまず大丈夫だろうと安心したでしょう。」
「私の案は成功でしょう。もっと褒めてくれてもいいと思います。」
「しかし、だなぁ…。」
先程からずっと耳が赤かったアンドレアの熱はしばらく引きそうにない。
「あ、あのう…。下ろしてもらってもよろしいでしょうか…。」
そしてもう1人耳どころか顔が真っ赤になっている少女がいた。
「あ、あぁ。すまなかった…。」
「い、いえ……。」
ヴィオラは会議室を退出してから今までずっとアンドレアに抱えられていた。アンドレアはヴィオラを近くのソファに下ろす。しかし、下ろされてもヴィオラは落ち着くことができなかった。
ーーだ、抱きかかえられるなんてっ。もう死んでもいいわ。死ねないけど。
ヴィオラが心の中でブラックジョークをしているうちに、ヴィオラの隣にアンドレアが座り、向かい側にラルクとイーサンが座る。全員がソファに座ると、アンドレアが話し始めた。
「とりあえず、あとは陛下達がなんとかしてくれるだろう。ヴィオラ嬢には王宮から数人の騎士と医療魔法が使えるものが派遣されると思う。」
「えぇっ!何故ですか!?」
「はぁ…当たり前だ。貴女はいつ死ぬか分かったもんじゃないからな。」
いい思い出ができたと帰ったら死ぬ気満々だったヴィオラは絶望した。
ーーま、まぁ隙を着けばきっと死ねるでしょう。…王宮騎士に隙なんてあるのかしら。
「私たちはこの後、どうせ呼び出されるだろうが、ヴィオラ嬢は帰ってもいい。自分が思うより疲れているだろう。」
「は、はい。ありがとうございます。」
公の場にしてはふざけた説明だった先程の様子に、そりゃそーかとヴィオラは納得する。アンドレアは「あぁ、そうだ。」と最後にヴィオラに忠告した。
「明日からの学園生活を覚悟しとけよ?」
そういってアンドレア殿下はニヤリと笑う。ヴィオラは何を覚悟するのか分からなかったが、嫌な予感しかしなかった。しかし、今考えたってしょうがないとようやく家に帰ることができたのだった。